艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第七十三話 大淀。出撃致します!

 

 

 

 今でも、あの時の事を思い出すと自分の不甲斐なさに嫌気がさしてしまいます。

 駆逐艦たちの模範であろうと常日頃から心懸け、怠けてばかりの姉にも「軽巡斯くあるべし」と語って聞かせていたのに、背後から奇襲されただけで取り乱して誰彼構わず助けを求めたんですから。

 

 青木さんも聞いたのではないですか?

 「助けて、背後から奇襲を受けたから誰か助けに来て」と叫ぶ私の通信を。

 え?もっと酷かった?

 ちょっ!それ私のマネですか!?

 いやいや!そこまで酷くなかったでしょ!?嘘……本当に?本当にそんなだったの?

 

 うぅ……。自殺もんじゃないそれ。

 そんなだったから、ワダツミまで落ち延びた後のみんながやたらと優しかったのね。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 能代へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 「あ、お姉ちゃん。またこんなところでボケ~っとして、そんなに暇なの?」

 「ええ……。やる事がなさ過ぎて頭からキノコが生えそうです」

 

 満潮ちゃんの看病が終わってから何日経ったのでしょう。

 それからは円満さんに何か命じられる事もなく、日がな一日甲板の手摺に寄りかかって海を眺める毎日です。

 そんな折に、休憩なのか仕事中なのかはわかりませんが普段はあまり見られない服装の満潮ちゃんが声をかけてくれました。

 以前半殺しの目に遭わせたのにこの子は今でも私をお姉ちゃんと呼んでくれる。

 こんな我が儘な私を、いつも気にかけてくれてる。

 

 「ごめんなさい」

 「な、何よ急に。何か悪い事したの?」

 「いえ、無性に謝りたくなっただけですから気にしないでください」

 「いや、それで気にするなって方が無理だと思うけど?」

 「そ、それは兎も角。その格好はどうしたんです?お料理でもしてたの?」

 

 満潮ちゃんの服装はあずき色のジャージの上から紺のエプロン、更にいつものフレンチクルーラーを解いて頭には三角巾をつけています。

 定食屋さんの看板娘と言っても過言ではない出で立ちですね。サンマの塩焼きを持っていたら様になると思います。大変良く似合っています。

 

 「いえ、めちゃくちゃ可愛いです。叶うなら娘にしたい!」

 「養子にはならないからね?あの元帥さんが父親だなんてただの罰ゲームよ」

 「んな!?嫌ですか!?いやいやそれより!そんなにわかりやすい顔してました!?」

 「わかりやすい顔も何も、声に出てたわよ?」

 

 なんたる不覚。

 どこから声に出していたかはわかりませんが、一番聞かれてはならない部分が聞かれてしまったようです。

 ここは他の話題で誤魔化して……。例えば、満潮ちゃんの格好についてとか。

 

 「さっきまで戦闘糧食を作る手伝いをしてたの」

 「あ、それでそんな格好を……って!今度は声に出してませんよね!?」

 「そんなに上から下まで舐め回すように見られたら私でもわかるわよ」

 「な、舐め回してなんていません!それじゃあ ながもんみたいじゃないですか!」

 「舐め回された事あるの?」

 「ありませんよ!そんな事されてたら、私はお嫁にいけていません!」

 「え?ないの?私てっきり、隅々まで舐め回されてるんだと思ってた」

 

 おのれ ながもん!

 やはり横須賀鎮守府に在籍している間に始末しておくべきでした。奴の行いのせいで、満潮ちゃんが変な勘違いをしてるじゃないですか。

 

 「そういえば、長門さん達が出撃して5時間くらいになるわね。そろそろ、一度帰ってくるかな?」

 「もうそんな時間ですか?」

 「ええ、だから悪いんだけど……」

 「わかりました。大和さんたちが戻る前に部屋に戻りますね」

 「ごめんね……。お姉ちゃんに肩身が狭い思いをさせて」

 「満潮ちゃんが気にすることではありません。私と大和さんの問題ですから」

 

 ワダツミに乗船してからというもの、私は大和さんと会わないよう隠れて過ごしています。

 理由はまあ、余計ないざこざを起こさないためです。

 大和さんは今でも私を恨んでるみたいですから、鉢合わせ即殴り合いになりかねませんので。

 

 「それにしても、あの演習での顛末を聞かされた時は驚いたなぁ。まさか、お姉ちゃんが負けるなんて」

 「負けてません」

 「でも、両腕壊されちゃったんでしょ?」

 「それでも負けてません」

 

 確かに、大和さんの予想外の行動に不覚はとりました。それは素直に認めます。

 でも、あそこからでも逆転の目はあったんです。負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、叢雲さんと満潮ちゃんが止めなかったら最終的には私が勝っていたんです!

 

 「負けず嫌いね。さすがは元駆逐艦」

 「私が負けると言う事は元帥閣下が負けるのと同義です。だから、私は負けられない」

 「次やったら負けないでしょ。大和が出鱈目を通り越したような戦い方をするってわかってるんだから、次は完勝できるんじゃない?」

 「現段階で、なおかつ艦娘としてなら確実に勝てます。ですが……」

 「陸だと微妙?」

 「苦戦はするでしょうね。彼女の扱う武術と私が習得している技は相性が悪そうですし」

 

 私が習得している技は打撃技がほとんど。対して大和さんは、恐らく相手の力を利用して後の先を取る返し技がメイン。

 先の先を取り続けられれば勝機はありますが……。

 

 「満潮ちゃん、一つお願いしても良いですか?」

 「お願い?なに?」

 「私にガゼルパンチを打ってくれませんか?」

 「はぁ!?私が?お姉ちゃんに?なんで?意味分かんない!」

 

 ちょっと試したい事があってですね……。

 やっぱり、理由を言わないとしてくれないかしら。でも、初めてやるから警戒されると失敗するかもしれませんし……。

 う~ん、困りました。

 

 「痛くしませんから!一回だけ、一発だけで良いですから!」

 「え~……なんか嫌だ」

 「どうして!?一発だけで満足するんですよ!?」

 「いやぁ……言い方がね?」

 「じゃ、じゃあこれならどうですか?」

 

 私は土下座しました。

 ええ、我ながら見事な土下座だと思います。

 何故ならば、私が今している土下座はとある事情でケンカした時に、根負けした主人が私にして見せてくれたものなのですから。

 ケンカの理由ですか?

 目玉焼きに何をかけて食べるかです!

 私は醤油派なのですが、主人が「目玉焼きには塩だろ」と仰ったので「お言葉ですが貴方、日本人なら醤油です!」と私が言い返したのが事の発端です。

 いやぁ……あれが初めての夫婦喧嘩でしたね。

 結果、主人が「わかった。我が家では目玉焼きには醤油をかけて食べることにしよう」と仰ってくれなければ、私たち夫婦の間に埋めようのない亀裂ができていたことでしょう。

 

 「そ、そこまでするなんて……。そんなに、私に殴ってほしいの?」

 「はい!是非とも!」

 「はぁ……。わかった。一回だけよ?」

 

 よし!

 満潮ちゃんが承諾してくれました。

 これであの時、大和さんが私にして見せた技を試せます!

 

 「シッ!」

 

 少しだけ距離を置いて向かい合い、満潮ちゃんは腰を落としてピーカブースタイルからガゼルパンチを放ってくれました。

 拳を繰り出すタイミングと体を伸ばすタイミングが少しズレていますが……まあ及第点でしょう。

 おっと、満潮ちゃんのガゼルパンチの評価は置いといて。

 たしか、ガゼルパンチの勢いを殺さぬように右手を添えて、右方向へ弾くように流しながら手首を掴み、空いた左手を満潮ちゃんの右肩に置いて押し込むっと。

 

 「ちょっ!痛い痛い痛い痛ぁぁぁぁい!」

 「あ、ごめんなさい。最後までやるところでした」

 「最後までって何!?もしかしてこのまま肩の関節を外したりするの!?」

 「大正解です。実際、私は外されました」

 「はぁ!?お願いだから間違っても外さないでよ!?」

 「外しませんよ。そんな事したら、ますます円満さんに嫌われちゃいます」

 

 と、言いながら満潮ちゃんを解放した私は今やってみた技の使いどころを思案。

 う~ん。いくら考えても、陸での格闘戦なら兎も角、洋上での戦闘では使いどころがありませんね。

 だって格闘戦をする艦娘なんて、私が知る限り私と満潮ちゃんだけですもの。あ、あと大和さんか。

 

 「さっきのを大和にやられたの?」

 「ええ、でも次は食らいません。もう『憶え』ましたから」

 「憶えた。ねぇ……。それが、一度見た技を完コピする『猿真似』ってヤツ?」

 「はい。私に一度見せた技は二度と通用しません」

 

 この場に居るのが円満さんだったら「アンタは聖闘士か」くらいのツッコミが飛んでくるのでしょうが、生憎と満潮ちゃんにはそこまでのツッコミ力はないようです。

 呆れた顔して「ホント、天才とバカって紙一重よね~」なんて言ってます。

 あれ?ちょっと待ってください。もしかして私、満潮ちゃんにバカだと思われてます?

 

 『助け……!敵が背後から奇襲を……!』

 

 ん?今、通信で誰かの助けを求める声が聞こえたような……。

 でも、今のは特にチャンネルを指定してない全周波通信。艦娘が発信したとは思えませんね。

 艦娘は各艦隊ごとにチャンネルが分けられてますし、救援要請の場合はワダツミ艦橋直通のチャンネルで発信するはずですもの。

 

 「今の声……。能代さん?」

 「そうなのですか?でも、今のは全周波……」

 『助けて!誰でもいいから助けて!嫌……嫌ぁ!来るな!来ないでぇぇぇぇ!』

 

 確かに能代さんの声。しかも錯乱してますね。

 軽巡洋艦の見本のような彼女が錯乱し、チャンネルも考えずに助けを求めるなど余程の事態です。

 

 「え?ちょっとアレ、朝潮!?どこに行く気よあの子!」

 

 満潮ちゃんが、手摺から身を投げ出さんばかりに乗り出して見ている先には朝潮型の艤装を背負った少女の後ろ姿。

 アレが今の朝潮ですか。

 見るのは初めてですが、後ろ姿にかつての自分の面影を感じてしまいますね。 

 

 「あの子は何処へ?」

 「私が聞きたいわよ!あの子今、白雪さん達と一緒に揚陸作業中のはずなのよ!?それがどうして……」

 

 満潮ちゃんが何かに気づいたようにハッとした顔になりました。

 どうやら心当たりがあるようです。

 

 「お姉ちゃん、一緒に来て」

 「構いませんが……何処へ?」

 「円満さんの所よ。出撃許可を貰いに行く」

 「私もですか!?でも、私が出撃させてくれと言ったところで円満さんが許可を出すとは……」

 「いいから早く!」

 

 私の意見など考慮もしてくれず、満潮ちゃんに引っ張られてワダツミ艦内に入りました。

 向かう方向的に艦橋ですね。たしか、このまま真っ直ぐ行けば艦橋への直通エレベーターの一つがあったはずですから。

 

 「お、ちょうど降りてきたわね。グッドタイミングだわ」

 

 エレベーターの方に目をやると、扉の上にある階層表示の数字がカウントダウンのように下がっています。

 でも何故?

 満潮ちゃんは不思議に思ってないようですが、あれは甲板に通じる通路があるこの階層にしかないエレベーターです。つまり、今私たちがいる階が終点なのです。

 その終点に、私たちがボタンを押してないのにエレベーターが降りて来ていると言うことは誰かが降りて来ていると言う事。

 なりふり構わぬ救援要請が届いて艦内のみならずブイン、ショートランドも非常事態体勢に移行しているはずなのに、誰が艦橋から降り来てるんでしょう。

 

 「円満さん!?」

 「予想通りね。私に出撃許可を貰うために艦橋へ。ってところでしょう?」

 「そ、そうだけど……。私たちがこのエレベーターを使うってよくわかったわね」

 「艦橋からアンタ達が見えたもの。それでさっきのバカみたいな通信。アンタ達がこのエレベーターを使って私に出撃許可を求めに来るなんて簡単に予想できるわ」

 

 と、私からしたら名探偵に引けをとらない推理を、エレベーターからカツカツと靴音を鳴らしながら降りてきた円満さんが披露してくれました。

 相変わらず凄いな、円満さんは。

 私のような、状況に合わせた対処療法でしか物事を解決できない者には、円満さんのように常に二手も三手も先を読み、事が起こる前に解決する人は正に雲上人です。戦っているステージが違いすぎる。

 

 「じゃあ話が早いわ。私とお姉ちゃんに出撃許可をちょうだい」

 「却下。二人とも艦内待機よ。いいわね?」

 「はぁ!?非常事態なんじゃないの!?だったら真っ先に、私とお姉ちゃんを出すべきでしょ!」

 「アンタ、まだ本調子じゃないでしょ?そんな状態で大淀について行けるの?」

 「そ、それは……そうだけど。でも!姫堕ちが使えなくても……!」

 

 無理です。

 満潮ちゃんはたしかに強い。姫堕ちを使わなくても十分私についてこれるでしょうし、それは円満さんもわかってるはずです。

 にも関わらず、円満さんが私について行けるかと問うたのはついて行ける状態じゃないと判断したから。

 恐らく、スリガオ海峡での夜戦で使った姫堕ちの後遺症が尾を引いているのでしょう。

 満潮ちゃん自身もそれは承知しているらしく、悔しそうに唇を噛んで両手を握り込んでいます。

 

 「朝潮が南に向かってた……。きっとあの子、大和と何か約束してたのよ」

 「それでか。ったく、『朝潮』になる子はどいつもコイツも……」

 

 約束を守るためなら何をしてもかまわないと思ってやがる。って感じでしょうか。

 私も先代もそんなタイプですものね。

 まさか、私の後輩まで同じとは夢にもおもいませんでしたが。

 

 「だから……!」

 「だから自分が連れ戻しに行く?たしかに、朝潮が任務を放棄して飛び出したのは白雪からの報告で知ってるし、理由も今わかったわ。それでもアンタの出撃は認められない」

 「どうし……!」

 「どうしてもよ!この非常時に我が儘を言うのはやめてちょうだい!」

 

 円満さんの怒声が通路に響き渡り、満潮ちゃんは涙ぐんで俯いてしまいました。

 恐らくですが、円満さんの命令ですでに救援用の艦娘は選出され、編成と準備に取りかかっているはず。

 そこに満潮ちゃんが割り込めば、救援艦隊の出撃が遅れてしまう恐れがあります。

 だから円満さんは、怒鳴ってでも満潮ちゃんを諫めようとしたのですね。

 

 「ならば、私だけでも出撃させてください。私の艤装は、メインで作戦に参加する艦娘の艤装の保管庫とは別の予備保管庫に保管されています。出撃準備の邪魔にはならなはずです」

 「それでも許可はできない」

 「理由をお聞きしても?」

 「襲われてるのが大和がいる艦隊だからよ。アンタが行けば大和が暴走しかねないでしょ?」

 「それ、建て前ですよね?」

 「……ええ、建て前よ」

 

 流石は円満さん。と、言うべきですね。

 円満さんが私を出撃させないのは恐らく、主人が私に何かを命じていると感付いたから。

 命令の内容までは気付いてない……と言うよりは勘違いしているのようですね。 

 だから探りも兼ねて、大和さんを理由に出撃させないと言ったんでしょう。

 

 「なるほど……ね。わかった。出撃していいわ」

 「へ?」

 「へ?じゃないわよ。出撃したいんでしょ?いいわよ?しても」

 「ど、どうして急に……」

 「先生がアンタに何を命じたかが大体わかったから」

 「嘘でしょ!?」

 

 あれだけのやり取りで、主人が私に下した命令の内容を看破した!?

 いやいや、落ち着きなさい大淀。

 下手に反応すれば、そこから主人の思惑までバレかねません。

 それに、こういう状況になった場合、予め主人からこう言えと言われてるんですから。

 

 「流石です円満さん。そう!私が元帥閣下から命じられたのは渾沌の捕獲です!」

 「あら、捕獲だったの?てっきり逃がせって命じられてるんだと思ってたわ」

 「な、何を仰いますか!渾沌は敵南方艦隊の総旗艦ですよ?その渾沌を逃がせだなんて閣下が命じるわけないでしょう?」

 

 よし!よし!

 円満さんは今だに若干訝しんでますが、なんとか誤魔化せそうです。誤魔化せて……ますよね?

 

 「はぁ……。どこまでが計画通りなのかなぁ。私が気付くことくらい、先生ならわかってそうなものなのに」

 「え、円満さん?」

 「何でもない。独り言よ」

 

 すみません貴方。

 どこまでかはわかりませんが、少なくとも私が命じられた内容くらいは気付いてしまったようです。

 それともこれも、貴方の計画の内なのですか?

 

 「ねえ、大淀。アンタってさ」

 「なんで……しょうか」

 「相っ変わらずバカよね。将来が心配になるレベルで」

 「い、いきなり何ですか!?そりゃあ、頭はあまり良くないですけど……」

 「ごめんごめん。アンタ見てたら、昔の事を思い出しちゃってさ」

 

 ううぅ……。

 久しぶりに将来を心配されてしまいました。

 でも!私はすでに主人と添い遂げています!ですから、私が少々おバカでも何の問題もないのです!

 

 「問題大有りよ。夫婦間の秘密が他人にダダ漏れでもいいの?」

 「べ、べつにやましいことはしてませんし……。ってぇ!考えを読まないでくださいよ!」

 「バカみたいにわかりやすいアンタが悪い」

 

 それって私が悪いんですか?

 私の態度や表情だけで思考を読む円満さんや桜子さんが異常なだけでは?

 いや、待ってください。

 今の円満さんの感じは、満潮ちゃんの件で険悪になる前の円満さん。いいえ!私がまだ朝潮だった頃。満潮だった頃の円満さんと同じ感じがします。 

 

 「横須賀に戻ったらゆっくり話しましょ。だから……ちゃんと帰ってくるのよ」

 「はい、お姉ちゃん……」

 

 ヤバい。泣いちゃいそうです。

 円満さんと久々に話せたのはもちろんですが、横須賀に戻ってからゆっくり話そうと言ってくれたのが何よりも嬉しいです。

 

 「敵は鬼級以上のみで編成された連合艦隊よ。無理は厳禁。味方の撤退支援に専念して」

 「わかりました」

 「では、軽巡 大淀に第一遊撃部隊第一部隊の撤退支援を命じます」

 「了解!軽巡 大淀。味方の撤退支援に向かいます!」

 

 そして私は、円満さんから左舷三番カタパルトを使えという指示を受け、待機ルームへ向かうために踵を返しました。

 でも、このまま出撃するのは少し味気ないですね。

 ここは、私が出来る子であることを少しでもアピールしておくとしましょう。

 

 「円満さん」

 「何?」

 「べつに、倒してしまっても構わないのでしょう?」

 「……前にも言った覚えがあるんだけど、それ死亡フラグだからね?」

 「そ、そうでしたっけ?」

 「そうよ。忘れちゃったの?」

 

 そういえばそんな事があったような……。

 たしか、長門さんとタイマンした時でしたっけ。

 言った私自身が忘れているくらい些細な会話を、円満さんは憶えてくれてたんですね。

 

 「大丈夫です。死亡フラグくらいへし折ってやります」

 「うん、わかってる。アンタは強いもんね」

 

 私たちはそう言って笑い合い、今度こそ二人と別れた私が向かったのはワダツミ中央部にある待機ルーム。

 その左右の壁に設えられたドアを抜けると、各カタパルトへと通じる通路に出られます。

 そして通路を抜けた先、奥から一番、二番と番号を振られた六連カタパルトの所定の位置に立つといよいよ抜錨準備です。

 今回私が使用するのはほぼ真ん中、左舷三番カタパルトです。

 

 『艤装へのユニット装着を開始します。兵装ユニットを選択してください』

 「第1、第2スロットに15・5cm三連装砲改。第3スロットに零式水上偵察機11型乙(熟練)。第4スロットに42号対空電探。補強増設に10cm連装高角砲改+増設機銃をお願いします」

 『了解。各兵装セット開始…………完了。続いて艤装の装着に移行します』

 

 管制官の言葉を合図に、天井が開いてクレーンで掴まれた機関と三連装砲が降りてきて私の背中と腕に艤装を装着してくれました。

 

 『カタパルト展開開始』

 

 続いてカタパルトの展開。

 私ごと床が左にスライドを始め、隙間から日の光が差し込んで来ています。

 こちらを使うのは初めてだから知りませんでしたが、展開後のカタパルトは高低差がかなりあるのですね。

 私が立っている位置から海面まで20m近くありますもの。

 

 『カタパルト展開完了。注水開始。主機とカタパルトの接続を確認。射出タイミングを大淀に譲渡します』

 「はい、頂きました」

 

 私の足元から海水が流れ始め、下から吹き上げてくる潮風が心地良く頬を撫でました。

 久しぶりの実戦だと思うと気分も高揚します。澪さん風に言うとアゲアゲな感じです。

 

 『針路異常なし。CL183 大淀。抜錨どうぞ』

 

 さあ行こう。

 私がこれから赴くのは戦場。

 行うのは味方の撤退支援と、後に出撃する味方が到着するまでの時間稼ぎ。

 ですが、これは元帥閣下から与えられた命令を遂行する絶好の機会でもあります。

 円満さんに嘘をついてしまった事に罪悪感を感じてはいますが、それは彼女を除く敵艦隊を殲滅する事でチャラと思うことにしましょう。

 

 「大淀型軽巡洋艦、一番艦大淀。出撃致します!」

 

 

ーーーーーーーーー 

 

 

 それを合図に、私はカタパルトで射出されました。

 第一部隊の位置は、ワダツミが細かく教えてくれたので迷うことはありませんでしたね。

 

 私が戦場に到着した時には皆さん満身創痍で、大和さんは傷付いた朝潮ちゃんを胸に抱いてうずくまっていました。

 

 その大和さんに、敵艦載機が放った爆弾が迫っているのが見えたので、それを撃ち落として大和さんの前に出たんです。ええ、間一髪でした。

 

 そして始まったんです。

 今でも忘れる事ができない彼女との初の共闘。

 砲声と爆音をBGMにし、砲火と爆炎に彩られた、私と彼女の舞踏会が。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 大淀へのインタビューより。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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