力が有っても、私は結局何も出来ない。
そう、私を庇って傷付いたあの子を胸に抱いた私は思いました。
渾沌を旗艦とした敵連合艦隊。編成はたしか、空母棲姫1、装甲空母鬼1、戦艦棲姫改2、護衛水鬼1、護衛棲姫1、重巡棲姫1、軽巡棲鬼1、駆逐水鬼1、駆逐棲姫1、駆逐古鬼1でしたか。
ええ、鬼級姫級の見本市みたいな艦隊でした。
その艦隊に背後から奇襲され、前衛艦隊の旗艦を務めていた能代さんですら取り乱してしまう状況で、長門さんが「全艦、応戦しつつ退避!」と言いました。
その指示に従って、島風ちゃんは速度を生かして敵を攪乱し、沖波ちゃんと朝霜ちゃんと長波ちゃんは錯乱した能代さんを引っ張って退避を始め、涼月ちゃんは敵の艦載機を迎撃して、高雄さんと愛宕さんは下がりながら応射して時間を稼ごうとしていましたね。
私ももちろん、応射して敵の数を少しでも減らそうとしていました。あの子が、あの場に現れるまでは。
~戦後回想録~
匿名希望の元艦娘へのインタビューより。
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『長波。能代は落ち着いたか?』
『装甲も維持できないほど取り乱してたから寝て貰ったよ。静かになったろ?』
『良い判断だ。お前達はそのままワダツミに向かってくれ』
『了解。ご武運を』
渾沌を探す私たちが、ベララベラ島を過ぎたところで奇襲されてから一時間くらい経ったでしょうか。
長門さんと私。そして島風ちゃんと涼月ちゃん、高雄姉妹で持ち堪えていますが、それも時間の問題でしょう。
このままではそう時を置かずに私たちは海の藻屑にされてしまうと思います。
(どうするのだ?このままでは沈められるぞ?)
「それはわかっています!ですが、現状はこれが精一杯です!」
(私がやってやろうか?私なら、全部は無理でも半分は沈められる)
応戦すれども敵の数を一向に減らせず、味方が被弾する度に焦りだけが増していく状況で窮奇が話し掛けてきました。
ほぼ同数の私たちが良いようにやられている状況を、自分なら敵の半数を沈めて挽回できると言うのですか?
「ご冗談を。貴女は、一人で一艦隊と互角に戦えると言うのですか?」
(無論だ。断っておくが、けして大げさに言っているわけではない。私の性能と戦闘経験を鑑みて、それくらいなら確実にやれると判断しただけだ)
遠回しに馬鹿にされている気がしてしまいますね。
彼女の言う
要は『お前は下手クソだから自分と代われ』と、言われたような気分になってしまったんです。
『高雄、愛宕、島風、涼月は後退しろ!私と大和で盾になる!』
長門さんの指示を聞いて、私たちが盾になったところでどれだけ保つのか。と、考えてしまったのは内緒です。
応射と回避でいっぱいいっぱいなのに、私には意外と余裕があるみたいです。現実逃避一歩手前な気はしますが。
『ちょ!なんでこんな所に!?』
『どうした長波!敵の別働隊か!?』
『い、いやそうじゃない!味方なんだけど……』
はて?遭遇したのが味方なら喜ぶべき事のはずなのに、なぜ長波ちゃんは戸惑っているのでしょう。
もしかして味方の数が少ない?
それでも編成次第では十分この状況を打開できます。
長波ちゃん達が離れてからそう時間は経っていないですから、距離にしてここから5海里付近でしょうか。それまで持ち堪えれば味方が来てくれると思うだけで気持ちが軽くなりますね。
(おい、当たるぞ)
「おおっと!」
(気を抜きすぎだ。今のが魚雷じゃなかったら至近弾になっていたぞ)
「わかってますよ!気が散るので黙っていてください!」
と、食ってかかったものの感謝はしてます。
もし窮奇が教えてくれなければ、駆逐棲姫が放った魚雷が直撃していたでしょうから。
というかあの魚雷、私の前方300m程で戦っている長門さんを狙ったものだったのでは?
『大和!駆逐棲姫に抜けられた!そっちに行ったぞ!』
「了解しました!」
了解はしましたがどうしましょう。
叢雲さんや大淀のように海面を滑空するような移動法は使ってないものの、私に向かって来ている駆逐棲姫の速度は速い。砲の操作がそれなりにできるようになった今でも捉えきれません。
(下手クソめ。ああいう奴の対処法は教えてやっただろう)
「やってますよ!でも、今の私が同時に操作出来る砲塔は二基だけなんです!一基足りません!」
(駆逐艦は正面から来てるんだ。二基あれば十分だろう?私なら主砲一基でお釣りがくる)
嫌みったらしい!
私は艦娘になって数カ月ですよ?貴女が何年深海棲艦をしてたのか知りませんが私よりは確実に長いでしょう?キャリア数年、十数年の貴女と私を一緒にしないで頂きたいです。
(気を抜くなと言っただろう馬鹿者!)
「馬鹿者とは何ですか馬鹿者と……は!」
気付くのが遅かった。
いえ、気付いてはいたけど、くだらない事を考えていたせいで反応が遅れました。
気付いた時には、私に向け突撃していた駆逐棲姫が前方200mまで接近し、砲撃した直後でした。
ダメだ。これは当たる。回避運動も間に合わない。直撃する。
でも、一発くらいなら耐えられる。魚雷なら兎も角、砲撃なら最悪中破で済むは……。
「大和さん!」
被弾後の損傷具合を算出していいたら、背後からここには居ないはずの人の声が聞こえました。
どうしてあの子の声が聞こえるのですか?
あ、これはきっとアレです。
漫画とかでよくある、ピンチの時に大切な人の声が聞こえて励ましてくれる的なやつです。でないと、あの子の声が聞こえたことに説明がつきません。
だってこの場に居るはずがないんですもの。
通信を通さずに聞こえるような距離にあの子がいるはずがない。いたら大問題です。
だってあの子が傍にいたら、きっと迷わず私の盾になる。自分の身を犠牲にしてでも私を守ろうとしてくれる。
そう、だからさっき聞こえた声は幻聴。
今、私の目の前に飛び出して来たこの子は幻。
そうであってくれなければ、私に当たるはずの砲弾は朝潮ちゃんに当たる事になってしまうじゃないですか。
「約束。守れました」
そう言って微笑んだ朝潮ちゃんの背中へ吸い込まれるように、駆逐棲姫が放った砲弾が直撃しました。
幻じゃなかった。
私を庇って被弾し、背中の艤装から煙を吐きながら私のところまで吹き飛ばされて来た朝潮ちゃんは本物だった。
「朝潮ちゃんどうして……。どうしてこんなことを」
前面装甲を開放して受け止めた朝潮ちゃんは虫の息。
内臓を痛めたのか、口から尋常じゃない量の血を吐いています。
私なら大丈夫だったのに。最悪でも中破で済むはずだったのに。
「大丈夫…ですか?痛いとこありま……せんか?」
「私は平気です。それよりもどうしてこんな危ないことを!」
「約束……しましたから」
約束?約束って何ですか?
もしかして私が拉致された日にした約束ですか?
あんなその場のノリでした口約束を守るために、朝潮ちゃんは砲弾の前に身を晒したというのですか!?
「どうして、泣くんですか?やっぱりどこか……」
「いいえ……大丈夫です。朝潮ちゃんのおかげで、私はこの通りピンピンしてます」
「そう……ですか。よか……」
「ダ、ダメ!寝ちゃダメです!」
このまま瞼を閉じたら、きっと朝潮ちゃんは二度と目を覚まさない。そのまま死んでしまう。
それなのに、どうしてこの子は微笑んでるの?
これではまるで……。
「助……けて」
今だ鳴り響いている砲撃や爆撃の音をBGMにして、私に追撃を加えようとしていた駆逐棲姫を長門さんが殴り飛ばすのを目の端に捉えながら、私は誰にともなくそう懇願しました。
これはあの日の再現だ。
あの日、血塗れになりながらも私を安心させようと微笑んだ弟と同じように、朝潮ちゃんは私に微笑みかけている。
「私はどうなっても良いです……。だからこの子を」
助けなんか来ないのはわかってる。
長波ちゃんが通信で伝えた味方とは朝潮ちゃんの事のはず。だから当分助けは来ない。
でも救援が来なければこの子が死んでしまう。手遅れになってしまう。
「誰でも良いから!この子を助けてよ!」
長門さんの迎撃を抜けてきた敵艦載機群が見えたとき、私はたまらずそう叫びました。
長門さんが私を呼ぶ声が聞こえる。敵艦載機が爆弾を落とそうとしているのが見える。
それを見て、私は死を覚悟しました。
それでも、朝潮ちゃんの生存率を少しでも上げるために覆い被さりました。
そうする事しか、私には出来ませんでした……。
「情けない。助けを求める余裕があるなら何故戦わないのですか?」
聞き覚えのある侮蔑の声が聞こえると同時に、私のはるか頭上で激しい爆発音と衝撃が轟きました。
誰かが迎撃してくれた?
でも誰が?今現在、この海域には私と朝潮ちゃん、そして長門さんしか居ないはずなのに。
「今回は、間に合ったようですね」
「お、大淀?どうしてここに」
「どうして?助けに来たに決まっているでしょう」
私と朝潮ちゃんに当たるはずだった爆弾を迎撃したと思われる大淀が、視線は敵艦隊に向けたままでそう言いました。
助けに来た?今度は間に合った?
貴女は、私を助けに来てくれたと言うのですか?
「長門さん。朝潮を連れて撤退してください。後はお任せを」
『お前一人でやる気か?無茶だ!いくらお前が強くてもあの艦隊を一人では……』
「一人ではありません。二人です」
二人?もう一人は誰?まさか、もう一人は私とか言いませんよね?
冗談じゃない!
弟の仇である貴女なんかと共闘するくらいなら、私は敵艦隊と協力して全力で貴女を沈めますよ!
「攻撃が……止んだ?」
「恐らくですが、攻撃を中断したのは彼女が理由でしょう」
攻撃が止まった事に戸惑いながらも近づいて来た長門さんに、大淀は敵艦隊から視線は逸らさず、顔を少しだけ私の方に向ける事で答えました。
私が理由?
いや、私じゃありませんね。視界が遠くなり、体の自由が利かなくなったこの感じには覚えがあります。
(私を乗っ取ったのね)
(ええ、少しの間体を借りるわ)
(勝手な事を……私の体を使って何をする気なんですか?)
(願いを、叶えるのよ)
願い?
貴女の願いとはいったい何なのですか?大淀を愛する人と以前仰っていましたが、まさかこの場で添い遂げるつもり?
「この時を……待っていた」
「大和……さん?」
私の口が勝手に言葉を紡ぎ、瞳は大淀の背中を凝視し始めました。
そんな私の様子を……と言うよりは、窮奇に乗っ取られた私の変わり様を不思議に思った朝潮ちゃんが自信なさげに声をかけて来ました。
体も少し強張っていますね。
いや、怯えているのでしょうか。私が今どんな表情をしているのかはわかりませんが、どうやら私は朝潮ちゃんが怯えるような表情を浮かべているようです。
「なるほど、そういう事か。大淀」
「ええ、そういう事です。ですから長門さんは朝潮を早くワダツミへ」
「……わかった。武運を祈る。窮奇、朝潮を」
私の前に回り込んだ長門さんが、私から朝潮ちゃんを受け取ってくれました。
その長門さんに抱えられた朝潮ちゃんの瞳に映った私を見て、ようやく自分がどんな顔をしているのかがわかりました。
ああ、私はそんな顔をしていたのですね。
頬が歪むほど口角が上がり、瞳は潤み、目の端は口角とは逆に下がっています。
オブラートに包まずに言うなら発情しているんです。
こんな涎すら垂らしそうな顔をしていたら、朝潮ちゃんが怯えるのも当然ですね。
「死なせるなよ。その子を死なせたら、私がお前を殺してやる」
「貴様に言われるまでもない。この子は絶対に死なせはしない」
視線は大淀から動かさず、ゆっくりと立ち上がりながら、朝潮ちゃんを連れて去って行こうとした長門さんに窮奇が釘を刺しました。
言い方をもう少し考えた方が良いとは思いましたが、朝潮ちゃんを死なせたくないのは私も同じですからここは黙っていましょう。
「さあ、どうするの?アサシオ。敵の数は私たちより多いわよ?」
「私は大淀です。私を朝潮と呼ぶことは、今朝潮であるあの子への侮辱です」
「そう……ね。じゃあ大淀。どうする?」
「私が前衛、貴女が後衛です。他に質問は?」
いや、答えになってない。
敵艦隊をどうやって倒すか聞いたのに、大淀が口にしたのはポジションの確認です。
この人もしかして、頭が良さそうな外見をしてるクセにバカなんじゃ……。
「……私は、他の艦娘から『一人艦隊』と呼ばれています。何故だかわかりますか?」
「強すぎるからでしょう?本気の貴女に合わせて戦える艦娘なんて私くらいのものでしょうから」
「ええ、その通りです。貴女はさっき言いましたよね?敵の数は私たちより多いと」
「ふふふ♪言ったわ♪だって渾沌の艦隊は連合艦隊規模。対するこちらはたった二人」
「そう、二人です。ただし、一人艦隊と呼ばれるほど強い私と互角に戦える貴女がいる。つまり、私たちの戦力は連合艦隊並。要は、戦力的には互角なわけです」
この人、ただのバカじゃなくて大バカです!
一艦隊並の戦力を有する者が二人だから、相手が連合艦隊でも戦力的には互角?
もう一度言います。
大バカですよ!
例え質が良くても数の暴力には勝てない。
ええ!勝てません!
戦略や戦術を駆使して少数が多数に勝った例は山ほど有りますが、それは戦略や戦術を駆使する事が出来る場合の話です。
こんな遮蔽物もない海のど真ん中で敵に捕捉されている状況じゃ戦術もクソもありませんよ。
これは正面からのぶつかり合い、しかも2対12のぶつかり合いです。
これなら
あ、あれ?
あの時っていつ?数百の敵って何ですか?私は今、
「たった二人の連合艦隊……。素敵……。素敵だわ大淀!ええ!ええ!私たちなら勝てる!貴女と私ならどんな敵にも負けはしない!」
「遺憾ですが同意します。ですが、貴女はブランクが長いはず。私のステップについて来れますか?」
「ついて行くわ。いいえ、むしろ私がリードしてあげる」
二人は軽く笑い、混沌艦隊を睨んでゆっくりと進み始めました。
本当にやる気だ。
この二人は本当に、たった二人で敵艦隊に突っ込む気だ。
「さあ奏でましょう。私たちの再会を祝す
砲塔を敵艦隊へと向け、大仰に両手を広げて窮奇が言いました。
「刻みましょう。私と貴女の
大淀が速度を上げて窮奇に続いた。
意外とノリが良いですねこの人。打ち合わせでもしていたのでしょうか。
そして二人は、最後に声を揃えて言いました。
「「そして歌いましょう。勝利へと漕ぎ進む私達の
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)