艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第七十七話 一時だけなんだけどね

 

 

 

 「なるほどね。艦娘で装甲を削って通常兵器でトドメ……か。私じゃあ、と言うより日本人じゃ思い付かない方法ね」 

 『ホントにね。お金かけすぎよ。あの数時間で何億飛んだのかしらね』

 「桁が四つくらい足りない気がする」

 

 渾沌艦隊に奇襲された第一部隊の救援に大淀を差し向けて4時間後。

 入渠を終えた第一部隊の面々の様子でも見に行こうとブリッジから出ようとしたら、第7艦隊に同行してる辰見さんから南方中枢を撃破した事を伝える通信が入った。

 ケンドリック提督は本国からの命令もあって仕方なく今回の戦術を実行したらしいけど、南方中枢(辰見さんは悪ブッキーって呼んでた)の装甲の硬度は姫級や水鬼をはるかに上回っていたものの、規模自体は精々戦艦と同程度だったらしいわ。

 まあ結果的に倒せたから良かったけど、ハワイ島中枢のように結界と呼べる大きさじゃないと実行する意味がないわね。

 無駄になる火力が多すぎるもの。

 

 『そっちの状況はどうなの?』

 「こっち?こっちは一時間ほど前に、渾沌艦隊を撃破した大淀と大和が帰投したわ」

 『相変わらずの規格外ね。それに付き合える大和……窮奇も相当か』

 

 でも、いくら大淀と窮奇でも撃破するのは難しかったらしい。

 実際、大淀と大和は大破。

 大淀なんて、今まで見たことがないくらいの大怪我をしてたわ。

 せっかく出せる艦隊を出せるだけ向かわせたんだから、艦隊が到着するまで遅滞戦闘に専念すればとも思ったけど、大淀からしたら待てない理由があったんでしょうね。具体的に言うと、先生からの命令を遂行するために。

 

 「でも意外だったわ。あの人、勝利の報告は自分でしてくると思ってた」

 『あの人?もしかしてヘンケン提督のこと?』

 「ん?ええ、ケンドリック提督の事よ」

 

 アイツは私に惚れてる。

 断っておくけど自惚れでも何でもないわ。だって形式上は交際してるもの。つまり、私と彼は恋人同士。

 その相手である私に、中枢を撃破したという大戦果を自分で報告、いや自慢しないのには違和感を感じちゃうわ。

 

 『今回とった戦術が本意じゃなかったからじゃない?国からの命令で仕方なく。とか言ってたし』

 「なるほどね。本当はとりたくない戦術だったから、ケンドリック提督は自慢してこないのか」

 

 辰見さんの話では、ロナルド・レーガンから発艦した空母艦載機部隊の三分の一が撃墜され、艦娘の損耗率も10%を超えたらしい。

 新たに産み出した艦隊を根こそぎ沈められ、丸裸にされた状態でそこまでの被害を出すなんて腐っても中枢ってとこかしら。

 

 『そっちはもうすぐ本土に戻るんでしょ?』

 「ええ、私たちは所用が終わり次第、呉の海軍工廠にワダツミを預けてから横須賀に帰るわ。そっちは一度グアムに寄るんだっけ?」

 『ええ、補給も兼ねてね。そっちが呉に寄るんなら、横須賀に戻るのは私の方が速いかもしれないわ』

 

 今回の作戦でワダツミには無理をさせた。

 横須賀を発ってからの強行軍はワダツミにとって初めてだし、少なからず被弾もしている。

 直衛艦隊の子達、特にその子達の指揮を執ってくれていた阿賀野の奮闘で被害は最小限で留まったけど、目視で見えるほどの距離に敵の艦載機が迫った時は流石に肝が冷えたわ。

 霞の助言どおり、彼女を直衛艦隊の旗艦にして正解だったわね。

 

 「そう、じゃあ横須賀で会いましょう」

 『早く戻って来てよ?仕事も貯まってるだろうから』

 「ええ、月が変わる前には戻る予定だから安心して」

 

 先の予定を大まかにすり合わせして通信を終了した私は、「提督居室にいるから、何かあったら連絡して」とオペレーターに言付けて今度こそブリッジを後にした。

 

 「物資の揚陸と負傷者の輸送は順調。後は報告書の作成か……」

 

 言葉にしてしまったことで気分が重たくなってしまった。だって、個人的には報告書の作成が一番苦痛なんだもの。

 いくら私と先生が親しいからと言って「作戦は大成功。ただし、混沌は取り逃がしちゃったけどね」で済ませる訳にはいかない。だって軍隊だもの。

 しかも報告書って言うくらいだから、作戦の顛末や達成度等々をクソ真面目な文言で書かなければならない。

 何をどうしたか、誰がどう死んだかまで……。

 

 「あら、霞じゃない。私に何か用?」

 

 提督居室が見えるまで来ると、胸にタブレットを抱えた霞がノックしようとしてるところに出くわした。

 思わず「何か用?」って声かけちゃったけど、この子の事だから「用があるから来たのよ」とか憎まれ口を叩くんだろうなぁ……。

 

 「ちょっと話したいことがあって……。忙しいなら後でも良いわ」

 「それ程でもないから平気よ」

 

 あら意外。

 霞のクセに言葉にトゲが無いわ。いつもつり上がってる眉毛は下がってるし、心なしか顔色も悪い気がする。何かショックな事でもあったのかしら。

 

 「廊下じゃなんだし、とりあえず中に入らない?」

 

 と、提督居室のドアを開けながらできるだけ優しい口調で促してみると、霞はコクリと頷いて後に続いた。

 本当にどうしたんだろ?

 いつもの霞なら「お茶くらい出しなさいよね。もちろん玉露よ!」くらいは言うのに。

 

 「で、要件は?」

 「……」

 

 提督居室の入り口側から見て執務机の斜め左に設えられたソファーとテーブル。そこに座らせた霞は無言で俯くばかりで口を開く気配はない。

 こんな霞は初めて見るから、どう対応して良いのかわかんないわね。霰なら付き合いが長いからわかるんでしょうけど……。

 とりあえず仕事の話から入って様子を見てみるとしましょうか。

 

 「阿賀野を直衛艦隊の旗艦にしたらどうだっていうアンタと呉提督の助言、助かったわ。彼女、思ってたよりずっと優秀だったのね」

 「あの人はやれば出来る人だから……。普段は何もしないけど」

 「何もしない?訓練くらいはしてるんでしょ?」

 「最低限、ね。訓練してる時間より怠けてる時間の方が長いわ」

 「()()で?」

 「そう、()()で。だから、実力があっても誰も従わないの」

 「なるほどね。アンタが呉所属の駆逐艦と組ますなって言ったのはそれが理由か」

 

 編成を決める前、正確に言うと五大鎮守府の提督と秘書艦を集めて行った会議の後、霞と呉提督が私に阿賀野の件を直接言いに来たの。

 たしかこんな感じだったわ。

 

 「阿賀野をワダツミの直衛艦隊の旗艦にしろ?」

 「ええ、あと、随伴艦は呉以外に所属してる子にして」

 「理由を聞いても?」

 「彼女は優秀なんだけど少し問題があってね。今回の作戦に関わる事が、彼女にとって良い機会になると僕は考えてるんだ」

 

 冗談じゃない。が、その時の感想かな。

 だって私は阿賀野の事を知らないし、しかも問題を抱えてると来た。

 私にとって、提督として初の大規模作戦であり、終戦へ向けての前哨戦である今回の作戦に不安の種を蒔きたくなかったからよ。

 だって、総旗艦であるワダツミ直衛艦隊の旗艦よ?

 直衛艦隊は地味な役割ではあるけど、個人的には一番大事だと私は思ってる。

 だって司令塔であり、基地でもあるワダツミが沈んだら作戦どころじゃないもの。

 大袈裟でも何でもなく、ワダツミの撃沈は敗北と同じだもの。

 その大事な役割を、実力もわからない艦娘に託すのはリスクが高い。

 実際、最初は実力的にも問題なく、ネームドの一人で駆逐艦からも人気がある横須賀所属の那珂にしようと思ってたわ。

 

 「君の不安もわかる。でもここは、僕を信じてくれないだろうか。阿賀野は必ず、ワダツミを守り切る」

 「貴方を信じろって言われてもねぇ……」

 

 信じられるわけがなかった。

 彼は会議で私の味方をするような素振りをしていたけど、私は彼を提督として信用していない。

 理由は正化26年の横須賀襲撃事件よ。

 彼の采配ミスのせいで、私たちかつての朝潮型は大事な姉を失い、自分が死ぬよりも悲しい想いをしたんだから。

 

 「円満。いえ、紫印提督。今は私情を捨てるべきだって貴女は会議で言ったわよね?」

 「ええ、言ったわ。でもね、霞。私は私情から彼を信じられないんじゃないの。ケンドリック提督も言ってたでしょ?今や南方攻略は、人類文明を護る戦いへと変わってるの。失敗が許されない作戦で、僅かな不安要素すら抱え込みたくないのよ」

 「だから、司令官は阿賀野さんを推してるのよ。彼女なら、確実にワダツミを守ってくれるから」

 「アンタがそこまで他人を推すなんて意外ね。それ程の艦娘なの?阿賀野って」

 「ええ、私が知る限り、戦闘に関しては呉で一番。いえ、全鎮守府で一番の軽巡洋艦よ。もしかたら大淀にも比肩するかも」

 

 それが事実なら朗報どころじゃない。

 大淀と比肩するほどの軽巡洋艦を直衛に据えれば、その分他に艦娘を回すことも出来るし、逆に前に出せば作戦を有利に進められるかもしれない。

 

 「もし、彼女がミスをしたら僕は提督を辞任しよう。不足ならこの命を差し出しても良い」

 「貴方がそこまでする理由は?こう言っては何ですが、艦娘一人のために自身の進退どころか命まで賭けるなんて異常ですよ?」

 「罪滅ぼし、かな。彼女はここに居る霞同様、僕の被害者なんだよ」

 

 罪滅ぼし。被害者。

 そう聞いて思い出した。

 彼は正化29年まで戦艦以下の艦種を冷遇していた。冷遇していたとは言っても虐待などをしていたわけじゃない。

 いや?虐待と言えなくもないかしら。

 呉提督の横で沈痛な面持ちをしている霞を例にすると、呉提督は軽巡洋艦や駆逐艦には雑用しかさせていなかったの。雪風や神通などの、特定の駆逐艦や軽巡洋艦を除いてね。

 うん、やっぱり虐待と言って良い。

 日々の訓練や哨戒以外で海に出れず、訓練以外で戦闘もできないなんて、艦娘にとっては虐待と同じだ。

 だって艦娘は、特に軽巡洋艦や駆逐艦には戦うことが目的で艦娘になった子が大半なんだもの。

 そんな子達に、戦わなくて良いから訓練と雑用だけしてろなんて私なら言えない。

 けど彼はそう言い、そうさせた。

 

 「結局、その話にほだされちゃったんだから、私もまだまだ甘いわね」

 「でも、ほだされて正解だったでしょ?」

 「ええ、阿賀野のおかげで、ワダツミは大した被害を受けずに済んだわ」

 

 彼女の戦いをこの目で見た時は大淀が戦ってるんじゃないかと錯覚した。

 脚技こそ使わなかったけど、彼女は敵と相対している艦隊を突破して来た敵艦と艦載機群を相手に獅子奮迅の活躍を見せてくれたわ。

 旗下に加えていた白露達の存在が霞んでしまうほどにね。

 

 「ハワイ島攻略戦の時は、まだ冷遇されていた事を払拭しきれてなかったから目立たなかったみたいだけどね。その時に戦果を挙げてれば、円満も即決出来たでしょ?」

 「その戦果次第。だけどね。でもまあ、阿賀野が優秀だとわかったのは大きいわ。これから先も期待できるし、矢矧も安心して任せられるから」

 「矢矧?阿賀野型三番艦の?呉に転属させるの?」

 「ええ、今回の作戦で神通が戦死したでしょ?だから、次の神通が育つまで二水戦の旗艦をさせるために転属させるの」

 「ふぅん。使える人なんでしょうね?二水戦所属の駆逐艦は癖が強いわよ?」

 「ネームドも多く所属してるしね」

 

 第二水雷戦隊。

 通称二水戦は、戦艦以下の艦種を冷遇していた頃の呉提督が唯一使っていた水雷戦隊で、基本的に軽巡洋艦神通を旗艦として主に陽炎型で構成されている。

 デビュー戦は第一次ソロモン海戦だったかしら。

 その時の活躍がめざましすぎて、横須賀の第一、第四水雷戦隊、佐世保の第三水雷戦隊を差し置いて、『駆逐艦が所属したい水雷戦隊ランキング』で一位を独占し続けてるわ。

 

 「今有名なのは『呉の死神』と『聖剣』?」

 「そうね。その二人が群を抜いてるわ。雪風は、神…じゃないや。桜子さんと戦った後から更に一皮剥けたし」

 

 『呉の死神』こと陽炎型八番艦 雪風。

 呪いにも等しい幸運に恵まれ、どんな戦場からも必ず戻って来る呉鎮守府最強の駆逐艦。

 ただし、味方も共に戻って来ることが稀だったため、いつの頃からか『死神』と呼ばれるようになった。敵にとっても、味方にとっても。

 『聖剣』の方は名前だけで詳しくは知らないわね。陽炎型だったのは確かなんだけど……。

 

 「満潮と演習させてみる?いい勝負すると思うわよ?」

 「却下。演習じゃあ満潮は本気を出せないの、アンタだって知ってるでしょ?」

 「でも、今年は今回の作戦のせいで演習大会がお流れになちゃったじゃない。アレ、駆逐艦にとっては年に一度のお祭りみたいなものなのよ?」

 「それについては心配しないで。もう少し先になるけどちゃんと考えてるから」

 「そう、ならいいわ」

 

 顔色も良くなってるし、少しはいつもの調子に戻ったみたいだし、そろそろ本題に入っても平気かしら。

 

 「それで?アンタは私に何の用があって来たの?そろそろ聞かせて欲しいんだけど」

 「それはそのぉ……」

 

 やっぱまだ無理?

 内股に手を突っ込んでモジモジしてるアンタも新鮮で良いとはおもうけど、仕事があるから長い時間相手にするのはちょっとなぁ……。

 

 「お……」

 「お?」

 

 話す気になったのかしら。

 膝に乗せた両手をギューッと握って、意を決したように対面に座る私を見て口を開いたわ。

 

 「大淀が怪我したって……。それで私……」

 「ああ、なるほどね」

 

 霞はかつて、朝潮だった頃の大淀にコテンパンにされて以来仲が良い。

 同い年ってのもあるんでしょうけど、世話好きなこの子からしたら大淀は放っておけない存在だそうよ。

 実際、今でもラインでの連絡は欠かさないらしいし、大淀が先生と結婚した時は呉から横須賀まで来て祝福してたわ。

 まあ、大淀が朝潮を辞める時は少し揉めたけどね。

 で、霞が何をしに私を訪ねたかと言うと、要は渾沌艦隊との戦闘で負傷した大淀の容態を聞きたいのよ。

 この子ったら、普段ツッケンドンな態度をとってるせいで素直にお見舞いに行けないのね。

 

 「命に別状は無いから安心していいわ。怪我だって、敵にやられたって言うより自爆に近いんだから」

 「そ、そう……」

 

 それでも不安は解消出来ないみたい。

 きっと今、この子の中では大淀と初代朝潮、私たちの朝潮型全員の姉さんの死がフラッシュバックしてるんだと思う。

 霞も私同様、姉さんが戦死した時に何も出来なかったから……。

 

 「お見舞いに行ってあげなさいよ。あの子、きっと喜ぶわよ?」

 「やだ……」

 「嫌味を言っちゃうから?」

 「……」

 

 ここでの無言は肯定と同じよ霞。

 まったく、アンタも満潮だった頃の私と同じで難儀な性格してるわよね。

 なんて言うか、お見舞いには行きたいけどお見舞いに来たと相手から思われたくないの。

 それは誰かと一緒でも同じ。

 例えば「〇〇がどうしてもって言うから仕方なく」とか、「病室に用があったから来たのよ」とか言っちゃうわ。試しに提案してみようかしら。

 

 「霰がどうしてもって言うから仕方なく。とか言っとけば?」

 「それも考えたけど……」

 「考えたのかよ」

 

 呆れた。

 霞にもだけど、思考パターンが同じな自分にもね。

 もう無理矢理引っ張って行こうかしら。私も労いの言葉の一つくらい言ってやらなきゃとは思ってたし。

 

 「私と一緒に行きましょ。それなら平気なんじゃない?」

 「でもアンタ、大淀とケンカしてるんじゃ……」

 「あら、知ってたの?」

 「だってアイツに相談されたもん。『円満さんと仲直りするにはどうしたら良いと思います?』って」

 「で?アンタはなんて答えたの?」

 「怒らない?」

 

 そんなの内容次第に決まってんでしょ。

 なんて言ったら話が進まないから、ここは右手を差し出すだけに留めよう。

 内容次第じゃ怒るけどね。

 

 「手土産に、元帥のヌード写真でも持って行ったらどう?って……」

 「先生のヌード写真!?あの子、そんなお宝持って来てないけど!?」

 「だって冗談で言ったんだもの。って言うか今、お宝って言った?」

 「い、言ってない……」

 

 危ない危ない。

 霞は私が先生の事が好きだって知らないんだった。

 でも、大淀は知ってたんだから、霞が言った冗談を真に受けて先生のヌード写真を持って来てくれてもよかったのに……。

 

 「え、円満、アンタまさか……」

 「な、何よ。まさか何よ!」

 「あのオッサンの事が好きだったの?あんな額が後退してて足が臭くて、趣味と言えば飲酒と競馬くらいしかないオッサンが?」

 「ちょっ!なんでアンタがそんなに詳しいのよ!」

 「だってラインで繋がってるもの。育毛剤に手を出すべきかどうか相談された事もあるわ」

 「ダメよ!増やしちゃダメ!あのハゲ具合がちょうど良いのよ!私の好みにジャストフィットなの!って、あ……」

 

 見られてる。

 霞に、痛い子を見るような目で見られてる。

 ええそうよ!

 私は額が後退してて足が臭いオッサンが好みなの!具体的に言うと先生よ!フラれちゃったけどね!

 

 「ま、まあ好みは人それぞれだし、白人は劣化が激しいらしいし……。が、頑張って?」

 「なんで応援したの!?ひと思いに笑ってくれた方が気が楽なんだけど!?」

 「いやぁ、だって私も人のこと言えなし……。ハゲてないし足も臭くないけど」

 「でもマザコンでしょ?」

 「いいじゃないマザコンでも!普段はキリッとしたエリートビジネスマンみたいな司令官が「ママ~」って甘えてくるのよ?最高でしょうが!」

 

 いや、キモい。

 あのメガネ野郎、駆逐艦相手にそんな事してるの?控え目に言って変態よ。

 それを思い出して頬を赤く染め、体をクネクネさせてる霞も変態に片足突っ込んでるけど。

 

 「前々から思ってたんだけど……さ」

 

 クネクネするのに飽きたのか、霞は急に素に戻って……って言うか死んだ目?ハイライトオフって言ったら良いのかしら。になった。

 

 「駆逐艦って、男の趣味が悪いわよね」

 「うぉい!趣味が悪いとか言うな!それにその言い方だと、全ての駆逐艦が誤解されかねないからね!?」

 「だって大淀も円満もオッサン趣味だし……」

 「アンタもでしょ!?呉提督って見た目は若いけど30後半じゃない!アンタからしたら十分オッサンでしょうが!」

 「でも見た目は若いもん!元帥みたいに明らかなオッサンじゃないもん!」

 

 見た目が若ければ良い。だと?

 そりゃあ、世の大半の人は若ければ若いほど良いんでしょうよ?嫁と畳は新しい方が良いなんて諺まであるくだしね。

 でもね。

 私は若いだけの男は嫌なの。中身も熟成されてる方が良いの。お肉だって、腐りかけが一番美味しいって言うでしょ?

 

 「父親に憧れでもあるのかしら……」

 「ない。とは言い切れないわね。今は減ってるけど、アンタや私と同世代の駆逐艦の大半は親と死別してるから」

 

 霞は確か、8歳かそこらで艦娘になっている。

 そんな歳の子が艦娘になるだなんて今では信じられないけど、あの当時は有り触れたことだったわ。

 私自身、10歳くらいの頃に艦娘になってるしね。

 

 「そう言えばアンタ、満潮を甘ったれたガキ呼ばわりしてたわよね」

 「い、言ったような言ってないような…‥」

 「言った。だって私もその場にいたし、拗ねた満潮を慰めるの大変だったから」

 

 あれは、満潮が着任して半年くらい経った頃だったかな。

 霞が休暇を利用して横須賀まで来てた時に、顔合わせも兼ねて会わせた途端にさっきのセリフを言ったの。

 それだけで済めば良かったんだけど、満潮も気が強いから「年増のババアがなんか言ってる」なんて言い返しちゃってさ。

 それ以来、満潮と霞は犬猿の仲なのよ。

 まあ、満潮が一方的に嫌ってるだけなんだけどね。

 

 「素直に歓迎してあげれば良かったのに」

 「いやぁ、アンタの後ろに隠れてるあの子を見たらイライラしちゃって」

 「あの子、人見知りが激しかったからね」

 

 今はマシになってるものの、当時の満潮は人見知りが激しくて初対面の人とは目も合わそうとしなかったわ。

 秘書艦の仕事にもだいぶ支障が出たなぁ。

 まあ、今ではそれも良い思い出か。

 

 「本土に戻ったら一緒に出掛けてみれば?意外と馬が合うかもよ?」

 「ふん!満潮がどうしてもって言うなら考えてあげるわ」

 

 たぶん、満潮も同じセリフを言う気がする。

 でも、それはそれで見てみたい気がするわ。

 だって、そういう事を言えるって事は余裕がある証拠だもの。

 ケンカして、バカ言い合って、そして笑い合って。

 そんな普通の日々がもうすぐ戻って来るわ。

 

 「もっとも、一時だけなんだけどね」

 「何が?」

 「ううん。何でもない」

 

 そう、何でもない。

 今のはただの独り言。

 貴女たち艦娘を、そんなに時を置かずに死地に送り込もうとしてる私の、残酷な独り言なんだから。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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