艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

79 / 190
八章ラストです!

次章は日常回中心で今月中には投稿予定(予定は未定)です!




第七十八話 幕間 大和と窮奇

 

 

 

 

 あの子が自分の事を知りたいと言いだしたのはもう10年以上前になるか。

 そう、確か深海棲艦が初めて確認された頃だ。

 それまでは、悪夢にうなされて夜中に飛び起きる以外は普通の子だったのに、その頃から不思議な事を言い始めた。

 

 「どうして喋れるの?」

 「どうして手足があるの?」

 「どうして私は、陸にいるの?」と。

 

 その疑問の意味が、当時の私にはわからなかった。

 あの子自身、そんな事を口走ったのを憶えていないだろう。

 だがそれを皮切りに、あの子はこの世界の者が識るはずのない出来事を話すようになった。

 当時の私達にとっては歴史に打ち勝った栄光であり、今の私達にとっては償うことができない罪の物語を。

 

 それを聞くうちに、私はある事に思い至った。

 あの子は、()()と同じなのではないかと。

 

 それと同時に新たな疑問も生まれた。

 私達ですら、此処に来た時は新たな両親から生まれたというのに、あの子にはそれがいなかった。

 私が培ったコネクションを全て使って調べたが、あの子の両親は見つからなかった。

 ()()()()()には、私はあの子を育てていた。

 

 あの子は何者だ?

 此処に来るまで何処で何をしていた?

 あの子は本当に、()()と同じなのか?

 あの子は、何だったんだ?

 

 その疑問が解決したのは、古くからの友人があの船を動かす手伝いをしてくれと打診してきた時だ。

 

 孫夫婦の家から疎開して来ていたあの子が、電話越しに「あんな骨董品が動くわけないだろう」と言う私にこう言った。

 

 「私はまだ、生きています」と。

 

 

 ~戦後回想録~

 大和 (たける)元総理の手記より抜粋。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 解離性同一性障害ってご存知ですか?

 かつては多重人格障害とも呼ばれていた精神障害の一つで、俗に多重人格と呼ばれる症状の事です。

 なぜ私が冒頭からこんな事を説明しているかというと……。

 

 (大淀のお見舞いに行かないのか?)

 「行きません」

 (何故だ?何故行かないんだ?私は行きたいんだ。だから行こう。今行こう。!すぐ行こう!)

 「行かないって言ってるでしょ!」

 

 と、思わず叫びながら立ち上がってしまった私の状態がそれに近いからです。

 武蔵がいなくなってしまったから、今は一人で部屋を使ってるので人目に触れることはありませんが、端から見れば大きな独り言を言ってる危ない人です。

 もし私が、第三者としこの光景を見ていたら絶対に近寄りませんよ。

 

 (愛する妻が怪我で苦しんでるんだぞ?そういう時こそ、妻である私が介抱しないといけないだろう!)

 「いや妻って……。いつ結婚したんですか?それに両方妻じゃないですか。旦那さんは?」

 (お前は何を言ってるんだ?私も彼女も女なんだから、両方妻なのは当たり前だろう?)

 「当たり前じゃないですよ!普通は夫と妻で一セットです!」

 (いやいやいやいや。夫とは男の事だろう?なぜ男と結婚しなければならないんだ?男と結婚するなんて異常だろう)

 「それが正常なん……!」

 

 いや、待ってください?

 たしか、深海棲艦って女性しかいないんですよね?

 と言う事は、窮奇が育った深海棲艦の社会(社会を構築してるかどうかは謎ですが)では女性同士の結婚が普通だったのかもしれません。

 それに、子供を産むのは窮奇達が『母』と呼ぶ中枢のお仕事だったはず。

 子供を作るという概念がないのなら、女性同士で結婚するのも一応納得できます。

 

 (人間の結婚という制度は素晴らしい。愛し合っている者同士が一緒にいられるようにする決まりは私たちにはなかったからな)

 「あ、無かったんですか」

 

 つまり、窮奇は何処かしらから仕入れた結婚の知識を曲解しているのですね。だから、女性しかいない深海棲艦として育った経験も手伝って、女同士でも結婚出来ると思い込んでるんだわ。

 でも、愛し合っている者同士が結ばれるための制度と言えば聞こえは良いですし理想ですが、実際の結婚はそう良い話ばかりではありません。

 天涯孤独な者同士が結婚した場合は除外しますが、大抵の場合は結婚と同時に親戚付き合いというものが始まります。仲が良ければ問題はないのですが、仲が悪く近くに住んでいたら最悪ですね。

 他にも、見たいテレビ番組や食べたい食事のメニューー、趣味などを我慢しなければならない場面も出て来ます。

 完全に嗜好が同じならこの限りではありませんが、それは非常に稀なケースと言えるでしょう(異論は認めます)

 

 (で?どうするのだ?行くのか?行かないのか?)

 「だから行かないとハッキリ言ってるじゃないですか。行きたいなら一人で行ってください」

 (お前はバカか?それができないから、わざわざお前の意見を聞いてやってるんだろう)

 「体を乗っ取って行けばいいじゃないですか。私の意思で大淀のお見舞いには行きたくありません!」

 (それだと彼女と話せる時間が減ってしまうだろ?だから彼女の傍まで連れて行けと言ってるんだ)

 「私をタクシー代わりに使う気!?」

 (安心しろ。料金はちゃんと払ってやる)

 「私の財布からですよね!?貴女、一円も稼いでないじゃないですか!」

 (おいおい、私とお前は一心同体なんだぞ?つまり、お前の物は私の者。私の物も私の物だ)

 「ジ〇イアンか!って言うかそれ、全部貴女の物って事じゃないですか!私の物は!?」

 (無駄にデカい背丈くらいじゃないか?)

 

 なん……だと?

 確かに身長は自前ですが、これっぽっちも嬉しくないのは何故でしょうか。

 いやいや、窮奇の口車に丸め込まれるところでしたが違います!身長どころか、私の物は全て私の物です!

 貴女のような居候にあげる物など何一つありません!

 

 (ケチ臭い奴だ。いっその事、私に全部寄越せば良いのに)

 「お断りします。私はまだ、彼女に勝ってないのですから」

 (勝つ?お前が?彼女に?それは無理だ)

 「無理ではありません!確かに、艦娘としてはまだ勝てませんが、陸でなら互角以上に戦えるはずです!」

 (それでも無理だ)

 「何故です!」

 (お前、自分が何者かわかっていないだろう?)

 「それに何の関係が……!」

 

 窮奇が言う通り、私は自分が何者か()()()()()

 ですが、決して記憶喪失な訳ではありません。

 流石に赤ん坊の頃の記憶はありませんが、幼少期から今までの記憶はしっかりと有ります。

 なのに何故か、いつの頃か、私は自分が何者かわからなくなりました。

 いえ、少し違いますね。

 それまでの自分が仮初めのように感じたんです。

 まるで、他人の人生を演じているような……。

 

 (お前は何処から来た?)

 「知りません」

 (お前は何処で生まれた?)

 「知りません」

 (お前は誰から生まれた?)

 「知りません……」

 

 本当に知りません。

 私を育ててくださったお祖父さまが有力者だと言う事を知った時に、お祖父さまのお力で本当の両親を探してくれとお願いした事が何回もあります。

 でも、お祖父さまは「そんな事をする必要はない」「その内わかる」と繰り返すばかりで結局探してくれませんでした。

 

 「お祖父さまは……私が誰なのか知っている?」

 

 だから探してくれなかった?その内わかると言った?

 だったらお祖父さまに有って話を聞けば、私が何者かわかるかもしれません。

 

 (滑稽だなぁ大和)

 「滑稽?私の何が滑稽だと言うんですか!」

 (気に触ったか?ならば不様と言い換えてやろう)

 「自分が何者かわからないからですか?それの何処が、何が不様で滑稽だと言うんです!貴女は!」

 

 貴女にわかりますか?

 それまでの人生の記憶は有るのに、ふいに自分が誰かわからなくなった私の気持ちがわかりますか?

 覚えのない戦闘の夢で飛び起きてた幼かった頃の私の気持ちがわかるんですか!

 

 (艦生の始まりを進水日とするならば、()()()は1940年8月8日に生まれた)

 「急に何を……。私が大和になったのは今年の春ですよ?」

 (黙って聞け。私たちが建造され始めた頃は、すでに航空主兵論が提唱され始めていた頃でな。飛行将校などから、私たちの建造は批判されていた)

 

 窮奇は何の話をしている?

 建造?航空主兵論?飛行将校?建造は兎も角、他は初めて聞く単語です。

 でも、初めて聞くはずなのに知っている気がするのはどうして?

 

 (私たちの建造は極秘とされた。施設周囲の民家ではドックを一望できる向きの窓は塞がされ、多くの施設を新設、改造し、その際に呉工廠は建造ドックに覆い屋根が設けらた。そうそう、艤装中に鳳翔が目隠しの役割をしていたな)

 

 もっとも、私たちと彼女では大きさが違いすぎましたし、艦橋のない彼女ではどこまで隠せていたか疑問ですけどね。

 

 (その後、無事進水したはいいが、私たちが敵戦艦と戦うことは無かった。それどころか、海軍は私たちの損失率を恐れ、温存し、私たちは『大和ホテル』と揶揄される事となった)

 

 私たちにとって苦痛の時間。

 いえ、戦うために生まれた私たちにとっては拷問に等しい無駄な時間。

 そんな日々に堪え続けた結果待っていたのは……。

 

 「一億総特攻の先駆け……」

 (そうだ。私たちは勝機のない作戦に投入された。あれだけ損失を恐れて使わなかったくせに、どうにもならなくなった途端に捨て石にされた)

 

 私たちは戦えなかった。

 戦いたかったのに戦えなかった。国を護って戦いたかった。そこ住む人達を護るために戦いたかった。

 それなのに、私たちは沈められた。

 まともに活躍できず、目的地にたどり着く前に敵航空機部隊に沈められた。

 

 「どうして私は……」

 

 そんな事を知っている?

 これは以前のように窮奇の記憶が流れ込んでるのとは違います。()()()()()います。

 私が知っている戦艦大和は、大した活躍をしてないのは同じですが沈んではいない。

 4年前のハワイ島攻略戦に参加していまし、今も呉に記念艦として現存しています。

 それなのに、私は沈んだ大和も知っている。

 ()()()、何処に爆弾が当たって何処が爆発し、どう傾いて沈んでいったかも知っています。

 

 「私は……誰?」

 

 いえ、私は何?

 生まれてから学んできた歴史とは全く違う歴史を知り、()()()でなければわからないようなその時の感情までも在り在りと思い出せる私は何モノ?

 そんな私の疑問に窮奇は答えてくれました。

 まるで初めから知っていたかのように、それが当然だとでも言うように。

 

 (お前は大和だよ。今も、()もな)と。

 




 


次章予告。

 大淀です。

 作戦が成功し、立ち寄った呉で思い思いの時間を過ごす艦娘達。
 そんな中、大和さんと朝潮は記念艦の大和を見学しますが、大和さんは記念艦大和の中に入った途端におかしくなっちゃいます。まあ、いつもの事ではあるのですが……。

 次章、艦隊これくしょん『過去と別れの追想曲 (リコルダンツァ)

 お楽しみに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。