艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 まだ今月中なのセーフ。
 と、言う事で九章開始します!


第九章 過去と別れの追想曲 《リコルダンツァ》
第七十九話 姉妹としてのお願いよ


 

 

 

 朝潮型駆逐艦。

 

 正化21年に一番艦 朝潮をネームシップとして同型艦が10隻建造され、戦時中に運用されていた駆逐艦の中では比較的後期型にあたる。

 

 そのため総合的な性能が高めで、陽炎型以降の艦型が建造されるまでの僅かな間ではあるが、最新鋭の駆逐艦として開戦初期の戦場を支えた。

 

 横須賀鎮守府に最も多く(1番艦から8番艦)配属され、初代横須賀鎮守府提督、並びに二代目横須賀鎮守府提督が最も重用した艦型としても知られている。

 真偽は定かではないが、正化29年から30年時の第八駆逐隊の面々は当時最強と謳われ、一人一人が単艦で鬼級、姫級と渡り合えるほどの実力者揃いだったと伝えられている。

 

 余談ではあるが、その事が切っ掛けで一時期『朝潮型はガチ』などと言われていた。

 

 

 ~艦娘型録~

 艦型紹介。朝潮型駆逐艦の項より抜粋。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 「「どうしてこうなった」」

 

 と、ハモらせるつもりはなかったのに、隣を歩いている霞さんと声がハモってしまった。

 

 「あのクズ、私と満潮を一緒にして何させようってのかしら。迷惑ってレベルじゃないったら」

 「それはこっちのセリフよ。アンタと一緒に居たら、オムツ交換の仕方をレクチャーされそうだわ」

 

 私と霞さんが連れ立って呉の街中を歩いているのには理由がある。それは円満さんと呉提督が共謀して私達にお使いを命じたからよ。

 そのお使いとは呉の地酒の購入。

 元帥さんへのお土産として買って帰りたいと言う円満さんに呉提督が「なら霞を案内につけよう」と言いだして、だったらと円満さんが「じゃあ満潮と一緒に行かせましょう」とか言いだしたの。

 どうしてそこで私の名前が出るかなぁ……。

 

 「だいたいさ、私達ってお酒売って貰えるの?アンタは兎も角、私は見た目も実年齢も10代なのよ」

 「私も10代なんだけど?」

 「あらごめんなさい。子供のあやし方が上手だからてっきり30過ぎかと思ってたわ」

 

 見た目は贔屓目に見てJCだけどね。

 っと、少し嫌味が過ぎたかしら、今にも飛び掛かって来そうなほど私を睨んでるわ。

 

 「購入に関しては心配しなくていいわ。うちのクズ司令官がお店に連絡してるそうだから」

 「だったら、ついでに届けてってお願いすれば良いのに」

 「どうせ、私とアンタ仲良くさせようって魂胆なんでしょうよ。円満の考えそうな事だわ」

 

 やりそう。

 円満さんは自分の事は棚に上げて、私にはやたらと他の子と仲良くさせたがる。特に同型艦とは。

 今回のお使いも、元帥さんへのお土産はついでで私と犬猿の仲である霞さんの仲を少しでも良くさせるのが本来の目的でしょう。

 

 「円満さんのお節介焼きめ」

 「まあ一応命令だし、今日のところは我慢しときなさいな。明日には横須賀に帰るんでしょ?」

 「ええ、長い間留守にしちゃったし、仕事も貯まってるでしょうから……」

 

 その事を考えると気が重くなる。

 一応、提督補佐の一人が雑務を処理してくれてるはずなんだけど、これがまた頼りない人なのよねぇ……。

 その人の秘書艦も明日、私達と一緒に帰ることにはなってるから、仕事を貯め込んでたら叱ってくれるよう頼んでおかなくちゃ。

 

 「はぁ、戦場でドンパチやってた方が気楽だわ……」

 「それには同意。書類仕事とか面倒でしかないもの」

 

 意外だ。

 まさか、霞さんが私に同意してくれるとは思ってもみなかった。むしろ説教されると思ってたくらいよ。

 

 「アンタって、艦娘になって何年?」

 「3年とちょっとよ。それが何?」

 「なら気をつけなさい。ドンパチやってる方が気楽だなんて普通じゃないんだから」

 「いや、アンタだってさっき……」

 「私は自分がおかしいって自覚がある。でも、アンタにはそれがないでしょ?」

 「そんな事は……」

 

 ある……かな。

 霞さんに言われるまで考えもしなかったけど、戦場で戦ってる方が気楽だなんて、よく考えなくても普通じゃない。

 

 「面倒だし億劫なのは私も同じ。でも、書類仕事に追われるのは平和な証拠よ。今は良くても、戦ってる方が楽だなんて考え方は戦争が終わってから苦労するわ」

 「そう……かな」

 「そうよ。一般人で例えるなら……そうね。仕事してるより喧嘩してる方が気楽って感じかしら。そんなの、普通だと思う?」

 

 思えない。

 そんな事を内に秘めてる危険人物は何処かに隔離すべきだわ。

 だから霞さんは、自覚がないまま終戦を迎えると私もそうなるって忠告してくれてるのね。

 赤ちゃんプレイにハマってる変態だとばかり思ってたのに意外とまともじゃないこの人。

 

 「頭の隅にでも良いから留めて置きなさい。これは艦娘の先輩としての忠告」

 「わかった。そうする」

 

 私がそう言うと、霞さんは「素直でよろしい」と言って少しだけ微笑んだ。

 なぁんか言いくるめられたようで悔しいけど、忠告自体は真摯に受け止めるわ。

 でも、このまま言いくるめられっぱなしってのはなぁ……。

 

 「そう言えば、アンタって円満さんたちを姉さんって呼ばないのね。艦娘的にはアンタの方が先輩なの?」

 「そんな事ないわ。艦娘としては円満たちの方が少し先輩よ。でも……姉さんって呼ぶ気になれなくってさ」

 「所属が違うから?」

 「それも無くはないけど……。つまんない嫉妬から。かな」

 「嫉妬?」

 「そう、嫉妬。円満たちは姉さんと一緒に居られたから……」

 

 霞さんが口にした姉さんとは、恐らくお姉ちゃんの前に朝潮だった人。

 横須賀事件の時、その身を犠牲にしてまで鎮守府を、いえ元帥さんを守り、お姉ちゃんと窮奇の因縁の元となった人。初代朝潮でしょうね。

 霞さんがどうして初代朝潮を姉さんと呼ぶのかは知らないけど、きっとそう呼びたくなる何かがその人にはあったんでしょう。

 

 「あ、一応言っとくけど、私が姉さんって呼ぶのは霰姉さんもだから」

 「そうなの?でも、私と初めて会った時は呼び捨てじゃなかった?」

 「人目がある所じゃ出来るだけそう呼ばないようにしてるのよ。だってその…恥ずかしい……じゃない?」

 「そう?私は平気だけど……」

 

 と、言ったけど私も最初は恥ずかしかった。

 だって血の繋がった本当の姉妹って訳じゃないんだもの。言ってしまえば赤の他人よ。

 そんな人達を姉さんと呼ぶことに最初の内は抵抗があったし、霞さんが言うように恥ずかしいと感じていた時期があったわ。

 だから、霞さんの気持ちはわからなくはない。わからなくはないけど、さっき言いくるめられたお返しに同意してあげない。

 

 「でも意外ね。人前じゃ呼ばないって言っても、人前じゃなければ霰さんを姉さんって呼ぶんだ。強要されたの?」

 「べ、別にそういう訳じゃないわ。ただ……満潮は、霰姉さんの事をどう思う?」

 「何よ藪から棒に」

 「良いから答えて」

 

 う~ん。

 答えてと言われても、私は霰さんの事をよく知らない。着任してすぐくらいに、円満さんから「大潮並みに強くて荒潮以上に捉えどころがなく、山雲以上に何考えてるかわかんない子よ」って教えられた覚えがあるわ。逆に言うとそれ以上の事は何も知らない。

 だから、ここは無難に……。

 

 「何考えてるかわかんない人」

 「まあそれくらいでしょうね。じゃあ、澪と互角に戦えるくらい強かったって事は?」

 「円満さんからはそう聞いた覚えがあるわ。でも本当なの?本気の澪姉さんって、今の私が本気出しても勝てるかどうかわからないくらい強いのよ?」

 

 あまり知られていないし、ネームドになるほど派手な活躍はしていなかったものの、大潮だった頃の澪姉さんは横須賀鎮守府で一、二を争うほど強かったらしい。

 実際、脚技のほとんどを習得した頃の私じゃ澪姉さんに敵わなかったし、姫堕ちまで使えるようになった今でも勝てるという絶対の自信はない。

 その理由は澪姉さんの特殊技能『反射神経依存闘法(マリオネット)』と、初代朝潮が体験した全戦闘状況とその対処法を記した『広辞苑』にある。

 

 前者は『艦体指揮』の下位互換的な澪姉さん独自の身体能力で、相手を視認し続けなれけばならないと言うデメリットはあるものの、相手の行動に応じて体が()()()、しかも的確に反応するってモノよ。

 これが非常に厄介で、体が脳からの命令を待たずに動くもんだから、場合によっては人間の反応速度を超える場合もあるの。

 

 そして後者は、丸暗記しなきゃならないけど『広辞苑』に記されている状況なら未来予知に近い精度で先読みが出来るって代物よ。

 つまり澪姉さんは、超人レベルの反応速度と予知レベルの先読みを併用出来るってわけ。しかも脚技まで使えるっておまけ付き。

 そんな澪姉さんと互角に戦えるなんて、にわかには信じられないわね。

 

 「私が霰姉さんを姉さんと呼ぶ理由は簡単よ。それは怖いから」

 「怖いの?何考えてるかわからない以外は無害そうじゃない」

 「何考えてるかわからないから怖いのよ。実際私も、着任したての頃はこれでもかってくらい突っかかったわ。でもある日、本当に突然、脈絡もなく私はボコボコにされた。やめてって言ってもやめてくれなかった。私の意識が飛んでも、霰姉さんは私を殴り続けてたらしいわ」

 「い、いやいや、あの霰さんがアンタを?」

 

 信じろって方が無理。

 だって人畜無害って言葉がピッタリで、見た目なんか小動物みたいに可愛らしい霰さんが霞さんをボコボコにする場面なんて想像できないもん。そういう夢を見たんじゃないの?

 

 「たぶん理由は、私が霰姉さんの帽子を馬鹿にしたから」

 「帽子って、あの煙突帽子?」

 「そうよ。霰姉さんはあの帽子を凄く大切にしてるの。執着してるって言っても良いほどにね」

 

 顔を青くして小刻みに震える霞さんを見る限り、霰さんにボコられたって話は本当みたい。

 もうちょっと突っ込んで聞いてみたい気はするけど、これ以上は霞さんのトラウマを刺激するだけだからやめといた方が良いわね。

 

 「と、ところで……さ。大淀の具合はどう?」

 「お姉ちゃん?もうピンピンしてるわよ?今朝なんか、重巡の人と仲良さそうに喋ってたし」

 

 霞さんも同じ事を思ったのか、自分から話題を変えてきた。

 霞さんみたいにトラウマを抱えたくないから、霰さんの帽子は絶対に馬鹿にしないようにしよう。

 

 「そ、そう。なら良い……って重巡?アイツに重巡の友達なんていないはずよ?」

 「でも、お互いの腕と腕をこうガシッと組んで「久しぶりね。また会えて嬉しいわ」とか「私もです。貴女ほど気が合う重巡は他にいませんから」なんて言ってたわよ?」

 「そ、その重巡って、もしかして妙高型?」

 「うん。たしか妙高型だった」

 

 霞さんの顔が再び青ざめだしたのが気にはなるけど、この様子だとお姉ちゃんと話してた重巡が誰なのか知ってそうね。

 

 「たぶんアイツだ……。アイツと大淀が組むなんて悪夢でしかないわ」

 「アイツ?悪夢?」

 「ええ、悪夢よ。このままじゃ私が危険だわ」

 

 何が危険なんだろう?

 たしかにお姉ちゃんは怒らせると危険よ。だってバカみたいに強いもの。

 そのお姉ちゃんと件の重巡が組むと霞さんが危険?どうして?

 

 「その重巡は恐らく足柄。大淀と気が合う妙高型の重巡なんてソイツしかいないもの」

 「どうしてそう思うの?」

 「……アンタになら話しても良いかもしれないわね。もしかしたら、アンタも同じ目に遭うかもしれないし」

 

 ちょっと待て。

 私も同じ目に遭うかもってどういう事?って言うかどんな目に遭うの?霞さんが唇まで青ざめさせるくらいだから相当酷い目に遭うのよね!?

 

 「去年の初め頃だったかしら。大淀がまだ一人艦隊と呼ばれるようになる前に、私を旗艦として一緒に出撃した事があるの」

 「お姉ちゃんと一緒に?アンタが?」

 「そう、私が。詳細は省くけど、当時新たに確認された小規模な敵棲地に対して奇襲をかけた事があるのよ。その時に……」

 

 霞さんの話では、その時に一緒になったのが妙高型重巡三番艦の足柄さん。

 彼女は長い間リンガ泊地で戦線を支えていた歴戦の重巡で、その激しい戦いぶりから『餓えた狼』と呼ばれるネームド艦娘の一人よ。

 その足柄さんとお姉ちゃん、さらに朝霜、清霜を加えた艦隊で出来て間もない棲地を強襲し、見事壊滅させたらしいわ。

 その作戦が礼号作戦と銘打たれていたこともあって、その時の面子をまとめて礼号組と呼んだりする事もあるんだとか。

 

 「その時に嫌なことでもあったの?例えばその……」

 「誰か死んだのか?」

 「うん……」

 「心配しなくても誰も死ななかったわ。清霜が途中で落伍したけどちゃんと救助したもの。ただ……」

 

 その救助には霞さん一人で向かうつもりだったらしい。でもお姉ちゃんと足柄さん、そして朝霜は、先に帰れと言う霞さんの命令を「なんだか無線の調子が悪いですね。足柄さんはどうです?」「な~んにも聞こえない。朝霜は?」「あたいの無線も壊れちまったみたいだ。大淀さんと足柄さんの声しか聞こえないよ」なんて三文芝居をして無視して清霜を救助中、さらに曳航中の霞さんを護衛したそうよ。

 たぶんその時、霞さんは嬉しそうに「あーもう!バカばっかり!」とでも言ってたんじゃないかな。

 

 「それからしばらく、正確には礼号組が解散になるまでの一ヶ月余りの間、アイツらは事あるごとに私を祭り上げた」

 「は?祭り上げた?」

 

 ちょっと何言ってるかわかんない。

 そもそも祭り上げられるってのがわかんないわ。霞さんの様子を見るに想像を絶する精神的苦痛を与えられるんでしょうけど、具体的に何をされるの?

 

 「まず縛られるわ。その後、大淀と足柄が担ぐお神輿のに乗せられる。そして、朝霜と清霜が叩くドンドコドンドコという太鼓のリズムにノって練り歩きながらこう叫ぶの『霞ちゃんを讃えよ!』って」

 「うわぁ……」

 

 としか言えない。

 だってその様子を想像しただけで、その時の霞さんがどんな気持ちだったかわかるんだもの。

 きっと最初は戸惑いと嬉しさが半々くらいで、四人のノリが狂気を帯び始めた頃に「あ、このままじゃマズい」と本気で止めなかった事を後悔し、四人のノリが最高潮を迎える頃には、お神輿の上で縛られた霞さんはさながら死刑場へ運ばれる死刑囚さながらに死んだ魚のような目をして項垂れてたんじゃないかしら。

 私だったら自殺もんね。

 

 「し、心中お察しするわ……」

 「何を他人事みたいに言ってんのよ。アンタだって、下手したら同じ目に遭うかもしれないのよ?」

 「なんでそうなるのよ。私は礼号組とは何の関係もないじゃない」

 「()()()とはね。でもアンタ、大淀のお気に入りでしょう?」

 「それがどうしたって言うのよ。お姉ちゃんのお気に入りだと祭り上げられるの?」

 「可能性は高い。それに加えて他の可能性もある」

 「他の可能性?」

 「そう、例えば西村艦隊」

 

 その名が出たことで、霞さんが言う『他の可能性』の意味がわかった。いや、わかったと言うよりは思いだしたと言う方が正しいわね。

 艦娘は艦種に限らず、例えば礼号組のように特殊な作戦に参加した者同士には特別な絆が生まれるらしく、ほぼ姉妹艦で固められる駆逐隊に劣らないほど仲が良い事が多い。

 それこそ、旗艦を務めた子を祭り上げる程にね。

 私がこの艦娘特有の習性を忘れてたのは、西村艦隊に編成されるまで他の子と艦隊を組んだことがなかったからよ(四駆と八駆は除く)

 

 「わ、私は平気よ。だって旗艦じゃなかったし」

 「甘い!甘いわ満潮!どれ位甘いかと言うと、その頭に付けてるフレンチクルーラーくらい甘い!」

 「いや、これ髪の毛だから」

 

 あれ?もしかして霞さん、恐怖のあまり頭がバグった?

 今だって、目尻に涙を浮かべて地団駄を踏みながら「アイツらには旗艦がどうとか関係ないのよ!」と、人目も顧みず叫んでるわ。

 

 「良い?アイツらみたいな手合いが祭り上げる子には特徴があるの」

 「特徴?朝潮型とか?」

 「違う!私やアンタみたいに普段ツンケンしてて、人が楽しそうに喋ったり遊んだりしてる光景を冷めた目で見ながらも声をかけてもらいたいな~とか思ってるタイプよ!」

 「待て。私はそんなタイプじゃない」

 

 要はツンデレって事でしょ?

 霞さんがそういうタイプだってのは、今カミングアウトしてくれたから嫌という程わかったわ。

 でも私は違う。

 他人が楽しそうにお喋りしてようが遊んでようが興味はない。そもそも、私にデレはない!

 

 「その顔、イマイチ理解できてないようね」

 「理解も何も、私はアンタとは違うもの」

 「ふ……。でもアンタ、私がされたことを聞いて『うわぁ……』って言ったわよね?自分がやられたら自殺もの。とも思ったんじゃない?」

 「そ、それがなんだって……」

 「()()こそが!アイツらがターゲットにする子に求めるリアクションなのよ!最初の内こそ必死に止めようとしてた生贄が次第に絶望していく様を楽しむ!これこそが!あの悪ノリした悪魔たちが求めるリアクションなのよ!」

 「んな大袈裟な……」

 「大袈裟じゃないったら!アンタだってやられればわかる!お神輿の上で縛られて、ドンドコドンドコというリズムに乗せて『満潮ちゃんを讃えよ!』とか叫ばれたら必ずわかるわ!」

 

 ダメだ。やっぱりバグってる。

 霞さんは「きっと今も、どこかに隠れて私の隙を狙ってるわ」とか言いながら身を縮め震え始めてるもの。

 

 「はぁ……。いくらお姉ちゃんが常識知らずでも、街中じゃそんな事してこないわよ」

 「で、でもアイツらなら……」

 「はいはいそうね。ならさっさと用事を済ませて執務室にでも引き籠もりなさいな」

 「う、うん……」

 

 調子が狂うなぁ……。

 今の霞さんを例えるなら捨て猫かしら。

 いつ襲ってくるかもわからない脅威に怯えて震え、周囲を不必要なまでに警戒してキョロキョロしてるわ。

 

 「ほら、さっさと行くわよ。それと……」

 「それと?」

 

 うぐっ……。

 「それと?」と、言いながら涙を浮かべて上目遣いに私を見上げる霞さんに保護欲を掻き立てられてしまった。

 普段、会う度に嫌味を言ってくる小姑みたいな霞さんとのギャップが激しすぎてヤバいわ。

 でもまあ、年齢的には霞さんの方が上だけど朝潮型的には私の方が姉なんだから引っ張ってあげないとダメよね。

 そう、あくまで姉として、情けなく震えている姉妹艦の手を引いてあげるの。

 けっして、今の霞さんが可愛いからじゃないわ。

 

 「お姉ちゃんには、私からも一言言っといてあげる」

 「あ、(ありがと)……」

 

 やっべぇぇぇぇ!

 何これ何これ!

 右手を軽く握って口元に添えて、頬を染めて目を逸らしながら消え入りそうな声で「あ、ありがと……」って言う霞さんの破壊力がハンパない!

 これなら、お姉ちゃんたち礼号組が霞さんを讃えたくなる気持ちもわかるわ。

 もし私が、元帥さんや長門さんみたいな幼女趣味の変態なら間違いなくハイエースしてたわね。

 

 「妹がいたらこんな感じなのかなぁ……」

 「妹じゃなくて姉でしょ。私、アンタより年上よ?」

 「でも、朝潮型的には私の方が姉でしょ?」

 

 今も怯えている霞さんの手を引く私の姿的にもね。

 例えるなら迷子になって泣き出した妹の手を引くお姉ちゃんかしら。事情を知らない第三者目線で見れば間違いなくそう見えるはずよ。

 

 「……アンタが私を姉妹艦だと思ってくれるなら、他の姉妹艦とも仲良くしてあげて」

 「なんでそういう話になるのよ。別に他の子とだって……」

 「姉さん達とこの子達は違う。とか思ってるんじゃない?」

 

 お見通しか。

 たしかにそうよ。私はあの子達と姉さん達は違うと思ってる。実際別人だしね。

 だから距離を置いて、出来るだけ関わらないようにしてる。あの子達に、姉さん達と同じ事を求めてしまいそうになるから。

 

 「姉妹艦との絆は艦娘にとって宝。艦娘を辞めてからも続いていく、掛け替えのない繋がりよ」

 「だから仲良くしとけって言うんでしょ?そういうのは耳にタコができるくらい円満さんに言われてるわ」

 「それでも私は言うわ。私の事は嫌ってても構わないから、せめて横須賀で一緒にいる姉妹艦とくらいは仲良くしときなさい。それがきっと、将来アンタの宝になるはずだから」

 「それも先輩としての忠告?悪いけど大きなお世話よ」

 

 私が鬱陶しげにそう言うと、霞さんは繋いだ手をグイッと引いて私を振り向かせてこう言ったわ。

 高圧的にではなく、聞き分けのない妹を諭すような優しい口調で、「姉妹としてのお願いよ」と。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 霞さんと仲良くなったのはそれからだったかなぁ。

 お使いを済ませて鎮守府に戻って、執務室で待ってた円満さんにお土産を渡す頃には霞さんも正気に戻ってたかな。

 

 いや?正気じゃなかったのかな?「さっきまでの事は忘れて!」とか「言いふらしたら許さないんだから!」とか言われるんだろうなぁって考えてたんだけど、意外なことに霞さんは「ア、アンタの連絡先教えて」って言ってきたもの。

 

 お姉ちゃん?

 あ~、お姉ちゃんね。

 青木さんなら知ってるんじゃない?

 お姉ちゃんが礼号組と西村艦隊を扇動して私と霞さんを祭り上げる準備をしてたのを。

 

 いやぁ……。

 円満さんと呉提督が事前に阻止してくれてなかったらヤバかったわね。

 もしかしたら、私も霞さんみたいにトラウマを負うことになってたかもしれないんだから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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