艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第八十話 だらしねぇ……

 

 

 

  

 南方からの帰路の途中で、提督に呼び出されて呉に転属だと言われたときは「あ、左遷されるんだ……」って内心落ち込んだわね。

 

 言っとくけど、呉が横須賀に劣ると思ってそう言った訳じゃないわよ?

 当時の私は、初戦闘で不様な姿を晒したのもあって自分を弱いと思い込んでたから、私って無能なんじゃない?って暇さえあれば考えてたくらい自分に自信がなかったの。

 

 あの時だってそう。

 私自身はミスした覚えはなかったけど、異動させられるくらい手酷いミスをしてたんだ。って頭が勝手に考えちゃって、条件反射で「申し訳ありませんでした。!」って言いながら土下座しちゃった。

 

 提督の反応?

 ビックリしてた、のかな?

 いやほら、床に額を擦り付けてたから提督の顔が見えなくてさ、「なんで土下座!?」とか「頭を上げなさい!何か悪い事したの!?」って声で判断するしかなかったから。

 

 それから?

 それからって言われても、ワダツミが呉に入港した時から48時間の休暇を与えられて、終わると同時に呉所属になったわ。

 

 すぐに馴染めたか?

 う~ん……。

 馴染むのは割と早かったと思う。

 でも、呉の艦娘と仲良くしなきゃ、とか考える余裕はなかったわ。

 

 その理由、いえ原因は、同室になった私の姉妹艦。

 阿賀野型一番艦の阿賀野よ。 

 

 あの人のせいで、私の鎮守府生活は横須賀に居た時以上に大変になったわ……。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡 矢矧へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 「じゃあ、私の荷物の件、よろしくお願いするわね」

 「はい、お任せ下さい。ちゃんと送りますから」

 

 ワダツミが呉に入港し、48時間の休暇を与えられた私は、呉に転属後に一緒の部屋に住む予定になっている人が迎えに来てくれるのを、横須賀鎮守府に残したままの荷物を呉に送ってくれるよう宛がわれた部屋でくつろいでいた神風にお願いしながら待っていた。

 お願いしたは良いけれど、服は兎も角下着まで箱詰めして貰って送ってもらうのは少し気恥ずかしいわね。

 

 「一度横須賀に戻ってから転属にしてあげたら良いのに……。何か急がなきゃならない理由でもあるんですか?」

 「詳しくは聞かされてないんだけど……」

 

 私の転属が急がれたのは、先の作戦で第二水雷戦隊の旗艦を担っていた神通さんが戦死したのが理由らしい。

 提督から聞いた限りでしか知らないけど、彼女は遭遇した敵艦隊を探照灯で照らして注意を一手に引き受け、自身も砲撃をしながら旗下の駆逐艦たちに指示を飛ばし続けたそうよ。

 本当かどうかはわからないけど、敵が全滅した後も探照灯を持った右手だけ海面から覗かせて海上を照らし続けてて、旗下の駆逐艦たちはその手が海面下に沈むまで敬礼し続けたらしいわ。

 

 「軽巡の鑑のような散り様ですね」

 「ええ、私とは大違い……」

 

 私は真逆のことをした。

 本来先頭に立って敵を引きつける役目を負うはずの私は距離を取り、駆逐艦に探照灯を持たせて指示を出しただけ。

 ハッキリ言って軽巡失格だわ。

 そんな私を、代理とは言え第二水雷戦隊の旗艦にしようなんて悪手でしかない。

 私なんかに、『鬼の神通』と呼ばれ、恐れられ、敬われた人に率いられていた駆逐艦たちが従ってくれるとはとても思えないもの。

 

 「そんな事はありません。たしかに粗はありましたけど、アレはアレで有りだと思いますよ?」

 「二水戦の子達が神風たちみたいだったら……ね」

 

 起爆棲姫討伐戦で私がとった戦法は、艦隊員全員に探照灯を持たせ、敵の位置を把握しつつもこちらの位置は悟らせないようにと考えたもの。

 でもこの戦法、脚技を習得しているのが前提で立てたものなの。

 例えば、数秒とは言え探照灯を照射すれば、照射した子は敵からタゲられて攻撃を受けるでしょ?

 その攻撃を咄嗟に回避できるだけの練度と技術がある神風型の子達が旗下だったからこそ、他の軽巡からバカにされかねない戦法を実践する事ができたの。

 

 「二水戦に所属している駆逐艦は全員優秀だと聞いてますし、私たちよりスペックが上の陽炎型ばかりです。ネームドも多く所属してると聞いた事がありますから、技術的な問題はないはずですよ?」

 「でも、脚技は使えないでしょ?」

 「それはそうですが……。前に言いましたよね。脚技なんて、使わなくて済むなら使うべきじゃないって」

 「言われたっけ?」

 「言いましたよ。ほら、矢矧さんと初めて会った日に」

 

 そう言われてみるとそんな気がしてきた。

 たぶん早朝だったのと、私の決めポーズをバカみたいに熱心に議論する神風たちに呆れる方が忙しくて記憶に残らなかったんでしょうね。

 

 「陽炎型は夕雲型と並んで最新鋭と言える艦型です。脚技なんて邪道、使う必要もないでしょう」

 「随分と脚技を蔑むのね。尊敬する先輩が編み出した技術なんじゃないの?」

 「その先輩自身が邪道と蔑んでるんです。矢矧さんだって、習得してみて邪道と呼ばれる意味が少しはわかったんじゃないですか?」

 

 わからなくはない。が、率直な感想かしら。

 習得して初めて実感したけど、脚技は聞いていた以上に肉体への負担が大きかった。

 神風たちは軽巡に比べて艤装が軽い駆逐艦だからなのか負担は少なくて済んでるようだけど、軽巡である私の肉体的負担は想像以上だったわ。

 まず、トビウオを使った瞬間に太腿が弾けるんじゃないかっていう激痛に襲われ、私の最大使用可能回数である五回を迎えると腰を取り越して背骨全体に焼けるような痛みが走る。

 私に脚技を扱えるだけの肉体的才能がないのも原因の一つなんでしょうけど、そう考えるとたしかに神風が言う通り脚技は邪道。

 痛みと引き換えに強さを得る諸刃の剣だわ。

 

 「二水戦に所属してるネームド駆逐艦は、脚技なしで神風たちと同レベルの戦闘能力を持ってるのかしら」

 「さあ?実際に見たことがないのでそれはわかりません。でも、普段は横須賀にいる私たちの耳にも『呉の死神』と『聖剣』の名は届いています」

 「『呉の死神』の方は私も聞いた事があるわ。でも『聖剣』の方は……」

 

 詳しくは知らない。

 二水戦所属の陽炎型で、『呉の死神』こと雪風に並ぶ、もしくは上回る程の実力者って聞いてるだけで、その子がどんな戦い方をするのかは全くと言って良いほど知らないわ。

 

 「噂ですが、その彼女は深海棲艦を真っ二つにした事があるそうです」

 「真っ二つ?どうやって?神風みたいに刀を使うの?」

 「私も最初はそう思いました。でも違うそうです」

 「じゃあどうやって……」

 

 深海棲艦を真っ二つに?

 刀を使って重巡棲姫を倒した神風を見た後でも信じる事が出来ない。と言うより、深海棲艦を真っ二つにする手段が思い浮かばないし必要だと思えない。

 どっかの英雄みたいに剣からビームでも出して斬るのかしら。

 

 「エクスカリバー」

 「は?」

 「いや、ですからエクスカリバーです」

 

 ちょっと何言ってるかわかんない。

 エクスカリバーってアレよね?アーサー王伝説に出てくる聖剣の名前よね?さっき私が想像したビームを撃てる剣よね?

 それが深海棲艦を真っ二つにした手段だって言うの?じゃあやっぱり、その子は剣を使ってるって事じゃない?

 

 「その技がどういうモノかはわかりませんが、その子が初めてそれを使った時にそう叫んだそうです。なんでも、不自然なほど違和感がなかったらしいです」

 

 それは技に?それとも掛け声?

 なんか神風が、鞘に納めたままの日本刀を両手で頭上に掲げて「こんな感じかな?」とか言いながら振り下ろしたり上げたりを繰り返してるわね。

 でも、間違っても鞘を飛ばさないでよ?

 その角度で飛んで来たら、射線上にいる私にジャストミートするから。

 

 「うん、たぶんこんな感じです。エクス!カリバーーーー!みたい‥‥な?」

 

 なるほど。良くわかったわ。

 つまりアレでしょ?英雄を召喚して戦わせる的なゲームなりアニメなりの登場人物が必殺技を放つときの声と似てるって事でしょ?

 たぶんだけど、神風がやっても違和感がないと思うわ。だって私は違和感なんて感じなかったもの。堂に入ってたもの。どデカいビームに貫かれたような錯覚すら憶えたもの。

 もっとも、私の頭の上スレスレを通り過ぎて後ろのドアを貫いたのはどデカいビームではなく……。

 

 「な?じゃないでしょ?もっと他に言うべき事があるんじゃない?」

 「え~っと‥…。ごめんなさい。飛んじゃった……」

 

 そう、私の頭上をスレスレで通り過ぎ、頭頂部の髪の毛を少し焦がしたのは神風が私に向けている()()()の日本刀を被っていた物。つまり鞘よ。

 頭上を通り過ぎてくれたからよかったものの、ほんの1cmズレてたら私に直撃してたわ。

 

 「そ、そう言えばお迎えの人遅いですね。阿賀野さん……でしたっけ?」

 「こら、話を逸らすな」

 「だ、だって飛んじゃったものは仕方ないじゃないですか!わざとじゃないんだから許してくださいよ!」

 「あ、開き直りやがった」

 

 この子、最近桜子さんに似てきてない?

 いや、外見は桜子さんを幼くしたような感じなんだけど性格がね?だって、以前は悪い事して開き直ったりしなかったもの。

 このままじゃこの子、傲岸不遜を地で行く桜子さんみたいになっちゃうかも。

 

 「ドアにも大穴空けちゃって……。もし人が居たら大変……」

 

 そこまで口に出したところで、私と神風は顔を見合わせた。

 悲鳴とかは聞こえなかったけど、もし鞘がドアを貫いたタイミングで人がいたんなら大変だわ。

 だって、少しとは言え私の髪の毛を焦がす程の速度で飛んで行ったんだもの。

 それに飛んで行った角度的には駆逐艦なら顔面付近、それ以上の艦種なら腹部から胸部付近に着弾する角度だわ。もし顔面に直撃してたら怪我じゃ済まない可能性が大ね。

 

 「誰も居ないことを祈って……」

 

 私はドアをゆっくりと開けた。

 結果から言うと部屋の外に人はいた。いたけど直撃はしてなかったわ。

 神風が撃ち出した鞘は、ドアを貫通してその人が被っていたと思われる帽子を壁に縫い付けていたものの、その子自体には擦りもしていなかった。と、思う。

 だってその子、朝潮型改二の制服を着た日本人形みたいな子は何食わぬ顔をして縫い付けられた帽子を見上げてたんだもの。

 って言うか、ドアを貫通してなお壁に突き刺さるってどんだけ?

 

 「んちゃ」

 「ん、んちゃ?」

 

 帽子を見上げてた駆逐艦は出て来た私たちに気づいて振り向くなりそう言った。

 そう言ったはいいけど、何今の?もしかして挨拶?それとも鳴き声?

 

 「阿賀野さんに頼まれて迎えに来た霰です。んちゃ、とかは言いません」

 「「いや、言ったじゃん」」

 

 と、私と神風にツッコまれると霰ちゃんは首を傾げた。

 もしかして自覚無しに言ったの?

 やっぱり挨拶じゃなくて単なる鳴き声だった?

 

 「これやったの、どっち?」

 「これ?これって……。ああ、これか。これはこっちの……」

 

 眠そうな瞳で、壁に縫い付けられた帽子から私に視線を移した霰ちゃん問われて右隣にいた神風の方を向くと、そこには霰ちゃんが無表情で立っていた。

 何を言ってるのかわかんないわよね。だって私も何言ってるかわかんないもの。

 だって数瞬前まで私の目の前にいた霰ちゃんが、同じく数瞬前まで神風がいた場所に立ってたのよ?

 って言うか、神風は何処に行った?

 

 「痛いわねぇ……。いきなり何するのよ!」

 「霰の帽子に穴開けた……。絶対に許さない」

 

 どうやら霰ちゃんは、神風を目にも止まらぬ速度で部屋の奥まで殴り飛ばしたようね。神風の胸の前で腕を交差させた防御姿勢的に胸部を。

 それよりも、霰ちゃんって怒ってるのよね?

 怒ってる割に口調は淡々としてるし顔も無表情のままだけど。

 

 「二階、一番西側の部屋」

 「え?二階?西側?あ!私が住む予定の部屋?」

 

 と言う私の問いには答えず、霰ちゃんは神風に飛びからんばかりに身を屈めた。神風も応戦するつもりらしく、無手なのに居合いのようなファイティングポーズを取ったわ。

 まったく、駆逐艦って血の気が多いなぁ。

 どう考えても今から喧嘩じゃない。だから霰ちゃんは、案内が出来なくなったから場所だけ伝えたのね。

 要は勝手に行けって事だ。

 

 「二人とも程々にしなさいよ?特に神風。ここは横須賀じゃないんだからね?」

 「話し掛けないでください。この人を前にして矢矧さんの相手をする余裕はありません」

 

 さいですか。

 二人の目どころか意識からも外されたっぽいから退散するとしましょう。

 このままここにいたら巻き添えを食らいそうだし。

 

 「修理代、誰が払うんだろ」

 

 などと、現実逃避をしながら私はその場を離れた。

 だって後ろでは、美少女が出しているとは思えない雄叫びと部屋どころか建物自体が破壊されているとしか思えない破壊音が鳴り響いてるんだもの。

 現実逃避くらいしたってバチは当たらないでしょ?

 

 「さて、霰ちゃんが教えてくれた部屋はここだけど……」

 

 何故か入りたいと思えない。

 いや、入りたくない。

 別に異様な雰囲気が漂ってるとか、不気味な気配を感じるとかで入りたくないんじゃない。単純に臭いの!

 部屋の外で、しかも壁際に居るのにも関わらず、部屋から漏れ出ている異臭で鼻が曲がりそうだわ。

 

 「ど、どんな生活してたらこんな臭いが出せるのよ……」

 

 私と同部屋になる阿賀野型一番艦、阿賀野の噂は聞いている。

 その噂では、訓練もせずに惰眠をむさぼり、部屋から出るのはご飯の時だけ(トイレは共用なのに、もよおした時はどうしてるんだろ……)と言う自堕落な生活を繰り返す呉で一番、いや、全軽巡洋艦で一番のダメ女らしい。

 そんな人がどうして艦娘を続けていられるのかは疑問だけど、艦娘の先輩でありルームメイトでもあり、艦型的に姉でもある彼女には一度挨拶しておかないとね。

 

 「し、失礼しま~……」

 

 私は意を決してノックし、返事がないのに途惑いながらもドアをゆっくりと開けて部屋を覗き込んだ。

 

 

ーーーーーー

 

 覗き込んだ瞬間後悔したわ。

 だって、アレは人が住む空間じゃない。少なくとも、私にはそう思えたんだから。

 

 どんな部屋だったと思う?

 彼女の部屋の中は大量の、天井にまで達しそうな程のゴミ袋で埋め尽くされ、彼女はそのゴミ袋をベッド代わりにして寝ていたの。しかもほぼ裸!

 身に着けていたのはオムツだけだったわ。

 

 そう!オムツよ!

 あの人、トイレに行くのも面倒だからってオムツにぶちまけてたのよ!何を、とか聞かないでよ?そこは察してちょうだい。

 しかもオムツだけじゃ足りなかったのか、黄色い液体が入ったペットボトルも大量に転がってたわ。

 

 いやぁ……悲鳴を上げる余裕もなかったわね。

 これが私の姉?さらに、ここに私も住むの?って考えたら絶望しちゃってさ。

 部屋の臭いで嗅覚が麻痺するまで立ち尽くしてたわ。

 

 それから?

 え~と確か一頻り絶望した後、部屋の掃除はどこから手を付けようかなんて考えながら、ゴミの中で気持ち良さそうに眠る阿賀野姉に侮蔑も隠さずこう言ったわ。

 

 「だらしねぇ……」って。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

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