艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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※注意
こんなことを言うと殴られそうですが、今回は桜子さん回です。


第八十一話 その子の艦名は……

 

 

 

 ワダツミを入渠させるために呉に寄るから迎えを寄越してくれ、と円満に頼まれたのは八月の末だったかしら。

 

 奇兵隊員はドンパチがないもんだから暇してたし、輸送車とかもたまには動かさないとダメだから快く引き受けたわ。まあ最初、私は行くつもりなかったんだけどね。

 

 でも、お父さんから艦長宛の手紙を預かったから行かざるをえなくなってさ。

 仕方なく、本当に嫌だったけど、二式大艇に乗って他より一足先に帰るって言う円満たちを迎えに呉に向かったわ。

 

 なんで嫌だったか?

 その辺の理由は、私が書いた『緋色の風』って自伝に載ってるから読んでちょうだい。

 なんか、ブックオフに大量にあるらしいから。

 

 手紙の内容?

 それは知らないわ。本当よ?

 私も知りたかったけど、艦長は結局教えてくれなかったわ。まあ、終わった今なら想像はなんとなく出来るけどね。

 だって、お父さんが手紙を私に届けさせたって事は、誰にも漏らさず、かつ確実に報せなきゃならない情報。もしくは命令だもの。

 

 そんなの、私が知る限り()()しかないわ。

 たぶんお父さんは()()()()事を見越して、()()の準備を艦長に命じたんでしょうね。

 

 私はもちろん、円満にも内緒で。

 

 

 ~戦後回想録~

 奇兵隊総隊長 神藤桜子大佐へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 「呉……か。やっぱ、何度来ても気分は良くないわね」

 「ここはお嬢の古巣じゃなかったか?」

 「古巣と言えなくも……。いや、やっぱり言いたくない……かな」

 

 呉にはろくな思い出がない。

 当時の呉所属の艦娘共とのいざこざや、お父さんと離れていた間の孤独な日々。

 長門たちと出会えた事以外は本当にろくな想いをしなかったもの。

 

 「ところで?今回も死に損なった艦長への手紙には何て書いてあったの?」

 「秘密だ。大した事じゃねぇが、今はまだお嬢にも言えねぇよ」

 

 ほう?私にも言えない内容ってなんだろう。

 艦長の反応的に、たぶんお父さんに何か命じられたのよね?まさか……。

 

 「大和を動かす準備をしておけ。とか?」

 

 今現在も、私と艦長の目の前に浮いている記念艦大和の主砲が深海棲艦にも有効だった話はお父さんから聞いて知っている。

 そんな、人の身でも深海棲艦に対抗できる兵器を観光施設にしておくなんて勿体ないもの。特に、お父さんの目的を知った今では余計でもそう思える。

 

 「大ハズレだ。そんな物騒な命令は書いてねぇよ。残念ながら……な」

 「残念、か。たしかに残念よね。大戦期最大最強の戦艦の艦長なんて末代まで自慢できるし」

 「ワシにゃあ自慢する親族なんていねぇよ」

 「あれ?艦長って独身だっけ?」

 「お嬢は国防軍人の離婚率の高さを知らねぇのか?もう何十年も前に、女房は子供を連れて出てったわい」

 「ふぅん。そうだったんだ。会いたいとか思わなかったの?」

 「思わなかったわけじゃねぇさ。実際、この戦争が始まる前は陸に戻る度に手紙を出してた。開戦後、音信不通になっちまったがな」

 

 口調は淡々としてるけど寂しそう……。

 生き別れ。いえ、死別の可能性が高いけど、初代朝潮と先代大淀の例もあるし探せば意外と生きてるんじゃない?

 

 「お孫さんは?」

 「女が一人だ。生きてりゃ15か6くらいだな」

 

 艦娘だったら時期次第じゃ駆逐艦、もしくは軽巡洋艦くらいの歳ね。

 もし艦長のお孫さんが艦娘になる事を選択し、艦長がいずれかの艦との縁があるのなら、艦長の戸籍から艦種を断定し、候補生の中からでも探し出せそう。

 

 「ちなみに……」

 「お嬢が言いたい事はわかる。だが、頼むから探さないでくれ」

 「どうして?お孫さんの方は探してるかもしれないわよ?」

 「それでもだ。開戦時を生き延びた孫が艦娘になって()()()()なんざ、考えただけでも頭がおかしくなっちまう」

 

 艦長の顔が渋面に彩られた。

 本当に考えるだけで苦しいのね。それは艦娘を戦地に運ぶワダツミの艦長だから、かな。

 いや?なんか違和感を感じる。

 なんで艦長は()()()()と決めつけた?

 もしかしてこの人、艦娘になった孫とすでに再会してるんじゃない?

 だとしたら艦長は……。

 

 「とんだ贅沢者ね」

 「なんだと?ワシのドコが贅沢者だって言うんだ?」

 「気に触った?死別したと思ってた家族と偶然再会できたのに、家族だと打ち明けられずにグズグズと拗ねてるジジイを贅沢者と言って何が悪いのよ」

 

 艦長は私に孫と再会してることを看破されて驚き半分、贅沢者と馬鹿にされて怒り半分ってとこね。

 何か言い返したいけど言い返せずに黙り込んじゃったわ。

 

 「私の本当の両親は私の目の前で肉片にされたわ。もう二度と会えない。でも艦長のお孫さんは生きてるんでしょ?もしかしたら、今もここに居るんじゃない?」

 

 艦長は無言。

 だけど、その無言は肯定と同じよ。

 ここまで踏み込んだら、奇兵隊総隊長としてこの頑固ジジイの頭をグニャグニャになるまで揉みほぐしてやる。

 

 「艦長の感じからして、お孫さんの艦種はかなり危険度の高い艦種よね。さらに、歳を考えると駆逐艦か軽巡洋艦。違う?」

 

 艦長は私を睨むだけ。

 よって、ここまでは合っているものとする。

 じゃあ、候補をさらに絞るとしましょうか。

 もし、過去に行われた作戦や今回の作戦でお孫さんが戦死していたら艦長は平静を装えていない。それこそ、これ幸いと作戦中にワダツミを敵艦隊に突っ込ませるくらいはしてたはずよ。

 でもそれはしていない。

 イコールお孫さんは今も生きている。

 まずは今回の作戦に参加した呉所属の駆逐艦と軽巡洋艦の中から絞り込んでみますか。

 たしか生き残ったのは霰、霞、陽炎、不知火、浦風、磯風、浜風、雪風、そして阿賀野。

 お孫さんが10歳で艦娘になったと仮定した場合、艦娘歴が7年を超える霰と霞は除外される。

 さらに、適合可能年齢が13歳以上の陽炎型の内、実戦投入以降代替わりしていない陽炎、不知火、雪風も除外。

 似たような理由で阿賀野も除外ね。

 残ったのは、艦娘歴が三年未満の浦風と磯風と浜風の三人。この内の誰かが艦長のお孫さんだわ。

 

 「あの子が孫だと気付いたのはつい最近、あの子がワダツミに乗艦するために港へ集合してたのを艦橋から見た時だ」

 

 私がある程度候補を絞り込んだのを察したのか、艦長は観念したように溜息を吐いてポツポツと語り始めた。

 死んだと思ってた身内が艦娘として現れ、しかも自分が艦長を務めるワダツミで孫娘を戦地に運ばなきゃならなかったこの人は、その時どんな気持ちだったんだろう。

 

 「遠目でもわかったの?身内だって」

 「わかるさ。なんつぅかこう、目が合った瞬間背中にビビビっと来たからな」

 「一目惚れしただけかもよ?」

 「70手前で駆逐艦に惚れるなんざ問題だろう……」

 

 そりゃごもっとも。

 艦長がお父さんみたいなロリコンだとは思いたくないし考えたくもない。考えただけでも身の毛が弥立つから。

 

 「艦娘になれる条件が確定した頃、ワシはもしかしてと思って調べた。親父が駆逐艦乗りだったのはガキの頃から聞かされてたから、艦型まですぐに特定できたしな」

 「その時はわからなかったの?」

 「ああ、ワシが調べたのとあの子が着任した時期が入れ違いになっちまってなぁ。ワシが調べた子と入れ替わりであの子が着任しちまったんだ」

 

 不幸な入れ違いね。

 きっと艦長は、調べた駆逐艦が孫娘じゃないと安堵しつつも、生死不明のままな事に落胆したでしょう。

 それが数年を経て、今度は生きてる事に安堵したけど、孫娘が死と隣り合わせの戦場にいることに落胆することになってしまった。

 生死不明、でも戦場にはいない孫娘と、生きてはいるけどいつ死ぬかわからない艦娘としての孫娘。艦長からしたらどちらが良かったのかしら。

 

 「ワシがお前のじぃじだ!とか打ち明けないの?」

 「孫はじぃじって呼ぶような歳でもねぇしそう呼ばれて喜ぶ趣味もねぇ!バカにしてんのか!」

 「でも、お父さんは桜にじぃじって呼ばれて喜んでるよ?」

 「頭のネジがダース単位で飛んでる奴と一緒にすんじゃねぇよ……。だいたい、生まれる前からほっぽってた奴がどの面下げて名乗り出れんだよ」

 

 とか言って、艦長は照れ隠しでもするように煙草に火を付けた。

 ってか、非喫煙者の前で堂々と吸うなクソジジイ。お父さんでさえ私の前じゃ吸わなくなったのよ?

 これで吸い殻をポイ捨てしようもんなら拾って口の中に放り込んでやる。

 街は破壊するけど環境は破壊しない。それがこの桜子さんなんだから。

 

 「円満の嬢ちゃんが、序盤からあの子が配属された部隊を使うと言い出したときは心臓が裂けちまうかと思ったぜ」

 「ワダツミを動かす。くらいは言ってそうね」

 「言ったよ。ギリギリまで安全な場所に居させてやりたくてなぁ。まあ、輸送ヘリで送られちまったがな。腹いせに、その後嬢ちゃんに意地の悪い事を言っちまった」

 「心配しなくても、円満の事だから好意的に受け取ってくれてるわよ」

 「だといいがな」

 

 孫娘が生きてるとバレた途端に饒舌になったわね。

 もしかしてこの人、合わせる顔がないとか言いながら、実は誰かに背中を押してもらえば会ってもいいとか考えてるのかしら。

 いや、その可能性が高い。

 だって、艦長はお父さんとタメを張るくらい頑固だし素直じゃないもの。

 自分から打ち明けるつもりはなくても、周りがお節介を焼いた果てに打ち明けるしかない状況になれば「チッ、お節介な奴らだ」とか言って自分が祖父だと打ち明けるはずよ。

 

 「孫娘の艦名、いいかげんに白状したら?」

 「言わねぇよ。言ったらどうせお節介焼くつもりなんだろうが」

 「焼かないから教えて。三人までは絞り込めてるのよ。このままスッキリしなかったら、三人に「アンタのお爺ちゃんはワダツミの艦長よ」って言っちゃうんだから」

 「悪魔か!さすがに大佐でもそこまでしねぇぞ!?」

 「私、お父さんじゃないもーん。で?誰?浦風?磯風?それとも浜風?」

 

 艦長はまだ観念しきれないのか「えれぇ奴にバレちまったなちくしょうめ」とか言って頭をガリガリと掻いてるわ。

 あ、ちなみに。

 艦長が海軍元帥であるお父さんを『大佐』と呼ぶのは、お父さんと艦長が出会った頃のお父さんの階級が大佐だったからよ。

 いつもなら「大佐じゃなくて元帥よ」って訂正してあげるんだけど、今はそんな事より艦長の孫娘の艦名の方が気になるから放置ね。

 

 「孫にちょっかいかけないか?」

 「かけないわ」

 

 今は、と続くけど口には出さない。

 口に出したら絶対に教えてくれないだろうから今は我慢する。()はね。

 

 「その子の艦名は……」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 誰だったと思う?

 一応ヒントをあげるわね。

 ヒントは私の推理。まったく的外れな推理じゃなく、むしろほとんど正解だったわ。

 はい、ヒント終わり。

 次回までに考えておいてね。

 え?次回って何か?

 細かいことは気にしない。気にするとハゲるわよ?

 

 その後?

 艦長と別れた後は海辺を散歩してたわ。

 艦長と孫娘でどうやって遊ぶ……。もとい、艦長と孫娘の感動の再会をどうやって演出しようかと考えながら海辺を散歩してたら、艦娘時代にやり合ったもう一人の死にたがりに声をかけられたの。

 

 たしかこんな感じだったわ。

 

 

 ~戦後回想録~

 奇兵隊総隊長 神藤桜子大佐へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「お久しぶりです。神風さん」

 「アンタはたしか……」

 

 誰だったっけ?

 見た覚えはあるんだけど、目の前に現れたげっ歯類を思わせる駆逐艦の名前が思い出せない。

 たしか陽炎型で、何とか風って名前だったと思うけど……。

 

 「もしかして、私の事忘れちゃいました?」

 「い、いやぁねぇ、忘れるわけがないじゃない!え~と……北風?」

 「北から吹いてくる冷たい風ですね。違います」

 「じゃあ海風?」

 「白露型にそんな名前の子がいましたね。でも違います」

 「だったら神風!」

 「それは以前の貴女でしょう?」

 

 う~ん、出てこない。もうちょっとで思い出せそうなんだけどなぁ~。

 ああ!歯痒い!

 こうなったら風がついてる言葉を識ってる限り……。

 

 「雪風です。以前、演習で貴女と戦ったことがあるでしょう?」

 「なんで言うのよ!クイズで悩んでる人の前で答えを言っちゃいけないってパパに教わらなかったの!?」

 「私の名前はクイズじゃありません。それに、あのまま放って置いたら、終いにはおたふく風邪とか言い出しそうでしたから」

 「それは最後の手段よ!」

 「ホントに言うつもりだったんですか!?」

 

 当たり前じゃない。

 とは、目をまん丸に見開いて本気で驚いてる雪風には言えないか。

 この歳で痴呆症扱いされてもムカつくだけだから、ここは冗談って事にしときましょう。

 

 「冗談よ雪風。で?何か用?」

 「え~、本当に冗談ですか~?」

 「何よその疑いの眼差しは。用がないんなら私行くわよ」

 「ああ!待って待って!用ならありますから!」

 

 よし、誤魔化せた。

 なら話は終わりとばかりに散歩を再開しようとしたら、雪風が慌てて引き留めにかかったわ。

 

 「実はその……私がこんな事をお願いするのは問題があるんですが」

 「問題ねぇ。誰かを再起不能になるまでぶん殴って。とか?」

 「だいたい合ってますが再起不能にまでしなくていいです。と言うかダメです」 

 

 それは難しい注文ね。

 今回の場合だと、ただでさえ死なせないという縛りがあるのに再起不能にしちゃダメときた。

 私、中途半端って嫌いなのよねぇ。

 ぶん殴ってくれって頼むくらいだから、雪風はソイツの事が殴りたいほど嫌いなんでしょ?

 だったら殴るだけじゃなく、二度と会わなくてもいいように一生ベッド暮らしにするのがベストと私は思うわけ。

 まあこういう考え方だから、考え方が極端過ぎると今だにお父さんに怒られることがあるんだけど。

 

 「殴って欲しい。と言うより、目を覚まさせてほしいんです。私の、姉妹艦の目を……」

 「目を覚まさせてほしい?私は医者じゃないわよ?」

 「別に昏睡状態ってわけじゃ……って、わかってて言ってるんですよね?まさか本気で言ってるんじゃないでしょ?」

 「あ、当たり前じゃない!」

 

 いや、本当かな~とか呆れた顔して言ってるけど本当です。

 どうせアレでしょ?

 昔、私に負けたことで自分の死に上がりが何故か治ったから、ソイツに勝って何かが矯正されるのを期待してるんでしょ?

 でもそれなら……。

 

 「自分でやればいいじゃない。アンタより強い駆逐艦って呉にはいないでしょ?」

 「私じゃダメなんです。あの子は自分より私の方が強いって知っていますから、私が何かしたところで『相手が雪風なら仕方ない』と開き直るのが目に見えてます」

 

 なるほど、だいたいわかった。

 おそらく、雪風が私に矯正してほしい相手は雪風に準ずる程の実力者。つまりソイツは天狗になってるから、伸びすぎた鼻をへし折ってやってくれって事なんでしょう。

 

 「でもそれ、私がやっても意味なくない?」

 「そう……でしょうか」

 「そうよ。だって私はもう艦娘じゃないのよ?その私に負けたって『艦娘じゃない者相手に本気を出すわけにはいかなかった』って自己弁護するかもよ?」

 

 と言っても雪風は納得できないご様子。

 ソイツの鼻をへし折るくらいなら私じゃなくても、例えば満潮や叢雲でも良いはずよ。

 どうして雪風が、艦娘でもない私に頼ろうかと思ったのかが本気でわかんない。

 

 「風を、吹かせて欲しいんです」

 「風?」

 「そう、風です。4年前、貴女が私の心に吹かせたように、あの子の心にも神風を吹かせて欲しいんです」

 

 そう、真剣な瞳で私を見つめる雪風にどう答えようか迷った。

 私にはそんな高尚な事は出来ないしした覚えもない。

 4年前だって、単に負けたくなかったから我武者羅にやっただけ。

 呪いにも等しい幸運のせいでやさぐれてしまってたアンタに負けたくなかったから、私は全力でアンタに立ち向かった。ただ、それだけよ。

 それなのに、私がアンタを救ったような言い方をされたら困っちゃうわ。

 

 「貴女に負けてから、私は死にたくなくなりました。むしろ、生き続けたいと思えるようになりました」

 「良い事じゃない。それで?」

 「貴女に自覚はないようですが、貴女には人を変えれる力があるんです。だから……」

 

 だからソイツを変えてくれ。とでも言うつもり?

 ふざけんじゃないわよ。

 私の力はそんな事のためにあるんじゃない。私の力は自分を、そして大切な人達を守るためだけにあるの。

 けっして、見ず知らずの他人を救うためじゃない。

 

 「甘えるな。自分の姉妹艦の面倒くらい自分で見なさい」

 「それが出来ないから貴女にお願いしてるんです!」

 「あっそ、じゃあお望み通り叩きのめしてあげるわよ。ただし、高速修復材でも治らないくらい痛めつけてやる。赤の他人に負けた程度でコロコロと考え方を変えるような馬鹿は大嫌いだからね」

 「私も、貴女の大嫌いな馬鹿って事ですか?」

 

 そうね。

 と、言いたいところだけど、アンタが「やっぱ死ぬのやーめた」なんて呑気に言うような奴だったら私は今アンタと話していない。存在自体を無視する。

 でもアンタは違う。

 4年前、アンタは初めて死を身近に感じた。

 身近に感じたからこそ努力した。変わろうとした。幸運だけに頼るのをやめた。幸運に抗った。

 それはアレからの戦歴を知らなくても、今のアンタを見ただけで十分にわかる。

 だって、肉の付き方があの頃とは全く違うもの。

 少女らしい柔らかそうな見た目とは裏腹に、その内に秘めている筋肉は戦い、生き残る事を前提としたモノ。

 切っ掛けは私に負けた事だったとしても、アンタは時間をかけて自分を変えていったんだ。

 だから私はアンタを馬鹿とは思わない。

 アンタのお願いも聞いてやりたいと思ってる。

 でも、それじゃダメ。

 私がソイツに勝っても、アンタがソイツに勝つのと変わらない。

 ソイツが見下し、かつ同程度の相手と全力で殴り合った末に負けなければ意味がない。

 

 「ソイツの艦名は?」

 「え?」

 「艦名を教えろって言ってるのよ」

 「でも……」

 

 なんで言い淀む?

 もしかして、高速修復材でも治らないくらい痛めつけるって言ったのを鵜呑みにしちゃった?

 

 「心配御無用!なんてね。ソイツとやるのは私じゃないわ」

 「いや、それじゃあ……」

 「意味がない?そんな事ないわ。むしろ、私に負けるより余程ソイツの為になるはずよ」

 

 問題はどうやって嗾けるかね。

 出会った頃は兎も角、最近は説教染みた事を言うようになってるからなぁ。でもまあ、あの子が尊敬する私のお願いなら文句言いつつもやってくれるでしょ。たぶん……。

 

 「で?なんて名前なの?」

 「その子の艦名は……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 私が催促すると、雪風は少しだけ悩んでその子の艦名を口にしたわ。

 でもまさか、その名前を雪風の口からも聞くことになるとはさすがに思ってなくてさ。

 聞いた後に「うわぁ~どうしよ……」ってぼやいちゃった。

 

 だって、艦長の孫娘と雪風がボコってくれってお願いしてきた子が同一人物だったのよ?

 お節介焼いて、艦長と孫娘の感動の再会をどうやって演出しようかと考えてたその日に、その子をボコってくれなんてお願いされたんだもん。

 いくらこの桜子さんが、脚本家が私財を投げ売って弟子入り志願してくるほどの名脚本家でも悩むのは当然でしょ?

 

 え?脚本なんか書いたことないだろって?

 失礼な事言うわねアンタ。

 子供から大人(男限定)まで幅広く人気の『水雷戦隊カミレンジャー』を見たことないの?

 

 あの番組の脚本を書いてるのって、何を隠そうこの私なのよ?

 そりゃあ、一部のミリオタから「なんで駆逐艦が乗るメカが空母や戦艦なんだ」とか「駆逐艦にしては女優が歳を取り過ぎてる」とか言われてるみたいだけど、そういう知識がない人達からは大好評なんだから。

 特に良い儲け……もとい!

 好評なのが、お父さん監修の合体ロボ『ゴッドデストロイヤー』ね。

 アレって駆逐艦を中心に空母と戦艦が腕になって、軽巡と重巡が足になるんだけど、単に合体してロボットになるだけじゃなく可動域に徹底的に拘った造りになってて……。

 

 って何よ。え?その話はいい?

 可動域に拘りすぎたせいで、子供向け玩具とは思えないほどの値段になっちゃった話も?

 じゃあ、カミレンジャーの女優の写真集(健全)が発売される話は?

 あ、それもいいのね。残念……。

 

 結局上手くいったのか?

 上手くいったわよ。ってか、アンタってあの時司会してなかったっけ?

 あ、司会はしてたけど後日談は知らないのか。

 

 別に話しても良いんだけど……本人に聞いた方が良くない?

 いや、後日談自体は話しても良いの。

 ただ、その時の事を思い出すとどうしても……ね。

 

 アンタだって見てたから知ってるでしょ?

 アレ自体はあの子のアドリブだったけど、私があの子に嫌な想いをさせたのは変わらないんだから。

 

 

 ~戦後回想録~

 奇兵隊総隊長 神藤桜子大佐へのインタビューより。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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