深海鶴棲姫との戦いが終わってワダツミに帰投後、そう時を置かずに意識を失った私が目を覚ました時には作戦は終了していて、しかもワダツミは呉に入港していました。
ええ、タイムスリップしたような気分でしたね。
だって私の感覚では、文字通り目を開けたら別の場所に居ましたし、体も違和感だらけで普通に立つ事も出来なかったんですから。
はい、手足が急に伸びたせいでバランスが取りにくく、距離感も掴めなくなっていました。
そうそう胸が重くて、最初は重りでも乗せられてるのかな?とも思いましたね。
両親ですか?
そうですね。私の両親は揃って身長が高かったですから、私の身長もきっと親譲りです。
寝て起きたら高身長で、しかも肌が褐色になっていたのに少しだけギョッとしましたし、急激に大きくなった体に慣れるまで時間がかかりましたけど、その時の私自身が憧れていた武蔵さんがくれたモノのような気がして嬉しかったのを憶えています。
そうそう、目が覚める前に夢を見ました。
その夢では、一面に広がる大海原のど真ん中に私じゃない清霜が一人で立っていたんです。
その子が私に気づいて振り向き、「おめでとう。いや、ありがとう。かな」と、照れながら言いました。
そうしたら次に、私の後ろから武蔵さんが前に歩み出て清霜の手を取って「後は任せたぞ。戦艦武蔵」と、優しく微笑んで言いました。
そんな二人に私は何か言ったんですが……。
生憎と、自分が二人に何を言ったのかまでは憶えていません。
ただ、私が言った何かを聞いた二人は一瞬驚いて顔を見合わせて笑い合いました。
私はその反応に少しムッとしてしまったんですが、私の様子に気付いた二人は笑顔で私に向き直り、声を揃えてこう言ってくれたんです。
「「それでこそ戦艦だ」」って。
~戦後回想録~
元大和型戦艦二番艦 武蔵へのインタビューより。
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突然妹が出来た時はどういう反応したら良いのでしょうか。
もしこれが実の妹ならば「いい歳して頑張りすぎ」と、両親を冷めた目で見るなりするのでしょうが、今私の前で所在なさげに正座している二代目武蔵は艦娘としての妹です。
なので、妹の誕生日から両親が
「あ、あの……。大和……姉さん?」
「おぅふ……」
思わず変な声が出てしまうのも当然。
だって今、呉にいる間使うようにと宛がわれた部屋のちゃぶ台を挟んで私の対面で正座している武蔵の振る舞いが以前の武蔵とは別人(実際別人なのですが)すぎるんですもの。
いえ、振る舞いだけではありません。
以前はマントとさらしのみだったのに、今は打って変って儀礼用軍服をアレンジしたような七分袖のシャツをしっかり着込み、さらにコート調の羽織を両肩に装備しています。
まともな格好のはずなのに、以前の痴女としか言えない格好のインパクトが強すぎて違和感ありまくりです。
髪型も以前とは違います。
全体的にボリューミーになったせいかツーサイドアップに変え、メガネもフレームレスに変えたようです。
肌の色は以前のままですが、なんて言うかこう……。
「本当に武蔵ですか?」
と、言ってしまいそうになります。って言うか口に出しちゃいました(テヘペロ)
「ほ、本当に武蔵です!その……大和姉さんからしたら偽物と言われても仕方ないとは思いますが……」
「違います!そういう意味で言ったんじゃないんです!」
どうしよう……。
体を縮こまらせて俯いちゃいました。
そりゃあ、以前の武蔵と違いすぎて戸惑ってはいますが、以前の武蔵より可愛げがあるこの子は私的には大歓迎です。
断っておきますが、以前の武蔵の事を嫌っていたわけではないですし、彼女の死は私にとって辛い経験でした。
それでも、いえだからこそ!
今の武蔵を余計でも愛おしく感じてしまうのです!
(妹を泣かすとは……。最低の姉だなお前は)
「ちょっと黙っててください。貴女には関係ない事です」
「え?」
「ああ、ごめんなさい。なんでもありません。単なる独り言です」
(随分とハッキリした独り言だな)
「だから黙っててくださいよ!武蔵に変な子だと思われたらどうするんですか!」
(手遅れだろ?見て見ろ、あの武蔵の顔を)
窮奇に言われるがまま武蔵の方を見てみると、驚きを通り越して唖然とした顔をした武蔵が目に映りました。
そりゃそうなりますよね。
武蔵からしたら、私は突然大声で喚き散らす基地外にしか見えないはずですから。
しかしそう思われるのは心外ですので、ここはそれっぽい事を言って煙に巻いておいた方が良いですね。
「うぉっほん!え~っと……。そう!私って突発性絶叫症候群を患ってるんです!」
「と、突発性絶叫症候群?」
なんだそれ?
って顔してますね。気持ちはわかりますよ。私も同じ気持ちですから。もし第三者として聞かされていたら「そんな病気があるか!」とか「良い病院紹介しましょうか?」などとツッコんでたと思います。
でも、言ってしまったからには押し通します。どれだけ苦しい言い訳でも押し通します!
「そうです!この病は非常に厄介で、時、場所関係なく急に叫びたくなる病気なんです!」
(おいおい、お前は病気持ちだったのか?頼むから私には移すなよ?)
「黙れ病原菌!貴女が話し掛けなきゃこんな馬鹿みたいな言い訳しなくて良いんですよ!?ってあああああ!発作が!突発性絶叫症候群の発作がぁぁぁぁぁ!叫ばずにはいられない!訳のわからない独り言を叫ばずにはいられないぃぃぃぃ!」
と、一頻り大袈裟に頭を抱えてのたうち回った後に武蔵をチラッと見てみると、彼女は怯えるような瞳で私を見ていました。
うん、武蔵だけでなく、大多数の人はそういう反応をすると思います。
「と、ところで武蔵。武蔵こそ、急に私の妹になって途惑ってるんじゃないですか?」
「わ、私ですか?」
「ええそうです。だって、貴女からしたら急に姉が出来た感じでしょう?」
「たしかに若干途惑ってはいますが、姉が出来た事自体には戸惑っていません」
「そうなのですか?」
「はい。だって私は、駆逐艦の中でも姉妹艦の多い夕雲型駆逐艦の末妹だったんです。今さら姉が一人二人増えたところで戸惑ったりしません」
なるほど、私には理解できませんが、これは姉妹艦が多い駆逐艦特有の感覚なのでしょう。
あれ?じゃあ武蔵は何に途惑っているのでしょう。
「武蔵さんから聞いてた通り変な人……」
「今、ボソッと何か言いました?」
「な、何も言ってません!」
「いいえ、言いました。私の事を変な人だと言いました!」
「聞こえてたんじゃないですか!」
そりゃあ聞こえますよ。私って耳は良い方ですから。
私がその気になれば、草むらに身を潜めた野ウサギの吐息だって聴き取れるんですから。
まあ、聴力自慢は置いといて、武蔵は武蔵にどんな出鱈目を吹き込まれたのでしょう。
武蔵はどこからどう見ても常識人な私を変な人、と言っていましたから、武蔵が武蔵に吹き込んだ出鱈目は相当なモノのはず。いったい武蔵はどんな出鱈目を武蔵に……って。
「ややこしいわ!どっちも武蔵じゃややこしすぎる!」
「何がですか!?」
おっと、ややこしすぎてつい叫んでしまいました。
その私の叫びに驚いたのか、武蔵は壁際まで後退ってしまいました。
「せ、生前、武蔵さんが言ってました。『大和は急に変な事を口走るのが趣味な変態だ』って」
「ちょっと武蔵に文句言って来ます」
「どうやって!?武蔵さんはもう亡くなってますよ!?」
ふむ、言われてみれば確かに。
おのれ武蔵、無い事ばかり吹聴して天国にトンズラするとはなんと卑怯な。これでは文句を言う事が出来ないじゃないですか。
いや、待ってください。
ならば……。
「空に向かって全力射撃すれば一発くらい当たりそうですね!」
「うわぁ……」
(うわぁ……)
「ちょっ!なんで呆れてるんです!?」
しかも窮奇まで!
私、そんなに変な事言いました!?上にあるんだから何十発も撃てば一発くらい当たるのでは!?
いや、落ち着きなさい私。
二人の反応を考えるとおかしいのは私の方。ここでさらに言い返してまうと、武蔵に余計変な人だと思われてこれからの共同生活に支障が出かねません。
ここは話を逸らして今の一幕を有耶無耶にしてしまいましょう。
「あ、そう言えば、どうして清霜だった頃の貴女は武蔵と仲が良かったんですか?」
「聞いていたとおり、本当に唐突に話題を変えるんですね……」
「べ、別に唐突でも何でもありません!前々から気になってたんです!」
武蔵はジト目で「本当ですか~?」とか言ってますが本当です。
だって二人の接点がまるでわかりませんもの。
武蔵が私のように着任後、清霜だった頃の武蔵に案内されたり指導されたりしたんだったらわからなくもないです。
でも、私の場合はかなり特殊だったはず。
訓練と食事、清霜だった頃の武蔵とのお出掛け時以外は部屋にいた武蔵が駆逐艦と仲良く出来るわけがありません。
「横須賀に配属されて最初の内は、武蔵さんと仲良くなりたいとか、戦艦になりたいとかは考えていませんでした」
「では何故?」
「大和姉さんは、艦娘が初同調時に先代の記憶を垣間見るのを知っていますか?」
「はい、知識でだけですが」
「武蔵さんと初めて会った時、その時の記憶と気持ち……。ううん、私の前に清霜だった人の後悔と未練が私の心を支配しました」
「後悔と、未練?」
「はい、武蔵さんに憧れ、戦艦になりたがってたのは私じゃなくて先代の清霜。私はただ、彼女の想いに振り回されていただけなんです」
そこまで言って、武蔵はバツが悪そうに顔を伏せました。いや、恥じていると言っても良いほどですね。
でも、何を恥じる必要が?
先代清霜が艤装に残した感情に流されてしまったから?それとも、武蔵に憧れていた感情が自分のモノじゃなかったと気付いたから?
どちらでも構いませんが、今の貴女の態度はよろしくありません。
今の貴女は……。
「武蔵を侮辱しています」
「私が、武蔵さんを侮辱して……る?」
「そうです。短い付き合いでしたから彼女の生い立ちはもちろん、先代清霜との関係も知りませんが、少なくとも察しの悪い人ではありませんでした」
「気付いていた。って言う事ですか?」
「はい。気付いてなお、武蔵は貴女と一緒に居たんです。先代清霜ではなく、貴女と仲良くなりたくて」
「で、でもそれで、どうして武蔵さんを侮辱した事になるんですか?」
ふむ、わかりませんか。
説明しても良いのですが、私は生憎と噛み砕いて説明するのが苦手なのです。
さて、どうやって説明したものやら……。
「お前が武蔵を、過去の女に未練タラタラな女々しい奴だと言っているからさ」
「私はそんな風に……!って、口調が変わってませんか?それに雰囲気も……」
「私の事はどうでもいい。今はお前への説教が先だ」
おのれ窮奇。
私が悩んでる間に体を乗っ取るとは何事ですか!乗っ取るなら乗っ取るで一言言いなさい!
急にキャラが変わったせいで武蔵もビックリしてるじゃないですか。
「いいか?確かに、お前が武蔵に惹かれた感情の大元は先代清霜のモノだったのだろう。だがその後はどうだ?お前は違和感を感じながら武蔵と一緒に居たのか?どうしてこの人のことが好きなんだろうと疑問に思いながら武蔵と一緒に居たのか?」
「そ、それは……」
「違う。お前と武蔵が一緒に居る光景を見たことがある私にはわかる。お前は間違いなく自分の意思で武蔵と一緒に居たし、武蔵もお前を通して先代清霜を見てたわけじゃない。お前が武蔵に憧れ、武蔵のような戦艦になりたいと思ったのは間違いなくお前自身の想いだ」
「で、でもそんなのわからないじゃないですか!大和姉さんは先代がいないからわからないかもしれませんが、艦娘は先代の影響を無意識レベルで受けるんです!それこそ趣味や性格、生活習慣にすら!」
へぇ、そこまで先代の影響って出るんですね。
てっきり髪や瞳の色、性格が少し変わる程度だと思っていました。
「だから何だ?だから武蔵を好きだったのは自分ではなく会ったこともない赤の他人だ。とでも言うのか?」
「そうじゃない!そうじゃ……ないんです」
見ていられない。
抱え込んでいた悩みを踏みにじるような窮奇の言葉に堪えられなかったのか、武蔵の瞳から涙がこぼれ落ち始めました。
でも、泣いている武蔵も新鮮で良いですね。窮奇に写真を撮っておいてとお願いするべきかしら。
「空気が読めていない馬鹿は置いといて。今お前の胸中に渦巻いている感情が答えだよ武蔵」
「私の感情が答え?」
「そうだ。今のお前は清霜ではなく武蔵だ。清霜の感情の影響は受けていない。にもかかわらず、お前は武蔵を想って泣いている。武蔵を想っていたのは自分じゃないと言いながら、お前は武蔵を想って泣いているじゃないか」
「だから、私の想いは本物だと?」
「逆に聞くが、お前の想いは偽物か?」
窮奇の返しを、武蔵は首を振って否定しました。
自信はない。でも否定はしたくない。本物だと信じたい。きっとそんな思いが、武蔵の頭の中をグルグルき巡っているのでしょう。
「また不安になったら相談しろ。私たちは姉妹になったんだ。遠慮などする必要はない」
「はい、そうさせてもらいます」
少しは迷いが晴れたようですね。
泣いてる顔も可愛かったですが、安心したように微笑む武蔵もなかなかどうして素敵じゃないですか。
今の武蔵を見ていると、浮気するつもりはありませんがつい言ってしまいそうになります。
「武蔵は私の嫁!と」
「ふぇ!?」
「あ、声に出ちゃった……」
って言うか体を返すなら返すと一言言いなさい!
完っ全に油断していましたよ!
おかげで聞く人が聞いたら誤解しかしない事を大声で言っちゃったじゃないですか!
(フ……。相変わらず馬鹿な奴だ)
「おぉのぉれぇぇぇぇ!わざとですね?わざとタイミングを計って体を返したんですね!?」
(おいおい、それは濡れ衣だ。私が表に出ていられるタイムリミットと、お前が馬鹿な事を言うタイミングがたまたま、本当にたまたま重なっただけじゃないか)
「嘘おっしゃい!貴女前に、十数分は出ていられるって言ってたじゃないですか!」
(十数分経ったろ?)
そう言われて、壁に掛かった時計をチラッと見てみましたが十分も経っていませんでした。
つまり嘘です!
やはり窮奇は、私が馬鹿な事を言うタイミングを計って体の主導権を返したのです!
「あ、あの!大和姉さん!」
「は、はい!どうかしましたか!?」
「不束な妹ですが、これからよろしくお願いします!」
良い子!
私が窮奇と問答している様を見て若干腰が引けているようですが、それでも武蔵は姿勢を正して深々と頭を下げました。
ならば私も姉らしく……。
「わかりました。私が戦艦の先輩としてしっかりと教えてあげます!」
「はい!よろしくお願いします!」
「ええ、お任せください。ちなみに、貴女の練度はいくつですか?」
「89です!」
「ふぇ!?89!?」
高っ!
え?この子って武蔵になったばかりですよね?それなのに89?どうして?
もしかして、清霜だった頃の練度が引き継がれたのかしら。
(ちなみに、お前の練度は30だ)
「低っ!え!?そんなに低いの!?」
「ひ、低いですか?割と高練度だと思ってたんですが……」
やっべ……。
窮奇が話し掛けるタイミングとリアクションが悪すぎて、武蔵の練度を低い呼ばわりした風になっちゃいました。どうしよこれ……。
(さらに余談だが、私の練度は99だ。どうだ、恐れ入ったか)
「貴女の練度はどうでも良い……って高っ!なんでそんなに差があるんです!?」
(私は人間で言うところの天才と言う奴だから当然だ)
「天災の間違いでは!?少なくとも、貴女と一緒になってからろくな事がないですよ!?」
(それはこちらのセリフだ。お前と大淀が会えば喧嘩するから私は迂闊に彼女に会えにいけないんだぞ?)
「文句があるなら出て行きなさい!居候のクセに図々しいと思わないんですか!?」
(生憎と私は人間ではないのでな。そういう概念は持ち合わせていない)
「きぃぃ!もどかしい!5~6殴ってやりたいのに出来ないのがもどかしい!」
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と、言った感じの一人漫才を、姉さんは私の存在を忘れて小一時間ほど続けました。
ええ、違う意味で怖いと思いました。
だって唐突に一人漫才を始めるんですよ?
普段は一人で訳のわからないことを喚き散らすだけですが、稀に一人二役でやるんです。
はい、完全に別人でした。
もしかしたら、姉さんは多重人格だったのかもしれません。
多重人格だと仮定してどっちの姉さんが良かったか?
う~ん、難しい質問ですね。
普段の姉さんは騒がしく、まるで子供のような人でしたが一緒に居て楽しいと思えましたし、戦う時の姿は私が目指した戦艦そのものでした。
稀に出る方の姉さんは気品があり、自信に満ち溢れていてまるで女王様のような風格を漂わせていて、ここだけの話、尊敬はしていましたが正直怖かったです。
でも、どっちの姉さんも大好きでした。
武蔵さんの性格に近くづくにつれて、人前では姉さんに対して生意気な態度をとるようになっていきましたが、部屋に二人で居るときは甘えていましたもの。
戦時中は恥ずかしくて言う事が出来ませんでしたが、彼女、いえ彼女たちは私の自慢の姉であり、愛すべき家族だと今でも思っています。
~戦後回想録~
元大和型戦艦二番艦 武蔵へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)