艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

87 / 190
第八十六話 私が知る大和は貴女だけ

 

 

 友人がいかにも落ち込んでますって雰囲気を醸し出しながら、夜の桟橋で体育座りしてる場面に遭遇したらどう対応するのが正解なんだろう。

 「どうかしたの?」って話し掛けて、その子が悩みなりを打ち明けてくれるのを隣にでも座って待つのが良いのかしら。

 それとも、「何落ち込んでるのよ、貴女らしくないわね~。ガハハハハハ」とか言いながら背中をバンバン叩くの方がいい?もしくは「ドーン!」とか言って海に突き落とす?

 う~ん、私的に二番目と三番目は無しね。

 大和ならやりそうだけど、私は大和じゃなくて矢矧だし、落ち込んでるのは制服じゃなくて白いワンピース姿の大和なんだもの。

 だから、ここは無難に……。

 

 「何落ち込んでるのよ。貴女らしくないわね」

 

 二番目のセリフのみを採用。

 後ろから突然声をかけたのにも関わらず、大和は驚いた様子もなく隣に移動して腰を降ろした私一瞥して、再び海に視線を戻した。

 もしかして、私が近づいてるのに気付いてた?

 まさか、気配で察したとかオカルト染みた事言わないわよね?

 

 「その服、似合ってるじゃない。そうして大人しくしてたら何処かのお嬢様みたいよ」

 「お嬢様ですから。今も、昔も」

 「あっそ。で?そのお嬢様がこんな夜更けにこんな所で何してるの?」

 「見てわかりませんか?海を見てるんです。そう言う矢矧はどうしてここに?」

 「私?私は……」

 

 一言で言うなら部屋から逃げてきた。

 だって掃除して、フ〇ブリーズが10本くらい空になるまで撒いたのに臭いが取れないんだもの。

 いや、臭いが取れないだけならまだ良かった。鼻は掃除の途中から麻痺してたからね。

 にも関わらず、私が部屋から逃げ出したのは奴らが出たから。

 ええそう、Gよ。見るだけで嫌悪感がこみ上げ、黒光りして素早く動き回り、たまに飛ぶことさえあるGよ。

 ソイツらが、部屋を掃除してる時は見なかったのに、私がそろそろお風呂にでも入ろうかな~なんて考え始めた時になって「じょーじ」と言わんばかりに出て来やがったのよ!

 いや、アレだけの汚部屋だからいるのは予想してたわ。予想はしてたけど、掃除中に姿が見えなかったから油断してたの。

 でも、そこからの自分の行動の速さは褒められても良いかもしれない。

 私はG共を視認するなり、念のために購入しておいたバ〇サン(G対応)を素早く五つばかし焚いて部屋から脱出し、ドアの隙間をテープで目張りして、ジャージ姿のままここまで走って逃げてきたわ。

 相も変わらず惰眠を貪ってた阿賀野姉を置き去りにしちゃったのが少し気にならなくもないけど、完全に彼女の自業自得だから問題ないでしょう。

 

 「若干上気した頬、汗で湿ったジャージ、部屋で何かあってたまらず逃げてきた。ってとこですね。ゴキブリでも出ました?」

 「貴女ってたまに頭良いわよね……。でも名前をストレートに出すな。せめてGと呼べ」

 「それは失礼しま……。ああもう、また寄ってきた」

 

 寄ってきた?何が?

 外灯の明かりくらいしか無いから、影になってる部分はよく見えないけど何も居なくない?

 それなのに肩やお尻の辺りをシッシって払ってるって事は、まさかフナムシにでもたかられてる?

 

 「な、何かいるの?」

 「ええ、払っても払っても寄ってくるんです。今は矢矧のお尻の影に隠れて私を覗ってます」

 「だから何が!?何にもいないけど!?」

 「え?矢矧には見えないんですか?うじゃうじゃいるのに」

 

 うじゃうじゃ!?

 それって大量に居るって事よね。しかも私のお尻辺りに!

 で、でも確認してみたけどやっぱり何も居ないし……。

 

 「だから嫌だって言ったじゃないですか。貴女たちの面倒を見る気はありません!」

 「今度は何!?」

 「いえ、その子達が部屋に連れて行けとうるさいもので……」

 「喋るの!?私に見えない何かって喋れるの!?」

 「え?そりゃあ喋りますよ。見た目的にも喋りそうでしょ?」

 

 でしょ?って聞き返されても困るのよ。だって見えないんだから!

 信じたくはないけど大和って見える人なの?見えちゃいけない人たちが見えちゃう人なの!?

 そう仮定すると、見えちゃダメな人たちが私のお尻辺りに集まってるのよね!?

 その光景を想像する方が下手に見えるよりよっぽど怖いわ!

 

 「矢矧は艦載機を使ったことないんですか?アレにも乗ってるじゃない

 「へ?艦載機?じゃあ、貴女が言ってるのって妖精?」

 「ええ、その妖精です」

 

 ちょっと待って。たぶん、大和が言ってる妖精ってパイロット妖精じゃなくて工廠妖精、または艤装に宿ってると言われている乗組員妖精よね?

 って事は、大和には提督になれる素質があるって事?

 

 「え?冗談でしょ?」

 「本当です。昼頃から急に見えるようになって……」

 「頭でも打ったの?」

 「いえ、頭は打ってません。って、どうして頭の心配をするんですか?」

 

 いやだって、元々妖精が見えない人が見えるようになるのって頭に強い衝撃を受けた場合がほとんどだって聞いた事があるんだもの。

 まあ、貴女の頭の心配は会う度にしてるけどね。だって……。

 

 「貴女って頭おかしいじゃない」

 「相変わらず辛辣ですね。私ってそんなにおかしいですか?」

 「ええ、おかしいわ。言ってる事が理解できないなんてザラだもの」

 「へぇ……そうだったんですか」

 

 なんか調子狂うわね。

 いつもの大和ならオーバーリアクションで「私以外の人がおかしいんです!」とか言うのに、今日は静かに溜息を吐くだけ終わったわ。

 これじゃあ、私が大和をイジメてるみたいじゃない。

 

 「臭いよりおかしい方がマシな気がする……」

 「ちょ、ちょい待ち!私、臭う!?」

 「はい、掃除されてない公園のトイレのような臭いがします」

 

 迂闊だった!

 鼻が麻痺してたせいで、私にまで臭いが移ってた事にまったく気付かなかったわ!

 いや、よくよく考えれば気付くチャンスはあった。

 フ〇ブリーズやバ〇サンなどを買いに酒保へ行ったときの店員や他の客の迷惑そうな顔。廊下ですれ違った駆逐艦が、私とすれ違うなり吐き気を催したようにしゃがんだ時等々、気付けるタイミングはあったのに私は気付けなかった。いいえ!気付こうとしなかった!

 私が臭いから迷惑がられたり、吐きそうになってるんだと気付きたくなかったのよ!

 

 「なんで気付かせたのよ!気付かなきゃ普通に過ごせてたのに!」

 「時間の問題だったと思いますよ?だって公害レベルの臭いなんですもの」

 「言うな!私は臭くない!貴女の鼻がおかしいから臭く感じるのよ!」

 「それは開き直りです。自分が認めたくない事を認めないままにするのはただの逃避です。そう……逃げてるだけなんです……」

 「だから私は臭く……!」

 

 ない!と続けようとしたけど、セリフが進むにつれてトーンダウンしていく大和を見たら出来なくなった。

 さっきのセリフは私に言ったんじゃない。

 自分自身に向けて言った叱責なんだと気付いてしまったから。

 

 「大和、貴女……」

 「私を大和と呼ばないでください」

 「でも、貴女は大和でしょう?」

 「違う!私は大和じゃない!私は撫子です!」

 

 大和は俯いたままそう叫んだ。

 どうして『大和』と呼ばれるの嫌がる?

 養成所に不法侵入までして艦娘になったのに、候補生なら誰しも一度は憧れる戦艦大和になれたのに、どうして今さら大和で在ることを嫌がるの?

 もしかして貴女……。

 

 「艦娘を続けたくなくなった?」

 「違います」

 「じゃあどうして?艦娘いる限り、貴女は大和と呼ばれ続けるわよ?」

 「それでも……嫌なんです」

 「艦娘は辞めたくない。でも大和って呼ばれたくもないなんて我が儘をねぇ。さすがに呆れるわ」

 

 それに、腹も立ってきた。

 私は貴女に何があったか知らないし、何をウジウジ悩んでるのかも知らない。

 悩んでるなら相談に乗ってあげたいとも思うし、落ち込んでるなら励ましてあげたいとも思ってるわ。

 でもそれ以上に、元気のない大和を見ていたくない。

 今の貴女は私が知ってる大和じゃない!

 

 「ねえ、ちょっと手を貸してくれない?」

 「え?構いませんけど……何をぉぉぉぉぉ!?」

 

 大和が差し出した右手を両手で掴んだ私は、お尻を右に振って大和()()海にダイブした。

 いや~我ながら上手くいったと自賛したいわ。

 普段の大和だったら、たぶん落ちるのは私だけで落とせてなかったもの。

 

 「ぶはぁ!何するんですかいきなり!びしょ濡れになっちゃったじゃないですか!」

 「寝惚けた事ばっかり言ってる貴女が悪いのよ!これで少しは目が覚めたでしょうがデカ女!」

 「デ、デカ女ですって!?私はデカくありません!」

 「デカいわよ!今の状況を見たら一目瞭然じゃない!」

 

 どんな状況かと言うと、私はつま先立ちでようやく下顎が海面から出るかどうかなのに、大和は鎖骨の辺りまでしか浸かってないわ。

 跳び込んでおいて何を、と思われるかもしれないけど足がついて良かったぁ……。

 実は私、艦娘のクセにカナヅチなのよ。

 でもね?

 カナヅチを責められた事は一度もないの。養成所の所長なんかは「潔くて良いじゃないか」って言ってくれたし、大城戸教官も「燃料切れイコール死。ですか。頑張ってください」なんて励ましてくれたもの。

 目が何かを諦めてたけど……。

 

 「うわやば。溺れ……」

 「もしかして、矢矧は泳げないんですか?」

 「そうっぷ……よ!だから助け……マジで助けて!」

 「はぁ、それは良いんですけど……。泳げないのに一緒に落ちるとか馬鹿じゃないんですか?」

 「わかってるわよ!それはわかってるし後悔もしてるからサッサと助けて!」

 「はいはい。わかりましたから暴れないでください」

 

 呆れながらも、少しは笑顔が戻った大和の背にしがみついて浜まで戻った私は、情けないことにへたり込んで動けなくなってしまった。

 いや、改めて思ったけど、泳げないのに艦娘やってるってかなりアウトじゃない?

 しかも弱い上に無能だし。

 なんかもう……。

 

 「艦娘、辞めようかな」

 「泳げないだけで?」

 「そうよ!言っとくけどそれだけじゃないわよ?貴女は知らないだろうけど、私って駆逐艦に叱られるほど弱いんだから!」

 「練度が高い駆逐艦はそれだけ経験豊富だと言う事です。その駆逐艦に、精々数ヶ月程度の経験しかない矢矧が叱られるのは当然では?」

 「そうだけど……!」

 「今はダメでも、努力すれば必ず報われる日が来ますよ。ほら、矢矧は競争率が激しい中、矢矧の座を勝ち取ったのでしょう?」

 

 そう言えなくもない。

 隣に腰を降ろした大和が言った通り、私は数いる矢矧候補の中で一番成績が良かったから矢矧になれた。

 でもそれは、あくまで養成所が定めたカリキュラムを効率よく消化しただけ。要領が良かっただけ。

 養成所で学んだことは本当に基礎中の基礎でしかなかったんだって、実戦を経験して痛感したわ。

 特に、初戦闘で大城戸教官の戦い方を見れたのが大きかったわね。

 アレを見てなかったら、私は教本通りの戦い方しかせず哨戒任務中の遭遇戦で沈んでた可能性だってあるわ。

 だけど、その事を貴女に諭されたくなんかない。

 

 「そうよ。私は競争に勝って『矢矧』なった。じゃあ貴女は?」

 「私……ですか?私は……」

 「貴女は養成所に通ってない。他の候補生と競争すらしていない。貴女は『大和』になろうと努力していた人達の間に割り込んで『大和』の座を掠め取った。そんな貴女に説教なんかされたくない。大和になったクセに大和って呼ばれたくないとか言う奴が偉そうなことを言うな!」

 「ち、違います!べつに偉そうにする気も説教する気もありません!私はただ……」

 

 ただ?ただ何よ。

 相談に乗った気になった?励ました気になってた?

 私には悩みを打ち明けないクセに、自分だけ私を励まして悦には入るな!

 

 「私にも励まさせなさいよ!私たち友達じゃないの!?何か悩んでるんなら相談くらいしてよ!」

 「で、でも私の悩みはその……普通じゃないと言いますか、下手をすると痛い子と思われる可能性が……」

 「貴女の頭が痛いのは今に始まった事じゃないでしょうが!だから話せ!さあ!さあ!」

 「わ、わかりました!わかりましたから詰め寄らないでください!まだ臭いが落ちてないですから!」

 

 え?まだ臭いの?

 海水に浸かったせいで磯臭くなったんじゃなくて?

 ま、まあ私の臭いは取り敢えずいいわ。今は臭いをどうやって落とすかよりも大和が何に悩んでるかの方が大事だから。

 

 「……と、言う訳なんです」

 「あ~なるほどね。はいはい、よぉ~っくわかったわ」

 

 何言ってんのこの子。が、大和の悩みの原因を聞いた私の素直な感想よ。

 だって大和ったら、自分は別の世界線で沈んだ『戦艦大和』の魂が転生した姿で、それを今日この世界線の『大和』に会って自覚させられたとか言ったのよ?

 常識的に考えれば、大和はアニメや漫画に影響されて厨二病を拗らせた痛い子だわ。

 

 「私は何なんでしょうか。人間?それとも船?それとも別の何かなんでしょうか」

 「いやいや、どう見たって人間じゃない。それとも何?貴女って、中身は機械仕掛けなの?」

 「いえ、他の人と違いはありません」

 「だったら人間で良いじゃない。何を悩む必要があるの?」

 「でもでも!私は元々人間じゃなかったんですよ!?」

 「それでも今は人間でしょ?元が付喪神的なモノだったとしても、今は人間なんだから問題ないじゃない。それとも、元が付喪神だったって思い出して何か変わったの?」

 

 変わってないでしょ?

 少なくとも私には、見た目はもちろん、性格も変わってるようには見えない。

 強いて言うなら元気がないくらいよ。

 って言ったところで、再び体育座りして膝に顔を埋めた大和には届かないんでしょうね。

 だったら……。

 

 「私には前世の記憶なんてモノはないから、貴女の気持ちを本当の意味では理解してあげられない。でも、これだけは言ってあげられるわ」

 「なん……ですか?」

 「い、一回しか言わないからね!だから耳の穴かっぽじってよぉ~っく聞きなさい!」

 

 大和が視線を向けたのを確認した私は、一度大きく深呼吸して覚悟を決めた。

 覚悟は決まったけどやっぱり恥ずかしいなぁ……。

 出来ることなら言いたくない。でも私の言葉で、大和が少しでも立ち直れるのなら言ってあげたい。

 いや、言わなくちゃ。

 

 「私が知る大和は貴女だけ。貴女は私の心友の大和撫子であり、私の戦友である戦艦大和よ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 正直言って、その言葉がどれだけあの子の心に響いたかなんてわからないわ。

 

 でも、あの時のあの子は、少しだけ笑って「ありがとう、矢矧」って言ってくれたの。

 これは私の思い込みかもしれないけど、あの子から憑き物が取れたように感じたわ。

 

 それから?

 それからはたしか……二人でお風呂に入って適当に雑談して別れたんだったかな。

 

 ええ、普段通りとはいかなかったけど、その日別れるまでは以前の大和でいてくれたわ。

 

 でも、次に会った時は別人みたいに感じたわ。

 ああ、断っておくけど悪い意味でじゃないわよ?

 

 ええ、良い意味で別人だった。

 呉で別れて、次に会ったのはその年の冬に横須賀で開催された『艦種別国際艦娘演習大会』でだったんだけど、容姿や性格はそのままに、一度戦闘になると激しい中にも凛々しさを秘めた、正に戦艦と呼べる艦娘になっていたわ。

 

 青木さんも覚えてるでしょ?

 今でも元艦娘と呑む時は、必ずと言って良いほどその時の話題がでるもの。

 

 ええそう。

 大和とアイオワさんの試合は、今でも元艦娘達の間で語り草になってるわ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡 矢矧へのインタビューより。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。