正義の味方に必要なモノとは何か。
特殊な力?苦楽を分かち合う仲間?それとも確固たる信念かしら。
人によって色々あるとは思うのだけど、私は敵だと思うの。だって悪役が居なきゃ、正義の味方なんて成り立たないでしょ?
悪役と言っても、俗に犯罪者と言われる人達じゃないわ。そういう人たちは警察なりに任せておけばいいんだから。
私が言う悪役とは警察じゃどうにもならない人外の事。例えば怪人とか怪獣とか、世界征服を狙うような悪の組織とかね。
そういうモノが居なきゃ、正義の味方なんてコスプレした変態か中二病をこじらせた痛い人だわ。
あ、誤解しないでね?あくまで私がそう思ってるだけだから。異論があればもちろん認めるわ。
で、なんで私がこんな事を言い出したかと言うと……。
「こう!こうね!矢矧さんのポーズはこうで決まり!」
「いやいや、そんな仮面ラ〇ダーみたいなポーズじゃバランス悪いでしょ。身長的に、矢矧さんは神風姉の後ろなんだからさ、両手広げてこんな感じで良いんじゃない?」
「ちょっと待ってください朝風さん。それではグ〇コのポーズです。変なクレームが来たらどうするんですか」
「朝風の姉貴も春風の姉貴もわかってないね。変に奇を衒う必要なんてないさ。矢矧さんは神風の姉貴の後ろで腕組みしてドヤ顔。これだね!」
「松姉さんは矢矧さんを未完の最終兵器になさるおつもりですか?ガイ〇ックスからクレームが来たらどうするんですか」
朝の五時から、鎮守府を案内するために私を部屋まで迎えに来たこの子達がその原因。
私が身嗜みを整えている間、私のポーズを真剣に会議している彼女たちは神風型駆逐艦姉妹で、『駆逐戦隊カミレンジャー』と名乗って深海棲艦と言う名の悪役を相手にヒーローごっこをしているそうよ。
あの化け物相手にヒーローごっこをする余裕があるなんて凄いとは思うけど、なぜヒーローごっこをする必要があるのかとも考えちゃうわね。
「ね、ねえ……。本当に私もやらなきゃいけないの?」
「当り前じゃないですか!矢矧さんは待望の新メンバーなんですよ!?私たちが待ちに待ったカミシルバーなんです!」
ふんすと鼻息を鳴らしながら、身嗜みを整え終わって五人の前に腰を下ろした私に詰め寄って来たのは部屋に集った五人のリーダー格。これでもかと赤系統の色で全身を着飾った神風型駆逐艦の神風ちゃん。
私を歓迎してくれるのは嬉しいんだけど、カミシルバーはやめて欲しいなぁ……。だって、シルバー要素皆無なんだから。
「神風姉の言う通りね。今まで『駆逐戦隊カミレンジャー』として活躍して来たけど、名乗る度に「いや、駆逐隊じゃね?」って言われてたのが、矢矧さんが加入した事でようやく『戦隊』を名乗れるようになったんだから!」
うわっ!眩しい!部屋の明かりがおでこに反射して眩しいから頭の角度を変えて朝風ちゃん!
って言うか、べつに駆逐戦隊でも良いじゃない。私が入ると何で戦隊って名乗れるように……。あ、そうか水雷
うわぁ……。心底どうでもいいこだわりだわ……。
「矢矧さんは最新鋭の軽巡洋艦。やはり…私達の様な旧型の駆逐艦と組まされるのは不本意なのでしょうか……」
「そ、そんな事はないわ春風ちゃん!確かに阿賀野型は最新鋭だけど、私自身は着任したての新米なんだから!」
「なるほど、新米だから僕たちのような旧型で我慢する。と言う事だね?」
「松姉さん。それは少々嫌味が過ぎるかと。慣れるまでの練習台くらいにしておきましょう?」
嫌味どころか毒が!毒がきついわ旗風ちゃん!そんな事は欠片も思ってないから安心して!
「けど、そう言えばそうよね。なんで私達なんだろ?朝風は何か聞いてる?」
「神風姉が聞いてないのに私が知る訳ないじゃない。春風は?」
「私も存じ上げません。司令官様なりのお考えがあっての采配だと思いますけど……」
「そりゃあ僕たちが強いからさ!僕たちと対等にやり合える駆逐艦なんて、同じ技が使える……」
「松姉さん。それ以上は言ってはいけません。しーっです。口を縫い付けますよ?」
ん?今何と?松風ちゃんが『同じ技』とかなんとか言ってたけど……。
「ねえ。同じ技って何?」
「いやぁそのぉ……。聞き間違いじゃないかしら。ねえ!朝風!」
「私に振らないでよ!『脚技』の事を漏らしたのは松風なんだから!」
「ちょっ!朝風さん!」
「あ~あ。僕知らないよ。言ったのは朝風の姉貴だからね」
「火種を蒔いたのは松姉さんですけどね」
『脚技』?キックか何かかしら。いや、待って。『脚』って言ったわよね?
ここで言う『脚』とは恐らく、艦娘が扱う『弾』『装甲』『脚』と呼ばれる三種類の力場の『脚』の事。だとしたら、『脚技』とは『脚』を使った何かしらの技術の事のはず。
例えば…そう!あの時、大城戸教官がやってたみたいな!
「それってもしかして、海面を滑空したりするヤツの事!?」
「え?矢矧さんは『トビウオ』を知ってるんですか?」
「『トビウオ』?あれは『トビウオ』って言うの?教えて神風ちゃん!」
「いや…あの……。矢矧さんはどこでそれを見たんですか?」
「初出撃の時に、大城戸教官がやってるのを見たの。貴女達も同じ事が出来るんでしょ?」
「大城戸?え~と…誰だろ…大城戸……」
いや、そこは今どうでも良いのよ神風ちゃん。大城戸教官が何者なのか悩んでないで早く教えて。
10ノット程度しか出せない内火艇ユニットで、瞬間的にとは言え30ノット以上出すあの技を貴女達も使えるのでしょう?
「もしかして先代の大潮さんの事じゃない?艦娘辞めて教官になったって噂を聞いた事があるし」
「あー!大潮さんか!ナイスよ朝風。だったら、使ったのは『稲妻』だった可能性もあるわね!」
「い、稲妻?あれと似たような技が他にもあるの?」
「有る事はあるのですが……」
「春姉さん。ここまで言ったらもう隠す必要はないのではないですか?」
「そうだね。僕らが『脚技』を使えるのは他の軽巡は知ってるんだし、遅かれ早かれ耳に入るさ」
さっきまで、早朝とは思えない程テンションが高かった五人が急にしおらしくなった。神風ちゃんと朝風ちゃんはお互いを見ながら、目で「貴女が言いなさいよ」「いやいや、ここは神風姉が」と言い合ってるように見えるわ。私には言いにくい事なのかしら。
「はぁ……。わかりました。言います。私達を含む一部の駆逐艦は、軽巡の人達が邪道と蔑む『脚技』と総称される技法を習得しています」
「邪道?神風ちゃん、それはどういう事?」
「言葉通りです。『脚技』は、かつて最古の艦娘と呼ばれた人が創作した『脚』の応用技で…いえ、悪あがきと言った方が良いのかしら」
『脚』を応用する事が邪道?しかも悪あがき?訳がわからないわ。例え邪道だとしても、強くなれるなら習得すべきじゃない。だって、それを習得している大城戸教官は内火艇ユニットで深海棲艦を倒すほど強かったんだから。
「なぜ邪道と蔑まれるか。それは、艦娘が培ってきた戦い方を否定するような技だからです」
「艦娘が培ってきた戦い方を否定?」
「そうです。矢矧さんは駆逐艦が同型艦、もしくは性能の近い艦同士で駆逐隊を組む理由をご存知ですか?」
「それは……。その方が艦隊行動をし易いからじゃない?例えば、速度とかも合わせやすいし」
「そうです。性能が違い過ぎる艦同士では駆逐隊を組みにくい。極端な例ですけど、島風などは速度が他の艦と違い過ぎるから駆逐隊を組めずにいます」
つまり、『脚技』は艦隊行動を阻害する技術ということかしら。だから駆逐艦を率い、嚮導する立場にある軽巡洋艦から邪道と蔑まれると?
そんなバカな。あれほどの技術よ?蔑む前に広めるべきじゃない。もし、あの時大城戸教官がしたような事を真っ当な艤装を着けた艦隊全員が出来れば100ノットを超える速度で艦隊行動をとる事も可能なんじゃない?
「聞かれる前に言っておきますが、『脚技』は艦娘全てが使える訳じゃありません。使えるのは精々軽巡まででしょうか」
「だったら……!」
「水雷戦隊だけでも使える様にすべき。ですか?それは反対です」
「それはどうして?貴女達は使えるのでしょう?」
「ええ、使えます。だからこそ反対するんです。『脚技』を使わなくて済むのなら使うべきじゃない」
使わなくて済むなら使うべきじゃない……。
神風ちゃんがそう言うからには何かしらの理由があるはず。それは何?自分たちの優位性が薄れるから?違うわね。今日会ったばかりだけど、この子達はそんな事に拘るような子達じゃない。
それ以外で広めるのを反対する理由。そういえば、神風ちゃんは『脚技』を悪あがきと言ったわね。もしかして……。
「『脚技』には…デメリットがあるの?」
「はい。『脚技』は燃料消費の増加、肉体への負担というデメリットがあります。さらに、習得と使用可能回数に個人差があり、出来ない人はいくら練習してもできないそうです。そんなモノを使って艦隊行動がとれますか?」
「で、でも…出来る人だけで艦隊を組めば……」
「確かに出来る人だけで艦隊を組めば可能でしょう。でも、艦娘の運用が始まって14年、それが叶った事は私が知る限りありません。駆逐隊レベルでなら私たち以外にも例がありますけど」
「それを望むくらいなら、普通に艦隊行動を訓練した方が早い……。と言う事ね」
「そういう事です。けど、安心しました。この事を明かすのは少し勇気がいりましたので」
どうして…なんて聞く必要なんてないわね。五人の安心した表情を見ればなんとなくわかるわ。
きっとこの子達は、『脚技』を修得してると言うだけで軽巡達から敬遠されてきたんでしょう。だから、私の否定的じゃない反応を見て安心したんだわ。だったら、もっと安心させてあげようじゃない。
「神風ちゃん。さっき、『脚技』は軽巡でも出来るって言ったわよね?」
「え?ええ……。言いましたけど……」
「私に『脚技』を教えて。いえ、教えて下さい」
「はぁ!?矢矧さんに『脚技』をですか!?」
「ダメ?」
「ダメじゃないですけど……。良いんですか?他の軽巡の人から何を言われるかわかりませんよ?」
「他人に何と言われようと関係ないわ。私は強くなりたいの」
しかも、ただ強くなるだけじゃない。私は大城戸教官のように強くなりたい。
そのためなら他の軽巡にどう思われようと構わないし、邪道にだって手を出すわ。
「どうするの神風姉。私は教えても良いと思うけど」
「私も朝風さんと同意見です。強くなりたいと言う気持ちは痛いほどわかりますから」
「まあ、『脚技』を使えるようになってくれた方が僕たち的にもメリットはあるしね」
「不本意ながら松姉さんに同意します。猫を被る必要が無くなりますから」
ふと思ったけど、旗風ちゃんは松風ちゃんの事が嫌いなのかしら。さっきからちょいちょい絡んでるし……。
「わかった。教えてあげます。でも円満さんの許可を取らせてください。やっぱりその…色々としがらみ的なモノがあるから……」
「うん。それで良いわ」
よし!大城戸教官みたいになれる足掛かりが掴めた!提督の許可が下りるかどうかがちょっと心配だけど、ダメって言われてもコッソリ教えて貰えば良いわよね!
「じゃあ早速行くわよ!善は急げって言うし!」
「あ、それは無理。今行ったら許可して貰えない可能性が高いわ」
「どうして?神風ちゃん。時間によって態度がコロコロ変わる人なの?」
「そうとも言えるけど……。司令官って朝が弱いんです。今の時間だと確実に寝てますね」
朝が弱いって…いや、まだ6時前か。確かに早いわね。もうちょっとで総員起こしがかかるとは思うけど。
「だったら案内も兼ねて『猫の目』に行かない?確かモーニングもやってたよね?」
「朝風さんにしては良いアイディアだと思いますけど、昨日出撃してましたから今日はやってないんじゃないですか?」
また知らない単語が出て来た。『猫の目』ってなんだろ?モーニング云々って言ってたから喫茶店かしら。
差し詰め『喫茶 猫の目』って感じ?まさかマスターは海坊主って呼ばれてないわよね?昔あった『都市狩人』って漫画で出て来た喫茶店みたいに。
「取り敢えず行ってみるかい?海坊主さんに頼めば何かしら出してくれると思うよ?」
「旗風も賛成です。お姉様方にもお会いできるかも知れませんし」
今サラッと松風ちゃんが海坊主と言ったような……。
もしかしてそうなの?やっぱりキャッツアイ的な喫茶店なの?だから『猫の目』なの!?
「でもあそこ…初心者にはキツくない?視覚的に」
いやいや、喫茶店に初心者もなにもないでしょ神風ちゃん。けど視覚的にって事は、奇天烈な外見のお店なのかしら。
と、軽く考えていた事を、私は後に後悔したわ。
お店の外見が奇天烈なんだと思ってたから、喫茶店に着くまでに通り過ぎた、壁一面にインド人の絵が描かれた『カレーショップ ダルシム』の方だと勘違いしちゃったけど、喫茶店に着いて店の外見が普通な事に安堵した私は心の装甲が0のままその光景を目の当たりにしてしまった。
どんな光景だったかって?
普通に言えば三人の店員…店員よね?あれ……。に出迎えられただけよ。
けどその店員が問題で、角刈りの三人の店員(仮)は、逆三角形でムキムキの体にピチピチのレオタードを身に着け、この世のモノとは思えない笑顔を浮かべて、ボディビルで言うところのフロントダブルバイセップスのポーズをとり、地獄の底から響いて来そうなほど低い声を揃えてこう言ったわ。
「「「見~つめるキャッツアイ♪」」」と。
それを見た途端、私の脳はその光景の意味を理解することを放棄してシャットダウンしたわ。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)