年を跨いじゃいましたが、十章の投稿を開始します!
第九十話 姉妹って良いな
姉さんたちは艦娘を辞めた今でも仲が良い。
特に円満さんと澪姉さん、そして恵姉さんは10年近い付き合いだという事もあって本当の姉妹みたいに仲が良いわ。
いや、本当の姉妹より仲が良いかもしれない。
私には血縁者がいないから想像しか出来ないけど、血縁関係があったらここまで遠慮のない付き合いなんてできないんじゃないかな。
今日だって、休みを合わせて『喫茶 猫の目』に集まってカウンター席を占領してる四人は、遠慮なくズケズケと円満さんのメンタルを削ってるもの。
しかも、15時の休憩をここでコーヒーでも飲んで過ごそうって人達を閉め出してね。
ちなみに私は、海坊主さんのお手伝いをしながら様子を見守ってるわ。けっして巻き込まれないようにしてるわけじゃない。
「円満ちゃんに彼氏かぁ……。なんだか感慨深いわぁ」
「ホントだね。私心配してたんだよ。このまま円満が、司令官への想いを拗らせたまま行き遅れたらどうしようって」
「あ、澪ちゃんもそう思ってたの?」
「そう言うって事は恵も?」
「ええ、だって円満ちゃんが司令官の事を好きになったのって姉さんが亡くなった頃からでしょぉ?」
「そんなに前からだったの!?私てっきり、円満が司令官に惚れたのは晩酌の相手をしだしてからだと思ってたよ」
こんな感じでね。
今日は貸し切りにしてもらってるから海坊主さん以外に聞かれる心配はないけど、下手したら円満さんと元帥さんの立場が危うくなるようなことを平気で言ってるわ。
で、この話でメンタルが削れてそうな円満さんとお姉ちゃんはと言うと……。
「そ、そんなに前から……」
「澪と恵がそう思い込んでるだけだから真に受けんじゃないの。それよりアンタ、今日は桜子さんのとこに泊まるの?」
「はい、そのつもりです。明日はお休みですから。円満さんも明日はお休みですか?」
「ええ、だから今日は、澪と恵とで鳳翔さんのところで呑もうと思ってたんだけど……アンタはどうする?」
「澪さんと恵さんとは滅多に会えませんから私もご一緒したいですが……」
「寝ちゃうのが心配?時間になったら誰かに迎えに来てもらえばいいじゃない。なんなら私の部屋で寝てもいいし」
円満さんがま~た勝手な事言ってる。
私の部屋で寝たらいいとか言ってるけど、鳳翔さんのところから部屋まで運んで布団に放り込むのはどうせ私の役目なんでしょ?
だって円満さんたちの飲み会が、お姉ちゃんの電源が切れる21時で終わるとは思えないもの。
「もう少ししたら行く感じですか?」
「そうねぇ。ご飯も食べたいから、18時くらいにここを出たんでいいんじゃないかしらぁ。大淀ちゃんはそれだと都合が悪い?」
「いえいえ、そんな事はありません。桜ちゃんのお守りを神風さんに任せっきりなのが少し気になっただけです」
神風はまた桜ちゃんのお守りを押し付けられてるのか。呉から帰ってこっち、桜子さんを相手に実戦さながらの訓練をしてるってのに大変ね……。
それしても、昼前までは一緒に訓練してたはずなのに、桜子さんは愛娘をほっぽってどこで遊び歩いてるんだろ?
「ちょ!ちょっと待ってくれっす!大淀さんが飲み会に参加したら、自分と桜ちゃんの晩ご飯は誰が作ってくれるんすか!?」
はて?「お義母さんと呼びなさい」とか言ってるお姉ちゃんは無視するとして、海坊主さんが心底焦って変な事を言い出したわね。誰が作るも何も、海坊主さんちのご飯を作るのは……。
「誰がって……桜子さんじゃない?」
「いやそれが、さっき親父から連絡があって桜子さんは今晩親父の面倒を見るそうっす。だから作ってくれる人がいないんすよ」
「あ~、それで姿が見えないのか」
「そうっす。自分が作ってもいいんすけど、自分男料理しか作れないんで桜子さんに禁止されてるんすよ」
「どうして?」
「味付けが濃いんす。自分一人ならいんすけど、桜子さんの手料理を食べて育ったせいか桜ちゃんってあの歳で舌が肥えちまってて……」
なるほどわかった。
海坊主さんは自分が食べる分と言うより桜ちゃんのご飯で困ってるのね。
たしかに桜子さんは、普段の破天荒な言動とは裏腹に料理上手だから、その桜子さんの手料理を食べて育った桜ちゃんは下手な料理を受け付けないでしょうね。
だったら神風でいいじゃない。
と、なりそうだけどそうはならないのよねぇ。
何せ神風は、桜子さんと違って料理ができないんだもの。唯一作れるのがおにぎりだったかな?
「私が作ろうか?円満さんが鳳翔さんのところに行くなら今日は作る必要がないし」
「マジっすか!?それマジで助かるっす!」
「あ、でも」
今さらではあるけど、私は桜子さんから料理の手解きを受けている。今でも暇を見つけては教えてもらってるわ。
そのおかげで、私は13歳という若さにしてそこらの料理人と大差ないくらいの調理技術を身につけてるの。
しかも、機械音痴の桜子さんでは扱えない調理器具を使った調理もできるというオマケ付きよ。
桜子さんの味付けの仕方も知ってるから、桜ちゃん好みの味付けもできる。問題があるとすれば……。
「私、桜ちゃんに嫌われてるのよね……」
何故だかはわからない。
でも、桜ちゃんは確実に私を嫌ってる。それは目を見てわかったわ。
私が桜子さんに料理や護身術を習ってる間、桜ちゃんはずっと恨めしそうに睨んでたんだから。
「気にすることないっすよ。桜ちゃんは単に、大好きなママを取られたと思って嫉妬してるだけっす」
「でも神風は……」
「神風は家族みたいなもんっすからね。お姉ちゃんどころかもう一人のママみたいに思ってる節があるっす」
「ふぅん、それなら問題ない……か」
相も変わらず空気を読まずに「私はばぁばと呼ばれてます!」とか言いながら胸を張ってるお姉ちゃんは無視でいいとして、桜ちゃんはたまに来る他所の子である私が桜子さんと仲良くしてるのが気に食わないのね。
そういう事ならまあ、気にする必要はない……かな。
「あ、嫉妬と言えば、満潮は平気なの?」
「何が?澪姉さん」
「円満の彼氏の事だよ。もしかしたらすでに惚れてるかもよ?」
「いや、意味分かんない」
誰が誰に惚れてるって?
まさかとは思うけど、私がつい先日名残惜しそうに帰国したヘンケン提督に惚れてるって言ってるんじゃないわよね?
でもお生憎様。確かにヘンケン提督はイケメンだけど、円満さんにベタ惚れなのが丸わかりだから興味なし。
私って、私だけを見てくれる人にしか興味ないのよ。だから100%有り得ないわ。
「あ~、たしかに有り得るわねぇ。『満潮』って不倫願望が強そうだし」
「ちょっと恵、それは聞き捨てならないわよ」
「でも事実でしょぅ?円満ちゃんの先代もそうだったって話だしぃ。ある意味『満潮』の性なのかもよぉ?」
待って?
円満さんの先代って事は私の先々代、つまり初代満潮よね?その人も円満さんみたいに、人の旦那に横恋慕しちゃってたりしたの?
「あの頃は部屋が修羅場ってたなぁ……」
「澪姉さんはその人の事知ってるの?」
「もちろん知ってるよ。艦娘としては私の先輩だったからね」
「へぇ、じゃあやっぱり、初代朝潮と司令官を取り合ってたの?」
「うん……まあそんな感じかな」
なんか思い出したくなさそう。
どんな風だったのか気にはなるけど、それよりも気になるのは火付け役の恵姉さんとお姉ちゃんの反応。
恵姉さんは「あらあら、瓢箪から駒とはこのことねぇ」とか言って驚いてるわ。もしかして、冗談で言ったのがマジだったから驚いてる?
そしてお姉ちゃんは「あの子には辛い想いをさせてしまいました……」とか言って落ち込んじゃったわ。あの子って誰のことだろ?
「円満さんどうしたんですか?何か心配事でも?」
「うん、ちょっとね……」
ん?お姉ちゃんの言葉で初めて気付いたけど、円満さんが右手を顎に当てて何か考え込んでるわ。
ついさっきまで雑談に興じてたんだから、円満さんを悩ませてるのは作戦に関する事じゃない。
あるとするなら……。
「桜子さん?」
「ええ、たぶん桜子さんは今大本営。つまり先生のところに居るのよね?」
「そうなるんじゃない?お姉ちゃんは会わなかったの?」
「それが、どうも入れ違いになったようで会ってないんです」
ふむ、それで今晩は、桜子さんが元帥さんの面倒を見ることになったのか。
親の面倒を見る暇があるなら子供の面倒を見なさい。と、言いたいところだけど、桜子さんは海坊主さんや桜ちゃんと同じくらい元帥さんを大切にしてるからそれも言えないわね。
元帥さんも何だかんだ言って、桜子さんの我が儘を楽しんでる節があるし。
「なぁ~んか企んでる気がする。ねえ海坊主さん。桜子さんから何か聞いてない?」
「さあ?自分は何も聞いてないっす」
「本当に?」
「本当っすよ。ああでも、呉から帰ってから何か悩んでるみたいっすね」
「悩んでる?あの桜子さんが?」
円満さんは桜子さんが悩んでると聞いて心底不思議そう。
たしかに桜子さんは、悩む暇があるなら力尽くで物事を解決しようって考える短絡思考よ。
でも、あの人がそうするのは自分に関する事だけ。
自分以外の人が絡んだ事だと、円満さん並に悩んで綿密に計画を練り、外堀を埋めてから行動に移す用意周到さを合わせ持つの。
まあ、これは本当に桜子さんと親しい人しか知らない桜子さんの一面だから、泣くまで自分をイジってくる天敵くらいにしか思っていない円満さんがわからないのも当然かもね。
「嫌な予感がするわ。桜子さんが先生のところに行ったってことは、何かしらの許可を取り付けに行ったって事。さらに、最近になって神風をしごき始めた事と結びつけると……。呉で誰かに、例えば駆逐艦の誰かに喧嘩を売られた?いや、それだと神風を巻き込む必要がない。自分でやった方が手っ取り早いもの。もっと何か……そう!例えば呉に居る誰かの身内が呉の駆逐艦の中に居て、仲を取り持つために神風と誰かを戦わせようとしてるとか……。いやいや、いくらなんでも飛躍しすぎね。単に喧嘩は売られたけど自分が手を出したら問題があるから、以前のエキシビションマッチの時みたいに公衆の面前で神風にボコらせようとしてるだけかもしれないわ。だとすると、相手は桜子さん自ら神風を鍛え直さなきゃならいほどの相手。もしかして雪風?それとも、雪風に準ずると言われている磯風かしら。神風と霰が揉めてたから、相手は霰って可能性も捨てがたいわね……」
とりあえず長い。
推理に没頭するのはいいんだけど黙ってやってくれない?
ほら、澪姉さんと恵姉さんなんか完全に無視して雑談に興じてるし、お姉ちゃんは「ちょっと桜ちゃんの様子を見てきます」とか言って逃げようとしたところを雑談していた澪姉さんと恵姉さんに捕まっちゃったわ。
「そう言えば、鳳翔さんのところに行くのはいいっすけど予約はしてるんすか?」
「予約?あ~どうだろ?してるとは思うけど……」
「予約無しじゃ入れないかもしれないっすよ?鳳翔さんから「花組を臨時アルバイトとして貸してください」って頼まれたくらい予約でいっぱいらしいっすから」
「へぇ、花組をアルバイトにだなんて、よっぽど濃い面子が貸し切りにしてるのね」
とは言ったものの、私も数日後に予約を取っている。正確には私じゃなくて朝雲さんがだけどね。
なんでも、作戦に参加した駆逐艦を集めて打ち上げをしようって事らしいわ。
普段はそういう席は断る私も、霞さんの助言を受け容れて参加することにしたの。
やっぱりほら、仲良くしたいって気持ちはあるから……ね。
今も目の前で、思考の海に沈んでいる円満さんで遊んでいる二人と、それを止めようとして巻き込まれそうになっているお姉ちゃんみたいに。
「羨ましそうっすね」
「そう見える?」
「そりゃあ、そんな目で四人を見てりゃ誰だってそう思うっすよ」
そんな目ってどんな目だろう。
物欲しそうな目をしてた?それとも寂しそうな目をしてた?まあどちらにしても、海坊主さんが言った通り羨ましく思ってるのは確かよ。
だって、私じゃあ四人の中に入っていけないもの。
姉さんたちは私を可愛がってくれるけど、それは私が後輩だから。四人のように、姉妹であり友人でもある関係にはほど遠いわ。
「これが、霞さんが言ってた宝……か」
「何か言ったっすか?」
「うぅん、なんでもない。ただ……」
「ただ?」
四人みたいな関係は願うだけじゃ手に入らない。自分から動いて、作っていかなきゃけっして手に入らない至高の宝。
今さら仲良くしてって言ったところで受け容れてもらえるかはわからないけど、こんな素敵な関係が手に入るなら勇気を出してみてもいいと思えてしまった。
本当に心から……。
「姉妹って良いな。って思っただけよ」
相変わらず、年甲斐もなくじゃれ合う四人に聞こえないように、私はボソッとそう言って四人を見つめ続けた。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)