艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第九十四話 怖い人

 

 

 

 艦種別国際艦娘演習大会の対戦カードはどういう基準で決められたのか?

 

 そんなの、桜子さんの独断と偏見に決まってるじゃない。一応は私と辰見さんに相談した(と、本人は言い張った)って先生には言ったらしいけど、あれはほぼ桜子さんが()()()()()()()って理由で組まれた対戦よ。

 

 でも、日本艦と海外艦の対戦はあくまでオマケ。

 桜子さんが本当に実現したかったのは、前座として行われた『神風 対 磯風』だったんじゃないかなって私は思ってる。

 

 だってあの人の、あの対戦を組むって言ったときの目は怖いくらい真剣だったもの。

 

 ええ、この案を通さないんなら、私と辰見さんを拷問してでも試合は成立させるって言われたわ。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府司令長官 紫印円満中将へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 大本営から、と言うよりは、先生から正式に通達された欧州連合に所属する艦娘の来日とその親善を目的とした演習大会の開催と運営を任されたその日の午後に、まるで予め知っていたかのようなタイミングで桜子さんが執務室に訪れてどれ位経ったのかしら。

 小腹が空いてきたから15:00(ヒトゴーマルマル)くらい?そろそろ満潮にお茶でも淹れて貰おうかしら。

 

 「決めといてなんだけど結構な試合数ね。終わらないんじゃない?」

 「心配しなくても余裕よ辰見さん。大会は三日間の予定だし、一日に三試合くらいしかやらないんだから」

 「いや、それを心配してるんじゃなくてね?」

 

 だったら何を心配してるの?

 なんか「これ全部書くの?」とか訳のわからない後悔をしているけど……。

 ちなみに大会は三日間。

 今回の大会は、通常の演習大会とは違って民間人も鎮守府に招き入れて大々的に行う予定になっている。

 要は、艦娘ってこんな感じですよ~って感じの民間人へのアピールと歓迎式典を同時にやっちゃおうって魂胆な訳。艦娘を見世物みたいに扱うのが少しだけ気に食わないけどね。

 スケジュールは三日間共に基本的には同じ。

 艦娘によるショー的な出し物と兵隊たちによる演し物と演習よ。

 初日を例にすると、まずは長門を旗艦とする第一艦隊による観艦式と赤城を旗艦とする第一機動部隊による航空ショーを行い、使用者が限られちゃうけど内火艇ユニットを使った艦娘体験教室も開く予定になっている。

 次いで午後から行われるのが演習試合。

 誰と誰を戦わせるかはまだ決まってないけど、日本の駆逐艦娘同士の試合を含めた演習が計三試合よ。

 第二試合は、伊58と独国のU-511による潜水艦同士の対戦ね。どうやって映像を観客席に流すかが問題だけど、潜水艦にカメラでも持たせて撮影させれば何とかなるでしょ。

 

 「ねえ円満、初日の第三試合の長門 対 Nelsonを先にした方が良くない?正直その……潜水艦同士の対戦は地味すぎる気がするわ」

 「辰見さんの言いたい事もわかるけど、前座次第じゃいい箸休めになると思うわよ?」

 

 「いや、潜水艦同士の戦闘ってどう書けば良いのよ……」とか訳わかんない事言って頭抱えちゃったけど大丈夫?あんまりメタ的な事は言わないで欲しいんだけど……。

 それに、U-511は詳しく知らないけど、ゴーヤこと伊58は敵がどこに潜んでいるか把握しづらい東部オリョール海で長年資源確保に勤しんで南方の泊地に貢献した『オリョールの女神』と呼ばれるネームド艦娘。

 いくら潜水艦同士の戦闘だとは言っても地味な試合にはならないはずよ。maybe……。

 

 「心配しなさんな辰見。この桜子さんはそこまでちゃぁ~んと考えて前座試合を組んでるから」

 「へぇ、嫌な予感しかしないけど誰と誰?」

 

 まるで、ここが勝負時だ。とでも言わんばかりに桜子さんの瞳が爛々と輝いてる。

 下手すると、私が数日前にした予想が悪い意味で当たっちゃうかもしれないわね……。

 

 「神風と磯風」

 「一応聞きたいんだけど、どうしてその二人なの?」

 「あら、円満は反対?」

 「その二人を選んだ理由次第では……ね。単に喧嘩を売られたからってだけなら、艦娘を私闘の道具にするなと反対する」

 

 桜子さんの不敵な笑みを見る限り、喧嘩を売られたからって理由もあながち的外れじゃない。でも違う気がする。桜子さんがその二人を戦わせようとしている理由はもっと別の何かだわ。

 

 「私闘だっていうのは否定しない」

 「だったら悪いけど……」

 「でも却下もさせない。アンタと辰見を拷問してでも、この対戦は成立させる」

 

 桜子さんがそう言った途端、執務室に漂う空気が一変した。それまで口を挟まずに静観していた満潮が冷や汗流しながら私と桜子さんの間に割って入り、辰見さんが腰に下げた日本刀の柄に手を添える程にね。

 

 「理由を話して。理由次第じゃ反対はしないつもりよ」

 「言えない」

 「言いたくない。じゃなくて?」

 「そうよ。アンタに下手な事を言ったら、そこから全部見抜かれそうだからね」

 

 ふむ、つまりその試合には当事者以外の誰かが絡んでいる。いえ、誰かのための試合って言った方が正しいのかもしれない。

 じゃあ誰かって誰?

 たぶん神風は巻き込まれただけ、もしくは手段として選ばれただけだわ。

 なら神風と対戦して、最も何かを得れる可能性があるのは対戦相手の磯風。

 たしか彼女は、呉最強の駆逐艦と謳われる雪風に準ずると言われている駆逐艦だったはず。

 もしかして、そのせいで天狗になってる?だから姉妹艦の誰か、例えば陽炎あたりに、伸びすぎた鼻をへし折ってくれとお願いされたのかしら。

 でも、それだけなら隠す必要がない。

 まさか、磯風が呉に居る誰かの身内かもしれないって予想が的を得ていた?いえ、その両方かしら。

 鼻をへし折るついでに、ボコられた磯風を見たその身内が見かねて止めにかかるのを期待してるのかもしれないわ。

 いいや、それでも理由を話さない理由にはならない。

 まさか、隠したいのはその身内?

 じゃあ、桜子さんが私に理由を知られたくのって……。

 

 「磯風の身内は私が知ってる人……だから?」

 「うわぁ……。今のやり取りだけでバレるのか。アンタの頭ってどういう構造してんの?」

 「じゃあ、桜子さんが理由を話さなかったのは……」

 「あ~ダメダメ。それ以上考えちゃダメ。それ以上考えるならぶん殴って気絶させるわよ?」

 

 拷問するだの、ぶん殴って気絶させるだのと物騒な事この上ない……。

 ()()()が傷付くのは気にしてくれるクセに、体の傷はこれっぽっちも心配してくれないのね。

 でもまあ、そこまで言うなら考えないようにするとしましょうか。

 ええ、考えないわ。

 磯風の身内が私の知るあの人だって事も考えないし、私がその人の目の前で磯風に死んでこいと命令してたとも考えない。

 じゃないと、桜子さんの気遣いが無駄になっちゃうから。

 

 「ちょっとちょっと~。二人で良い話風のクソ芝居してるとこ悪いんだけど、おかげで私と満潮が置いてきぼりになってるじゃない」

 「あら、いたの?」

 「いたの?じゃねぇよ!こっちはアンタが珍しくマジだから身構えっぱなしなのよ!?疲れるからもう警戒解いて良い!?」

 

 おっと、辰見さんが言った通り桜子さんが珍しくマジだから、私も二人の存在をすっかり忘れてたわ。

 

 「で?どうなの?賛成してくれる?」

 「わかった。賛成します。辰見さんは?」

 「円満が良いなら私も良いわ。本音を言うなら叢雲と満潮で組みたかったけど……」

 「それは断固拒否。理由は言わなくてもいいでしょう?」

 

 「残念……」とか言いながらわざとらしく溜息をついてる辰見さんも懲りない、と言うよりは叢雲が言っても聞かないって言う方が正しいのかしらね。

 あ、でも、危険はないと判断して給湯室に向かった満潮も満更でもなさそうにこっちを覗ってるみたいだし……。

 

 「制限付きでなら二日目の前座試合で……」

 「あ、それ無理。二日目の前座も決めてるから」

 「ちょっとそれズルくない!?対戦カードの全部をアンタが決めてるじゃない!」

 「だって見たいんだもの。それにね辰見。私が見たいって事は元帥であるお父さんが見たいのと同じなのよ?それでもダメって言うつもり?」

 

 先生の名前を出すのはズルい。

 そう言われたら、私も辰見さんも引くしかないわ。

 だって先生と桜子さんの趣味嗜好はたしかに似てるから、今時点で決まっている対戦カードも先生が見たがる可能性が高いんだもの。

 なら、桜子さんが組もうとしている二日目の前座試合も先生が見たがってる組み合わせってことになるわね。

 

 「はぁ、わかったわよ。で?アンタは誰と誰をやり合わさせるつもりなの?」

 「大淀と阿賀野」

 「大淀はともかく阿賀野?なんで?」

 「さあ?」

 「いや、さあ?ってアンタ……」

 「しょうがないじゃない。お父さんがその試合は絶対に了承させろって言ってきたんだもん」

 

 先生が絶対に了承させろと言った?

 今回の作戦で、ワダツミを守るために奮闘してくれた阿賀野に勲章の一つでも贈ってあげてとは先生にお願いはしたけど、それで先生が大淀と対戦させたがるとは考え辛い。

 だって、阿賀野が大淀に比肩するかもしれないほどの実力者だって話はしてないんだもの。

 それなのに、先生がその試合を成立させたがってるって事は誰かに頼まれたから。

 最有力候補は霞ね。

 あの子は先生と個人的に連絡を取り合う仲だし、今だに冷遇されていた頃のことを払拭出来ていない阿賀野を心配もしていた。

 でも霞はおろか、他の鎮守府提督にも今回の大会の話はまだしていない。

 だから、霞から大会で大淀と阿賀野を戦わせてとお願いしたとは考えられないわ。

 だとすると、阿賀野をどうにかしたい霞に相談された先生が、これ幸いと『大淀 対 阿賀野』の試合をねじ込むよう桜子さんに命じたって考える方が自然ね。

 ああでも……。

 

 「辰見さん、試合で使うのは演習弾の予定よね?」

 「そうよ。民間人も見る試合なのに、派手に爆発するだけとは言え怪我の一つ二つはする演習弾で良いのかって疑問はあるけど」

 

 ご説明痛み入ります。

 ちなみに、最初は試合で使用するのはペイント弾の予定だったわ。

 でも桜子さんが「お父さんが、艦娘が普段どれだけ危険な目に遭っているか知ってもらう必要がある。だから演習弾を使っておけって言ってた」って言うから、私も辰見さんも渋々承諾したの。

 でもおそらく、先生が言った理由は方便だと思う。

 本当の理由は、無駄に声の大きい連中にネタを与えておくため。

 要は終戦後、艦娘という制度を廃止するために、民間人が「艦娘を廃止しろ!」って声を上げやすくするためのネタを提供しておくためよ。

 でも、今の問題はそれじゃない。

 それより問題なのは……。

 

 「あの子、手加減ってモノを知らないのよね……」

 「あの子って大淀?」

 「そうよ。辰見さんは知らないだろうけど、大淀って使用する技に制限は掛けれるけど手加減自体は出来ないの。さらに空気の読めなさも加わって、民間人も見てる試合だってのに、一方的に阿賀野を叩きのめす事もしかねないわ」

 「い、いくら大淀でも、民間人も見てるのに血生臭い試合にはしないんじゃ……」

 「甘い!大甘よ辰見さん!実力的に遥かに格下ならあの子もそこまでしないでしょうけど、阿賀野の場合は別なの!」

 「どういう事?それじゃあまるで、阿賀野が大淀と同格かそれに近い実力者だって言ってるように聞こえるんだけど?」

 「そう言ってるの!いい?阿賀野は名前こそ売れてないけど……」

 

 私は、言葉だけでは信じてくれない桜子さんと辰見さんに、阿賀野がどれだけ凄いかを映像付きで説明した。そう!作戦中に撮影された、本来なら軍事機密扱いの戦闘映像付きで!

 

 「へぇ、大したもんじゃない。もしかしたら天龍だった頃の辰見より強いんじゃない?」

 「もしかしなくてもそうよ。下手すりゃ龍佳(りゅうか)並だわ」

 

 余談だけど、龍佳とは辰見さんに実の妹であり、姉妹艦の龍田でもあった人、らしいわ。

 私は会ったことないんだけど、桜子さんが「大淀でも勝てるかどうかわからない」って言うくらい強い人だったそうよ。

 残念ながら戦死しちゃったそうだけど……。

 

 「ねえ円満、阿賀野のこの動きって大淀を参考にしてない?」

 「いやいや、たしかに似てるけど違うわよ辰見。大淀ってもっと動きが細かいし、もっとえげつない攻撃の仕方するから」

 「二人とも正解よ。阿賀野の砲撃姿勢や位置取り、体捌きなんかは大淀を参考にしたものだと私も思う。ただし、朝潮だった頃の大淀のね」

 

 私の回答で、桜子さんは「だから粗があるのか」と納得し、辰見さんは「阿賀野はどうやって大淀の戦い方を知ったの?」って、新たな疑問が出て来たみたい。

 

 「艦娘であれば、機密扱いされてない作戦の戦闘記録を閲覧できるからそれで知ったんじゃないかなって思ってる」

 「あ!艤装の記録機能か!そういえばそんな機能があったわね」

 

 艤装には、出撃中の行動を艦娘視点の映像で記録する機能が備わっている。正確には、艤装ではなく妖精さんが記録してくれてるんだけどね。

 だから艦娘は、出撃中は軍規に違反するような行為は基本的にしない。だって監視されてるのと同じなんだもの。

 

 「たしかに阿賀野は強いかもしれない。でも情報が古すぎるわ。今の大淀と朝潮だった頃の大淀は別人って言って良いほど強さが違うのよ?そんな大淀を相手に、阿賀野がまともに戦えるの?」

 「自分で推選しといて何言ってるのよ。今のままでも勝負にはなると思うわよ?」

 「私が選んだじゃなくて選んだのはお父さん!そこんとこ間違えないでよね辰見!」

 

 それは心配しなくて良いと思う。

 何故なら、そんな事は大淀にもっとも近しい先生が一番わかっていることなんだから。

 その先生が薦める以上、今のままの阿賀野じゃ一方的な展開になることも理解しているはず。

 にも関わらず、先生がこの試合を成立させようとしてるって事は、阿賀野に今の大淀を教えて試合の体裁が整うレベルまで阿賀野が伸びると判断したから。

 つまり……。

 

 「阿賀野に、大淀になってからのあの子の戦闘記録を見せる気なんだわ」

 「いやいやいやいや、それって自分の嫁が負けるところを見たがってるのと同じじゃない。周りがドン引きするレベルの愛妻家の元帥がそんな事する?」

 「普通に考えれば有り得ない。でも……」

 

 霞のお願いならしても不思議じゃない。

 いえ、それだけじゃない。もしかしたら大淀のためでもあるのかもしれない。

 だってあの子は、大淀になってから対等以上の相手と戦ったことが無いんだもの。

 あの子が自分の強さに慢心してるとは思えないけど、自分と同じくらい強い相手との試合は間違いなく良い刺激になるわ。いや、下手をするとこの大会自体が、大淀と言う名の大剣を完成させる手段なのかも……。

 

 「なぁ~んか。全部お父さんの計画通りな気がしてきた……」

 「桜子さんも?」

 「そう言うって事は円満も?」

 「ええ、今回の件なんか正にそうね。いったいいつから計画してたのやら……」

 

 先生は一手でいくつもの結果を出す。

 たまたまそうなった可能性も否定できないけど、あの人の狡猾さは私より一枚も二枚も上。私が今こう考えていることさえ、先生の計画通りなんじゃないかと思うと恐怖すら感じるわ。

 

 「まるでお釈迦様の掌。いえ、先生の掌の上にいる気分だわ」

 「本当ね。精々、握り潰されないよう気をつけなさい」

 「あら、桜子さんもじゃない?」

 「私は平気よ。だって愛娘だもん」

 

 などと、満潮が淹れてきたコーヒーを受け取りながら胸張って言ってるけど、先生は必要なら愛娘すら切り捨てるほどの非情さを持っている。

 その事は桜子さんもわかっているはずよ。

 

 「まったく、相変わらず怖い人……」

 

 と、休憩とばかりに談笑を始めた三人に聞こえないよう呟いた。

 あの人のような非情さを今だに持てない自分に、歯痒さを感じながら。

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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