艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第九十六話 その時はお代を頂きます

 

 

 

 私の午後はお料理の仕込みから始まります。

 それが終われば、地下に造られた私専用の弓道場で千本ほど矢を射ります。

 ええ、毎日キッチリ千本です。

 ですが、ただ単に千本射る訳ではありません。

 詳しい説明は割愛させて頂きますが、射法八節と呼ばれる射の基本動作、所謂『足踏み』『胴造り』『弓構え』『打ち起こし』『引き分け』『会』『離れ』『残心』の全てを一動作として、今日も元気に過ごせる事に感謝しながらそれを千回繰り返すのです。

 その話を瑞鶴さんにした時、「まるでどっかの会長みたい」と仰っていました。

 生憎と私には意味がわかりませんでしたが、私は今でも一日千回、感謝の射法八節を日課の一つとしています。

 ただ……始めた頃は丸一日かかっていたのに、10年近く続けていたら二時間もかからなくなってしまったのが悩みの種ですね。おかげで暇を持て余すことが多くなりました。

 ですが今日は……。

 

 「あ、あの!勝手に入ってしまって申し訳ありませんでした!」

 「いえ、構いませんよ。貴女が入って来たのは鍵をかけていない勝手口。つまり、勝手に入って良い入り口なのですから」

 

 カウンター席に座って畏まっている彼女、大和さんのおかげで退屈しそうにありません。

 今日は予約も入っていませんから仕込みの量は少なくて良いですし、お店も通常通り20時開店なので日課も問題なく熟せるでしょう。

 

 「仕込み前なので簡単な物しか作れませんが、何か食べますか?」

 「頂きます」

 「あらあら♪ここまで遠慮のない子は初めてですね」

 「あ……ごめんなさい。お腹が空いてたのでつい……」

 「ああ、ごめんなさい。嫌味のつもりで言ったんじゃないんですよ?ただ、「頂きます」と即答する子は初めてだったものですから……」

 

 良い意味で驚きました。

 だって駆逐艦ですら少しは遠慮するのに、目の前で照れている大和さんにはそれが皆無だったんですもの。

 でもその方が、遠慮などせずむしろ食わせろと言って欲しい私としては嬉しいのです。

 あ、でもたしか彼女は……。

 

 「赤城ちゃん並に食べるんでしたよね?」

 「え?ええまあ……」

 

 なるほど、だとすると少し困った事になってしまいましたね。

 たまに、桜子さんや赤城ちゃんが摘まみ食いをしに忍び込む事があるので、開店の時間に間に合うギリギリの時間まで私が食べる程度のお米しか炊かないようにしているのです。

 なので、三時のおやつでさえ普通の人の晩ご飯並みの量を食べる赤城ちゃんと同程度の大食漢である大和さんの胃袋を満たすには量が足りません。

 ならば……。

 

 「大和さんはお料理の心得はありますか?」

 「ええ、実家が旅館でしたので基本的な事は一通り……」

 「それは好都合です。申し訳ありませんが、お料理の仕込みを手伝って頂いて構いませんか?」

 「それは構いませんけど……」

 

 なんで手伝う羽目に?

 と、言わんばかりに困惑して首を傾げていますが、ここは開店前とは言え居酒屋です。

 おにぎりを一つ二つ程度ならお手伝いなど求めたりはしませんが、彼女の場合はそれでは済みそうにありませんもの。要は、働かざる者食うべからずです。

 

 「あら、エプロン姿が様になっているじゃないですか。何処かの団地妻みたいです」

 「そ、それは褒められてるん……ですよね?」

 「もちろんです。初々しさと色気が同居していますよ。私が男性なら押し倒しているかもしれません」

 

 私的には褒めたつもりだったのですが、「私……まだ未婚だし10代なのに……」と言いながらシュンとしてしまった大和さんの反応を見るにお気に召さなかったようです。

 でも本当に似合ってるんですよ?

 私の予備の割烹着ではサイズが合わなかったので、アルバイトさん用に作った居酒屋 鳳翔のロゴが入った茶色のエプロンを制服の上から着ただけではあるんですが様になっているんです。

 しかも!

 手袋や首輪などの装飾を外した状態の制服がほとんどエプロンで隠れてしまっているので、正面から見ると裸エプロンにしか見えません。

 ハッキリ言いますと……。

 

 「エロい!」

 「ふぇ!?」

 「いえいえ、何でもありません。取り敢えずお米を研いでもらって良いですか?」

 「いやいやいやいや!ハッキリと大声でエロい!とか言っておいてどうして何事もなかった風が装えるんです!?」

 

 誤魔化されてくれませんか。

 アレだけハッキリと口に出してしまったので仕方ないと言えば仕方ないのですが……。

 このままだと、私が同性に欲情する人と勘違いされかねませんのでなんとか誤魔化しましょう。

 

 「大和さんはエロいと言われて嬉しくありませんか?」

 「ええ……なんでそんなに心底不思議そうに聞き返せるんですか?喜ぶ女性は稀だと思うんですけど……。鳳翔さんは嬉しいんですか?その、エロいって言われて」

 「当然です。大和さんはまだお若い……。いえ、私も若いですけれど、エロいと言われる事は女性的な魅力があるという証拠です。女性として魅力的と言われて嬉しくないわけがないでしょう!」

 

 おっと、私としたことが少しだけ熱くなってしまったようです。私の気迫に、大和さんが「そ、そうですね……」と言って逃げるようお米を研ぎ始めました。

 まあ大和さんももう少し、もう10年ほど歳を重ねれば理解できますよ。

 若い内は若いと言うだけでちやほやされますが、歳が三十を過ぎると途端に相手にされなくなります。

 例えば私と大和さん。

 大和さんはかなりの器量好しで、胸などは思わず凝視したくなるほど自己主張が激しいです。

 しかもまだ10代!

 彼女を前にすれば「肉と女は腐りかけが一番美味い」などと寝言を仰る人もルパンダイブをするでしょう。

 片や私は、彼女とは逆で器量好しとは言い難く、提督よりは有りますが胸の大きさは細やかな物です。

 それに加えて私は今年で三十……歳!

 酒保の店員さんや常連客の男性陣は「鳳翔さんみたいな人を嫁に出来る男は幸せ者だ」なんて言ってくれますけど言うだけで口説いて来た人は皆無!

 ですがそれだけならまだ良いです。

 良くはありませんが、それだけなら自分に魅力がないだけと諦められます。

 問題は空母達が私の事を『お母さん』と呼ぶこと。

 しかも空母達のみならず、駆逐艦の子達もたまにお母さんと呼ぶんです。

 いえ駆逐艦の場合は、小学生が学校の女性教師を間違ってお母さんと呼んでしまうアレと似たようなモノだとは理解しています。理解していますが、実際に呼ばれると複雑な気分この上ない!

 だって私は一人も産んだことがないんです!それどころか男性とお付き合いした事もないのです!

 それなのにお母さんと呼ばれてしまう私の気持ちがわかりますか!?

 いえ嬉しいんですよ?お母さんと呼び慕われて嬉しくは感じているんです。

 でもモヤモヤするんです!

 嬉しいと感じながら頭の片隅で真顔の私が「いや、一人も産んでない」と勝手にツッコんでしまうんです!

 

 「ちなみに大和さんは、男性との交際経験はありますか?」

 「い、いえ、ありませんけど……」

 「そうですか。ならば老婆心ながら、早めに経験しておくことお勧めします」

 「はぁ……」

 

 あらあら、別に好いてもいない殿方と取り敢えず交際しろと言っている訳ではないのに、大和さんはお米を研ぐ手を止めて「男性と付き合う?私が?」と言いながら物思いに耽ってしまいました。

 どなたか意中の殿方でもいるのでしょうか。

 

 「鳳翔さんは、自分が生きている意味を考えたことがありますか?」

 「生きている意味……ですか?」

 「はい」

 

 お料理の仕込みが終わり、余りの材料で賄いを作っている私に、カウンターに座って休憩していた大和さんが不意にそんな問いを投げかけてきました。

 ()()()意味ではなく、()()()()()意味とはなんとも不思議な質問ですね。

 でも、恐らく……。

 

 「それが、貴女が訓練をサボった理由ですね?」

 「ど、どうして……!」

 

 それを?と、続けたかったのでしょうか。

 最後まで言わずに、唇を噛んで黙ってしまったので本当はどうなのかわかりませんがたぶん合ってると思います。

 

 「話を……聞いてくれますか?」

 「貴女が聞いて欲しいのなら聞きましょう」

 

 私がそう促すと、大和さんはポツポツと語り始めました。

 この世界が改竄された歴史上を歩んでいる事。

 自分が改竄されなかった歴史で沈んだ、戦艦大和の魂とでも言うべきモノの生まれ変わりである事。

 彼女が語り聞かせてくれた内容は、この世界の歴史しか識らない私にとっては荒唐無稽な与太話で、とても信じられる内容ではありません。

 ですが、彼女は嘘を言っていない。

 話の内容の真偽はさておき、彼女が嘘を言っていないという事くらいは彼女の目を見ればわかります。

 大和さんの、怒りと哀しみが綯い交ぜになったような瞳を見れば。

 

 「つまり貴女は、所謂転生者と言う訳ですね?」

 「え?ええ、そう言う事になるんですが……信じるんですか?こんな話を」

 「あら、嘘だったのですか?」

 「いえ!嘘ではありません!本当です!ただ……こうまでスンナリと信じてもらえるとは思ってなくて」

 

 まあそうでしょう。

 普通なら、顔を引き攣らせながら適当に相槌を打つか一笑に付すのが妥当な反応です。漣ちゃん風に言うと「厨二病乙」です。

 

 「貴女は先ほど、私にこう問いましたね。生きている意味を考えたことがあるかと」

 「はい」

 「ならば答えましょう。ありません。それが私の答えです」

 

 私の答えがよほど意外だったのか、大和さんはどう返して良いのかわからずに口をパクパクさせています。

 ですが本当に考えたことがないのです。

 私が今こうして生きていられるのは運が良かったから。ただ、それだけなんですから。

 

 「貴女は戦艦大和の生まれ変わり。極端な言い方をすれば戦争の象徴とも言えるモノの生まれ変わりです。そんな自分がどうして生き続けなければならないのか。いえ、どうしてこの世に人として生を受けたのかがわからないのでしょう?」

 「はい……自分なりに考えてみたんですが、どうしても答えが見つからなくて」

 「貴女はおバカですか?答えなど見つかるはずがないでしょう」

 「お、おバカ!?」

 

 と、軽く憤慨する様子を見るに、彼女は自分のオツムにある程度自信があるようですね。

 でもそれが、貴女自身を悩ませている最大の要因。

 頭が良いせいで、考えなくてもいい、悩まなくてもいいどうでもいいことで悩んでしまっているのですね。

 

 「こんな言葉を識っていますか?『重要なのは行為そのものであって結果ではない。行為が実を結ぶかどうかは自分の力でどうなるものではなく、生きているうちにわかるとも限らない。だが、正しいと信ずることを行いなさい。結果がどう出るにせよ、何もしなければ何の結果もないのだ』」

 「たしか……マハトマ・ガンジーでしたか?」

 「良くご存知でしたね。彼は私が尊敬する人の一人なのですが、私なりに今の言葉を要約するとこうなります『動いて答えが得られるかはわからない。だが動かなければ答えもクソもない』と。もちろん異論は認めます。先程も言いましたが、今のは私なりに彼の言葉を解釈しただけですから」

 

 俯いてブツブツと、今私が言ったことを自分なりに吟味しているようですが少しは私が言いたいことがわかってくれたかしら。

 つまり私は、悩む暇があるなら動けと言いたいんです。

 桜子さんの短絡思考の影響を受けている感はありますが、彼女の行動理念は単純明快で理にかなっていると思っています。

 だって頭を悩ませているだけでは何も解決しません。

 悩むことは大事ですが、悩みすぎてもダメなのです。悩んだ末に、実際に行動に移さなければ、大和さんが求めている生きている意味は死んでもわからないでしょう。

 

 「いくつか昔話をしましょうか。昔々、とあるところに一人の戦艦がいました」

 「む、昔話……ですか?」

 「ええ、昔話です。彼女は復讐を目的に艦娘になったのに、自分の砲撃の音に怯えて泣きながら訓練し、実戦になると粗相をしてしまうくらい気弱な艦娘でした。その人は今、どうしてると思います?」

 「さあ……。それだけ気が弱い人なら退役してるか戦死しているかのどちらかなのでは?」

 

 自分だったら有り得ない。とでも言いそうな表情ですね。若干ですが軽蔑してるようにも見えます。

 でも、彼女は仮面で己を偽りながら、今も戦い続けています。その行為が正しいかどうかなど考えもせず、己が信じた道をただひたすらに進み続けています。

 いつか貯めたお金で孤児院を開き、今も路頭に迷っている子供たちを一人でも多く助けるために今を生きています。

 

 「ではもう一つ。かつて最古の艦娘と呼ばれた人がいました。彼女は任務など二の次。ただ自分が生き残るためだけに戦い続け、足を引っ張る味方を殺そうとしてまで生き続けました。彼女のことを、貴女はどう思いますか?」

 「臆病者だと思います。艦娘なら、いえ軍人なら自身の命より任務が第一。それなのに、ただ死にたくないからという理由で戦い続けるのは理解できません」

 

 なるほど。

 大和さんは失われた過去の記憶に感情が引っ張られているようですね。

 だから桜子さんの戦う理由が認められない。

 軍人なら任務を第一として命を惜しむべからず。とでも考えているのでしょう。まあでも、軍人としてはそれが理想と言えなくもない気がします。

 しかし桜子さんは、貴女の質問に照らし合わせれば生きるために生きている。

 何のためにとか小難しい事など考えず、人生を謳歌するために生きています。

 でもあの二人は、それらを自分の生きている意味だとは思っていないでしょう。あの二人のそれは、単なる行動理念でしかないのですから。

 

 「ではさらに一つ。いえ二つですか。一人はもう一人のために全力を尽くしました。もう一人を満足させるため、惨めな想いをさせないために、全てをもう一人のために使って死んでいきました。片やもう一人の方は、そんな彼女の想い通りに増長し続け、自堕落になり慢心し、結果として片目と半身を失いました」

 「目も当てられませんね。もう一人の方が今どうしているか知りませんが、その時点では彼女は無駄死にじゃないですか」

 

 ふむ、そう感じましたか。

 大和さんが言う通り、龍田さんは無駄死にと言えなくもないです。ですが彼女は満足して死んで逝きました。

 彼女は辰見さんのために生きて、そして死んだ。

 龍田さんは間違いなく、辰見さんのために生きていたんです。

 つまり龍田さんは、ある意味大和さんが求めている答えを得ていた人と言えます。

 仮に大和さんが私にした質問を龍田さんにすれば、彼女は迷わず「天龍ちゃんのために生きている」と即答するでしょうから。

 

 「最後に一つ。昔、一人の新米看護師がいました。彼女はとある病院に勤めていたのですが、戦時中なのにも関わらず病人の看護に追われる日々に違和感を感じていました」

 「違和感?看護師なら、病人の看護に追われるのは当たり前なのでは?」

 「仰るとおりです。実際、彼女が看護師を目指した理由は病に苦しむ人の手助けがしたいからでした」

 

 ですが、ニュースで各地の惨状が流れるのを見る度、ここで呑気に病人の看病をしていて良いのかという疑問が頭をよぎるようになりました。

 自分には他にやるべき事があるのではないか。

 自分は平和な呉の街ではなく、地獄と化している各地を巡って怪我人の手当をするべきではないのかと考えるようになったんです。

 

 「そんなある日、軍が『カンムス』という新兵科に志願する人を募集している事を知りました。お恥ずかしい話、当時の彼女は『カンムス』と聞いて『看娘』と脳内変換し、医療系の兵科と思い込んで志願しました」

 「芽生えた正義感を満足させるため。ですか?」

 「ええ、その通りです。ですが彼女は困惑しました。戦地の野戦病院に送られると覚悟していたのに、彼女は弓を持って海上を疾駆し、艦載機を用いて敵を討つ空母になっていたんです。何を言っているかわからないでしょう?当時の彼女も同じ気持ちでした」

 「それで……その彼女はどうしたんですか?」

 「戦いました」

 

 当時は艦娘の運用方法など未完成。艦載機運用の確立は唯一の空母だった私任せ。それでも私は戦いました。

 自分なりに艦載機を運用しやすい風向きや敵との位置関係を模索して時に失敗し、僅かな成功に一喜一憂する日々を過ごしました。

 そうそう、射形の美しさが艦載機の練度に比例すると気付いてからは、鎮守府に講師を招いて教えを乞うたりもしましたね。

 そしてある日、私の頭にふとした疑問がよぎりました。

 

 「どうして戦っているんだろう。と」

 「それは……艦娘だから。じゃないですか?」

 「ええそうです。彼女は艦娘だから戦い続けています。戦場に性能が追いつかなくなっても、前提督から「最後の砦となってくれ」と頼まれて出撃の機会が無いに等しくなった今でも、彼女は技を磨き続けています。ですが、それでもわからないのです。彼女は、いえ私は、なぜ今も艦娘として戦っているのかがわからないのです。何故、鳳翔として生きているのかがわからないのです。最近では、私がしている事に意味などないのではないか、と考えるようにもなりました」

 「意味がないなんて事はありません!貴女の日々の鍛錬は必ず報われます!例え目に見える結果として残らなくても、貴女がしてきたことは貴女にとって無駄にはなりません!そんな今時点でわからないことで悩むくらいなら……!ああ、そういう事……ですか」

 「ええ、言葉に出してみないとわからないものでしょう?」

 

 貴女の悩みはとても難しい。

 私を含め、他の誰に聞いても答えを示してはもらえません。自分で行動し、全てやり切って始めて、自分はこのために生きていたんだと確信できるんです。

 

 「今は無理でも、貴女の行動の果てに答えはきっとあります。だから今は、貴女に出来る事を一つづつ熟して生きなさい」

 「私に出来る事を一つづつ……」

 「ええそうです。差し当たって、取り敢えず腹ごしらえなどどうです?」

 「頂きます」

 

 良い返事です。

 では居酒屋 鳳翔の残飯処理用……もとい、対赤城ちゃん用の賄い飯である、切り身の残った部分を漬けにしてそれをご飯の上に乗せただけの『漬け丼』を振る舞いましょう。

 ですが、残飯処理用に考えた賄い飯だからと侮るなかれ、使っている魚は切り端とは言え気仙沼産の一級品。

 タレに使っている味醂は本物の味醂ですし、お酒も料理酒ではなく清酒を用いています。

 こう言っては自信過剰と思われかねませんが、この『漬け丼』だけでお店が持てるレベルの味に仕上がっていると自負しています。ただし、量は殺人級ですが……。

 

 「あ、美味しい!この味ならこれだけでお店が開けますよ!」

 「あらあら、褒めても出るのはおかわりだけですよ?」

 

 お行儀が良いとは言えませんが、ガツガツという擬音が聞こえてきそうな程美味しそうに食べて貰えるなんて料理人冥利に尽きますね。

 しかも涙を流すほど喜んで……。ん?涙?

 どうして泣くのです?たしかに味に自信はありますが、泣くほど美味しいとは作った私自身思えません。

 ならば、彼女が涙を流しているのはきっと別の理由からですね。

 

 「美味しい……本当に美味しい」

 

 ああ、そういう事だったんですね……。

 彼女が生きている意味を求めた理由。

 それは彼女が、戦艦だった頃の自分を思い出したことで自分の存在に自信を持てなくなっていたから。

 つまり、大和さんは自分が人間なのか戦艦なのかがわからなくなっていたのです。

 私に生きている理由を聞いたのも、答えの果てに自分を人間だと言って欲しかったのでしょう。

 ですが選んだ相手が悪すぎる。

 これがもし桜子さんなら「アホか」と足蹴にし、その後悩む余裕がなくなるまでしごくんじゃないでしょうか。

 提督だったなら、大和さんが求めそうな答えを瞬時に推測し、だから訓練をサボるなと注意するでしょう。

 でも、私はどちらもしない。

 貴女が答えを見つけるお手伝いはしますがそれ以上はしません。それは、貴女自身が見つける事だから。

 

 「ふふふ♪泣けるほど美味しいでしょう?でもそれは、今の貴女だからこそそう感じるのですよ?」

 「今の、私だから?」

 「そうです。考えてもみてください。例えば、うちに残飯を漁りに来る野良犬や野良猫にその丼を出せば美味しそうにガッついてくれるでしょう。ですが貴女のように味に感動し、涙を流すことはありません」

 「じゃあ、どうして私は……」

 「あら、貴女は犬猫と同じなのですか?」

 

 私の問いに、大和さんはフルフルと首を横に振って答えました。

 そうです。貴女は犬猫ではありません。ましてや、冷たい鉄の塊もない。

 貴女は人間です。

 人間だからこそ泣き、悩み、迷い、苦しみ、笑い、そして喜べる。

 元が兵器である貴女特有の悩みではあるのでしょうが、人として在る時点で悩む必要がないのです。

 

 「また、ここに来ても良いですか?次は、お客として」

 

 賄い飯を食べ終え、席を立った大和さんは私が開けた入り口から出るなり振り返ってそう言いました。

 ならば店主として、私はこう返しましょう。

 

 「ええ、いつでもいらっしゃい。当店はどんな人でも歓迎致します。あ、ただし……」

 「ただし?」

 

 ふふふ♪

 大和さんの小首を傾げる仕草は、兵器と人間の間で揺れ動いているとは思えないほど可愛らしいですね。

 ですが、これから私が言うことは大事なことです。

 貴女が人間で在りたいと思っているなら、守らなければならない基本的なルールなのです。

 

 「その時はお代を頂きます」

 

 私が和やかにそう言うと、大和さんは一瞬キョトンとし後、元気よく「はい!」と言って去って行きました。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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