青木さんは妖精さんを見たことがある?
元重巡なんだからパイロット妖精さんくらいなら見たことがあるでしょ?
そうそう、手のひらサイズで愛くるしい女の子しかいないあの妖精さんよ。
例外は何人か居るけど、工廠妖精さんが見える事が提督になれる最低条件にもなってるわね。
声が聴ければ尚良し、一般人だろうがド新人の水兵だろうが、妖精さんが見えて声が聞こえれば好待遇で迎えられるわ。
例外が何人か居るんだから、見えなくても別に問題ないんじゃないか?
甘い!
これは今でも謎の一つなんだけど、って言うかもう確かめようがないんだけど、妖精さんとコンタクトが取れる人が提督じゃない鎮守府や泊地じゃ妖精さんが働いてくれないの。
それは艤装に宿る乗組員妖精さんも同じ。
当然ながら、妖精さんが働いてくれなきゃ艦娘は艤装を背負うことすら出来ないし整備も出来ない。
だから基本的に、鎮守府や泊地の提督は妖精さんとコンタクトが取れる人が務めることになっているのよ。
でも、さっき言ったように例外も居る。
舞鶴の長倉中将なんかは例外の最たる例ね。
彼女は妖精さんの姿を見ることが出来なかったわ。もちろん声なんか聞こえもしなかった。
でも彼女には、自分の昇進を蹴ってでも彼女を補佐しようとした提督補佐達がいたの。
彼らは前舞鶴提督時代に着任した人達で、正化25年の舞鶴襲撃時に陣頭指揮を執った彼女に心酔し、彼女に仕えると心に誓った事を妖精さんにこう切り出した。
「私たちは鎮守府を背負って立つ資格がない。その資格があるのはただ一人、彼女だけです」とね。
その結果妖精さんは、彼らの想いを汲んで働いてくれるようになったんだってさ。
どうして急に妖精さんの話をしだしたか、ですって?
青木さんが大和の強さの秘密を教えろって言ったからじゃない!
そう!大和の強さの秘密には妖精さんが深く関わってたの!
あれは、長門さんの訓練を大和がサボタージュした次の日だったかしら。
前日の非を長門さんに謝罪して、真面目に訓練を熟す大和を見てた時に気付いたの。
具体的に言うと、頻りに艤装のアチコチを見て困惑していたのよ。
でも私には、大和の視線の先に居る妖精さん達が見えていた。
大和は、自分の意思通りに艤装を、妖精さん達を動かせないことに困惑していたの。
それから私は長門さんに訓練を中止してもらい、次の日の午後に執務室に行くよう言ったわ。
そして、円満さんにこう言えとも言った。
「妖精さんと仲良くなる方法を教えてくれ」とお願いしろってね。
~戦後回想録~
元駆逐艦 満潮へのインタビューより。
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「それで、話って何?大和」
艦種別国際艦娘演習大会のスケジュール調整も終わり、後は欧州連合の艦娘の来日を待って実行に移すだけと一息着いて妖精さんと戯れていた日の昼下がりに、まるで私しか執務室に居ないと知っていたかのようなタイミングで大和が訪れた。
私のスケジュールを知ってるのなんて満潮くらいだし、大和が今日この時間を狙って来たんなら助言したのは間違いなく満潮ね。
そして、満潮がそんな助言をした理由にもなんとなく察しはついている。
「そ、その、妖精さんと仲良くなる方法を教えて欲しくて……」
「妖精さんと仲良くなる方法?貴女、妖精さんが見えるの?」
と、さも今知った風に驚いて見せたけど、大和が妖精さんを視認しているのは入室した途端に執務机の上を見てギョッとした事でわかった。
ちなみにその時、執務机の上では妖精さん達による組み体操が行われていたわ。
そして、大和が入室した瞬間に完成したのが妖精さん151人で組まれた10段のピラミッド。
しかもなぜか、椅子に座る私の方ではなく入り口の方に顔が向くように組まれていたから、単純に55人分の顔が大和の方を向いていた計算になるわね。
さらに妖精さんは二頭身だし、開発などで成功するとドヤ顔をしてサムズアップする習性があるから、大和の目には
「はい……。つい最近いきなり見えるようになって、それ以来艤装が思うように動かせなくなってしまって……」
困っている。いえ、困惑しているのかしら。
私や満潮の場合しか手持ちのサンプルがないけれど、私たちの場合は妖精さんが見えるようになったからと言って艤装が思い通りに動かせなくなるなんてことはなかった。
でも、大和の場合は事情が私たちとは違う。
大和の艤装には核となった窮奇の意識が残っていて、さらに窮奇の気分次第で大和の体を乗っ取れる。
大和が妖精さんの姿を視認できるようになったからと言って、私たちの場合と同じと考えるのはナンセンスね。
「具体的に、妖精さんの様子はどうなの?」
「どうなの、と言われましても……。提督は妖精が見えるんですよね?」
妖精さんにはさんを付けなさい。は、今いいか。
大和は呆れたような視線を上に向け、私にそっちを見るよう促してるみたいだわ。
ふむ、要は百聞は一見に如かず。今自分の頭の上でだらけきっている妖精さんたちを見ろって事ね。
「酷いわね。完全に妖精さんの信頼を失ってるじゃない」
「妖精の……信頼?」
「そう、信頼。非常に稀なケースではあるんだけど過去に数件、貴女のように妖精さんに失望されて艤装がまともに使えなくなった艦娘や提督の例が報告されている」
艦娘の場合は艦娘個人に影響があるだけで、キツイ言い方だけど代わりを用意すれば解決できる。
でも後者の場合は簡単にはいかないし、影響は本人だけに留まらなかった。
妖精さんに嫌われた彼は南方の泊地の提督で、艦娘や妖精さんを酷使した事で妖精さんに嫌われ、泊地の工廠や艤装に宿る妖精さん全てにサボタージュされて泊地の機能そのものが止まってしまい、その結果日本は南方の泊地を一つ失う破目になった。
そう言えば、戦時中なのに呑気にクルージングしていた旅客船が深海棲艦に沈められて、破棄されたその泊地でその生き残りの少女が保護された。なんて話を聞いたことがあるわね……って、それは今関係ないか。
「どうして妖精さんにそこまで嫌われたか、心当たりはない?」
「心当たりと言われましても……」
「例えば邪険に扱ったとか、妖精さんのお願いを無視したとか」
「え~っと……」
あ、これは両方やってるっぽいわね。
大和は「そ、そんな事してません……よ?」とか言ってるけど、大和の頭の上に居る妖精さんたちが「オ部屋ニ入レテクレマセンデシタ」とか「コイツ嘘ツキデス」とか「シッシッテヤラレタデス」って言ってるもの。
でも、それだけで艤装がまともに動かせなくなるほど嫌われるとは考え辛いわね。
もっと他に理由があるんじゃ……。
「窮奇に聞けば何かわかるかしら……」
「呼んだか?円満」
「え?出て来ちゃったの?」
「お前が呼んだから出て来たのに随分な言い草だな。引っ込んで良いのか?」
「いや、出て来たのなら都合が良いわ。後で大和に説明するのが面倒ではあるけど」
「ああ、それなら心配するな。大和も今話を聞いている」
「はぁ!?」
え?ちょ、どういう事?窮奇が出ている間は大和の意識はないんだと思ってたのに実際はあるの?
いやそれより、窮奇が出てきてから大和の頭の上でだらけていた妖精さんたちの態度が一変した。まるで訓練が行き届いた歴戦の兵士みたいにピシッ!と気を付けして整列してるわ。
「相変わらず五月蠅いヤツだな。お前では話にならんから大人しくしていろ」
「あ、ごめん、五月蠅かった?」
「ん?いやいや、お前に言ったんじゃない。頭の中で大和が勝手に乗っ取るなと喚いてるんだ」
しかも会話まで可能か。
でも以前、会議の前に窮奇と話をした時にはそんな様子はなかったし、大和に会話の内容を覚えている様子はなかった。いったいいつから、大和と窮奇は会話ができるような状態になったんだろう。
「まあ、それは追々でいいか」
「何がだ?」
「何でもないわ。で、アンタには大和が妖精さんに嫌われた原因に心当たりがあるの?」
「あると言えば言えばある」
「勿体ぶるわね。私に言えない事情でもあるの?」
「言えないわけじゃない。だがそうだな……信じてもらえるかどうかわからないから言いづらい。と言えば納得してくれるか?」
それはつまり、この世界の歴史が転生者と呼ばれる人たちによって改竄されているなんて夢物語を受け入れた私ですら信じないかもしれない程ぶっ飛んだ内容って事?
しかもそれが、大和の問題の理由にもなっている。
有り得るとしたら何?
私が信じない程ぶっ飛んだ内容だと仮定して、ちょっと中二的に考えてみるとしようかしら。
まず、大和は出自がハッキリしていない。
元総理に保護されて10歳になるまで育てられ、後に先生の義父の娘として大和旅館の女将の元へ里子に出された後、高校まで卒業して某T大の入試試験を記念受験して合格までしている。ここまでは調査の結果わかっているわ。
でも逆に言えば、それ以前の事が不明のまま。元総理に保護されていた10年間の経歴が一切わからないの。
いったい大和の両親は誰?
大和の歳から逆算すれば、大和が生まれたのは開戦よりも前なのは間違いない。それなのに、鎮守府や奇兵隊の情報網を使っても両親の存在はおろか出生記録すら見つからない。
そこで私はぶっ飛んだ仮説を立ててみる。そもそも、大和に両親など存在しないのではないかと。
だったら大和は何なんだとなるわね。
親を持たず、突然この世に現れた存在で私が識っているモノに当て嵌めるなら、可能性が一番高いのは深海棲艦。それならば、大和が窮奇の意識が残ったままの艤装と適合でき、窮奇と共生出来ている事にも説明が付く気がする。
でもそれなら、もっと以前から妖精さんが見えていてもおかしくない。
実際、窮奇は妖精さんを従えてるみたいだしね。だから深海棲艦の可能性は却下。
「おい円満?」
そういえば、大和は妖精さんの姿が見えるようになったのは「つい最近」と言ってたわね。
もしかして、最近頭を強打するような事でもあった?いや、でも大和が頭を強打し、工廠に運び込まれたという報告は入っていない。
代わりに大和について聞いた話と言えば、満潮が飽きるほど朝潮から聞かされたという記念艦大和を一緒に見学した時の話。
満潮が聞いたところによると、大和は記念艦大和を見学している最中おかしな行動をとったらしい。
具体的には、誰も居ない艦橋で誰かと話してた。
誰かって誰?もしかしてそこで初めて妖精さんと話した?
「まったく、この私を無視して考え事とは……」
ううん、少し違う気がする。
だからここで、もう一度ぶっ飛んだ仮説を立ててみる。
大和が艦橋で会話してたのは記念艦大和。その魂とでも呼べる存在なんじゃないかと。
日本には昔から、長い年月を経た道具などに神や精霊(霊魂)などが宿った付喪神なんてものの言い伝えがあるし、船に限って言えば『
そしてこの舟魂は、船が沈む前に船から離れて行くと言われている。
例えば戦艦陸奥。
陸奥が不審火で爆沈したのは有名な話だけど、その日の夜中、第三砲塔の上で真っ白な浴衣のような着物姿で赤い髪を振り乱してけたたましく笑っている女性の姿(あれ?なぜか桜子さんが頭に浮かんじゃった)が目撃されている。そして陸奥は、その日の正午過ぎに爆沈したそうよ。
「小腹が空いたから何か貰うぞ」
とか言って給湯室に向かった窮奇は放っておくとして、さらにこんな話もある。
戦争中、日本海軍の海防艦2隻が台湾海峡付近を航行していた。
ある晩、片方の海防艦の乗組員が僚艦の甲板の上を松明を持った巫女さんが走り回っているのを目撃したそうよ。しばらくすると、その巫女さんは海の中に飛び込むようにして姿を消し、目撃した乗組員は「何かの見間違いだろう」ということで僚艦へは連絡をしなかった。
夜が明けると、昨晩巫女さんが走り回っていた海防艦の姿が見えなくなっていて、無線で呼びかけても応答がないから夜のうちに何らかの原因で沈没したのだろうと言うことになったんだってさ。
「お、これは間宮羊羹か……懐かしいな。あの頃は食う事が叶わなかったが……。円満、食べていいか?」
「ええ」
他にもこの手の怪談話はあるけど、長くなるから今回は割愛するわ。
で、大和の話し相手が記念艦大和の舟魂とすると、なぜ大和が舟魂と会話する事ができたんだという新たな疑問が出て来るわね。
でも、舟魂なんてモノが存在すると仮定すれば、それと会話する事が出来た大和の正体にも察しが付く。
つまり大和は、先生から託された歴史書に記されていた……。
「
「お?なんだ知っていたのか?」
私が大和の正体について考えている間に移動したのか、窮奇はソファーに座って隠していたはずの間宮羊羹を齧っていた手を止めて私の独り言に答えた。
べつに食べるのはいいけど、せめて切り分けてから食べなさいよ。
そんな頭から齧る様な食べ方したら、もうアンタか大和しか食べれないでしょう?まあ、それはとりあえず置いとくか。
「アンタがそう言うって事は正解みたいね」
「ああ、私も含め、コイツは失われた歴史で沈んだ大和の生まれ変わりだよ」
「アンタも含めてって……。じゃあ、深海棲艦の大本は」
沈んだ艦の舟魂、もしくは乗組員の怨念。
艦娘、と言うより妖精さんは差し詰めその逆ってところかしら。なんだかここに来て随分とオカルト染みてきたわね。
ん?と言う事は、大和の艤装に宿っている妖精さんはかつての大和の乗組員たちの善性、良心とも言える存在になるんじゃない?その妖精さん達が、どうしてかつて自分たちが乗っていた艦そのものである大和に従わないの?
人に例えるならどうだろう。
例えば自分が一兵卒だとして、上官に従わない。従いたくないと考えるのはどういう場合?
いや、考えるまでもない。軍規に縛られている軍人がそこまでする場合なんて限られてるもの。
「妖精共が大和に従わない理由は簡単だ。それは……」
「今の大和に、従う価値がないから」
「そうだ。大和は迷っている。自分の存在を認め切れずに今もウジウジして自分の殻に閉じこもっている」
軍人に例えるなら、戦場に怯えてまともな指示も出さずに部屋に閉じこもってる感じかしら。
そんな上官に従おうなんて軍人はほとんどいないでしょうね。一兵卒ですら、呆れて果てて異動願いでもだすんじゃないかしら。
「だが、完全には見離されていない」
「そうね。見離されてたら、妖精さんはそもそも大和の傍に居ないもの」
それがせめてもの救い。見離されてさえいなければ、これからの大和の行動次第で挽回できるし努力次第で今よりも強くなれる。
「窮奇、大和と代わってくれる?」
「これを食べ終わってからじゃダメか?」
「ダメ、あげるから後でゆっくり食べなさい」
私がそう言うと、窮奇は名残惜しそうに残りの羊羹をテーブルに置いて執務机の前まで移動してくれた。
窮奇って意外と物分かりが良いのよねぇ。
大淀を目の前にして暴走する癖さえなければ、大淀と二人をセットにして運用するのも有りなのに勿体ないったらないわ。
「話は聞いてた……のよね?」
「はい……」
「なら、自分がやるべき事もわかってるはずね?」
自信なさげに頷く大和を見る限り、妖精さんの信頼を取り戻すのが最優先なのはわかってる。でも方法がわからないって感じかしら。
だったらここは、提督として道を示してあげなきゃいけないわね。
「大和、貴女には今後しばらくの間、私の秘書艦を務めてもらいます」
「秘書艦……ですか?でも提督には満潮教官が」
「満潮には貴女の問題が解決するまで第八駆逐隊としての任務に専念してもらうわ。だからその件に関しては心配しなくても良い」
実際、これは満潮にとっても良い機会なのは間違いない。
頑なに朝潮たちを遠ざけてたあの子が、何があったのかまでは知らないけどようやく姉妹たちと仲良くする気になってくれたんだもの。だったら仲良くする機会を与えてあげなきゃ、あの子の決心が無駄になっちゃうものね。
「で、でも秘書艦って、具体的に何をすればいいんですか?」
「それは追々説明するわ。でも、これだけは覚えておいて」
基本的に私は多忙。週に一度の休みを取るのにも苦労するほどスケジュールに余裕がないわ。
特に、演習大会が迫っている今は尚更ね。
本音を言うなら、そんなバカみたいに忙しい時期に満潮を秘書艦から外すなんて事はしたくはない。したくはないけど、先の事を考えると大和の問題は早めに片づけておきたいし、演習大会で大和 対 アイオワのカードを組んでしまったから是が非でも戦えるようになってもらわないと困る。
だから大和、貴女には酷だと思うし窮奇に文句の一つも言われかねないけど、私はあえて貴女を叩き落すわ。
これから演習大会までの約二ヶ月間、貴女には……。
「修羅場を経験してもらう」
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)