洞窟の出口に仁王立ちで立ち。朝日を眺めながら、朝が来たことを実感する。
そして、多分今日来るであろう敵の事を考える。数はかなり多いだろうから、罠を張りたいが、そんなスペースは無い。
というか、罠を張る道具がない。待ち構えるのは俺しかいない。
息を吸い。
「
思いっきり叫んだ。
この洞窟で1日過ごしたけどやる事なくて尋常じゃなく暇だった。
やる事がない。ポーションの製作もできず、武器の手入れは不要。ガチでする事がない。
昼寝をしようにも大して眠くならず、ギリギリまで洞窟を出て外をジッと見ていた。
月は三日月で、少しずつ動いているんだと実感できた。
暇なので話し相手の一人でも欲しいところだ。『魔王』の能力で配下とか創れないかな?言葉が話せる。と付け加えておくが。
「よくよく考えたら、『魔王』ってなるもんじゃないよな……」
今更な事を呟き、これからどうするかを考える。一週間後の。と付け加えるが。
やりたいこと無し。為すべきこと無し。復讐心無し。憎悪無し。『魔王』らしさ無し。
「あれ?どうすんのこれから?」
人生の迷子が一人増えたのだった。
『魔王』になった事で日常生活に戻る事は不可能に近いだろう。
かといって、これからする事もない。
完全に忘れてた。『魔王』になった後の事を考えるのを。
ま、いっか。なんとかなるだろう。人生なんて行き当たりばったりの方が面白い。
なんて事を考えながら過ごしていると、一匹の狐が見えた。
その瞬間、やりたい事を一つ思い出した。
それは、亜人種を普通の人のように暮らせる世の中にする事だ。
実際、この大陸の亜人種は全て奴隷として働かせられていた。助けたいとは思った。
「……無理だ。無理。んな事をやってるの大陸全体だ。俺が動いたところで変わらねえよ」
その通りだった。
さらに、助けた後はどうするのか。国を変えるのは革命家か国のトップだ。
しかも、国を変えたところで国民の思想は変わる訳ではない。土台無理な話なのだ。
一人が叫んだところで心を変えられるのは、その手で握れる極僅かだ。
それに自分自身も今更のような感じがする。
「…………レーニャ……」
かつて俺に好意を寄せていた亜人種の少女。そして、この手で息の根を止めた少女の名前を呟く。
その顔は悲しみと後悔が混ざった悲しそうな表情をしていた。
「……て、今は感傷に浸っている場合じゃないな。いつ来るかわからない敵を迎える準備を……」
過去の事を記憶の片隅に追いやり、洞窟内部に戻ろうしたところで、
「その必要はないぞ」
前方に朝日を背に行進して来る軍隊見られた。
見た感じ、2、3部隊の人員である。
これでも魔王なのだが、舐められているのだろうか?成りたてだけど。
「朝日をバックに登場とは、優雅だねぇ」
その言葉に、先頭を歩いていた騎士は
「それが、貴様の見る最後の景色でいいか?」
威圧をたっぷりと含んでいる言葉を受け流す。
「有り得ないな。俺の最後の景色は、血と屍の山か、戦場の景色か、天井の染みくらいだ」
天井の染みは寿命で死ぬときだが、天井じゃなく、空を見る可能性が高そうだ。それが戦場に生きる奴の
「そうか。魔法部隊!準備!」
最後列にいた騎士たちが手をかざす、因みに魔法陣が現れないのが魔法、魔法陣が現れるのが魔術となっている。
魔法は単発運用で真価を発揮するが、魔術は大人数運用で真価を発揮する。
数で倒すのが魔法だとすれば、魔術は一撃必殺の攻撃といっても過言ではない。
また、魔術は下準備も必要となるため使う機会が殆ど無い。大規模な戦争か、超大型の魔物でも現れない限り見る事は出来ない。
この場合は個人で放ってくるので魔法だろう。
騎士団の精鋭部隊と仮定するなら、威力は相当と考えてもいいだろう。
待ち受ける雨に備えて、戦闘態勢をとる。
魔力が収束し、今、戦闘の火蓋がーーーー
「ちょっと待って下さい!」
ーーおとされなかった。
「お前は……」
戦闘の開始を遮ったのは、声を聞いただけでも分かる。というよりもこの生を受けてから一番耳にした声だ。
「どうして魔王になっているのーーーーシュラ」
幼馴染にして騎士団に入り、ここにくる可能性を排斥していた幼馴染ーーーティーアの姿があった。
その姿も声も覚えている。しかし、
「誰だお前は?」
他人のふりをする。
「何を言っているのシュラ?いや、その前になんで魔王になっているのよ!この国を守りたいと言ったのは嘘なの!?」
国を守るなぞ言った記憶はない。
だが、今は他人だ。コイツに関わったことなどない。
「何の話をしているんだ?」
「!?」
その言葉にキッと睨みつけてくる。この会話に騎士達はいつでも攻撃できる態勢を保ちながらこの会話を聞いていた。
こちらとしては早めに片付けておきたいので、この会話を終わらせる。
「勘違いだろうが空似だろうが構わないが、眼前の事実を否定するな。真実はその先にこそある。そこに至れるかはお前次第だがな」
地味にクサイ事を言っているので、内心苦笑している。
そういえば、ティーアに口答えしたのはこれが初めてだったけ。
女の子、それも幼馴染の接し方が分からず、ずっと言いなりみたいだったけか。今思うと情けない。
「……そう。すみませんでした。割って入ってしまって」
そう騎士団長に言うと、
「いや、アイツは元は君の友人なのか?」
と問われると、全く間をおかずに
「はい」
と言い切った。逡巡もなく、迷いも躊躇いもない。これもお互いが幼い頃から知っているからだろう。
他人のフリをしたのはこれからの先のアイツの為だったのだが、無駄に終わってしまった。
「殺す事になるかもしれんが、構わないか?」
その言葉にアイツは明らかに躊躇いの色を見せていたが、
「…………構いません」
そう言った。それを皮切りに、
「魔法部隊……撃てぇ!!」
そして、今度こそ戦闘の火蓋が切って落とされた。
魔法の雨がこちらに向かって降り注がれる。その全てが、初級魔法で構成されている。
正直ーー
「ガッカリだ」
誰にも聞こえないように小声で呟く。
こんな魔法を雨にように降らせる魔物など幾度も戦ってきた。それを今更大人数でやられたところで。
〈魔力武器〉を使い紅いロングソードを創る。
それを横一閃に振るう。
魔力を使い、一撃でありながら三撃放ち威力を増加させた。
その一撃は迫り来る魔法を一撃で斬りふせる。
魔法はその場で爆発を起こし視界を塞ぐ。
「!」
誤算だった。初級魔法と侮っていたが、中級魔法に属する爆裂魔法を混ぜ込み偽装を施した魔法であった。
だが、この程度である。これから相手が仕掛ける手は容易に推察できる。
周囲を囲み、一斉に騎士達がその剣を突き立てんと剣を振るう。
その様子は目視では全く判別できない。
が、そんな事はこの世界ではありふれている。
「こんな程度で!!」
気配だけで敵の位置を把握し、近くに来ていた敵を薙ぎ払う。その一撃も斬撃数を増やし、周囲の騎士を切りつけた。
深くはないが浅くもない。だが、無視はできる傷ではない。
包囲が失敗した次に取る行動を予測する。
この状況でできる手などたかが知れている。
その場を大きく飛び、地面から生えた棘を回避する。
周囲を出来るだけ巻き込まず、ピンポイントで攻撃するとなると自ずとこういった攻撃方法となる
「一班!攻撃!二班!回復!三班!援護!」
リーダーが急いで指揮を出しこの戦いを勝利に導こうとしている。全員が勝つために必死に行動している。
手加減しすぎるのは失礼かと思い。剣に魔力を注ぎ込む。
黒に近い紅だったものが、さらに黒に近くなった気がする。
一班から放たれた魔法は先ほど見た時より威力が上がっている。中級魔法が殆どで威力も先程とは違う。
しかし、
「フンッ!」
武器を一度振るうだけで周囲の魔法は全て消え去る。武器から発せられた衝撃で打ち消したとも捉えられる。
その一撃に流石の騎士達も動揺が隠せずに声が漏れ聞こえた。
「デエエエヤァァァァァァ!」
しかしその中で動揺せずに、果敢に飛び込んで攻撃してくるものがいた。
先ほどのリーダー格の男だった。
その一撃は重く一人の人間が出せるものではなかった。
先ほどの『援護』という言葉は彼に対してのもので、ここまで作戦を練っていたのである。
空中で三度斬り合い、その一撃全ては人が出せる領域を出ていると言わざるをえなかった。
四撃目を与えようとした時に地に足がつき、足と腰を使い四撃目を先ほどより強く放つ。
「グッ!!」
一瞬だけ耐えようとしていたが、アッサリと弾き飛ばされる。
騎士数人を巻き込み、ようやく止まった。
着地した位置は丁度騎士団全体を見渡せる位置だった。丁度いいので言いたい事を言わせてもらう。
「お前ら、確かに他の騎士達より個の強さもあり連携も強い。精鋭と呼ぶにふさわしい」
そう、これまで見て来た騎士の強さは高くとも此処にいる騎士の3分の2程度の強さしかなかった。
それがこの戦場に最高ランクの騎士が2、30人もいる。間違いなくこの国の精鋭集団である。
だがーーーー
「だがな、この俺を相手にこの程度の戦力とは屈辱だ。俺は魔王。それを恐怖と死とともに知れ!」
成り立てであってもそれは歴とした魔王なのである。凶悪なダンジョンをいくつも攻略し、魔王になれるダンジョンを攻略した実力を過小評価してもらっては困る。
「さあ。遊びは終わりだ。決死の覚悟をして来い!」
面白ければ幸いです。