【完結】君が変われば世界は変わるんだよ   作:毒蛇

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【上】変化の兆し

夢を見た 

悪夢だった、けれど、それがなんだったのか僕は忘れてしまった

 

「--野比!聞いているのかね!」

 

「は、はい!」

 

慌てて返事をする。

周りの人たちがクスクス笑っている

恥ずかしい

 

「最近たるんでいるんじゃないのかね、まったく……廊下に立ってなさい!」

 

「はい……」

 

いつものように、僕は、遅刻をし、宿題を忘れ、寝坊した。

廊下に立ちながら、最近僕は思うようになった

僕は何をしているのだろう

 

 

---

 

 

僕は何をやっても駄目だ。

 

小学生5年の夏も過ぎ秋が来ようという時期。

僕は、そんなことを考えるようになった。

相も変わらず、勉強はテストで赤点。

ろくな成績を取ったことはない。

家に帰って、ママからテストの答案をどう隠すかに、知恵を絞る始末だ。

 

運動も駄目。

かけっこはいつもビリ。

野球ではいつもボールが捕れない。

三振をしてジャイアンに追い掛け回される。

 

何をやっても駄目。

運も悪い。

 

「……はぁ」

 

いつもの帰り道。

溜息をつきながら僕は一人で下校していた。

こんなことを考えていると、最近決まってある考えが浮かぶ。

変わらなければ。

 

努力をする。勉強をし、運動をし、かっこよくなる。

そして、僕の未来のお嫁さん、しずかちゃんと結婚するのだ。

口でいうのは容易い。問題は行動が伴わない。

やろうやろうと思っても、まるで体が鉛のように動かない。

 

だから、僕は諦めて昼寝をする。宿題もせず。起きたら漫画。

たまにやろうと思うとジャイアン達に野球に誘われる。

明日やればいいから。ドラえもんもいるからなんとかなる。

そんな風に自堕落に毎日を過ごす。

 

こんな僕は嫌いだ。

でもやる気が起きない。

そういえば、最近しずかちゃんは出木杉と一緒に帰ってばかりだ。

こんなことで本当に結婚できるのだろうか。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい」

 

ママが今でテレビを見ていた。煎餅を食べながら。

大人はいいな。テストがなくて。

そのまま階段を駆け上がり自室へ。

 

「ただいまぁ……」

 

「おかえり、のび太君」

 

2度目の挨拶に応えてくれたのは、ドラえもん。

ネコ型ロボットを自称しているけど、どう見ても狸型だ。

未来から僕の未来を変えにきた、子守り用ロボット。

いろんな道具を出して僕を助けてくれる。

 

「ねぇ、ドラえもん」

 

「なんだい? またジャイアンにいじめられたのかい?それともスネ夫に自慢されたのかい?

 言っておくけど君は道具に頼りすぎなんだよ。たまには……」

 

「ちょっと相談に乗ってくれないかな」

 

ドラえもんは、端的に言うと、いい奴だ。

いままでジャイアンやスネ夫にいじめられたり、自慢されたり、悔しいことがあったら助けを求めた。

僕にとっては、家族であり、一番大事な親友で、いろんな冒険を共にした仲間だ。

今回もなんとかしてもらおう。

 

「実は……」

 

僕は、最近抱える悩みを、目の前の親友に打ち明けた。

自分は今日から変わろうと思うこと、でもから回ること。

稚拙ながらも、なんとか思いを告げる。

最初は、またか……みたいな顔をしていた彼だが、次第に真面目な顔になる。

 

まぁ、付き合いも長いからかな。

理解が早くて助かる。

 

「のび太君。君には無理だ。諦めなさい」

 

「えぇ……」

 

「どうせ君のことだ。すぐに忘れるよ。その手の決意は聞き飽きたよ」

 

「そ、そんなことないよ」

 

なんてことだ。この青狸は、最初から否定にかかった。僕にはできるわけがない。無理だと。

そんなことは、分かっている

けど、そんな言葉が聞きたいのではなかった。

 

「のびちゃん、おつかいにいってきて頂戴」

 

「あ、はーい」

 

階下から、ママが読んでいる。残念ながら話はここまでのようだ。

 

 

---

 

 

ママから頼まれたおつかいを終え、家に帰る時のことだった。

 

「ん?……あれは出木杉と、しずかちゃん?」

 

出木杉がいるのが気に食わないが、まぁいい。

なぜか分からないが、しずかちゃんとお話がしたい。最近、一緒に遊べていないし。

そんなことを、思って後ろから近寄った時。

ふと彼らの言葉が先に耳に届いた。

 

「出来杉さんって頭が良くて素敵だわ。いつも、どうやって勉強しているの?」

 

「いやー大したことじゃないさ。はっはっは。ただいつも、予習と復習をしているぐらいかな。静香君だって頭いいじゃないか」

 

「いやだわ、出木杉さん。私なんて、そんな……その、これから一緒に勉強しない?」

 

「勿論さ。図書館でどうだい?」

 

なぜだか、彼らに声をかけるのを躊躇われた。

なぜだろう。いつもなら声をかけるのに。

彼らの雰囲気というべきか。

 

彼らは優しい。

きっとここで、一緒に行くと言えば嫌な顔をせず同行を許可するだろう。

だけど、一緒に行ってどうなる。

迷惑でしかないのでは。やっぱり嫌がられるのでは。

 

そんなことをグルグルと考えてしまう。

 

「----」

 

結局僕は、声をかけられなかった。

しずかちゃん達は、僕に気づかず行ってしまった。

 

「ううっ…………うぐっ」

 

なぜだろう、なんで僕は、こんなにも悔しいのだろう。

いや、分かっている。

僕は、初めて自分のバカさを恥じた。心の底から。

出木杉が羨ましかった

 

頭もよく、運動神経抜群、優しく、イケメン

対して僕はどうだろうか

 

もしも頭が良かったら。もしも運動神経が抜群だったら。もしも、もしも、もしも、もしも……

止めよう、もしもボックスを使っても現実は変わらない。

バカで、マヌケで、ドジで、ノロマな少年。

何の取り柄もなく、ちょっとはやく寝れるだけ。

 

それが僕、野比のび太だ。

 

 

---

 

 

「ただいま」

 

「お帰り、遅かったね。のび太君」

 

「--うん。ねぇ、ドラえもん」

 

「うん?」

 

「僕ね、もう駄目だ。死にたい」

 

「うん……え?」

 

帰宅後、僕はドラえもんにそう言った。

彼は、よほど衝撃的だったのか。

食べかけのどら焼きが、手から零れ落ちる。

もったいない。

 

「ど、どうしたの。のび太君!そんな軽々しく死ぬなんて!冗談でも言っちゃだめだよ」

 

慌てふためいて、ドラえもんは、僕にそう言ってくる。

さすがに、突拍子もなかったかな。

 

「気づいたんだよ。僕は、バカで、ノロマで、ドジで、何をやっても駄目なんだって」

 

「ようやくか」

 

「才能もない。テストはいつも0点。野球ではいいところがない。顔も良くない。頭も悪い。僕って何なの?」

 

彼に抱き着きながら、僕は泣いた。

泣き叫んだ。

苦しいと。

助けてほしいと。

 

「……ねぇ、のび太君。のび太君にだっていいところは、いっぱいあるよ。

 確かに君は、頭は良くない。運動も駄目だ。

 でもね、君は人に対して、優しくできるじゃないか。とても素晴らしいことだよ」

 

「優しいと何かすごいの?」

 

「え?」

 

「僕は、別に優しくない。臆病なだけ。それが優しいようにみえるだけだよ」

 

「うーん……素晴らしい特技だって、君にはあるじゃないか」

 

「確かに射撃はうまいよ。あやとりも。でもそれが何の役に立つの?

 結局は特技じゃないか。頭はよくならないよ!うわあああああっ!」

 

自分でも何を言っているか分からない。

ただ、泣きじゃくる。

何もできず、ただ彼にすがる。

 

「ドラえもん。僕は、ぼくは、どうしたらいいの?

 ぼく、ぼく……変わりたいよ。

 生まれ変わりたいよ。もっと頭が良くなりたい。

 もっと運動ができるようになりたい。何か……」

 

何か便利な道具を出して

 

そう言おうとして、僕は言葉を止めた。

これでは、変わらないじゃないか。いままでのように、道具を使っていてはダメだ。

なぜか分からないが、この時そう思った。

 

だから

 

「ドラえもん、僕はどうすれば、いいのかな」

 

僕は相談をした。

親友に。

道具を使わずに。変わりたいと。

僕の言葉に対して、彼は、僅かに逡巡するとこう言った。

 

「確かに、君は頭は良くもない。運動も駄目だ。顔も悪い。

 けど、それらは才能がないとかじゃない。君が努力をしようと、しないだけなんだよ」

 

努力?

 

「君は、本当に努力したのかい?もう無理だと思うほど

 本気で何かに挑戦したかい?宿題を毎回やったかい?勉強をきちんとしたかい?」

 

「いや……」

 

「やってないだろう?死ぬなんてのは、本気で取り組んでみてからでも遅くはないだろう?

 だから、せめてなにか1つだけ、例えば勉強を頑張ってみないかい?」

 

泣いたからか、少しスッキリした。

勉強。

本気でやる、か。

良い機会だしやってみようと、僕は思った。

我ながら、単純である。

 

「やってみるよ」

 

「偉い!それでこそのび太君だ」

 

そういってドラえもんは、微笑んだ。

 

「知っているかい、のび太君。君が変われば世界は変わるんだよ」

 

「なぁにそれ」

 

「君が見ている景色はね、君が頑張れば変わるんだよ。ほら、机に座って」

 

「う、うん」

 

彼が言っていることはよくわからなかったけども

少しだけ、前向きになれた。

僕はダメな人間だけど、変わることはできるらしい

ドラえもんを信じてみよう

 

僕が変われば世界は変わる、か

変われるかは、わからない、正直不安だ。

でも、頑張ってみよう

その言葉を刻み、僕は目の前の宿題を解き始めた

 

 

 

 

 

この日から、僕はドラえもんの道具を借りることをしなくなった

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