鉛筆を、放り投げ、一言
「やっぱり、駄目だぁぁぁ」
「あらら」
決意を固め、机に向かう
今日の宿題は、算数だ
まず1問目は……飛ばそう
次、2問目……
4問目は解けそうだ……
あとは、分からないのしかない……
よし、あきらめよう! 人間は諦めることも大事だって、誰かが言ってた気がする
「まだ、10分しか経ってないじゃないの」
「だって、しょうがないじゃないか、難しいんだから」
「全く、君ってやつは……しょうがないなぁ
少し休憩にしよう」
そういって、ドラえもんは、おやつにどら焼きを出した。
しばらく、一緒に食べる。
餡子が疲れた脳に染み渡った。
「でも、偉いねぇのび太君は」
「え?どこが」
この青狸はついに壊れたのだろうか。
わざわざ、横で見ていたくせに
今の僕の惨状を見ていなかったのか
「君は、自分が駄目なことに気づくことができた。それはすごいことなんだよ。
人間っていうのはね、自分の欠点に気づいても、なかなか変わろうとか、頑張ろうとか、思うだけで行動はしない。
けど君は、渋々だけど勉強をしようと机に向かったんだ。これは、大きな前進だよ」
「……そうかな」
「そうだよ」
「----」
彼の眼差しは、とても暖かくてーー
なんというか、こみ上げるものがあった。
「さ、食べ終わったらもう少しやってみようね」
「……うん」
そっと、彼には見えないように目を拭った。
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その後、もう少しだけ頑張ってみたら、1問だけ解けた。
でもそれが、限界だった。
継続は力だよ、のび太君。
ドラえもんは、寝る前に僕にそう言った。
「計測?」
「継続だよ。そう、今日だけじゃない、明日も、明後日も、毎日きちんと勉強するん だ。
じゃないと、結局なんにも変わらないからね」
「ふーん。分かった」
「本当に?不安だなぁ」
「本当だって。約束」
結局、しつこいので、指切りまですることになった
信用ないなぁ
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それからは、緩やかに、時間が流れ出した
2日目は、宿題がなかったので、昼寝をしようとしたら、約束はどうした!と、ドラえもんに怒られた。
その顔は、かつて、鼠に地球破壊爆弾を喰らわせようとした、あの時の顔をしていた。
さぼると怖いので、渋々勉強した。
4日目。
君はまず、今よりも前の勉強からすべきだと、隣で見ていた、彼が言い出した。
簡単に感じる問題は、小学生3年生レベルのだった。
此方から始めてみたら?というので、やってみる。
それにしても、ドラえもん
君は、実にバカだなぁって言うのは、やめてくれないかな。怒るぞ
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「ふぅ……」
約束をして、1週間目のこと。
少しずつだが、分かるところも増えてきた。
そういえば、もうすぐテストらしい。
「おーい、のび太」
「ん?どうしたの、2人して」
放課後
ジャイアンと、スネ夫が僕に近づいてきた。
やけに、にやけている。気色悪い。
「喜べ!のび太。お前を特別にジャイアンズに入れてやる!」
「え、どうして」
「1人休んじまってな。有り難く思え」
「きょ、今日はちょっと」
「なんだよ!断るってのか!」
にやけ面が、誘いを断るのを聞いた瞬間、豹変する
すごく、怖いです。
「いや、大丈夫。いくよ」
「そうか、そうか。じゃ、あとでな」
ゴリラとキツネは、瞬時にニヤリと笑い、僕の背中をバシバシ叩いて、去っていった。
野球か、嫌だなぁ
いつから、嫌になったんだっけ
ボールは捕れない、打てない。
だが、逃げるのも、後が怖い。
避けようがなく、僕は悩む
そんな時、ふと思い出した
彼の声を。
何だっけ……そうそう
僕が変われば、世界が変わる、だっけ?
卑屈になっても、変わらない
なら、せめて前向きにいこう
いつまでも、落ち込んではいられない
気分を入れ替え、僕は学校を出た。
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野球では、予想通りというべきか。
酷かった
カン!
鈍い音と共に白い球が空を舞う
ボールが、急速接近中。
それを、追いかけると同時に思った
今日の空曇っているな
そんなことを思ったせいだろうか、ボールを捕ろうとしたら、転んだ
やっちゃった
この回で1点を奪われてしまいその後、均衡状態となった
そして最終回。
2-3で、ジャイアンズは、2アウトで2塁3塁に走者を置いていた
最悪なことに打順は僕に回ってきた
人数はぎりぎりで、交代はできない
僕にとっても、チームにとっても、ピンチだ
「いいか、のび太!三振になったら、ただじゃおかないからな!
ギッタンギッタンにしてやる!」
「うひゃ」
思わず、変な声が出る。
鬼
一言で表すなら、ジャイアンはそんな顔をしていた
怖いから、やめてほしい
バッターボックスに立つ
相手ピッチャーは、不敵に笑い、ボールを投げる
空振り
無様に空を切るバットと共に、僕はその場を1回転した
やばい、やばい、やばい
無様に、回転切りをしながら、そう思う
だが、同時に、こうも思った
ここで、あきらめていたら、何も変わらない
今までの僕とは、違う。
僕は変わるんだ。
そうだよね、ドラえもん
再度、バットを握り直し、今度は短く持つ。
次にどんな球がくるかなんて、分からない
だけど、絶対に目をつむらない。つむってたまるか
歯を食いしばる、目を見開く、集中する
周りの野次は聞こえない、耳を傾けるな
あるのは、僕と、ピッチャーのみ。
先ほど、浮かべた笑みをそのままに、奴は腕を振りかぶり、ボールを投げた
よく、見ろ、そして
――バットを振って、打った
ボールは、運よく守備の間を抜けた
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あの後、ジャイアンは上機嫌だった。
逆転勝利という形で試合は終わった
まぐれでも、なんでもうれしいらしい
僕も、今回は、追い掛け回されることはないだろうし、安心だ。
「あら、のび太さん」
「しずかちゃん」
その帰りのこと、しずかちゃんに出会った。
久しぶりに、しずかちゃんと話をしたような気がした
彼女は、相も変わらず、かわいらしかった
「今日は、ピアノのお稽古なの」
「そうなんだ」
なにか、しゃべらないと
このままでは、いってしまう
そんな焦りに駆られる
なんでもいい。なにか、考えろ
必死にない頭を練る
そんな僕を見つめる彼女
「あ、えと……そうだ!もうすぐテストが近いよね。
ピアノお稽古が終わったら、一緒に勉強しない?」
なんとか、それだけを口にする
彼女は、僕の提案に対して、首を傾け、そっと目を伏せた
「ごめんなさい。出木杉さんと、勉強するつもりなの」
「ーーそんなに出木杉がいいの」
「え、今なんて?」
「う、ううん。なんでも……
ねぇしずかちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?のび太さん」
「僕が出木杉にテストで勝てると思う?」
自分でも、なんでこんなことを、聞いているのかと思う
出木杉に嫉妬したのだろうか、それとも羨んでいるのだろうか、分からない
それでも、目の前の少女なら、きっと気を使って、そうだと言ってくれるの違いない
しずかちゃんなら、きっと
身勝手にも、傲慢にも
そう、思い込んで、勝手に信じ込んで
「それは、無理なんじゃないのかしら」
自分自身の思い込みに裏切られた
「あ、そろそろお稽古に行かないと、それじゃあね、のび太さん」
「----」
かろうじて、うなずくのが精一杯だった
自分でもわかっていたことだった。
でも面と向かって、それも彼女自身に無邪気に言われると、心にきた
笑顔を作る
彼女が去る
その背が角に曲がり消えるとともに、僕は家に向かって、全速力で走った
転んで、立ち上がって、また転んだ
いつの間にか、目の前がやけにぼやけていた
さっきまであった高揚感など、とうの昔に消えてしまった
だけど、今のやり取りでわかったことがある
自分が本当に変わろうとした、その理由
無能で愚かな自分を変えようと思ったこと、それはけっして、嘘ではない
嘘ではないが、けっして真実ではなかった
それは――
---
「ただいま」
「お帰り、のび太君」
帰宅して、机に向かう。教科書に手を伸ばす
その様子をじっと、ドラえもんは見つめてくる
「何?」
「……ううん。最近は文句言わないんだね」
「さすがにもう慣れたよう、どら焼き食べたら?」
彼に軽口を叩き、机に向かいなおる
21日目。それなりに分かるようになってきた
テストの点は、低いけども、上がってはきている
ここにきて、継続という力を理解した
最初は、しんどかったけれど、慣れると案外問題なかった
最近は、少し楽しいなんて、思い始めた
「----」
机と向き合い、数学とにらめっこしながら、僕は思う
僕は、どうしてこんなことをするようになったか
簡単なことだった
僕は、僕自身と周りの人間に対してムカついていたんだ
自分が変われず、お前はそのままだと、周囲は言ってくる
直接言われたわけでない。でも分かるのだ
その目が、言葉が、雰囲気が
お前はドジでマヌケな駄目な人間なのだ、それはずっと変わらないだろうと。
ジャイアン、スネ夫、ママ、先生、出木杉
そして、しずかちゃん
僕は、みんなに見返したかった
僕は、やればできるのだと。僕は、変わったのだと。
声を高々と張り上げ、奴らを見下してやりたかった
だから、僕は出木杉にテストで勝とう
それは、けっしてきれいな動機ではない、むしろ真っ黒で泥ついているような動機だ
だけど、それでも人間は頑張れるのだから、不思議な物だ
そう、僕は思った
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季節は次々巡りゆく
秋の紅葉は、死に絶え白化粧に染まった
12月になった
僕はめきめき力をつけ、気が付いたら60点程度だがとれるようになった
そして、テストの答案を見て、ドラえもんはこう言った
「のび太君。僕ね、そろそろ未来に帰ろうと思うんだ」
「……え」
彼が、何を言っているのか、僕には分からなかった
続かない
この後、ドラと話し合い、お別れ。更なる研鑽を誓う
数年後、のび太の机には、2人の写真が
彼が見ている限り、のび太君は、頑張り続ける…………かもしれない
雑なプロット⇒それなりに沿う⇒満足⇒最初なんてこんなもんだよね
後悔はない