もしもFGOがゲームではなく大人気実写特撮映画シリーズ『Fate/Grand Order』だったら   作:ルシエド

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 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 今日もフルスロットル、映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 FGO第二部公開記念、各特異点の登場人物にスポットを当てたインタビューコーナー!
 今回の特異点は2016年に公開され大人気を博した『神聖円卓領域キャメロット』!
 レオナルド・ダ・ヴィンチを演じた、白雪冴花氏にインタビューだ!


神聖円卓領域キャメロット/レオナルド・ダ・ヴィンチ役/白雪冴花 インタビュー

―――本日はインタビューに応じてくださり、本当にありがとうございます。白雪さん

 

「……シネマトゥモローは本当に慎重や便乗と縁のない雑誌ね」

 

―――どういうことでしょうか

 

「知ってるでしょう?

 今思いっきり面倒臭い時期よ。

 私叩きの記事も、私擁護の記事も出てる。

 インターネットも酷い流れで、うちの事務所は嫌がらせと応援の電話で鳴りっぱなし。

 ここでインタビューなんて、火中の栗を拾いに行って火傷しに行くようなものじゃない」

 

―――いえ、ここしかないと思いました

―――序章のTV向けリメイク『Fate/Grand Order -First Order-』

―――あれの放映が始まる直前には一度お話を伺いたかったので

 

「……博打だとは思うけどね。本誌掲載のインタビュー文はかなり気を付けた方が良いわ」

 

―――そうさせていただきます

―――一度降板まで行ったというのに、まさか序章リメイクで再採用とは、驚きました

―――十数年前は日本女優の代表格とも囁かれた名女優の面目躍如ですね

 

「頭を下げたのよ。本気で。監督達に……関係各所に」

 

―――……それは、また

 

「意外?

 れんにも、健にも、光流にも、泣きつかれたのよ。

 迷ったけど仕方なく、ね。事務所にも迷惑がかかりすぎていたし」

 

―――藤丸役の藤井健君、マシュ役の皆浜れんさん、ロマニ役の長永光流さん

―――ここにダ・ヴィンチ役の白雪さんが居なければ片手落ちですよ

―――どんな形でも、戻って来てくださったことを嬉しく思う気持ちはあります

 

「本当に? 『白雪冴花の被害者』の俳優や脚本のファンでしょう、あなた」

 

―――っ

 

「ほら、変な反応をした。

 あなたのことはよく知らないけど、私の被害者は多いものね。

 そうじゃないかとは思ったわ。私がFGOに戻ったことに、不安があるんじゃないの?」

 

―――白雪さんが戻ったことを嬉しく思う気持ちがある、というのは本当です

 

「反省はしてるわ。頭も下げた。

 ……でもそれで、全部忘れられるわけがないでしょう。

 私も、脚本も、監督も、Pもね。

 リメイクには戻れても、本シナリオにはもう二度と戻れない可能性が高い。

 私ならこういう問題児は二度と使おうとは思わないもの。

 そして私も、私を高く評価してくれない製作に使ってもらおうとは思わない」

 

―――……

 

「さあ、インタビューを始めましょう?

 今回のインタビューはどういうものにしたいのかしら」

 

―――六章共演者の皆さんについてコメントをお願いします

―――本ストーリーについては、誌面を埋めるのにそれで足りなかった場合に追加で、ということでお願いします

 

「ふぅん……?

 まあ、いいけどね。

 ここまで汚名を重ねた以上、クリーンなイメージ作ろうとしても逆効果。

 事務所が修正を入れるかもしれないけど、取り繕わず好き勝手言うわ。それでいい?」

 

―――はい、お願いします

 

「まずは……そうね。マシュ役のれん。

 最初に撮影で見た時は撮影舐めてるんじゃないかってレベルのゴミだったわね」

 

―――そ、そうですか

 

「ただ、光るものはあった。

 間違いなく才能もあった。

 あの子の成功はそれを周囲が磨いてくれたからのものね。

 皆浜れんの成功の要因の七割は周囲の助力と指導にあったと言っていい」

 

―――七割ですか

 

「残り一割が才能、残り二割がれん自身の努力。

 ああいう正しい努力を積み重ねられるのは希少な性質よ。

 間違えた努力をする奴、努力した気になってるだけの奴が世の中には多いこと多いこと。

 その点、周囲に指導を仰ぎ、自分の足りない部分をちゃんと認識してるところは良点だったわ。

 底辺の中の底辺レベルだったけど、れんのあの素直さと努力は誰よりも高く評価できる」

 

―――なるほど、高評価ですね

 

「は? この評価は今のれんを鑑みての評価よ?

 撮影開始時のれんは全く評価できないわ、そこを勘違いしないで。

 今のれんでようやく一人前、一流の女優の一端と言っていいレベル。

 私がれんに関して評価するのはその素直さ、成長力、吸収力、そして努力だけ。

 今後成長や努力がどこかで止まるようなら、私はれんを一切評価することはないわ」

 

―――あ、はい

 

「最近はこんなのばっかりよ。

 れんのように成長する若手ならまだいい。

 けど現実には最初から下手で最後まで下手な大根新人も多いわ。

 全員死ねばいいのに。

 そうでなければちゃんと演技を身に着けてから現場出て来いっての。

 最近の新人で最初からずっと見どころがあったのは……藤丸を演じた健くらいね」

 

―――彼はこれからも躍進すると思いますか?

 

「思うわ。あそこまでやれると嫉妬と殺意しか抱けないっての」

 

―――さ、殺意ですか

 

「自分とファンしか見ていない。

 何をすべきで、何をすべきでないか本能で分かっている。

 他人と自分を比べない。

 共演者の誰とでも仲良くできる。

 自分の中に、架空の世界観や架空の性格を作っていける。

 ごく自然に自分を高める努力や学習を選び取っていける。

 ああいうのが最後の最後まで生き残るのよ。芸能界っていう魔界ではね」

 

―――かもしれませんね

 

「名優の昭和のインタビューを繰り返し研究したことがある者なら誰でも知ってるわ。

 新宿のアーチャー役の長房さんも。

 セイバー・エンピレオ役の三國さんも。

 山の翁役の厳凱さんも。

 若い頃はああいう性格で、ああいう風に撮影に溶け込んでいたのだから」

 

―――だからこその、嫉妬と殺意ですか

 

「当たり前でしょう?

 努力すれば努力した分だけ比例的に成長する人間というのが既に嫉妬される条件なのよ。

 誰だって努力量以上に成長したり、全く成長しなかったりもする。

 誰だって、"努力してるんだから成長をくれ"と世の理に成長という結果をねだるけど。

 大体の場合、求めたほどに成長という見返りは貰えないもんよ。

 本音を言えばああいうのは居るだけで苛立つから芸能界から居なくなって欲しいとも思う」

 

―――居なくなってほしいんですか!?

 

「バカね、何真に受けてるのよ……

 ま、居なくなってほしいというのは本音だけど。

 健を芸能界から叩き出そうとする人間が居たら私が許さないわ。

 あれはまだ若いけど日本の宝になり得る子。

 事務所が変な売り出し方を考えるようなら、その事務所は潰れても構わない」

 

―――そう、ですね。そうかも

 

「その点、アーラシュ役の斎庭は惜しかったわ。

 なんなのあいつは、事務所も事務所だ。

 ギャラ設定と斎庭の能力の想定が全く噛み合ってない。

 もっとギャラの基礎額設定を高く設定していればああはならなかっただろうに」

 

―――あの人は知る人ぞ知る名優ですね

―――有名な作品にはあまり出ていないので、出演本数の割に知名度が低い

 

「あーもう、演技も良い、顔も良い、何やってもサマになる。

 ギャラ安いからどこにでも来る。

 なのに名演者としての知名度はほとんどない……本当バカだわ。

 能力があるくせにB級の知名度と評価で満足してるとしたら相当なノータリンよ」

 

―――ギャラ高くすれば解決するものですかね

 

「自分の価値に相応のギャラを設定すべきなのよ。

 ギャラを高く設定すれば、出演作は金をかけた上質なものが多くなる。

 出演作が多すぎるということもなくなり、名優のブランド感も出る。

 逆に安いギャラで安い作品にばかり出ていると役者の評価まで低くなる。

 安いギャラしか出さない作品に出すぎると、ゴリ押しと言われ評価が下がるパターンもある」

 

―――なるほど

 

「だから実力が高いのに、不相応に映画評価サイトで☆1評価の映画に沢山出ちゃってるのよ彼」

 

―――難しい問題ですね

 

「ギャラ高くしろって言ってるのよ。

 出る作品減らして、長期に拘束されてもいいから高ギャラの名作にばかり出ればいい。

 自分の能力に相応しいギャラを交渉することが、彼を結果的に素晴らしい名俳優にするわ。

 ブランド物は総じて高いものでしょう?

 そして、"値段が高い"ということが、逆説的に価値に変じる。

 何度もそう言ってるのに……何が『俺は庶民的な俳優でいいさ』よあのエセ弓兵ッ!」

 

―――あの、あなたそのギャラ交渉とかがFGO降ろされた原因じゃ

 

「私の評価は不当に低いわ。安売りはしない。高いギャラに相応の仕事はしてたでしょう」

 

―――確かに白雪さんが時にアルトリア役の小松原さんに匹敵する演技を見せるのは事実ですけど……事実ですけど……!

 

「俵藤太やってた武藤もそうよ。

 先のことも自分のことも、周りのことも分かってないバカな男」

 

―――良い人じゃないですか。武藤さんの地方巡業とか何度も撮影と取材に行きましたよ

 

「あいつは戦隊の緑色やってた時からそう。

 地方巡業、地方のヒーローショーに出まくっていつも日本中を飛び回ってたわ。

 俵藤太を演じてからは『トータ』としても日本中の子供達と接してる。

 まあそれ自体は無意味とも無価値とも言わない。でも彼はもっとできることがあるでしょ」

 

―――できること、とは

 

「地方にヒーローとして顔出し過ぎなのよ。

 あれがなければもっと多くの撮影と作品に出られるって言ってるのに!

 聞きもしない! 『子供と直に触れ合うことが大事なんだ』なんてよくもまあ」

 

―――良いことじゃないでしょうか、私は結構好きなスタンスなんですが

 

「あの、ね。地方のヒーローショーに子供が何人来るの?

 せいぜい数十人でしょうが。

 でも映画に出れば武藤の……俵藤太の勇姿を、最低でも何十万人という子供がそれを見る」

 

―――それはそうかもしれませんが

 

「単純な計算しろって言ってんのよ。

 数百人の子供を笑顔にするなら凡百にもできる!

 でも数百万人の子供を笑顔にできるのは一握りの有能だけだってのに」

 

―――む

 

「子供に直接触れ合わなくても子供に夢を見せられる人間が、何をやってるのかと。

 愚かすぎて頭が痛くなるわ。

 ショーでは子供の記憶の中にしか残らないけれど、映画に出れば話は別よ。

 円盤にでもデータが残れば、何十年だって愛される。

 何十万の子供の笑顔を、何十年にも笑って作り続けられる。

 それが分かってないのが本当に……

 子供にヒーローとしての自分を見せたいなら、もっと考えなさいっての、元戦隊ヒーロー」

 

―――その主張に、確かに一理はあるのかもしれませんけど

 

「武藤は映像媒体で子供に永遠に夢を与えられるヒーローになれる。

 その才能を完全に無駄遣いしてるのよ。

 強い信念で、今のスタンスを貫いてる。

 これだから損得計算すらできない男は嫌いなのよ……ったく」

 

―――あ、あはは

 

「三蔵やってたアンコも同じよ。

 いつまで経っても自分と現実の折り合いをつけた最善を選べないでいる。

 三蔵のくせに余計な煩悩、欲望まみれって何?

 女優の才能はたっぷりあるのにいつまで経っても歌手での単独成功にこだわってる」

 

―――でも、CD売れてますよ。それなりには

 

「ええ、買ってるわね。

 "俳優としてのアンコのファン"が。

 三蔵役演じてからまた売れるようになったんじゃない?

 それでも"それなり"しか売れてない。

 あんなの歌上手いからじゃなくて、アニメのキャラソンみたいな売れ方じゃないの」

 

―――えー、あー、いや

 

「写真集の方が数倍売れてるって知ってるんでしょ出版業」

 

―――……CDだって売れてる以上、別に出しても良いものですし?

 

「あいつはねー。

 『宇多田みたいになりたい』って夢追っててねー。

 歌以外は優秀なのに歌手の夢捨てきれてないのよ。

 で、歌以外の分野で活動して、活躍して、その知名度でCD売ってんの。

 歌も何年も歌ってるはずなのに"歌が上手い"なんて言われたこともないわけよ」

 

―――そ、そうですか

 

「アンコもちょっとは自覚はあるはずなのよ、自分の歌に華が無いことは。

 でも演技には間違いなく華がある。

 笑顔は子供を安心させ、エロいので男の人気を確立し、女性らしい頑張りで女性に支持される」

 

―――……確かに

 

「いい歳していつまで夢見てるんだか……

 歌捨てて俳優一本、時々タレントくらいにしておけばいいのに。

 そうすれば一皮剥けるわ、絶対に。

 今の中の上から上の下程度の女優には収まらない。……だっていうのに、本当に頭が悪い」

 

―――誰もがそうは割り切れませんよ。自分が本当にやりたいことならなおさらに

 

「大人になればいいのよ。

 自分の才能が活かされる場所で。

 自分がとびっきりに評価される場所で。

 自分を評価してくれる人間に囲まれて好きなように羽ばたけばいい」

 

―――芸能界での大人ってなんでしょうね

 

「夢を見ないで現実見て仕事して、ファンに現実を忘れさせ夢を見させることでしょ」

 

―――なるほど

 

「本当に苛立つわ。

 呪腕のハサン役やってる木室もそうよ。

 いつまでサメが出てくる映画ばっかりやってる気?

 俳優で最悪なのは役柄イメージが固定されすぎることよ。

 決まった仕事しか来なくなることよ。

 それを、呪腕のハサンで新しい芸風が定着しかけたのに……それを定着させもしないで」

 

―――確かに、独特ですからね、呪腕のハサンの演技

 

「芸人と水族館の二足の草鞋なんて履いて……

 それができるのはね、木室が十分な知識を備えてるからなのよ。

 言うなれば魚好きのハサン。

 ちょっとでも海に関する分野で話をすれば実感できるレベルに、彼には知識がある」

 

―――話してるとそういう印象を受けますね

 

「そういうところアピールしていけば魚番組のレギュラーくらいは、間違いなく取れる!

 ……取れるのよ! それだけの知識はあるはず!

 真面目な仕事人方向で売っていけばいくらでも仕事は増えるはず!

 ……増えるはずなのよ! そういうイメージも持たれていたはずだから!

 なのに現状維持! 結構当時の雑誌も新しい木室の芸風に期待してたと思うんだけど」

 

―――良いことじゃないですか……?

 

「どっちつかずで現状維持……重厚な知識と新しい芸風の持ち腐れよ畜生」

 

―――持ち腐れですか

 

「はぁ……あんだけ知識あるのに……仕事に全く活かされてない……」

 

―――もったいないおばけが白雪さんの背後に見えます

 

「呪腕がこんなんで、百貌は個性が薄れる集団一役のサーヴァント。

 あの集団の中で個性出せるようになってから出直してこい。

 リーダー役の女しか目立ってないっての。

 静謐のハサンを演じてた喜緑はまあまだ見どころがあったけど……ミソッカスね」

 

―――み、ミソッカス!?

 

「マシュを演じきったれんと比べればミソッカスもミソッカスよ。

 若さにかまけた演技。

 全ての年齢層で幅広く使える演技の技術の欠如。

 今はまだ人気の若手でイケるでしょうけどね……

 妥当なとこで五年、長くても十年で失われる魅力よ。

 事務所は真面目にやってるの?

 二十年先、三十年先も彼女を使っていく気がまるで感じられないんだけど」

 

―――その辺になると私の感覚ではちょっと

 

「演技の幅が極端に無いのよ。

 多様性が足りてない。

 それを身に着けるレッスンが足りてない。

 あれはれんの足元にも及んでない新人よ。ちょっと仕事と役を貰えただけで満足してる」

 

―――厳しいですね

 

「芸能界が厳しくないわけないでしょうが……

 喜緑はね、引っ込み思案で欲が薄めなの。だけど情愛が強い。

 そういうのが演技にも滲み出てるのよ。

 誰かの嫁にでもなるんなら、謙虚でいい嫁にもなるでしょう。

 でも『演じる者』でいたいなら今のままのあの子じゃ駄目。どこかでAV堕ちしかねない」

 

―――やめてくださいよ唐突にそういうワード出すの

 

「素材が悪いわけじゃない。

 磨いてけばいいのよ、磨いてけば、若いんだから。

 薄幸系の女優とか愛憎ドロドロ系の女優とか、需要が高い女優の素質はある……

 上手く行けばがっつり昼ドラ等で活躍できるはず……

 でも向上心がない。ああもう、なんであんな謙虚なのか。自分の将来のために積み上げろと」

 

―――自分のことは結局自分で決めるしかありませんし

―――白雪さんのアドバイスが正しいかどうかも、他人から見れば分かりませんからね

 

「獅子王役の紀伊やモードレッド役の樹利を見習えば良かったのよ。

 彼女らは最初からレベルが高く、なお向上心もある先人で、共演者だったのだから」

 

―――あの二人をここで挙げますか。確かに優秀な二人です

―――あの二人は主人公役の人間の相棒サーヴァントに配役して、一本話を作れる

―――それだけのポテンシャルがあります。主演をやらせても不足はないでしょうね

 

「妬ましいことに、あの二人にはあの二人にしかできない演技があった。

 アルトリア役の小松原にもできない演技があった。

 "人間を辞めた雰囲気"は、獅子王を演じた紀伊にしか出せず。

 粗雑さという欠点を少年っぽさという魅力に変えるのは、モードレッドの樹利にしかできない。

 あの二人にはあの二人だけの強さがあり。

 それは彼女らの才能と、過去に積み上げたものが作り上げた演技の差異だったのよ」

 

―――最初のアルトリアが好きな人

―――ランサーアルトリアが好きな人

―――モードレッドが好きな人

―――確かにこれ、かなり分かれる気がします

―――アクションの質から日常会話で出て来る雰囲気まで、まるっきり違いますから

 

「あの二人はあの二人で小松原を越えようという気概が見えないのが問題。

 もっと国外での仕事も受けていけば、同じように世界的な人間に成れたでしょうに。

 小松原(アルトリア)の後追い感は出たかもしれないけど、それでも良さは売れたはずよ」

 

―――白雪さんも一時期ワールドツアーはやればやるだけ成功してましたしね

 

「『アルトリアという前提の存在』さえ居なければ、あの二人はね……

 あの二人は個々で十分魅力的。

 でもその演技に『アルトリアという下駄』が履かせられていたのも事実。

 それが履かせられておらず、魅力的な個として売り出されていれば……いや、これは妄想か」

 

―――ですね

 

「ああ、それと。

 アルトリアに似た姿のサーヴァント、という設定なら。

 紀伊は胸に無駄な肉がありすぎるし、樹里は胸が無さすぎる。

 特に樹利はさして胸の無い小松原より胸が小さい自分が恥ずかしくないの?」

 

―――……言っちゃいけないことを!

 

「まあそのおかげか樹利はクズの毒牙にはかからなかったのかもしれないけど。

 ランスロット役の皆浜……今は鈴木だったわね。

 ランスロット役の鈴木と、マーリン役の櫻木は胸大きい子を狙ってる気がするし。

 あれは女の敵だわ。実力が備わってなければ即座にスタジオから叩き出すレベルの」

 

―――ん、んんっ、コメントは控えます

 

「ったく、女関係のトラブルが本当に……

 自分から手を出す櫻木も。

 彼氏持ちの女が嘘ついて言い寄って来てトラブルになる鈴木も。

 どっちも女関係でしょっちゅう問題起こしていて恥ずかしくないのかしらね」

 

―――女性の方にそういう言及されると切れ味五割増しに見えますね

 

「だけど、それが役に出てるというのはある。

 あの二人は自分の本当の性格と全然違う役も演じられるでしょ?

 でもややクズ入ってる役入ると演技の完成度が一段上がる。

 それはね、『こういう言動はクズだと受け止められる』って感覚で分かってるからなの」

 

―――そ、そうなんですか

 

「ランスロットの鈴木とか分かりやすいでしょう。

 男女関係を悔いている演技。

 女の涙に流される男の演技。

 男女関係で大切なものを失った男の後悔の演技。

 全部質感伴ってて、その上でモテる男らしい振る舞いになってたの分かる?」

 

―――確かに

 

「意図しなくてもモテる男の振る舞いになるから、鈴木がランスロットなのよ。

 モテる振る舞いが自然にできるのも俳優の武器。クズであることも彼らにとっては武器」

 

―――なんつー武器を

―――スキャンダルというデメリットと、炎上という危険が伴いますけどね、現代は

 

「時々居るでしょう。

 犯罪者やクズの役を求められる俳優。

 外道蔓延るドロドロの愛憎劇を求められる監督。

 可愛い女の子が鬱と地獄に叩き込まれるシナリオを求められる脚本。

 ちょくちょくインターネットで叩かれたりもする、そんな人達」

 

―――いらっしゃいますね

 

「結局、需要と供給なのよね。

 嫌う人もいれば求める人もいる。

 脚本も、監督も、俳優も、そう。求めてる人がいるから仕事があるのよ。

 個人的には、女の敵死ねよ、って思わないでもないけど。

 まあ……演技には真剣なのは分かってるから。櫻木も鈴木も。

 その能力は間違いなく一流。

 他人にできない、ややクズな女にだらしない役を、しっかりやってくれればいい」

 

―――彼らもFGOシリーズの色を出す重要な人達ですからね

 

「でもあれが好きな女の気持ちは本気で分からないわ。何考えてんの?

 あいつらの下半身の剣、盗人に大きな力使わせてるクラレント並みに浮気性ゆるゆる剣よ」

 

―――(笑) 白雪さんの好みには合わなかったようで

 

「あの二人の女性関係が絶えないってことは、あれが良いっていう女性多いんだろうけど」

 

―――それこそ、とびっきりに嫌われることもあるが、強烈に好かれることもある

―――芸能界の不思議ってもんですよ

―――こんなに嫌われてるのにまだ芸能界にいるのか、って人は山程いますし

 

「私のように?」

 

―――……次の役者さんの話、しましょうか

 

「……ええ、よくってよ。

 ガウェイン役の小倉は助演の仕事に集中しすぎね。

 騎士役、王子様役が強いのに、そこがあまりにももったいない」

 

―――助演、ですか

 

「主演をやる気が薄すぎるのよ。

 いつも主君を立てる騎士役のような、助演のキャラばかり。

 個性ある演技ができるのに自分を前に出していかないから主演作がほとんどない。

 褒められる作品はほとんど助演というルイージ以下の駄犬野郎だわ」

 

―――だ、駄犬

 

「主演もやっていける自分の個性を前に出していけっつうに。

 いつまで助演役の王子様やってる気なんだか……

 ガウェイン役の小倉と比べれば、アーサー役の魘井の方がよっぽど一流よ。

 あっちはちゃんと主演を張れる男だもの。

 "助演俳優"のイメージさえ拭えれば、小倉も魘井を超えられるかもしれないのに……」

 

―――惜しく感じますか

 

「いつまでもくすぶってないで早く売れるレールに乗れグズとは思う」

 

―――な、なるほど

 

「トリスタンの三潴は真面目さが足りなすぎる。

 アグラヴェインの薩摩は真面目すぎる。

 足して二で割ればいいのにあのバカ二人と来たら……

 一緒によく酒を飲みに行く仲のくせに、互いの良さを一切吸収しようとしないし」

 

―――あの二人も仲良いですね

 

「トリスタンは私に叱られてからじゃないと演技の中の不真面目さが取れない。

 でも怒られた後だと厚みのある演技をちゃんとする。

 アグラヴェインは真面目すぎて演技が変な方向に行く。

 でも優しい声かけで肩の力抜いてやれば、厳かで静かな演技をちゃんとする。

 どっちも舵取り間違えると演技の質が中の上か上の下程度で止まる。

 上の上の演技に届かない。

 案の定FGOシリーズ以外の演技は微妙に質悪いし……脳味噌スポンジかよ」

 

―――上の上以外の演技は認めないってのもまた、なんというか

 

「手抜きの撮影で金取ろうって舐めてんの?」

 

―――あ、いえ、そういう意味じゃなく

 

「……昔はこの手のジャリ番はそういう事してると思ってたけどね。

 してなかったのよ。してなかった。だから手抜きなんてできない映画になったのよ」

 

―――白雪さん……

 

「そういう意味じゃホームズ役の江戸川は本気で死ねばいいと思うわ」

 

―――え、ちょっと

 

「あそこまでの天才肌はそうそう見ない。

 だって六割の力を出せば有名俳優並みの演技を見せてくるんだから。

 つまり大体の作品においてあいつは六割くらいの力でのらりくらりやってるわけで……死ね」

 

―――えええ、そうでしょうか

 

「まず江戸川が出てる『クローンホームズVSメカモリアーティ』を見なさい。

 んで奴が過去に出てた『テムズ川の邂逅』を見てみなさい。

 細かい部分に本当に違いが出てるから。

 『テムズ川の邂逅』の時は、江戸川の演技を見て、私も本当に感銘を受けたのに……」

 

―――手を抜いても分からないものなんでしょうか

 

「元が優秀なのよ、六割の力で最高の結果に繋げられるくらい。

 あいつ本当にもうのらりくらりと上手くやる人間だから。

 作ってる側から見ると全然違和感ないのよ。

 ……まあ、視聴者の一部は無意識の内に察してて

 『ホームズ見るとなんかイラっとする』とか言ってたりしてたけど」

 

―――それはまた、天才ですね

 

「あいつは本気を出せば凄いのよ、出さないけど。

 『テムズ川の邂逅』は最高評価をくれてやるに相応しい出来だった。

 まだ本気の演技を一切出してないとか本当にもう……

 あいつの最高の演技は過去の映画の中にある。

 ってことはね、過去の映画以降、あいつが本当に本気の演技したことはないってことなの」

 

―――今でも江戸川さんが演じるホームズはかなりいいキャラしてると思うんですが

 

「まだ出せる本気を残してるってことよ。

 ……あいつは芸を舐めてる! だから苛立つ!

 そんなあいつが落ち目の私より評価高いのは普通に恨めしいのよ、本当に。

 手を抜かなければもっと上に行ける男だっていうのに。

 名誉も金にも頓着しない昼行灯め……FGO二部で本気出さなかったらシメてやりたい」

 

―――白雪さんすっごく怖い顔してますよ

 

「どうせ二部には出られない人間の戯言よ。

 二部であいつが本気の演技で最高の無双でも見せたら撤回するわ」

 

―――インタビューで遠回しに江戸川さんに釘刺そうとしてるこの人……

 

「逆に有能なくせに一切演技に手を抜かないのがオジマンディアス役の貴利矢。

 でもあいつはあいつで最近微妙に芸が荒れてるわ。六章では完璧だったのに」

 

―――芸が、荒れてる?

 

「ほんの僅かだけど、本人と事務所は気付いてるのかしらね。

 自分に自信があって、それが外面にも滲み出てるのが彼の強みであり個性。

 でもそれが祟って、おそらく最近仕事外の練習を疎かにし始めている」

 

―――見て、それが分かるんですか

 

「他の俳優の演技の研究をしなければただ負け犬になるだけよ。

 負け犬にもなりたくはないし、落ち目のままでも居たくないの、私。

 彼は黄金よ。自分のまま、ありのままでいれば、それで売れる。

 それが翳りそうになった時、僅かな修正を加えるのがマネージャーとかの仕事でしょうに」

 

―――そこまで言いますか

 

「オジマンディアスを超える王を演じられる人間、他に誰が居るの?」

 

―――……

 

「そう居ないわ。

 オジマンディアスに並ぶ王を演じられる者なら居るかもしれない。

 でも明確にオジマンディアスより上だと言える王を演じられる者が居る?」

 

―――……

 

「答えられないならそれが答え。

 オジマンディアスの芸が荒れるなんて論外。

 そういう意味ではニトクリス役の純希も心配だわ」

 

―――え、あの人もですか?

 

「新人を意識しすぎだわ。

 露骨に純希と似た路線の新人達を意識してる。

 他にも最近人気のれん達のことも意識しすぎている。

 トークにも演技もそれが出ていて……芸にブレがあるわ」

 

―――新人の隆盛が気になっていると?

―――確かにニトクリス役以降そこまでパッとしませんでしたが

―――そんなに、新人の突き上げや、新人に仕事を取られることを恐れる位置の方でもないような

 

「そうよ。だからバカなの。

 思いつめてるのか、ある日突然TV放送で胸に詰め物までしてきて……」

 

―――『ニトクリス役の人ある日突然胸が大きくなった事件』の話はやめましょう

―――あれまとめページまで沢山作られてて、一生ネットから消えませんよ

―――投影巨乳が一生晒し物ですよ

 

「あれは露骨にれん等の巨乳新人への対抗意識……」

 

―――白雪さんの想像にすぎないものだと思いたいです……

 

「あの子もオンリーワンの強みを持っているのに……はぁ。

 他人を気にしてブレるなんて本当に愚かしい。

 ああいう弱ささえなければ、新人などには脅かされない高みまで行けるのに、あの生娘は」

 

―――編集でカットしないといけない台詞はカットしておきますね

 

「ベディヴィエールの島、彼はそれとまた逆で芸のブレが出ないタイプね」

 

―――芸のブレが出ない、ですか

 

「そうね。安定してる。

 苦痛の演技、喜びの演技、照れの演技など、演技に幅がある。

 けれどその演技は、島本人が感情豊かだからというわけじゃない。

 感情を出しているのではなく、感情をきちんと作っている。

 芸の全てを理性で制御している。だから精神状態で芸が荒れないのよ」

 

―――ベタ褒めですね

 

「ただ、ファン層が奇妙なことになってるわね。

 女顔の島を女性的に見る層と。

 高身長で体格も良く凛々しい声の島を男性的に見る層と。

 ファン層が微妙に散ってる気がするわ。

 最近は高身長で女性的な美青年ということで、宝塚に近い支持層ができてるとか。

 あとは、六章で珍しく見せた激情的な演技をしっかり身に着けられたかどうか……」

 

―――白雪さんにとっては、まだ評価は様子見の青年である、と

 

「良くも悪くも、『島の良さ』というか……

 『獅子王とベディヴィエールの良さ』が目についたのが、六章だったから」

 

―――なるほど

 

「あら、気付けば六章の共演者は大体語り終えてたわね。

 マーリン役の櫻木と山の翁役の厳凱さんは……七章のインタビューでどうせ誰かが語るか。

 じゃあもうこれでいいだろうかな。七章と終局もやるんでしょう?」

 

―――はい、もちろん

―――うちのインタビュー記事、追ってくれていたんですね

 

「まあね」

 

―――皆浜さんのインタビュー、読まれましたか?

 

「……ええ。直接会って似たようなことも言われたし」

 

―――そう、でしたか

―――今回のインタビュー、どこまで注釈付けるべきか悩んじゃいますね

―――そういうのが、全部無粋になりそうで

 

「?」

 

―――以前、皆浜さんと話した時に、白雪さんの印象を多く聞きました

―――だから思ったんです

―――周りの人への褒める言葉も、責める言葉も、全て話してもらえば白雪さんという人が見えてくるんじゃないかと

―――注釈無しでも成立するくらい、白雪さんは語ってくださいました

―――あなたが見てきた人の良い部分も、悪い部分も

 

「……それが正しいと決まってるわけでもないしょうに。

 全部私の私見よ。私個人から見たものでしかない。正しい保証は無いわ」

 

―――かもしれません

―――このインタビューをどう扱うのが絶対の正解なのかも、私は本当は分かっていません

―――ですが、この業界では

―――一の叩きと十のファンが居る俳優と、万の叩きと十万のファンが居る人なら

―――後者の方が一万倍価値がある、そんな世界です

―――『カムバック』なんて言葉があるくらいですから

 

「ま、そうね」

 

―――皆浜さんもそう望んでいましたし

―――編集長もゴーサイン出してくれましたし

―――今回の序章リメイクをきっかけに、白雪さんが徐々に戻ってこれるよう

―――姑息な印象工作をさせていただきます

 

「……まったく。

 結構毒吐いたつもりだったけど。

 うちの事務所とおたくの編集部に、随分マイルドな表現にされてしまいそうね」

 

―――良いじゃないですか

―――これから先、大人のダ・ヴィンチちゃんが出る話を、二部でやるかもしれません

―――もしかしたら、ロマニが生きていた頃の過去の話を、外伝形式回想でやるかもしれない

―――実際、『MOONLIGHT/LOSTROOM』もありましたね

 

―――藤丸と、マシュと、ロマンがいる、そんな過去の映像があって

―――そこに、『ダ・ヴィンチちゃん』が、白雪さんが居なかったら

―――ファンの多くは寂しさを感じちゃうと思うんです

―――皆が白雪さんのことを嫌ってるとか、そんなわけがないんですから

 

「……またれん達に鬱陶しく絡まれたら困るから。

 後で私も原稿には目を通すけど、インタビューは好きに編集して頂戴」

 

―――はい

 

「『あのクソ女まだ芸能界にいるのかよ』

 といくら言われようと、私が芸能界を去ることはないわ。去る時があれば、それは……」

 

―――それは?

 

「ファンが0人になった時ね、多分」

 

―――……

 

「『白雪冴花』が嫌いな人の数はどうでもいいのよ。

 『白雪冴花』を求める人間が世の中にいるかどうか、ただそれだけ」

 

―――あの二人は……

―――皆浜さんは、藤井君は、ずっとあなたのファンでしたよ

―――インタビューで、話した限りでは

 

「知ってるわ。だから、戻って来たのよ。嫌いな死にネタ使いの脚本と監督に頭を下げて」

 

―――おかえりなさいませ

 

「ふふっ……『ようこそ、ダ・ヴィンチちゃんの素敵なショップへ。何がお望みかな?』」

 

―――……これすき!

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました

・走り書き
 彼女にインタビューをして、私は改めて理解する。人が彼女に好感を持つ理由も、人が彼女を蛇蝎のごとく嫌う理由も、私には痛いほど分かる。
 彼女はきっと、共演した多くの者達を嫌い、愛し、認めている。

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