もしもFGOがゲームではなく大人気実写特撮映画シリーズ『Fate/Grand Order』だったら   作:ルシエド

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 国民的大人気実写映画『Fate/Grand Order』。
 最初期からこの映画を肯定的に、かつ誠実に記事にしてきた映画情報誌『シネマトゥモロー』編集部。
 今日はFGO第二部公開に先駆け、昨年度に公開され大人気を博した『禁忌降臨庭園セイレム』特集!
 オケアノスのキャスター役、塔堂美玲氏にインタビューだ!


禁忌降臨庭園セイレム/オケアノスのキャスター役/塔堂美玲 インタビュー

―――インタビューに応じていただきありがとうございます、塔堂さん

 

「ちょっと久しぶりだね、何ヶ月ぶりになるのかな?

 まあ君のとこの雑誌インタビューには数え切れないくらい出てるけど」

 

―――先に言っておきますが、多分今回のインタビューの八割はカットすると思います

 

「は? なんで?」

 

―――いつもそのくらいカットしてるからです

 

「……まあ、確かにいつもそのくらいカットして掲載してたね、おたくの雑誌」

 

―――塔堂さんと当雑誌のお付き合いも十年を超えました。ずっと応援しております

 

「あはは、十年前の私は中堅女優で……十年経っても中堅女優だな」

 

―――(笑)

 

「十年! 十年だぞ!

 十年前にも君に『まあまだ私は中堅女優だけど』って言ったぞ!

 『でも十年後には大女優だ、見ていたまえ』って言ったぞ!

 そしてこの十年で上に行けたかというかというと特にそうでもない!」

 

―――20~22時帯ドラマメイン格レギュラー週三本持ってるならもう中堅じゃなくていいような

 

「去年は0本だっただろうが! FGOブーストだよ!」

 

―――FGOブーストって言い方あんまり好きじゃないですね

―――確かに一時的に仕事増える人は多いけれども、実際は塔堂さんの実力でしょう

 

「FGOブースト終わったらまた女優なのにバラドル扱いが始まりそうで怖いんだ……!」

 

―――バラエティーアイドルタイプの女優ってそんな駄目ですかね

―――個人的には親しみ持てる美人って好ましいんですが

 

「私は感動させたくて女優になったんであって、笑い取るために女優になったんじゃなーい!」

 

―――塔堂さんが出てる『木曜どうでしょう』の回のDVDは全部買ってますよ

 

「あ、これはどうも。お買い上げありがとうございます」

 

―――いつも楽しませていただいてます

 

「って、君らのとこの雑誌と編集のノリはまあいい!

 問題は他の所だ! 昔の私の『ハタチには結婚します』宣言を散々引っ張って!

 私をネタにすればお手軽に笑い取れると思ってるんじゃないだろうな!」

 

―――そんなの私に言われても

 

「奴らがそうやって作った雑誌特集のタイトルは

 『無冠の女王にして無婚の女王』

 だよちくしょう! 私が怒らないと思ってるんなら思い知らせてやる!」

 

―――どうどう、落ち着いてください

 

「おんのれぇ……!」

 

―――まあ同事務所の後輩の漣さん(※1)が先に結婚したのが原因なのでは

 

「うぐっ」

 

 欄外注釈

 ※1 漣聡子。Fate/stay night『メディア』役で大ブレイク。同作品で葛木宗一郎役を演じた俳優と数年の交際を経て結婚。『漣三分クッキング』等の料理番組で活躍中。

 

―――神話だとメディアとキルケーって男運にそんな差がない印象だったんですけどね

 

「私はキルケーじゃないし聡子ちゃんはメディアじゃないから……」

 

―――そんな焦らなくても、塔堂さんまだ29じゃないですか

 

「もう29なんだよどちくしょう!」

 

―――編集部一同は塔堂さんを応援しています

 

「ここに来てとてつもなく形式的な励ましを口にするか普通!

 ああ、セイレムの撮影の時もこんな風に年齢を突きつけられたんだよ……」

 

―――?

 

「星仔ちゃん(※2)と月湖ちゃん(※3)に『塔堂おばさん』って呼ばれたんだ……」

 

―――おお……もう……

 

 欄外注釈

 ※2 長房星仔。『ラヴィニア・ウェイトリー』役を務める。11歳。

 ※3 長房月湖。『アビゲイル・ウィリアムズ』を務める。12歳。

 

「ちくしょう……私はまだお姉さんだろ……!」

 

―――あの年頃の子なら、確かに30手前はおじさんおばさんですね

 

「君もおじさんなんだぞ!」

 

―――いや普通に私はおじさんですよ。外見若々しい塔堂さんはまだお姉さんいけますけど

 

「私はな……撮影前は『キュケオーン』が何か知らなかったんだ……

 でも物語に使うというから、作り方を覚えたんだ。

 撮影ではあまり使わなかったが、皆に食べさせると好評だったから、悪い気はしなかった」

 

―――塔堂さんは撮影の度にいい感じのプロ根性見せますよね

 

「皆要求するものだから、何度も作ってやった。

 子供達にも作ってやってたんだ。

 そうしたらついたあだ名が『撮影の給食のおばさん』だ!

 長くするな子供達! やな感じに長くするんじゃない、呼び名を!」

 

―――(笑)

 

「笑うなばかぁ!」

 

―――それであんなに、あの二人に懐かれてたんですね。いい話です

 

「そういうお母さんエピソードじゃなくて!

 私が欲しいのは寡黙で美麗な名女優エピソードなんだよ!」

 

―――そんなにいいもんですかね、そういうエピソード

 

「マタ・ハリ見ろマタ・ハリ! HITOMI(※4)の扱い見てみろ!」

 

―――え?

 

 欄外注釈

 ※4 HITOMI。FGOシリーズでは『マタ・ハリ』を演じる。グラビアアイドルとしても活動しており、グラビアで男性の、ドラマで女性の強い支持を得ている。

 

「セイレムしかメインストーリー出てないのに……!

 ビジュアルの露出機会が妙に多い!

 理由は明白だ!

 ビジュアルの露出機会も多いが服の露出も多いからだ!

 あのいやらしく膨れた胸をあざとく露出させるキャラだからだろう!」

 

―――まあ、今時は少年誌でもグラビアで釣る戦術を使っていくのは当たり前ですから

 

「男なんて皆そうだ!

 努力で身に着けた所作より、天然の巨乳!

 胸の小さい女優より、胸のデカいグラビアアイドル!

 積み上げた愛と貢献より、目の前のやらしい二つの脂肪山!」

 

―――……ん? あれ、塔堂さん、もしかして二年前の塔堂さんの破局の理由って

 

「……あっ」

 

―――……これ記事に出来ないやつじゃないですか……

 

「ちくしょう好きに編集して好きに出版すればいいだろ……!」

 

―――できませんよ。私もですけどうちの編集部塔堂さんのファン多いんですよ

 

「そんなに胸の肉が好きなら一生鳥の胸肉でも食ってろ! 私は豚肉でも食ってる!」

 

―――塔堂さん好きなの牛肉じゃありませんでしたっけ?

 

「……歳重ねたら、だんだん食うのキツくなってきたんだよ、牛肉……」

 

―――ああ。薄い豚肉を茹でてサラダに乗せてごまドレッシングかけて食べる、みたいな

 

「私の食生活を想像して六割くらい当てるんじゃない」

 

―――寄る年波に勝てる人間なんて、いませんからね

 

「歳食っても平然と全盛期続けてる他の役者が凄いんだよ……」

 

―――初代仮面ライダーこと『藤岡弘、』さんも70歳で仮面ライダーの映画に出てましたね

 

「この特撮ヒーローバカライターめ……!

 普通はもう三十代が見えたら体がキツくなってくるんだよ! わかれ!」

 

―――もうさっさとインタビューの体裁だけ整えて一区切りつけちゃいましょうか……

―――例えば、今回の共演者でいいなって思った男性はいました?

 

「えー、スキャンダル禁句の女優にそういうこと聞くかい?」

 

―――大丈夫ですよ、塔堂さんならスキャンダルにはならないと思いますから

 

「おいどういう意味だ……えー、うーん、本当にどうなんだろそういうの」

 

―――本当にマズかったら事務所がカットするでしょうし

 

「ま、いいか。流石にうちの事務所も、そこまでバラドル全開で私を売り出すことはすまい……」

 

―――そうですそうです

 

「今回はセイレムインタビューだったか。

 なら、藤井君(※5)、KENGO君(※6)、坂神君(※7)。

 それと加持さん(※8)、村井さん(※9)あたりか」

 

 欄外注釈

 ※5 藤井健。FGOシリーズの主演・藤丸立香役。第35回SASUKE・FINAL STAGEスパイダークライムで惜しくも脱落。次回に期待したい。

 ※6 KENGO。『ロビンフッド』役。劇団EXILE所属。影が薄く自己主張せず、されど有能と評判のバックダンサーから、劇団EXILEオーディションに合格、俳優へと転向する。

 ※7 坂神賢一。『シャルル・アンリ・サンソン』役。大病院の一人息子で医師免許を取ってから何を思ってか俳優となった変わり種。手術演技を高く評価されている。

 ※8 加持成龍。『ランドルフ・カーター』役。日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品・『未知と既知の間』の主演、ランドルフ・カーター役で知られる。

 ※9 モーニング村井。『マシュー・ホプキンス』役。2017年にその存在が語られた、知られざるたけし軍団陰の参謀。年末TV番組『ガキの使いやあらへんで! FGOSP』ではマシュ・キリエライト役も演じた。

 

「まあ加持さんと村井さんは除外しておくとして」

 

―――(笑)

 

「んー……サンソンの坂神君かな」

 

―――三歳差ですね

 

「おいなんで年齢差計算した?

 藤井君って言ってたらなんて言うつもりだった? ……まあいいけどね」

 

―――理由があったりしますか?

 

「いや単純に医療ドラマ系の俳優って好きなんだよね。

 白い巨塔とか、医龍とか、Dr.コトー診療所とか。

 いつの時代も一定の需要あるんじゃないかな、医療ドラマ」

 

―――近年はそんなでもないような

 

「まあ、確かに。ああそれとあれだ。

 医者タイプの男性って知性と金がありそうな感じがするじゃないか」

 

―――医者の嫁になるのが勝ち組ってもう15年くらい前の価値観では?

 

「え、嘘だろ? 私を騙そうとしたってそうはいかないぞ」

 

―――……

 

「怖い沈黙やめてよ」

 

―――うーん、というか、今はあんまり女の子の憧れの男性職業って少ない気がします

 

「それを言うなら男の子もだろう?

 私の若い頃なら、男の子はサッカー選手や宇宙飛行士を目指してたが、今はそうでもない」

 

―――夢の無い時代ですねえ

 

「夢は見たっていいものだと思うけどね」

 

―――夢、難しいものですから

 

「私はただ巨乳に見向きもせず、私に依存気味で、私以外の誰にも振り向かないで、金と顔と身長と社会的地位が揃っていて、私を捨てず、私を女優としてじゃなく個人として見てくれて、私の長所は褒めつつ短所は受け入れてくれる、私の知らない私を認識してくれながらも、私に一切余計なイメージを押し付けてこない、ほどほどに自由にさせてくれながらも時には私を束縛してくれる、そんな年上の包容力を持つ男が欲しいだけなんだ……どっかの応募者全員サービスで配ってないかなあ」

 

―――ここ編集でカットしておきますね

 

「助かる」

 

―――そういえばその乳判定基準で言うなら、ナタはセーフでミドラーシュのキャスターはアウトなのでしょうか

 

「えー……うーん……

 私も別に巨乳全てが憎いわけでもないし……

 本当に憎いのは胸が大きな若い女に走ったあの男だし……」

 

―――ここ編集でカットしておきますね

 

「助かる」

 

―――あの二人のサーヴァントは近接と遠距離のメインアクション担当でしたね

 

「おい私もめっちゃ頑張ってただろ! キルケー褒めろ!

 ……まあその話は置いておいて。

 激しく飛んだり跳ねたりする近接タイプがナタ一人だったのは、よく考えられてたよね」

 

―――セイレムは、"戦闘で解決しない感"を雰囲気だけで魅せてましたからね

―――狂気の空気、薄暗い画作り、漂う不安、力押しで壊せない恐怖

―――軍隊の力ではホラー映画の恐怖を覆せない、みたいな

―――じくりじくりと染みるような怖さがありました

 

「うんうん」

 

―――戦闘しかできないナタは無敵とは言えない程度の強者に

―――戦闘"も"できる人達は、戦闘以外を行う者達になりました

―――マタ・ハリは対人と説得、ロビンフッドは探索と警戒、サンソンは医療と法

―――そしてキルケーはキュケオーンの達人たる食事係

 

「私は魔術を駆使する魔女だったろ! めっちゃ頼れる大魔女だったろ!」

 

―――あ、すみません、つい。キュケオーンが本当に美味しそうだったので

 

「ん、そう? そう言われると悪い気はしないな。今度作ってあげよう」

 

―――ありがとうございます

―――そう見るとやはり、サーヴァントのセイレムにおける弱体化設定が光りますね

―――ナタ以外は終盤を除いて激しいアクションを抑え気味でしたし

 

「そうやってホラーの空気を作ってたのさ。

 貞子や伽椰子が武術で倒せてしまったら萎え萎えだろう?」

 

―――ホラーの空気と言えば、長房星仔ちゃん

 

「それに、長房月湖ちゃんだね。

 星仔ちゃんのラヴィニア、月湖ちゃんのアビゲイル。

 あの二人があの世界の空気を、明暗含めて作り上げてくれたものだ」

 

―――塔堂さんから見てあの二人はどうですか?

 

「ん……まず、星仔ちゃん。

 あの子はね、天然で暗い空気を作る演技をするのが上手いんだ。

 三姉妹なら多分一番天才肌というか、苦労せず求められる演技ができるタイプだね。

 長女の陽鼓ちゃん(※10)に無いものを星仔ちゃんは全部持ってる」

 

 欄外注釈

 ※10 長房陽鼓。昭和の名俳優・長房源十郎の孫娘。長房三姉妹の長女。FGOシリーズでは『フランケンシュタイン』を務める。『恋するフランケンシュタイン』『クローンホームズVSメカモリアーティ』等で、藤丸立香役・藤井健と共演。

 

「あ、これは載せなくていいけど。

 天才だから、三姉妹で一番辞めやすいと思うね。

 事務所は気を付けてケアして補助してかないと駄目な気がするよ。

 私の同期も、ああいう凄い奴が歯抜けのように辞めていったからね」

 

―――そういう心配は、やはりありますか

 

「まだ三十年も生きてないけど、これだけは分かる。

 この業界は凡才が天才に叩き潰される場所じゃない。

 一日十時間努力してきた奴が、一日十二時間努力してる奴に潰される場所だ。

 千時間の下積みをしてきた奴が、二千時間の下積みをしてきた奴に潰される場所だ。

 でなければ、若い天才がこうもポロポロ脱落してくわけがないのさ」

 

―――なるほど

 

「逆に、月湖ちゃんはあんまり心配要らない。

 あの子はレッスンで学んだことを自分なりに表現していけばそれで大丈夫なタイプだ。

 あれは名女優になるよ。あくまで一を聞いて十を知るタイプの延長だからね」

 

―――塔堂さんにそう思われてると知ったら、色んな業界人があの子に目をつけそうです

 

「なら、記事にするかは君達の判断に任せるさ。そうはならないと思うけど」

 

―――最大限に配慮します

 

「よろしい。しっかし、セイレムは本当に……なんというか、グロテスクだったね」

 

―――差し替え版とか正気を疑いましたよ

 

「白澤監督がね、一回全力で映像作ったんだ。

 でも"怖すぎる"ということで、劇場公開は不可能だと監督が判断しちゃってね。

 怖さを抑えた通常版を劇場で流した、というわけさ。

 そして円盤特典で本来のバージョンのセイレムを追加したわけなんだが」

 

―――子供がポリゴンショックの比じゃないレベルで大ダメージ、大人が泣いたとか

 

「うん、そうなるだろうなあと思ってたよ、私。

 ちなみに編集だけじゃどうにもならなくない部分もあった。

 そもそも尺オーバーしすぎてたからね、撮影。

 だからやや不自然でもカットする場所が必要だったわけで……

 そこは突然メフィストフェレスを出すという豪腕技でシーン繋いでたけど」

 

―――あれそういう!?

 

「最高の恐怖と最高のシナリオのセイレムを味わいたければ、ディレクターズカットを買おう!

 劇場公開の1時間30分が2時間20分ノーカット版になり、メフィストも活躍しているぞ!」

 

―――宣伝ありがとうございます

 

「まあ話の大筋は変わらないんだけどね。

 やっぱり終盤のCGによる触手・怪物・外なる神の一端の洪水が見えるシーンは……」

 

―――あ、ネタバレ

 

「編集頼んだよ」

 

―――あ、はい。ネタバレ食らった私だけはもうどうにもならないですけど

 

「これに懲りたら、もうちょっと私を好意的に扱うことだね。いじりネタは控えて」

 

―――私が十年来のファンだってこと知ってるでしょうに

 

「は、どうだか」

 

―――妖艶、魔、無邪気の全部を感じられる演技ってそう無いんですよ

―――塔堂さんの同世代にもたくさん俳優はいらっしゃいました

―――でも皆引退して、残っている方もそんなに多くはない

―――塔堂さんはずっと現役でドラマに出続けている私達の世代の誇りなんですよ

―――応援してます、胸張ってください

 

「……ぬう。最後だけ綺麗に締めちゃってからに。これだから君の取材は苦手だ」

 

―――(笑)

 

「何笑ってんだこらっー!」

 

―――あ、すみません。ちょっとテレビつけていいですか

 

「この状況でなにそのクソ度胸!? 胸倉掴まれてんの分かってるのか!?」

 

―――そろそろFGO二部の劇場公開開始と同時の婚約発表が始まるんですよ。ほら

 

「……ん?」

 

―――電撃発表ですよ。若人の新しい門出を一緒に祝ってあげましょう

 

「んんんっ? ……あっ」

 

―――? 塔堂さん、どうかしました?

 

「……うわああああっまた事務所の後輩に先越されたぁっー!?」

 

―――あっ、やべっ

 

 

 




 本文と脚注は一部編集された上でインタビューページとして出版されました

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