フィオラ・レシューダside
ポッターの買い物が終わり、無事プリベット通りの家に帰した後、私はすぐさまホグワーツに戻った。
守護霊を送ったからダンブルドアに事は伝わっているとは思うが、まさかダーズリー家があんなに魔法族を拒否する部類だったとは。魔女狩り時代並みの拒絶だったわね、あれは。随分とポッターが細いから、一家に開心術を使わせてもらったら、酷いいじめが行われていた事が判明。こりゃあホグワーツに来たくもなるわね。
まぁ、あのダドリーって男の子も、それなりに虐待を受けているように感じるけど。あそこまで甘やかされるなんて、ある意味一番酷いとも思わない?
私だったら絶対にお断りよ。
ただ一つ、懸念な事が。
ポッターに”開心術が使えなかった”。
二千年近く生きてきて開心術もその間に鍛えたけれど、あんなにもレベルの高い閉心術師には会った事がない。それも、まだホグワーツに入学していない子供。
恐らくは、これまでずっと虐待やいじめを受けてきた事によって、無意識に周りの人間に心を閉ざしているのでしょうね。可哀想に。
まぁ、ホグワーツに来ればある程度子供らしくなるでしょう。
あそこには同年代で、同じ種族の子供が沢山いるし、ポッターは魔法界の英雄って言われてるのよ。敬遠はされるかもしれないけど、友達くらいは出来るはず。
私はホグワーツ内でも姿現しが出来る。
本当は校長にしか出来ないように魔法がかけられているのだけれど、私はホグワーツの創設に立ち会った。どんな魔法かは知っている。
校長室へ向かうと、ガーゴイルの銅像が見えた。お菓子の名前になっている合言葉を言って、中に入る。
「ダンブルドア、終わったわよ」
「おぉ、フィオラか。どうじゃった、ハリーは」
そうして私は、ダンブルドアに事の顛末を話した。
仕事終わりで精神的に疲れてるんだけど、これで新入生の案内も私は終了だから、今夜はゆっくりと休もう。そうね……禁書の棚から数冊家に持って行こうかしら。
闇の魔術の研究を進めないと。
今は、「死の呪文」の反対呪文を研究してるのよ。
まぁ、流石にそうホイホイ人を蘇らせるって訳にはいかないから、それなりに手順を踏まないといけない魔法にしなくちゃだけどね。
私の話が終わると、ダンブルドアは嬉しそうに頷いていた。
「ほうほう。なるほど」
「今年のマグル生まれは、全員ホグワーツに入学するみたい。ホグワーツに行かなかったマグル生まれは……今までに数人いたわ」
「フィオラは、今年で何年目かの? わしが学生だった頃はまだいなかったが」
「七十年近くいるわね。此処には」
私が手招きをすると、不死鳥のフォークスが飛び近寄ってくる。
赤い羽を持った美しい鳥。私も以前、不死鳥を飼っていた。彼等は親しくなれば、大きな利益を私達に与え、そして、良き友人として助けてくれる。私が不死である所以も、不死鳥にある。
フォークスは一体、いつから生きているのだろう。
少なくとも、私より年下ではなかろう。もっと昔から、ずっと生きているはずだ。
「そうじゃフィオラ。『賢者の石』は取ってきてくれたかの?」
「えぇ。はいこれ」
そう言って私は、懐から小さな袋を取り出し、ダンブルドアに渡す。
賢者の石ーーダンブルドアが、ニコラス・フラメルから預かったものだ。何やらこれを狙っている輩がいるようで、ホグワーツで守る事になったんだとか。ニコラスとはこの間会ったけど、随分と元気そうだったわ。まぁ、結構なご老人に見えたけどね。
石を狙っているのはヴォルデモートなのでは……というのがダンブルドアの推測。
まぁ、ダンブルドアがいるんだったら平気でしょうけどね。
「ありがとうフィオラ。……そうそう、四階右側の廊下を封鎖して、そこにハグリットの持つ三頭犬を起き、その奥に賢者の石を守るトラップを作るつもりなんじゃが……」
「手伝えって言うの? そうねぇ……どうしようかしら」
私にメリットがないじゃない。
それに、トラップって言ったって、私が作ったら相当えげつないものになるけど? それでも良いの?
「わしが通れる程度にしてくれるとありがたい」
「じゃあ、石を守る最終段階の魔法をかけるわ。それなら君も辿り着けるんじゃない?」
「では、そうしてもらおう。詳細は追って伝える。しばらくは、ゆっくり休んでいてくれ」
「了解。じゃ、私は帰るわ。図書館の禁書から数冊持っていくけど良いわよね」
「勿論」
ダンブルドアの了承も貰ったので、図書館で姿現しをし、目星をつけておいた本を抜き取って、家に帰った。
***
私の家は、イギリスのずっと北の方の山奥にある。
誰も知らない深い森。
マグル避けと認識妨害の魔法を余す事なくかけているから、今までに訪問者はあまりない。ただし、ふくろう便だけは届くようにしている。じゃなきゃ、外部と完全に切り離された陸の孤島状態になっちゃうもの。新聞も読みたいしね。
日刊預言者は好きじゃないけど、まだ嫌いでもなかった。
大した事件がない限りは善良なマスメディアだし、時々嫌な記事を書く奴もいるがーー大方そういう人間は部署内でも好かれていないのだろうーー小見出しでちょこんと載っている程度。だから、気にはならない。
魔法省からの手紙は、会合や発表会の招待が多い。他にも新しい魔法具の依頼や魔法生物の討伐等。この頃は随分と手紙の頻度が減っているけど、何か理由でもあるのかしら。
森の中にある一番大きな湖の横に、私の家はある。
空間拡張の魔法をかけているお陰で、端から見ればよくある山小屋だが、中に入れば必要空間の揃った広いお屋敷だ。
家の裏では野菜と果物を育てており、よく釣りもする。その他生活必需品や細かい調味料等は、森を抜けた町で買えば済む。
半サバイバル状態で生きているものの、此処に戻ってくるのは、夏休みの期間だけ。だから、魔法省に屋敷しもべ妖精はいらないかって言われた時は、断ったのよね。
「あら、ふくろう」
家の屋根の上に、一羽のふくろうが止まっていた。
茶色い小さなふくろうだ。足には手紙が括り付けられており、私の姿を視界に捉えると、小さく羽を揺らして飛んでくる。
足から手紙を外し、宛名を見た。
「聖マンゴから……何かしら」
ふくろうを連れ、私は中に入った。
ごちゃごちゃとした家の中。
私が入ると明かりが付き、その荒れ具合がさまざまと目の前に映し出される。沢山の羊皮紙は机から落ちて床に散らばり、薬草や魔法生物の身体の一部が天井からぶら下がっている。状態保存の魔法がかけてあるから、腐る事はない。見た目は悪いけどね。
暖炉の横にある麻袋の中からふくろうフーズを取り出し、私は聖マンゴのふくろうに与えた。お腹が空いていたのだろう。美味しそうに食べている。
さて、手紙の内容だがーー「前例のない病気が見つかったので、レシューダさんの意見を聞かせて欲しい」との事だった。
手紙にはその患者の写真と、症状が添付されている。
……なるほどね。
患者の身体中には、沢山の目玉が付いていた。
顔には変わらず二つだけだが、腕や足、腹にまで目がある。曰く、視界が大きく広がったようだが、元に戻したいとの事。原因としては、視力を良くする魔法薬を作っていたら失敗した……との事。
いや、確かに初めて見た。
それにしても、視力向上の魔法薬は、結構難易度が高かったと思うんだけど……それに失敗したのか。魔法薬作りは危険が伴うからね。
私は近くの魔法薬貯蔵用の棚を開けて、中から緑色の液体が入った瓶を取り出した。
そして羊皮紙をひっつかみ、雑な字で返事を書く。
『強力な全魔法薬無効化の薬を持たせました。レシピも一緒に送ります。それを患者に飲ませて一週間安静にさせてください。フィオラ・レシューダ』
「ふくろうさん、そろそろ良いかしら」
ホー、と一鳴きすると、慣れた様相で足を差し出してきた。
魔法で括り付けると、窓から飛び立たせる。
「さて、本でも読むか」
その前に片付けをしなければならないかもしれないが、私にとっては、この汚さが落ち着きを呼ぶのである。
以前、訪問者がやってきた時は、勝手に魔法で掃除をされた。
初めての客人であり、私の教え子でもあったので、快く迎え入れ、紅茶でも淹れてやろうと思ったのに……あの子ったら、「こんな場所で落ち着いて話が出来るか」なんて言って、魔法で片付け始めた。
私からしてみれば、自分のテリトリーが荒らされた訳であって非常に悲しかったが、まぁ、普通の反応だろう。
……彼、今もきっと生きてるんでしょうね。
あの時は片付けられた腹いせに、彼の「自分の陣営に来てくれ」って話を断ったけど……もしかし、根に持ってたりするかしら?
まぁ、今度会ったらゆっくり話でもしたいわね。
あの子もーー
暗黒時代真っ只中。
流石にホグワーツに来ようとは思わなかったみたいね。長期休暇で私が家に帰っているであろうタイミングを見計らって、彼はやってきた。
勿論、私の家を見つけたからには歓迎してあげようと思ってね。ダンブルドアは知ってるけど……入り方やトラップはランダムになるから、中々此処には辿りつけまい。
そんなルナティックパズルを見事クリアしたのがトム!
いやぁ、彼は昔から本当に優秀な生徒だったけど、大人になってからは更に磨きがかかったわね!
でも、容姿が随分と変わっていたのには驚いたわ……
学生時代もよく私に「不老不死」の事を聞きに来てたけど……まさかそんな馬鹿げたものに興味を持っていたなんてね。
腹黒くて計算高いのも変わってないけど。
でも、分霊箱はまだ良いわ。
何てったって、私と違って、完全な不死ではないんだもの。
だから私は、トムが少しだけ羨ましかった。
本当に死を克服しても、得るのは孤独だけ。
「懐かしい……」
五十年前のホグワーツ。
いずれ巨悪な闇の魔法使いになろう少年が起こした事件により、一人の女子生徒が命を落とした。私は秘密の部屋を開けたのがトムだって知っていたけど……あえて口を紡いだわ。何故かしらね。私は、彼の危険性をダンブルドア同様知っていたのに。
生徒が死んだのは、本当に悲しい出来事よ。
私も教師の端くれだもの。守れなかった自分を悔いたわ。それに、ハグリットという、事件には全くの無関係な彼が罪を着せられたんだもの。
けど……私はトムが『お気に入り』だったから。
私、自分の気に入った人間は守りたくなるの。例えそれが、どんな人間であっても。
だから彼は、わざわざ時間をかけてまで私の所に来たんだわ。明らかにダンブルドアに付いているであろう、私の所に。彼は私が自分に与してくれると思ったに違いない。
私は戦闘力は高くなくても、その他の能力が高い。新しい魔法や薬を作り、時には命の想像という神の領域にまで手を出す。
あの時は怒っていたから断ったけど……もしトムが家の掃除なんてしなければ、どうなったかは分からない。
いつか彼は復活する。
その時私は……誰に味方しようかしら。