ロン・ウィーズリーside
僕は純血の家に生まれた。
聖28一族という、確実に純血だと言われる一族の中に、ウィーズリー家もある。他にも純血を名乗る魔女や魔法使いはいるだろうけど、やっぱり途中でマグルが入ったり、半純血の者も多い。けど僕は別に、純血である事を誇りには思わない。
他の連中はーー特にマルフォイ家を筆頭にーーマグルやマグル生まれを見下す『純血主義』っていう古臭い考えを持っているんだ。僕の家族はそれを酷く嫌っている。僕はそんな連中と同じ純血だという事に、あまり良い気持ちを感じられない。
僕の家は貧乏だ。
何たって、息子が僕を合わせて六人、娘が一人の、合計して九人の大家族だ。
父さんは部長をしているけど、二人しかいない極小部署で、給料も決して高くはない。本当はもっと上のポストに就けるはずなのに、父さんったらマグル製品が好きだから、今の部署が良いんだって。
でも、僕の上の兄弟は凄く優秀で、ビルやチャーリーは家に仕送りをしてくれる。お陰で随分と家計が楽になったと、母さんが嬉しそうに言っていた。
パーシーは主席。
フレッドとジョージは悪戯好きだけど、やれば出来るし、グリフィンドールで一番の人気者だ。オマケにクィディッチも上手い。
ジニーは唯一の女の子という事で、両親に格別に可愛がられている。僕から見ても可愛い妹だ。
けど、僕は何もない。
大して頭が良い訳でもない。クィディッチの才能もない。人に悪戯をして笑う度胸はない。イケメンでもない。魔法の腕もそこそこ。
優秀で突飛な兄達の中で、僕だけが劣等生だった。
だから僕は嬉しかった。
ハリー・ポッターという英雄が、同じコンパーメントにいる事が。
「やぁ、僕はハリー・ポッター」
そう言って、僕に手を差し出すハリー。
小さな笑みを浮かべてはいるものの、その目は冷たく、笑っていない。
けどこの時の僕は、そんな些細な事を気にするような精神状態ではなく、ただ、「例のあの人」を倒した英雄との対面に、心が大きく高揚していた。
楽しみにしていたホグワーツ。
汽車で初めて会ったのがハリー・ポッターだなんて、僕は夢にも思わなかった。今年入学する、みたいな話は少しだけ聞いていたけど、まさか本当に会えるなんて。
僕は自然と緩む口元を押さえながら、ハリーの手を取った。
嬉しかった。
兄達は優秀だが、僕はその代わりに、英雄と一番に友達になれたんだ。こんな光栄で、素晴らしい事はあるか!
どうやらハリーは、マグルの家で育ったらしい。だからこの間まで、自分が何者であるのかを知らなかったんだとか。しかもその育て親のマグルが相当意地の悪い連中だったようで、ハリーは彼等をあまり良く思っていないらしい。まぁ、当然だよね。
ハリーは笑わないし、冗談も言わないし、表情が全く読めない。
けど、良い奴だってのは確かだった。
僕の家族やクィディッチの話を興味深そうに熱心に聞いてくれたし、愚痴にだって付き合ってくれた。多分、感情が希薄なだけなんだと思う。まぁ、今まで酷い扱いを受けてきたんなら、そうなっても仕方ないよね。
そう思ったら、幾ら英雄でも、やっぱり人間なんだなって感じるよ。
それから、車内販売のおばさんが僕達のコンパーメントにやってきた。
ハリーは山盛りのお菓子を見て少しだけ目を輝かせ、全種類を数個ずつ買っていた。あんなにお金があるなんて羨ましいな。
僕は母さんから渡されたコンビーフのサンドイッチを食べるつもりだったけど、ハリーがお菓子を一緒に食べようとするので、その好意に甘える事にした。こんな数と量のお菓子を食べるなんて……ハリーとも友達になれたし、今日は一年の中でもかなり幸運な日かもしれない。
「あ、この人、僕を迎えに来た人だ」
蛙チョコレートのカードを見ながら、ハリーが小さく呟いた。
迎えに来た人? ホグワーツの人かな?
「名前は?」
「フィオラ・レシューダ」
「あー、『不死者』か」
僕は五枚くらい持ってる。
『不死者 フィオラ・レシューダ
二千年以上前に生まれた、知識欲旺盛な偉大な魔女。不老不死の力を持つ。近代ではホグワーツで魔法史の教授として働いている。独自の魔法を構築し、逆転時計や闇浄化魔法、完全呪詛対抗薬、完全脱狼役等、沢山の発明が彼女の研究の産物として生まれてきた。彼女の残した功績は多い』
凄く綺麗で、若い魔女だ。
不老不死って事は、きっとその容姿も魔法によるものなんだろうけど、それでもやっぱり綺麗な人には変わりなかった。
ーーそうだ。
この間パーシーが言っていた。
「彼女の魔法史は教科書以上の事を学べる。是非真面目に受けた方が良い」って。フレッドとジョージも珍しく、フィオラ・レシューダの授業は好きなようだ。
だから歴史が好きなジニーが、ホグワーツに入学するのを非常に楽しみにしていた。
ダンブルドアレベルの知名度を誇る魔女。
そんな人に会ったのか……凄いな、ハリー。
「やっぱり不老不死なんだ」
「どうやってなったのかな? やっぱり、オリジナルの魔法か何か?」
「さぁ……?」
フィオラ・レシューダは、綺麗な顔でこちらに微笑みかけてくる。
思わずドキリとしてしまうが、すぐに写真の外に出て行ってしまった。ハリーは写真が動いた事に驚いていたけど、僕からしてみれば、動かない写真の方がずっと奇妙だよ。
それから、ヒキガエルを探す同じく新入生の男の子が来たり、僕が魔法をかけようとしたら、栗毛の嫌味な女が来たりした。
そろそろ着替えないとな……とボンヤリ思っていると、立派なシルバーブロンドを中心とした三人組が、本日三組目のコンパーメント乱入者として現れた。
「このコンパーメントにハリー・ポッターがいるって聞いたけど、もしかして、君かい?」
「うん、そうだけど」
変わらない無表情。
ハリーは緑色の冷たい目を、三人に向けている。スキャバーズは相変わらず菓子を貪っている。こんな時に、空気の読まない奴め。
コンパーメントの外が騒がしいのは知っていた。
大方、あの栗毛の女が言いふらしたんだろ。ったく、チラチラとこの中を覗く人はいたけど、入ってきた奴はこいつらが初めてだ。
「僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイ」
「ふっ」
思わず笑ってしまった。
いやいや、マルフォイって言えば、純血の名家(笑)じゃないか。そう、純血主義の台頭。ルシウス・マルフォイっていう現家督は、元死喰い人。そんな家の人間がハリーに会いに来るなんて、馬鹿げてる!
「僕の名前がおかしいか? お前の名前は聞くまでもないね。赤毛に、お下がりのローブ……ウィーズリーの家の子だな」
「だから何だよ」
「ポッター君、付き合う人間は選んだ方が良い。ウィーズリー家は血を裏切る一族だ。君は、こういう人間と一緒にいるべきじゃない」
「……」
ハリーは何も言わない。
「誰が下賤な輩かっていうのは、普通の人間じゃ見分けが付けにくい。僕が教えてあげよう」
するとマルフォイは、ハリーに対して右手を差し出した。
勝ち誇ったような表情で、僕に見せつけるように。
まさか! ハリーがこんな奴の手を取る訳がない! 僕はそう思ってハリーを見たが、彼はその手を見て戸惑っているように見えた。
そして数秒考え込み、やがてこんな結論を口にした。
「自分の友達は、自分で選ぶよ。でも、仲良くしようね、ドラコ」
そう言うと、マルフォイの手を取って、小さな笑みを浮かべた。
少々複雑そうな顔をしたマルフォイだが、どうやら今の言葉で満足したようで、部下の二人を連れてコンパーメントを去っていった。
ハリーはまた百味ビーンズを食べ始めたが、僕は唖然としていた。
きっとハリーなら、あんな奴の手を取らず、拒絶すると思っていた。純血主義の友達になんて、絶対になろうとしないと思っていた。それに、マルフォイ家はウチの天敵だぞ?
……あぁ、そっか。
ハリーは知らないんだ。マルフォイ家が皆、根から腐ってるって事を。
教えてあげなきゃ。君が間違った人間の手を取ったって。
あいつこそが、魔法使いの恥なんだって。
そう思いながら、僕はハリーに彼等の悪事を話し始めた。
スリザリン寮生の邪悪さや、醜い純血主義、あいつらがどれだけ腐っているのかを。
***
「グリフィンドール!!」
声高々に響き渡る組み分け帽子の声。
そして、獅子寮のテーブルから響き渡る歓声と拍手。盛り上げ役はフレッドとジョージかな。凄い周りを煽ってるよ……。
ホグワーツにつき、湖を渡って大広間へ。
組み分けの儀式は「痛い」とか聞いていたからかなり不安だったけど、実際は帽子を被るだけで本当に良かった。
どうやらあの帽子は、ホグワーツの創設者達が魔法をかけ、被った人間をふさわしい寮に選んでくれるらしい。
ハッフルパフになるかも……と少し心配だったけど、やっぱり血筋かな。両親や兄達と同じ、勇気のグリフィンドールに僕は入寮出来た。
憧れのグリフィンドール。
僕の胸は、喜びで一杯だった。
「我が弟よ!」「ようこそ、グリフィンドールへ!」
笑顔で、嬉しそうに、僕を迎える皆。
組み分け帽子が、僕に「勇気がある」と判断してくれたんだ。それが嬉しくてたまらない。
けど、いつまでも騒ぎ続ける訳にはいかない。
次の組み分けが始まる。
「ポッター・ハリー!」
あ、ハリーの番だ。
大広間は、有名人の登場にざわめくけど、ハリーが帽子を被った途端、すぐにその声も止んだ。ハリーならきっとグリフィンドールだ。だって英雄なんだもの。
組み分け帽子は、僕や他の人のように、素早くハリーの寮を決めなかった。五分くらいモゴモゴと何かを話し、皆がその光景に飽きかけてきた頃、漸く組み分け帽子は意を決した。
「スリザリン!!」
反対側の寮から、歓声が上がる。
僕達は困惑した。
ハリーがスリザリン? そんなバカな! だって、「例のあの人」も有名な闇の魔法使いもスリザリン出身なんだぞ? 何で英雄が、スリザリンなんかにーー
「ハリー……」
僕は、温かく迎え入れられるハリーを見つめる。
微笑みを浮かべ、けれど、目には一切の光を宿していない英雄。
その時僕が感じた感情はーー