ハーマイオニー・グレンジャーside
魔法なんていう訳の分からない力には、今まで縁がなかった。ただ創作の本の中だけで触れる機会のある幻想。それが魔法。
私は物心ついた頃から勉強が好きで、非常にリアリストだった。
七歳くらいになった時には、誰がクリスマスに毎年プレゼントをくれるのかなんて察していたし、小説も読まなくなっていた。魔法なんてありえない。そう思っていた。
ホグワーツから手紙が来るまでは。
それからはあっという間だった。
私は今までに学んできた知識を放って、得体の知れない場所に行く事に不安を感じたけれど、家にやってきたマクゴナガル先生は、とても優しかった。
彼女は私に魔法界の事を事細かく教えてくれて、私の質問にもきちんと答えてくれた。魔法だって見せてくれた。両親も驚いていたけれど、私に「好きな道を選んで良い」と、優しく声をかけてくれた。
ーー私は嬉しかった。
魔法という名の、今まで知らなかった力。
それが私にある。
まだ子供である私に大きな夢を見させるには、十分過ぎる程の要素があった。お陰でホグワーツを卒業したらどうするのか、なんて考えずに入学しちゃったし、マグル界の知り合いとも連絡が取れない。
けど、私はそれでも良かった。
友人と呼べる人間なんて、今までに誰一人として、私の周囲にはいなかったから。
私はいつも独りだった。
原因は分かってる。私のこの嫌な性格だ。
自慢じゃないが、元々私は賢かった。少しの勉強で学年トップの成績も取ったし、人に教える事も得意だった。でも当時の私は、それが当たり前の事だと思っていたの。
自分には簡単な事なのに、何で貴方は出来ないの?
そう思って、周りを無意識に見下していた。
それからは、本が親友。
周りが私の悪口を言うなら、勉強で見返してやる。そう思った。
だって将来役に立つのは、腕っ節じゃなくて頭の良さーー学歴だもの。
だから私は、ただひたすらに勉学に励んだ。
楽しかったってのもある。けど、それ以上に、あいつ等を見返してやりたかった。
ホグワーツに入学する事になり、私の人間関係は0からやり直しとなった。
つまり、この場所には、私のこの捻じ曲がった性格を知る人間は、誰一人としていない訳だ。けど、いつこの性格が露見して、また以前のように孤立するか分からない。
だから出来るだけ、親切に接しなきゃ。
今までずっと独りだったけど、友達が欲しくないといえば、それは嘘になる。
両親は独りぼっちの私を、いつも心配していた。
気を使って学校の話はしなかったけど、それでもきっと、娘が辛い思いをしているとでも思っていたのだろう。
もう心配はかけたくないーーだから私は、ホグワーツで友達を作って、両親を安心させるんだ。
「なるほど、君はどうやら、競争心の高い子のようだ。……同じ気質を持った人間が多い方が、君はきっと偉大になれる」
組み分け帽子は、私の頭の中でそっと呟く。
私は、自分と同じレベルの人間がいる場所に生きたい。そうすればきっと、人を見下して、嫌な事を言ってしまうなんて事はなくなるはずだ。だってそういう所には、私より上の人間が、必ずいるんだもの。
「よろしい。ならばーーレイブンクロー!!」
英知を司るレイブンクロー。
私は此処で、上手くやっていけるだろうか。
***
同室のパドマ・パチルと仲良くなった。
私はあまり社交的な性格ではないので自分から話しかけられなかった所、彼女が会話の輪に入れてくれたのだ。
組み分け帽子は言っていた。「レイブンクローに入れば、機知と学びの友を得る」って。私にとってのそんな友人が、この寮で見つかったら良いな。
一日目の授業は、パドマと一緒に行動を共にする事にした。
ホグワーツの大半の生徒が、友人と二、三人で固まって動いており、基本的に一人の生徒は見かけない。友人がいなければ、悪目立ちする事間違いない。
私が一番楽しみにしていた授業が、「魔法史」。
魔法界の歴史を学ぶ授業らしい。先輩方曰く、この授業は非常に有意義な時間を過ごせるんだとか。
理由を聞いてみると、教師があの「不死者」フィオラ・レシューダであるという。大広間の教職員テーブルで若い女性を見かけたけど、もしかしてあの綺麗な人がフィオラ・レシューダだったのかしら。
彼女は二千年以上前から生きているため、歴史を生で見ているらしい。実際に当時生きていた人間の話を聞くなんて、近代史程度でないと有り得ない事だ。少なくとも、マグルの世界では。
だから私は、楽しみで仕方がなかった。
ホグワーツ初日の午後。
私は意気揚々と魔法史の教室へ向かった。そこは黒板と机、椅子があるだけの簡素な部屋だ。実技をするような科目ではないので、当然の光景とも言える。
私とパドマは、かなり早く着いてしまったようだ。まだ生徒が少ない。「魔法史」はグリフィンドールと合同のようだ。
すると黒板の近くにいた、青みがかった黒髪を持った綺麗な人が、私達に笑みを向けてくる。
「こんにちは」
その表情からは、老いなんて欠片も感じられない。
嗚呼、この人は本当に不老不死なんだ。
生徒が集まり、チャイムが鳴ると、早速楽しみにしていた授業が始まる。
「新入生の皆、初めまして。今日から皆に魔法史を教える、フィオラ・レシューダよ。俗に『不死者』なんて呼び方もされてるけど、好きに呼んでくれて構わないわ」
魔法界の生まれならば、彼女の名を知らない者はいないだろう。
ダンブルドアと同様、偉大な魔女として様々な本に名を連ね、沢山の功績を残している。マグル生まれの私でさえも知っている人だ。
すると、彼女は再び話し始める。
「私はね、二千年以上生きてきたわ。つまり、そこの教科書に書いてある事は、全部この目で見てるって事」
そう言うと、先生は私の目の前に置かれていた本を指差した。
教科書は……要らないの?
でも、そんなんじゃ授業が成り立たないんじゃないかしら。
「マグル界の歴史も知っているわ。興味があったら聞きにきなさい。気分が良かったら教えてあげる」
その言葉に、思わず皆苦笑を浮かべる。
けど、マグル界の歴史も知ってるなんて凄い! 後で色々と聞きに行かないと! 知りたい事が山ほどあるの!
「実体験した人間の話は貴重よ。......けど、正直言って、魔法史はそれ程役に立つとは思えないわ。専門の、特殊な職業に就きたい訳じゃなかったら、ざっと覚えるだけで十分よ。だから、授業中は好きにして構わないわ。ただし、学年末のテストはきちんと行います。そこで点数を取らなければ落第もあるから、そこはきちんと考えなさい」
教室がざわめく。
今まで、授業を受けてきたけど、こんな事を言ってきた先生はいなかった。皆厳しくて、特にマクゴナガル先生なんて「変身術を嘗めるようだったら教室から叩き出す」とまで言っていたのに……。
「私の話を聞きたい人はそうして。他は、魔法の練習をするなり、勉強をするなり、居眠りをするなり……兎に角、授業を受けている人間の邪魔にならないのなら、何をしても良いわ。ほら、教科書を読むのって、退屈じゃない?」
一理ある。
確かに歴史は、将来の職業選択において、マグル界でもそれ程重要ではない。歴史研究家になる、なんていうのならば話は別だろうが、そんな職業、魔法界にあるのかさえ疑わしい。
それに、確かに教科書は読んで覚えれば済む。
きっと先生の話を聞けば、教科書以上の事が学べるはずだ。
「今日は手始めに、”魔法の起源”について教えてあげる。まだ最初の授業だしね。勿論、教科書に沿ってはするわよ? 進行は遅くなるけど。必須事項は自分で覚えなさい。学年末テストは勿論するわ。私が教えられるのは、追加要項と歴史の真実。あぁ、他科目で宿題で分からない所があったら、後で持ってきて良いわよ。教えてあげる。どうせ二十分も話さないし。……じゃあ、私の授業を受ける人間だけ前に来て」
戸惑いながらも、次々と生徒は動き出す。
勿論私は真ん前だ。パドマを引っ張って、私はすぐさまレシューダ先生の目の前に座った。レイブンクロー生は、我先にと前の方の席へ移動する。グリフィンドールは疎らだ。
本格的に授業が始まった。
レシューダ先生は、事細かに魔法の起源について話し始めた。今までに知らない知識ばかりなので、私達は慌ててノートを取る。けれど先生はゆっくりと話してくれるので、心に余裕を持って話しを聞く事が出来た。
「......と、古来の魔法は杖無しで行われていたわ」
「先生は杖無し魔法が使えるんですか?」
レイブンクローの男子生徒が、手を挙げて質問をしてくる。
「使えない事もない。......けれど、やはり威力は落ちるわ。貴方達も練習すれば使えるわよ」
そもそも、”杖は魔力を具現化しやすくするものである”、と本で読んだ事がある。
魔法を使う時はイメージが大切なのだが、杖無しともなるとその力が更に必要となる。余程想像力が豊かでないと使えないーーって。
「流石に、杖誕生の瞬間には立ち会えなかったわ。私のこの杖はーー」
すると先生は、徐に自分の杖を取り出した。
真っ白な杖。
シンプルで、何の彫刻もない。
「白樺に不死鳥の羽。自作よ。四代目オリバンダーに手伝ってもらったの。特に深い意味はないわ。貴方達も、オリバンダーの店で杖を買ったでしょう? あれは、本当に歴史のある店よ」
それから適当に雑談を聞いていると、本当に二十分で先生の講座は終わった。
後は授業のチャイムが鳴るまで好きにして良いと言われたので、私は先生に質問をしに行く。けれど、私と同じ考えのレイブンクロー生は多かったようで、
「先生! 杖無し魔法が見てみたいです!」
「先生! まだ魔法が発展していない時代に、どうやって不死になったんですか!」
「先生! ホグワーツの創設者と会った事は!」
勿論、どれも聞きたいものばかりだったので、私は先生の回答を待った。
レシューダ先生は、時間の許す限り一つ一つ丁寧に教えてくれた。ただ「不老不死」の力については濁されてしまった。けれど、私はどうしても、その方法に興味があった。何故だかは分からない。けれど、ダンブルドアのような優秀な魔法使いでも為す事の出来ない魔法に、私は惹かれたのだ。
「へぇ、君、グレンジャーだっけ? ……不老不死に興味があるの?」
「はい! まぁ、あくまでも、興味の範囲ですけど……」
レシューダ先生は少しだけ悲しそうな顔をすると、小さな声でこう答えた。
「それが良いわ。あくまでもこういった魔法は、興味程度で済ませる方が良いの。後から絶対……後悔するもの」
ーー先生はもしかして、不老不死になった事を悔やんでいるのかしら。
結局私達の質問タイムは、授業の終わりにまで続いた。
グリフィンドール生は途中で飽きて、教室の後ろで魔法の練習を始めたけど、こんな貴重な話を聞かないなんて信じられない! こんな話、本を読むだけじゃ絶対に知る事なんて出来ないわよ!
ーーあ、チャイムが鳴った。
すると先生はすぐに「はい、授業終わりー。帰って良いわよー」と、さも当然のように言う。え? 何で?
「先生、宿題は?」
私が言うと、教室中がギクリとしたように感じた。ただでさえ初日の宿題は多いからか、これ以上増やされたくないとでも思っているのかもしれない。
でも、宿題って大事だと私は思うの。勿論、自分で勉強もするわよ? それでも、プラスして調べようと思えるし、それを評価もしてもらえる。私にとって宿題というものは、自分を高めるための必須要項でもあるのだ。
すると私達にとっては意外な事に、レシューダ先生はこう答えた。
「チェックするのが面倒だから、別に良いんだけど……そうね、じゃあ、自分の興味がある歴史上の事件のレポートを好きに書いてきなさい。マグル界でも魔法界でも可。提出は自由。今後も宿題が欲しかったら、私に直接言いに来なさい」
歴史って……マグル界でも良いの?
でも、折角だから魔法界の歴史を調べようっと……教科書は覚えたけど、パドマにも色々教えてもらわなきゃ。やっぱり、教科書や本に載っていない事もあると思うの。
それにしても、提出は自由なんだ……。
「0から10段階で評価して、それに準じて寮に点数も上げるから……まぁ、余裕がある人はやってくると良いわ」
その言葉に、レイブンクロー生全員が心の仲でガッツポーズをする。
レイブンクローに入って最初に、先輩方にこんな事を言われた。
「先生方から与えられる点数は、年の最後に表彰される寮杯の結果を左右する。今年こそは絶対に寮杯を獲得したいから、皆頑張ってね!」
過去数年間、ずっとスリザリンが寮杯を獲得しているそうだ。先輩方は、スリザリンに一泡吹かせたいみたい。けど、それは他寮からも感じられる。
スリザリンはどうやら、随分な嫌われ者のようだ。聞いてみると、マグルやマグル生まれの人間を蔑み、純血こそが骨頂だと思ってるんだって。
何だか嫌ね。私マグル生まれだし。スリザリンに組み分けされなくて良かった。
レイブンクロー生は、先生の言葉に顔を見合わせた。
小さくても、レポートを出せば寮杯に貢献出来るのだ。それに、全員で耳を揃えて出せば、かなりの高得点が貰えるだろう。
私はパドマと魔法界の歴史の話をしながら、一日を過ごした。
***
「貴女達は、レシューダ先生の『お気に入り』になれるかな?」
談話室で宿題をしていると、先輩が話しかけてきた。
確かこの人はーーペネロピー・クリアウォーター先輩だ。パドマは仲が良いようで、親しげに挨拶をしていた。
まず初めに聞かれたのがレシューダ先生の授業の事で、「良い授業だったでしょ」とまるで自分の事のように言っていた。そんなにレシューダ先生の事が好きなんだ……けど、確かに先輩方の言う通り、良い授業だった。
そして、冒頭の言葉に戻る。
『お気に入り』……?
一体何の話だろう。
「レシューダ先生はね、スネイプ先生と違って、皆に良く接してくれるの。でも、学年に一人くらい『お気に入り』の生徒がいて、その人には特別に贔屓するって言うか……扱いが手厚いのよね。噂だと、個人授業もしてくれるみたい」
「へぇ……どういう人が『お気に入り』なんですか?」
私は興味を覚えた。
あんなに素晴らしい魔女から個人授業を受けられるの? 何それ……最高じゃない!
それに、先生ってきっと、魔法以外にも精通してるわよね? ほら、授業中に宿題も教えていたし。って事は、興味のある内容を、沢山教えてもらえるんじゃない!
「うーん、基準は分からない。だって、ウィーズリーの双子も先生の『お気に入り』みたいなの。必ずしも真面目な生徒って訳じゃないみたい」
他にも、今この学校にいる先生の『お気に入り』を教えて貰った。
先生が公言している訳でもないので、絶対にとは言えないようだが、あくまでも噂の範囲内の『お気に入り』が、五人くらいいるんだって。まぁ、私からしてみれば知らない名前ばっかりなんだけどね。
でも、誰にも共通点がないみたいなの。
優秀な成績を収めていない、不真面目な生徒でも数少ない『お気に入り』の一人になれるなんて……今度聞いてみようかしら。
「後、スネイプ先生も『お気に入り』だったんだって」
「レシューダ先生って、何年この学校にいるんだろう」
やっぱり、不死者は私達の物差しで計っちゃダメなのね……。
そう心の中で呟くと、私は宿題に目を落とした。
さて、満点目指して頑張らなくちゃ!!