お医者さんが下した客観的な結論は、貧血。
もっとも、私は別に持病として貧血気味だったわけではありませんけど。……精神的な負担で何故か貧血になる、私はたまにあるんですけど、他の人はどうなんでしょう。怒られてショックを受けた時とか、取り返しのつかない失敗に気づいた時とかに冷や汗が出て目が開けられなくなって全身の力も抜けて……。
ともあれ、凛さんとプロデューサーさんが言うには、ライブは無事に成功したようです。私が倒れたのは、全てが終わって退場する時のこと。凛さんと私のユニットは好評で、続投を望む声も多かったそうです。そんな漠然とした業績を言われても何だか実感が湧きませんでしたが、凛さんが組めてよかったと笑顔で言ってくれると、何となくわかりました。……同時に、自分なんかがこんな期待の的になっていいのかとの罪悪感もありましたけど。
……さて、ほんとうに懸念すべきは私のお母さんです。お母さんを心配するあまり叔父さんは私の独自の路線には反対し、そもそもお母さんがおかしくなったのが、私がこんなことに巻き込まれた原因でもありました。しかし、考えてみればそれが無ければこの痛みに満ちた達成感を知る機会も無く、凛さんと知り合うことも無かったのです。ほんとうに、全体としてらどう捉えたら良いのか私にはわかりません……。
……叔父さんの心配は杞憂だったようで、私のライブを見たお母さんの状態が悪化することはありませんでした。むしろ、私を見て、一筋の涙を静かに流したとのことです。自分にも理由がわからない涙を。そして、その直後少しの間だけ、叔母さんと言葉を交わせたらしいです。
……多分ですけど、もしお母さんが私に自己投影することで精神の均衡を保っていたのだとしたら、実は叔父さんたちも、そしてお母さん自身も、一番「効く」のが何なのかを勘違いしていたのではないでしょうか。
これは、プロデューサーさんや凛さんの意見も交えての推測ですけど……お母さんが自分の青春から真に奪われたのは、単に芸能人になりたいという夢だけではなく、それに必要な自由、或いはその自由を求められる信念であり、そこに確立された自己なのではなかったのかと。
だから、私がわがままを通して、自分のやりたいようにやり切り、その痛みも快感も一人で抱え込んだ姿こそが、自分の作った世界にいる姿こそが、単に言われてアイドルをやっている、つまり過去のお母さんと同じように縛られている私の姿よりも理想的なものに見えたのだとしたら……。私が凛さんとペアを組んだのも、むしろ自分が過去のトラウマを、敗北を克服しているように見えたのだとしたら……。
……お母さんは今、病院にいます。今まで世間体を気にして部屋に軟禁状態にすることを決めていた叔父さんも、今回の件で自分の推測や方針が外れることを自覚して、重い腰を上げたようです。
……魂が消し飛びかけてまだ回復していない私にはまだ、お母さんに再び会いに行く勇気はありません。でも、もし森久保が、叔父さんの干渉がめっきり減った私が、今後も独自に何かをしてお母さんが良くなることがあるとしたら……その時は、ちょっとだけ様子を見に行ってもいいかも、と思いますけど……。