私が姿を変えてわかりやすく怒ってくれたのは、当時のプロダクションだけでした。期待はずれなんですけど……怒られるのは嫌ですが、この苦行から解放されるのが何よりの目的だったのに……。
どうして、叔父さんたちが私を芸能活動から解放してくれなかったのかはよくわかりません。もしかしたら見た目が多少変わってもお母さんの代わりにはなり得る、お母さんを満足させられると思ったのかもしれないし、単にこのまま働いた方がお金になると思ったからかもしれません。お母さんは、相変わらず部屋に篭って私のライブのビデオを見て自己投影するばかりなので、効いているのかもよくわかりません。
ともあれ、プロダクションの関係者は怒りました。困るよ森久保ちゃん、それじゃ森久保ちゃんの方向性と違うじゃないか、わかってるのかい。……そんなこと、私が一番よく分かってるんですけど。わかってるからこそ、こうしたんですけど。
とにかく、プロダクションは私を追い出すか、強制的に元の姿に戻させるかの構えでした。そうなったら、叔父さんたちも流石に怒るだろうし、お母さんはどうなるかわかりません……。……やっぱり、私には全て荷が重すぎたんです。初めから無理だったんですけど。
どうして私は、元凶でもあるお母さんからもらった自信の持てない身体を傷つけてまで姿を変えたのに、大人たちの思惑に翻弄されなければならないのでしょうか。傷つけ方が足りないの……? 思わず、カッターナイフを左手首に押し当ててしまいます。
…………むーりぃー……。私が臆病なことは依然として変わりません。跡になるような傷をつける前に、ちょっと血が滲んだところでカッターナイフを落としてしまいます。
そんな私のところに、一人の大人が寄ってきました。怖いんですけど! どうして大人たちはみんな私なんかに何かさせたがるんですか、期待するんですか。いぢめですか。私なんて、ただの臆病で駄目な子で、もっと色々できる人がいるのに。この大人もきっと、私を、森久保をいぢめるつもりです。
その大人は森久保に名刺を差し出しました。他のプロダクションのプロデューサー。今のプロダクションとの契約が切れたら、是非うちに移籍して欲しいという流れの話だということはすぐに察せました。その人は言いました。君なら、お母さんの代わりじゃなくて、ありのままでも輝けるよって。
初めは何のことかよくわかりませんでした。とはいえ、髪を染めてピアスの穴を開けたせいで元のプロダクションの仕事が打ち切られた手前、叔父さんたちは代わりが見つかったことは普通に喜んでましたし、これを機に平穏な生活に戻りたかった私ですけど、結局流さられるまま、その事務所に移籍することになつてしまいました。
……嫌々に決まってました。どうせ、今までと同じようなことをするんだろう。自分を偽って、お母さんの夢の代わりを務めることに変わりはない。そう、思っていましたけど。
……でも、ある時から違和感を感じたのです。何かが違うって。
ここでは、お母さんの理想をトレースしなくても、叔父さんたちはともかくプロデューサーさんたちが怒ることは何故かありませんでした。何ででしょう、私はお母さんの夢をなぞることだけの価値のためにここにいるんですけど……。
そして、この事務所にはあの人もいたのです。
渋谷凛さん。私がアイドルを嫌々ながらやって、その中で、百歩譲ってこのまま続けるとした場合、強いて言うなら、あんな風になりたいと思えた人。