「いや、失礼。このような彼女に対する処遇を見れば、敵はお前だな」
漆黒の英雄はイビルアイを背にし、悪魔と対峙するよう構えた。その光景はイビルアイを助けるために割って入ってきたようにみえる。
「 ・・・・・・これは、これは、よくぞいらっしゃいました。まずは、お名前をうかがってもよろしいでしょうか。私の名前はヤルダバオトと申します」
漆黒の英雄と悪魔の間に少しの沈黙が訪れ、悪魔はゆっくりと頭を下げたのだ。イビルアイは先程感じた気迫が悪魔から消え去ったことに気づく。何事もなかったかのように、まるで何かを演じるようなそんな感じを受けたのだ。
「私は、モモン。アダマンタイト級冒険者だ」
たしか、モモン。イビルアイは目の前の戦士が噂になっているアダマンタイト級冒険者だと思い出したのだ。そして、冷静さを取り戻したイビルアイはモモンの全身鎧を見て、自身の仮面が外れているのに気づき、落ちていた仮面をつけ直す。
直視はされていないようで、モモンはイビルアイが吸血鬼だと気づいていない様子である。
「なるほど、どのようなご用件でこちらへ?」
「依頼だ。ある貴族から自分の館を守ってほしいと言う名目で呼び出されたが・・・・・・王都がこのような状況で、飛び降りてきた」
モモンとヤルダバオトの二人は、互いの情報を引き出す情報戦を繰り広げている。
イビルアイはそんな二人のやり取りを観察する。目の前の悪魔の強さは異常である。しかし、イビルアイの予想が正しければ、目の前のモモンも自身を遥かに越える存在だと感じた。そう、目の前の悪魔と同等だと。
「アイテムの回収か・・・・・・それをこちらが提供すれば問題はそれで終わるのか?」
「いえ、無理ですね。私たちは敵同士。戦うしかありません」
「それしか道はないというんだな?」
「はい、その通りです」
一通り話が終わると同時に、モモンは剣を構える。
「仕方ありません。抵抗させてもらうとしましょう」
「――行くぞ」
モモンが踏み出した瞬間、ヤルダバオトに肉薄すると激突する。そのスピードは、先程産み出した分身以上。無数の斬撃に対してヤルダバオトが長く伸びた爪で弾き返す。
「・・・・・・すごい」
イビルアイはその光景を見て、驚嘆が口から洩れた。
単純な戦闘能力だけなら、モモンはヤルダバオトに勝っていると思える。
「お見事です。あなたのような天才戦士と戦うとは、私の唯一の過ちかもしれませんね」
モモンとヤルダバオトは一旦距離を開いた。
「世辞はいい。お前だって、まだまだ力を隠しているんだろ?」
モモンの問いにヤルダバオトは答えなかった。もし、ヤルダバオトが仮面を着けていなかったら、笑みを浮かべていただろう。
「もしや、神人か?」
イビルアイの脳裏にある考えが浮かぶ。ぷれいやーの血を引くもののなかに、時おり強大な力を覚醒させる者がいる。モモンの強さは異常だ。そうでなければ、考えられないほどである。
「いえいえ、あなた様には勝てませんよ・・・」
ヤルダバオトが再び動こうとしたが、イビルアイはそれよりも一足速く動いたのだ。
「<
ヤルダバオトの足元に魔方陣が現れ、そこから口を広げた竜の顔が生えるように作り出される。そして、悪魔を噛み殺す。対象の束縛と共にダメージを与える魔法で第六階位に属す魔法である。
イビルアイはタレントの効果が切れたのだが、体が異様に軽く感じた。それは、肉体的、精神的にも一気に成長したと実感できるほど。そのため、今まで行使出来なかった魔法も扱えるようになっている。しかし、それでも目の前の二人には足元も及ばないだろう。
本当ならもっと、高位の魔法も使えるのだが、所詮ヤルダバオトにはほとんど効かない。それなら、多少、レベルを下げ、魔法の発動を速くし、相手の行動を妨害するのが得策だろう。
「おや、そちらもまだ動きますか」
ヤルダバオトはモモンが来たことにより、イビルアイのことに眼中がなかったかのようにそういったのだ。イビルアイの魔法は無効化はされなかったが、予想通りとでも言うのかあまり効果があったかのようには見えない。
「私は蒼の薔薇のイビルアイ! 少しだが助力する」
しかし、数瞬拘束できれば、十分。モモンは竜ごとヤルダバオトを一刀両断にしようとした。
だが、ヤルダバオトの方が若干速く抜け出し、空高く舞え上がった。
「同じアダマンタイト級でしたか。あまり、無理をしないよう」
イビルアイはモモンの邪魔にならないよう適度に距離を保つ。
さすがに、戦士であるモモンは空を飛ぶことができない。それなら、ヤルダバオトを地表に下ろすのは、魔法詠唱者である自分の役目だとイビルアイは考え、新たに魔法を使おうとした。
その瞬間、空に飛んでいるヤルドバオト目掛け、竜を形取った白い雷撃が襲ったのだ。
「モモンさ・・・・・・ん、お待たせいたしました」
上空から一人の女性が現れる。漆黒の英雄、モモンのチームは二人組。美姫という二つ名を持つ魔法詠唱者がいたはず。目の前の黒髪の魔法詠唱者がそうなのだろう。イビルアイは恥ずかしい二つ名だとおもっていたが、実物を目の前にすると、そんな二つ名に相応しい美しさである。
それに、今使った魔法は、第五階位魔法の
そして、三対一の構図となった。
「この辺りで引かせていただきます。先程もいったように、私どもの目的はあくまでアイテムの回収。あなたを倒すということではありません。これより、王都の一部を炎で包みます。もし、侵入してくるというならば、煉獄の炎があなたをあの世に送ることを約束しましょう」
ヤルドバオトはそれだけ言い捨てると背中を見せ走り去っていく。飛翔のスピードは思いの外速く、暗闇に紛れ消えていった。
そんな中、最後の一瞬だけ、ヤルドバオトは自分を見たのをイビルアイは感じたのだ。
「追わなくて良いのか?」
「奴は撤退を選んだ以上簡単に追跡はさせてくれないだろう。それに先のことを考えると準備が必要・・・・・・幸い、相手がどこにいるかは向こうから教えてくれるらしい」
イビルアイが聞くと、モモンはそう答えたのだ。準備がいる・・・・・・仲間の死体を考えると、イビルアイも同じ答えが出てきた。
仲間の死体をマジックアイテムで包みながら、イビルアイはモモンにヤルダバオトと戦った経緯を説明した。
「それで、その蟲のメイドは殺したのですか?」
突然、モモンの口調から隠しきれない怒りをイビルアイは感じた、
「いや、殺してはいません。その前にヤルダバオトが現れたので」
「――そうですか。なるほど・・・・・・」
どこか、納得かイビルアイの勘違いであったかのように、モモンの怒りは消えていった。しかし、モモンの隣で聞いてたナーベの瞳には憤怒が宿っていたかのように見える。しかし、元々イビルアイに対して良い感情を抱いていないように思えたので、なんとも言えなかった。
「それで、そのメイドを殺そうとしたから、ヤルダバオトが本気になったのではないですか?」
そこで、イビルアイはモモンが怒りを覚えていた理由に気づく。二人がメイドに戦いを仕掛けたことがすべての始まりではないかということだろう。無駄な戦闘など冒険者なら回避して然るべき。しかし、それはイビルアイからすれば、納得のできないことである。
「ヤルダバオトは言っていた。王都の一部を地獄の炎で包むと。そんな奴に使えるメイドがまともであるはずがない。私は仲間が戦ったことは正しい行為だと信じている」
イビルアイはそう反論した。互いに瞳は見えないが、たしかに視線がぶつかり合ったとイビルアイは確信する。
「・・・・・・そうですね。貴方の言う方が正しいですね。すみません」
「い、いえ。頭を上げてください」
先にモモンが折れ、軽く頭を下げたのだ。
譲れないとはいえ、助けて貰いながら恩人に頭を下げさせるとは、イビルアイはそんなモモンの態度に慌てたのだ。
イビルアイはモモンを見て感じていたが、予想以上に善人に感じた。
「ところで、先程の魔法は・・・・・・第六階位魔法ですよね?」
「・・・・・・私のとっておきの一つです。仲間内しか知らないので、できれば口外しないでいただきたい」
モモンは突然話題を変えてきた。空気を察知し、気を使ったのだろう。
第六階位以上の魔法はほとんど知られていない。モモンは魔法にも精通しているように思えた。
「そちらもかなり高位の魔法詠唱者ですね」
イビルアイはナーベに視線を向ける。ナーベは視線を合わすが無言を貫いた。
その様子は下手なことは話すなと事前に言いつけられているようにみえる。
そんななか、突然街に真紅の炎が天高く吹き上げたのだ。高さは三十メートルを越え、長さは数百メートル以上であろう。
炎の壁は、王都の一角を完全に包み込んでいるように思えた。
この炎が、ヤルダバオトが言っていたことなのだろうかっとイビルアイは思ったのだった。
誤字脱字はのちほど修正します。
顎をヘッドと読んで良いのだろうか。。。
頭だと字面カッコ悪いんですよね。。