イビルアイがあのとき覚醒したら   作:copu

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王都襲撃3

 「見えてきたな」

 

  前方には広場があり、中央には仮面を着けた悪魔が隠れもせずに堂々と立っていた。周囲には悪魔の影が見えなかったが、そのまま信じるほどイビルアイはバカではない。一応は警戒する必要があるのだ。

 

 イビルアイは作戦通り、モモンとナーベと共に中央に攻勢に出たのだ。

 

 ヤルダバオトもこちらが近づいたことに気づいたのだろう。優雅に一礼して見せた。

 

「どうやら、予定通りに始まったようだな」

 

 後ろから太鼓を叩く音や、勇ましい雄叫び・・・・・・戦闘音が聞こえてくる。作戦の要であるモモンをヤルダバオトと一対一で戦わせるための侵攻作戦が始まったのだろう。そう、ヤルダバオト退き、王都に平和をもたらせる作戦が。

 

「ああ、その通りだ。モモン殿、出てくるであろう取り巻きは私とナーベが相手をする。モモン殿は、心置きなくヤルダバオトと戦ってくれ」

  

「了解だ。ヤルダバオトを倒して凱旋する時に、共にいることを願うぞ? ナーベ、彼女に協力して戦え。三人揃って帰還することが、私の願いだと知れ」

 

(かしこ)まりました、モモンさん」

 

 イビルアイはモモンの話を聞き、仮面の中で笑みを浮かべてしまった。

 

 三人はヤルダバオトと対峙するよう前に降り立つ。すると、広場に隣接した家から、メイドが姿を表すのが見えたのだ。それは、仲間を殺した蟲の姿をしたメイド。そして、そのメイドに続き、ヤルダバオトと同じ仮面を被ったものたちが姿を見せたのだ。

 それぞれ、意匠が異なるメイド服を着ている。どれも、超一級品だとわかるマジックアイテム。その人数は――。

 

「合計五人か」

 

 イビルアイは頭の中でシミュレーションを行う。二対五の戦いである。

 

「では、そちらの五人は任せる」

 

 モモンはそう告げ、剣を握りしめてヤルダバオトに向かって歩いていった。五人のメイドはモモンの邪魔をしないよう言われているのだろう、道を譲りながらイビルアイとナーベの前に揃った。

 

 奥でモモンの雄叫びと共に轟音が鳴り響く。ヤルダバオトに斬りつけたのだろう。そして、徐々にヤルダバオトを押しながら、離れていく。

 

「私が三人でいいか?」

 

「・・・・・・わかりました。あなたが三人で私が二人ですね」

 

 イビルアイは隣に立つナーベに受け持つ人数を伝えると、少しの間が合ったもののすぐに了承したことに驚いた。きっと、モモン言われていたのだろう。どこか、目が据わっているようにみえるのは、決して私はあなたには劣っていないとでも言いたいように見える。それでも、主人の言うことには絶対服従なのだろう。

 

「私が三人の相手をしよう。誰が来る?」

 

 イビルアイはナーベと離れながら、そう言い五人のメイドに目を向ける。こちらに来たのは、髪を結い上げたメイドと三つ網みのメイド、ロングヘアのメイドだ。

 

「私の名前はアルファ。こちらが、ベータに、デルタです。あなたの相手をさせていただきます」

 

 あの悪魔と違って物腰からは礼儀正しい雰囲気を受け取った。仕草からも超一級のメイドだとわかるほど。

 

「そうか。これはご丁寧にな。私の名前はイビルアイだ。覚えておけ!」

 

 イビルアイがこれから行うのは、出来るだけ戦闘を長くさせること。初手の魔法・・・・・・。

 

「<水晶盾(クリスタルシールド)>」

 

 イビルアイは魔法を発動させ、戦闘が始まった。

 

 

  水晶の散弾が突撃するメイド――アルファに打ち付けられるが、牽制としてあまり効果がないように見える。イビルアイは近接戦闘を避けるよう、空中に飛び上がる。出来るだけ距離を取って戦った方が勝率が良いのだ。

 しかし、浮かび上がった瞬間、盾が敵の攻撃を弾き返したらしく、何かが弾け飛ぶ。まだまだ、盾には余裕があるがそう長くは持たないだろう。

 

「くっ!?」

 

 飛び道具の攻撃の隙間・・・・・・いつのまにかに、三つ網みのメイド、ベータが背後に回り巨大な聖杖で殴打する。

 

 急旋回をし、ギリギリのところで避けるイビルアイ。そこに、また飛び道具が飛び、アルファが殴ってくる。二人を相手にしてると、一人が背後から攻撃。一対三の構図は思っていた以上に厳しい。

 

 近接戦闘メインのアルファ。飛ぶ道具を扱うデルタ。この二人だけなら、対処は余裕だっただろう。そこに、神官戦士であるベータが加わることで全体の底上げが行われる。二人と比べると、ベータの方が格上なのだろう。そして、向こうは知らないはずだが、アンデッドであるイビルアイには信仰系魔法による支援強化自体が弱点を付き、いつもよりもダメージを食らってしまう。特に、近接戦闘自体避けたい。

 また、三人の息のあった動き。あのメイドたち全員が一つのパーティなのだろう。中々揃ったメイドだ。イビルアイはギアを一つ上げることにする。

 

「なるほど――強いな。こちらも、本気をだそう」

 

「<血染めの水晶盾(ブラッティ・クリスタルシールド)>」」

 

 イビルアイの周囲に紅く染まった水晶の盾が現れる。そして、次に放たれる魔法も、紅く染まった水晶の散弾。見た目の色が変わっただけではない、明らかに威力が上がったことが伺える。

 三人のメイドは、それぞれ異なった思いだったが、イビルアイが力を隠していたことに若干反応を示した。

 

 

「・・・・・・確か、蒼の薔薇のイビルアイね。セバス様の調べられた情報に載っていたわ」

 

「アノ小娘、私ノ時モ力ヲ隠シテイタヨウダ」

 

 イビルアイから隠れるようにナーベは二人のメイド・・・・・・エントマとソリュシャンと話始める。その内容は、三対一で優位に立っているイビルアイについてだ。

 

「レベル的には・・・・・・私以上だわ」

 

 ナーベが苦虫を潰したかのようにそう答えた。主人であるモモンからそう告げられてたこともある。今回、生き証人であるイビルアイをわざわざ三対一の状況に置いたのもその実力を見るため。実のところ、他5人もヤルダバオト・・・・・・デミウルゴスからそう指示を受けたのだ。直接対峙する初の現地人の強者を見極めるために。

 

「イビルアイは恐らく私と同じエレメンタリスト。特定属性に特化し、更に特殊化した魔力系魔法詠唱者。攻撃力は高い代わりに、得意分野が潰されると弱くなる」

 

「大地系の宝石特化タイプってことね。そのなかでも水晶と限定することによって強化しているんでしょう?」

 

「そう。そして、魔法の固有化。個人のスキル、アイテム・・・・・・タレント等でさらに強化されている」

 

 ”血染めの(ブラッティ)”という名称が付く魔法は明らかに威力が上がっている。それは、魔法の固有化によるもの。例えば高レベルのエネミーがよく持つ能力である。通常とは異なる仕様になるスキル、魔法。今回は、固有化により、見た目の色が変わると共に威力が上昇しているようだ。

 ナーベたち、戦闘メイドたちは気づかなかったが、もう一つ重要な効果があったりする。しかし、その効果自体、使用者本人であるイビルアイもまだ把握していなかった。

 

 三対一ではまだイビルアイが優勢。レベル的には70を越えているだろうが、80にはいっていないように見える。それなら、もう一人遠距離攻撃ができる自分が入れば互角・・・・・・チームワークでこちらが優勢にたてるだろうとナーベは考えた。そして、それについて考えていると、突如大地が揺れる。

 

「地震ダァ。マーレ様ノサインカァ?」

 

「そうね・・・・・・ナーベラル? じゃあ、そろそろ怪我を負ってくれる? あなたは私たち二人に追い詰められなきゃらないの」

 

「仕方ないわ。仕事ですもの」

 

 戦闘メイドの三人は行動を開始する。

 

 

「<血染めの結晶散弾(ブラッティ・シャード・バックショット)>」

 

 イビルアイは牽制用の魔法と防御系の魔法を行使し・・・・・・比較的有利に戦闘を進める。さすがに、大技を使うタイミングはそうそう来ない。そんな中、通りから吹き飛ばされたナーベの姿を目にした。こちらは、中々苦戦していた模様。

 

「まだ戦えるか?」

 

「無論、問題ないです」

 

 イビルアイは言い終わったあとに馬鹿な質問をしたと気づく。

 

 五対二。明確な敵意は蟲のメイドから。そして、戦って気づいたが、神官戦士は中々好戦的らしく、戦いながら嬉々した感情を受けた。他二人は冷静沈着的、自らの仕事に徹している。

 

 突如、爆音と共に建物が崩壊する。そこから、吹き飛ばされる影。仮面を着けた細身の体・・・・・・ヤルダバオトである。

 よろめく悪魔の姿に対して、モモンの鎧も傷だらけ。二人が死闘を繰り広げたのだと想像できる。

 そこから、数度モモンとヤルダバオトはぶつかり合う。炎が逆巻く真紅の槍。モモンの鎧も融解する地獄の業火。そして、極寒の冷気を生み出す剣。互いの武器、スキルで応戦する高レベルな戦い。まるで、神話の一ページ。

 

「本当にあなたはお強い」

 

「お前もな、ヤルダバオト」

 

「それでどうでしょう。提案があるのですが?」

 

 ヤルダバオトはモモンの反応をみて、続けて言った。

 

「この辺りで退きますので、勝負はこれぐらいにして、お互い手を引きませんか? いえ、正確に言うのならば、私はこれで手を引きます。あなたも追撃をやめてほしいと言うところです」

 

「なっ!?」

 

 イビルアイはこのタイミングで言うのかと驚きの声をあげてしまった。

 

「構わない」

 

 モモンはすぐに了承する。イビルアイは仮面越しで交互にモモンとヤルダバオトを見たのだ。

 悪魔は今仲間たちが戦っている。しかし、その悪魔たちが王都全域にいかない保証はないのだ。全面的に手を引くから、許してくれと。そう、この悪魔は言っているのだ。王都を人質に取って。

 

「では、これで撤収させていただきます。残念です。アイテムを回収するという目的も果たせないのは。では、二度と出会わないことを祈っておりますよ」

 

「そうだな。こっちもそう思っているよ、ヤルダバオト」

 

 仮面の下でヤルダバオトが笑ったようにイビルアイは感じた。そう、それはモモンからも。まるで、充実した時間を過ごしたかのように。

 

 ヤルダバオトの周りにメイドたちが集まると、高位の転移魔法で一斉に姿を消した。

 

 イビルアイは周囲を確認すると、炎の壁が消え、戦闘音もなくなったことに気づく。戦いが終わったのだ。

 

 しかし、今日一日で起こった出来事は世界を揺るがすことになる。

 イビルアイの頭のなかは未だ整理が付かないごちゃごちゃとした考えが渦巻く。

 

 そうしていると、響く鋼の音に気づく。顔を向けると、駆けてくる一団がいた。冒険者や兵士たちである。ガゼフ・ストロノーフの姿や仲間のラキュースやティナ。そして、ガガーランやティアの姿も。皆薄汚れ苛烈な戦闘跡を残す。

 

「モモン殿。皆に勝利を」

 

 イビルアイはモモンにそう告げたのだ。

 

「恥ずかしいな」

 

 まるで、普通の一般人のような反応にイビルアイは驚く。

 

「・・・・・・これは、最も武功を上げたものがしなくちゃいけないものである」

 

「そうか。そうだな、するべきだな」

 

 モモンは剣を握りしめ、勢いよく突き上げる。

 

「うおぉおお!」

 

 次の瞬間、広場に集まった全員が拳を一斉に上げ、勝利を祝う雄叫びが爆発した。

 

 

 そして、当初の目論み通り、モモンは救国の英雄として、名を馳せることになる。

 

 




次回、最終話。ネタバレ回。

誤字はまとめて直します。。。。
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