僕の学園生活で実際にあった心温まるエピソードをアレンジして、小説形式でみんなに公開しようと思います!
 楽しい学園生活でした!

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第1話

 

 僕は、自分の名前が言えない。

 

「ぼぼぼっ、ぼぉくは、ヒィがぁあっ、あっ」

 

 喉奥に言葉がひっかかっているようだった。脳内では、いま自分が言うべき自己紹介の言葉を文章化できていた。あとは脳内に書かれたその文章をそのまま読めばいい。その事を僕は理解していた。

 

「「「ははははっ」」」

 

 みんなは、僕を指差して笑っていた。当然である。なぜなら僕は、喉を詰まらせたような苦しい顔をしながら、身体を大きく揺らしている。喉奥につっかかる言葉を絞り出すために身体を大袈裟に揺らしているのだけれど、僕のそんな苦労を彼らは知りもしない。彼らから見た僕の姿は、きっと滑稽なダンスを踊るピエロである。

 

「ひぃがぁぁぁぁ、あっ、あっ」

 

 僕はこのダンスを早々に止めたいのだけれど、悲しいかな。自己紹介という物は、自己の紹介を済ますまで終わらないのだ。

 自己の紹介。つまり、好きなものを言ったり、嫌いなものを言ったり――自分の名前を明かしたり。

 最悪、名前を言うだけでも、それは自己紹介を済ませたことになるのだ。だけど、これもまた悲しいかな。僕は、自分の名前を言うことすら不可能な木偶人形なのである。

 

「だだだっ」

 

 ちなみに、僕の名前は『東館』と言う。下の名前は言わなくてもいいだろう。東館という名字を明かすだけでも、きっと自己紹介として成立するはずだ。

 だがまあ、地の文で自己紹介を済ませたところで、現実の僕に課せられた自己紹介の任務が達成とはならない。ほら、はやく言わなきゃ。先生も困った顔してる。クラスメイトのみんなは笑みを浮かべている。その様子を見て僕も困った顔をしてしまう。なんとかしなくちゃ。

 

 『東館』の『だ』までは何とか言えたのだ。まあ、吃りまくって結果的に何を言っているのかわからなくなってるから、自己紹介をちゃんと言えたとは決して言えないけど。

 だが、残りの一文字の『て』さえ言ったら、一応それで自分の名前を明かしたことにはなる。なるっていったらなるのだ。

 

「あぁ、うぁ――ぁてぇ」

「「「ははははっ」」」

 

 僕はようやく『て』の一文字を言えた。

 みんなも僕の努力に祝福して、指差してゲラゲラと僕のことを笑ってくれた――うわぁ、嬉しいなぁ。頑張って自己紹介をしたかいがあったぞ!

 

 そんなわけで。

 僕の高校生活は、とても良い感じに始まったのだ。

 

 

   ※

 

 

「「「ははははっ」」」

 

 自己紹介の時間が終わって十分休みに入った。変わらずに、他のクラスメイトはゲラゲラと楽しそうに笑っていた。

 僕は急に眠くなったので机に伏せていたわけだけど、その最中にはずっと彼らの楽しそうな声が聞こえた。みんな、僕の話題でゲラゲラと笑っていた。いきなり人気者だぁ。嬉しいなぁ。

 そんなことを思っていたとき、誰かが僕の机をガンと蹴った。僕は驚いて身体を起こす。目の前には、タマネギみたいな髪色をした柄の悪そうなクラスメイトの一人がいた。

 

 彼は、「おい」と僕に声をかけた。

「テメェの椅子のせいで靴が少しへこんだじゃねーか。謝罪しやがれ」と、続けて言った。

 

 謝罪しろと言われたので、すぐに頭を下げた。僕の頭はとても軽かった。きっとこの中には発泡スチロールが詰まっているのだ。

 十回ほど頭を下げさせていただいたけど、彼が矛を収めてくれる様子はない。

 彼は、ニヤリと笑って言った。

「謝罪ってのは頭を下げるだけじゃあないよなぁ?」、と。

 その言葉で、彼が僕に何をさせたがっているのか理解した。

 頭を下げるだけじゃ足りない。地に額を擦りつけて靴を舐めろと仰っているのだろう。

 仕方ない。僕の高速舌舐めで、馬糞を塗りたくるが如く汚らしい靴を綺麗にしてさしあげよう。

 僕は犬のように舌を外気に晒して、彼の靴を舐めようとした。

 

「うわっ、マジかこいつ! キモっ!」

 

 彼はそう言って、僕を思い切り蹴った。

 

 歯が欠けた。口が痛い。 

 歯の破片で口の中はいっぱいだ。吐き出すのもなんか汚いため、僕は歯の破片をそのまま飲み込んだ。歯はカルシウムだろうから、これで身長が伸びたらいいな。

 

「「……キッモ」」

 

 始終を傍観していた他のクラスメイトたちは揃えてそう言った。便所に湧く虫を見るかのような目で僕を見ていた。便所の虫、美味しかったなぁ。僕はふと思い出した。

 

 僕を蹴ったクラスメイトは言った。

 

「ほんとキメェ。お前、なんでまだ生きてるの? 俺がお前だったら絶対に自殺してるわー」

 

「「「わかるー」」」

 

 ゲラゲラと、彼らは笑った。僕もなんとなく合わせてニヘラと笑った。

 

「で、謝罪まだなの? クソムシでも謝罪くらいはできるよね? とっとと謝って自殺しろよクソムシ」

 

「「「クソムシー」」」

 

 謝罪はまだかと言われても、僕はもうすでに何度も頭を下げている。土下座だってしたし、靴だって舐めようとした。

 それでもまだ足りないのか? 人に謝るのって難しい。

 

「クソムシくんって喋れる希少なクソムシくんだよね? ならとっとと声で謝罪しろやクソムシ」

 

 次に試す謝罪方法を考えているとき、彼は優しく僕にその方法を教授してくれた。

 タマネギみたいな髪色で柄の悪い彼だけど、人は見た目で判断したらいけないだ。生まれて初めて、家族以外の者に生きるうえで大切なことを教えてもらった。それが僕はとても嬉しくて泣きそうだった。

 そんな大切なことを教えてくれた彼は、もはや神様みたいなものだ。そして神様たる彼は、声による僕の謝罪を期待している。喋ることが大の苦手の僕だけど、神様が要求しているなら頑張らなきゃね。

 

「――ごごご、ごぉぉあ」

 

 彼が求めた通り、僕は声による謝罪した。

 吃りまくる僕の姿に、みんなはまた爆笑した。

 

 どうやら僕は入学して早々にクラスの人気者になれたようです。

 

 

 

 

 

  


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