とあるコンビニの前。社畜と金髪ヤンキーは邂逅する。   作:A i

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4話 社畜は斯くしてDQNと帰宅する

 「お邪魔しまーす」

 「はいよ」

 

 玄関で靴を脱ぎ、トコトコと部屋に入る俺たち。

 

 そこそこ稼いでいる俺は、1LDKのマンション最上階に住んでいる。

 

 なので、今日は俺がソファ、日向が俺のベッドで眠ればいいかと思う。

 

 「いや〜、なんかごめんね?突然来たいだなんて言っちゃってさ」

 

 ぺろっと唇を出し、悪びれもせずそう言う彼女に俺はため息混じりに後ろ頭を掻く。

 

 「まあ、しょうがないっちゃしょうがないからな……でも、今回だけだからな?」

 

 ちろり、と釘をさすような視線を日向に向けると、彼女「う……」と言葉に詰まった。

 

 「……らじゃーです」

 

 小声でそう言った日向はいじけたように唇を尖らせる。

 

 そんな彼女の様子に俺は苦笑した。

 

 「ま、余計なことさえしなかったら、自分の家だと思ってくれたらいい。寛いでくれ」

 「ふふっ……ありがと!」

 

 いきなり向けられた満面の笑みに俺は照れ臭くなり鼻頭を掻く。

 

 「照れてる照れてる〜」

 

 ウリウリ〜!とか言いながら、脇腹を肘でグリグリしてくる日向。

 

 う、うぜぇ……。

 

 そんな思いはもちろん表情に現れているはずだが、彼女はむしろそんな俺の嫌がる姿を楽しんでいるように見える。

 

 「照れてるのぉ?可愛いなあ……相沢さんは」

 「ぐっ…………」

 

 羞恥心に耐えていた俺だったが、あまりにしつこくからかい続ける彼女だったので、俺は風呂場の方を指差して叫んだ。

 

 「ああ!もう、うるせー!さっさと風呂入ってこい!もう沸いてる筈だから!」

 「ええ……。もっと、私相沢さんのことからかいたい!」

 

 口元を手で隠し「にひひ」といたずらっぽい笑みを浮かべる彼女に、鋭い視線を向ける。

 

 「からかわなくていいっつーの……」

 「ええ……」

 

 これだけ言ってもまだ、渋る彼女に俺はジーと鋭い目つきを向けると、観念したのか。

 

 「はいはーい。なら、お風呂先頂きますね〜?」

 

 ひらひらと手を振りながら脱衣所へと向かう日向の後ろ姿を見送り、ホッと息をつく。

 

 「覗いちゃダメだぞ!」

 

 ひょこっと脱衣所から顔を出し、「メッ!」と人差し指を立てる日向に、俺は「シッシ」となおざりに手を払う仕草。

 

 「いいから。早く入ってこい」

 「なによ。その雑な扱い……」

 

 不満顔で脱衣所に引っ込んだ彼女を見て、俺もドカッとソファに腰掛ける。

 

 「ふう……」

 

 背もたれに身体を預け、大きく息を吐く。

 

 休日にこんなに疲れたのは、これが初めてだ。

 いつもなら、寝すぎて逆に眠いみたいな謎現象に悩まされている時間帯のはずなのだが、今は心地よい疲労感が全身を包んでいる。

 

「しかし、ホントに日向が家に来るとはな……」

 

 誰もいないリビングで独りごちる。

 思い出していたのはつい一時間ほど前のことだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 「今日相沢さんの家泊まるから」

 「は?」

 

 当たり前の事のように言った彼女の言葉。

 しかし、当の本人足る俺は全く言葉の意味が分からず眉間を指で押さえる。

 

 「おい。俺の聞き間違いだろうと思うがもう一回言ってくれるか?」

 

 すると、日向はキッと鋭い目つきでこう言った。

 

 「だ・か・ら!今日は、相沢さんの家に泊まるの!」

 

 再度、俺はフリーズ。

 

 「誰が?」

 「私が!」

 「どこに?」

 「相沢さんの家!」

 「いつ?」

 「今から!」

 

 息を弾ませてそう答える日向。

 その様子を見て、ようやく、彼女の言っていることの意味を理解した。

 

 「はあ!?なに言ってるんだ日向お前?そんなことできるわけ……」

 

 そこまで言ったところで気が付いた。

 

 日向の顔が沈んでいることに。

 

 「やっぱ迷惑だよね……私なんかが行ったらさ。ううん!やっぱり私今日はその辺のネカフェでも……」

 

 そう言って、どこかへ歩き去ろうとする日向。

 

 「おい!なに早とちりしてんだよ。日向」

 「え……」

 

 謀らずとも、彼女の手を握る形になってしまったが、そんなこと今は気にしていられなかった。

 

 「とりあえず、いつものコンビニ行くぞ……」

 

 そう言って日向の手を引く。

 

 「え、なんで……?」

 

 戸惑うような声を上げる日向。

 俺はできるだけ優しくもう片方の手でポンポンと彼女の頭を撫でながら言った。

 

 「話聞いてやる。着くまでにどう話すか考えとけ」

 

 戸惑うように目を見開いていた彼女だったが、俺が言わんとしていることに気が付き。

 

 「うん……。ありがと」

 

 小さな声でそう応えた日向は若干顔を俯かせた。

 

 耳が赤い。

 

 それ以上彼女の事を見ていると自分まで顔が熱くなってしまいそうだ。

 

 「行くぞ」

 「うん」

 

 俺たちはコンビニへと向かう。

 手は繋いだままに……。

 

 

 

 「ほれ」

 「ありがと」

 

 ベンチに腰掛ける日向に、買ってきた紅茶を手渡した。

 俺は缶コーヒー。

 

 さすがに、ビールは飲めない。

 

 「よっこいせ」

 

 かけ声とともに彼女の隣に腰掛ける。

 

 すると、クスリと笑う気配。

 

 「相沢さん。おじいちゃんみたい」

 「ほっとけ……」

 

ケラケラと笑い声を上げる日向に、俺は呆れるような仕草を見せていたが、内心ホッとしていた。

 

 元通りというわけではないが少し元気になってくれたみたいで良かった。

 

 「それにしても、相沢さんさ」

 「ん?なんだよ」

 

 ちょっと、機嫌が悪そうな顔。

 

 「こういうこと他の子にもしてるんじゃないよね?さっきの頭ぽんぽんとか……」

 

 始めは強めの語気だったのが語尾に行くに従って、小さくすぼんでいく。

 顔も心なしか赤い。

 

 俺も思い出したら、恥ずかしくなってしまいそうだったので、即否定する。

 

 「あんなこと普通やらねーよ」

 「本当?結構なれてるみたいだったけど……」

 

 「じー」という居心地の悪い視線が刺さる。 

 

 「慣れてはいないだろ。あんなの妹ぐらいにしかしたことないし……」

 

 そっけなくそう応えると、いきなり前のめりになって瞳を輝かせる。

 

 「え、妹さんいるんだ!」

 「お、おう。まあな……」

 「どんな子!?」

 「どんな子って言われてもな……」

 

 返答に困り日向の方を見るが、「興味津津!」みたいな顔でこちらを見つめているので、説明を免れることは諦め応えた。

 

 「まあ、普通の奴だよ。今年で高3になるはずだ」

 「え、なら私と同い年じゃん!」

 

 驚き声を上げる日向に、俺も同様に驚く。

 

 「へえ……お前高3なのか」

 「あ、言ってなかったね。そうだよ。今年の8月8日で十八才になるんだ」

 「そうか……」

 

 頭の中のメモ帳に一応メモしておく。

 日向の誕生日は8月8日っと。

 

 約一月後だな……。

 

 「でも、その妹さん。すごい歳離れてるんだね?だって、相沢さん確か、二十八才だよね?十才もあるよ?」

 「おお……よく覚えてたな」

 

 俺が感心したような声を漏らすと、彼女は得意げに鼻を鳴らす。

 

 「へっへーん!私、そういうことだけは暗記力自信あるんだ!マジ、友達の誕生日とか全部覚えてるから」

 「すげーな。それは。俺なんか同僚の名前すら時々間違えるぞ……」

 「それは相沢さんが異常なんじゃ……?」

 

 少し引き気味にそう応える日向だったが、切り替えるように明るい声で聞く。

 

 「あ。じゃあさ、相沢さんの誕生日はいつなの?」

 「ん?ああ……1月30日だ」

 「ほほう……覚えやすいね!」

 「そうか……?」

 

 そんなこと言われたことなかったので、首をかしげると日向は「だって……」と話を続ける。

  

 

 「だって、1(いち)をI(あい)って読んだら130(あいざわ)じゃない!?」

 「へえ……お前結構頭良いのかもしかして?」

 「まあね!だから、こう言うのだけは得意だって言ったでしょ?」

 

 へっへーん、と得意げな顔で笑う彼女。

 やはり無邪気に笑うこの顔がこいつには似合う……。

 

 そんなことを考えて彼女の顔を見ていると、一転、ムッとした表情になった日向。

 

 「ど、どうした?」

 「褒めてくれたのに……今は頭撫でてくれないの?」

 「な、撫でてほしいのか?」

 

 少し戸惑いながら聞くと、無言でこくりと頷き「ん」と頭を差し出す日向。

 

 しばらく、ためらっていた俺だったが「ん!」といって、日向が頭を押しつけてくるので、手を伸ばす。

 

 「じゃ、じゃあ。撫でるぞ……」

 

 ゴクリと生唾を飲む。

 なぜか、何回かやっているはずでも無駄に緊張する。

 

 ゆっくりと、手を伸ばしていき、彼女の髪に触れた。

 

 「ん……」

 

 日向は口元に笑みを浮かべて甘い声を上げる。

 耳の後ろを撫でる。

 

 「んあ……!」

 「あ、す、すまん……」

 

 日向の声に驚き、手を慌てて離す。

 

 やばい、変なところ触っちまった!と後悔しまくって彼女の顔を伺った。

 

 だが、それを嫌がっているどころか、日向は「あ……やめないでよ」と、トロンとした目つきで訴えるので、俺はまた怖ず怖ずと手を伸ばし彼女の頭に触れた。

 

 ぎこちなく動かす手。割れ物を扱うように慎重に慎重に触れさせる。

 

 しかし、しばらくすると、彼女がどこを撫でてあげると気持ちよさそうかが分かってくる。

 

 それがたまらなく嬉しい自分がいる。

 

 手を動かすたびにフワリとシャンプーの良い香りが、俺の鼻孔をくすぐる。

 自分と同じ髪の毛なのかと疑うほどに、彼女の髪はなめらかで美しい。

 

 始め、気恥ずかしくためらっていた自分だったが、気が付けば夢中になって日向の頭を撫でる時間が続いていた。

 

 

 

 

 日向の髪に夢中になることしばし。

 

 日はとっぷりと暮れ、あたりは真っ暗。コンビニの灯りだけが煌煌と輝いている。

 

 頭を撫で始めた頃は、一足長ほどの距離を開けて座っていた俺たちだったがいつのまにか、ピタリとくっつき、俺の肩に日向の頭が載っかっている。

 

 ほのかに感じる体温が心地良い。

 

 いつまでもこうしていたい。

 そんな気持ちすら起きてくる。

 

 

 生ぬるい風が頬を撫でた。

 

 

 「ねえ、相沢さん?」

 

 落ち着いた声音。

 すぐ隣の日向だ。

 

 「なんだ?」

 

 俺もできるだけ落ち着いた調子でそう聞く。

 

 すると、彼女の口元に笑みが浮かぶ気配を肩に感じた。

 

 「私のお母さんね、今日男を家に連れ込んでるの……」

 「………そうか」

 

 重たい言葉。

 

 だけど、なぜか日向の声はそれほど暗くはない。

 

 「だから、私は今日帰ってこないでって言われちゃってさ……」

 「……そうか」

 

 俺の手を握る彼女の手にキュッと力が入る。

 

 「でさ、それってほとんど毎日なんだよね。お母さんが男を家に連れて帰ってくるの。でもさ、私なんかさ。なんだろう……。そんなお母さんの姿見るのが嫌でさ……」

 「そうだよな……」

 「だからさ、毎日このコンビニで夜遅くまで時間潰してさ。タバコなんかも吸い始めちゃった……」

 

 日向はどこか他人事のように語る。

 

 だけど、次の瞬間には、声色は一転明るいものとなった。

 

 「でもね!私、相沢さんと会うようになってからはなんか毎日が楽しくって楽しくて仕方なかったの。いつのまにか、タバコも吸わなくなったし、怖い夢を見ることもなくなった。だから、私にとって相沢さんはすごく大事な人なの」

 「違う、そんな俺は大した人間じゃ……」

 

 俺が否定しようとすると、日向は緩く首を振る。

 

 「ううん。違わない。私にとって相沢さんは大事な人なの……」

 

 確信のこもったその口調に、俺は頷くことしかできない。

 

 「そうか……」

 「うん、そうなの……。だからさ、私、相沢さんに絶対迷惑とかかけたくない。でも、できれば一緒にいたいとも思ってるの!だからさ。本当に今日一日だけ。今日一日だけ泊めてください!私、今日は相沢さんと……」

 

 消え入りそうな声で訥々と語る彼女の手を俺もギュッと握ってやる。

 

 すると、少し、彼女の身体に入っていた力がフッと抜けたような気がした。

 

 そのタイミングで俺は切り出した。

 

 「なら、いいぞ……。今日来ても……」

 

 俺がぼそっと囁くように呟くと、彼女はすがるような視線で確かめる。

 

 「え……ほんとに?」

 「ああ。本当だ」

 

 俺がそう応えると、目尻に大粒の涙を浮かべ……。

 

 「ありがと……!!」

 「ぐえ……」

 

 首元にギュッと抱きついてきたのだった……。

 

 

 

 

 

 まあ、その後は、まだ涙をポロポロと溢す日向の背中をさすり落ち着かせ、手を引いてこの家まで帰ってきた。

 

 そこからはご存じの通り、彼女はお風呂俺はソファーでリラックスタイムというわけである。

 

 

 

 しかし、それにしても「事実は小説より奇なり」とはよく言ったものだ。

 一週間前の俺に今の俺の事を教えてやれば「それなんてエロゲ?」と聞き返すに違いない。

 

 だが、現実としてこんなことが起きてしまっているのだから仕方が無い。

 諦めて今を楽しむしかないのである。

 

 そんなことを考えていると脱衣所がなにやら騒がしい。

 どうやら日向がお風呂から上がったみたいだ。

 

 「ねえ!私のパジャマどれよぉ?」

 

 バスタオル姿の日向が脱衣所から顔を出してそう叫ぶ。

 

 「ああ、すまん。今持ってくわ」

 

 そう応えて立ち上がり、パジャマを持って行く。

 

 「ほれ。これ着ろ」

 「これ、相沢さんのスウェット?」

 

 そっぽを向きながら渡すと、日向が受け取って聞いてくる。

 

 「ああ。ちょっとデカいかもしれんが着れないことはないだろ?」

 「うん。ありがと」

 

 日向はそう言うと脱衣所へと戻っていく。

 俺もソファーへ戻る。

 

 だが、その途中あまりに頭の悪いことを想像してしまった。

 

 ――こいつが俺の彼女だったらなんて……。

 

 ブンブンと頭を振り、俺は邪念を払い落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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