ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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大物、会談します!

 個室で会話できるレストランで、俺は会談相手と談笑していた。

 

「お初にお目にかかります、ゼクラム・バアル。・・・バアル家のあなたがグラシャラボラス領に別荘を構えているとは思いませんでしたよ」

 

「なに、私はすでに隠居した身だ。別荘の一つぐらい持っていてもおかしくあるまい」

 

 ゼクラム・バアル。血筋ゆえにサイラオーグ・バアルや部長の面影をもつこの男との個人的な会談はとても素晴らしい。

 

 なにせ彼はサーゼクスさまと影響力を二分する超大物だ。貴族たちへの影響力なら凌駕するといってもいい。

 

 仮にも貴族が中心となっている現悪魔業界で改革路線が通っているのは、サーゼクスさまたちの手腕と彼が反対していないことが原因だ。

 

「人間界でも、友好国に別荘を持っているお金持ちはいるだろう? 私も直接政治には参加していないのだから、それぐらいしても問題あるまい」

 

「いまだ貴族たちの尊敬を一心に浴びるお方が謙遜しないでください。サーゼクスさまたちもあなたのことは重要視しておられると聞きます」

 

 割と本気で緊張しているが、そんなことはおくびにも出さない。

 

 そんなことはばれているだろうが、だからといってためらわずビクビクしていてはなめてかかられるだろう。

 

 その後も軽く食事をとりながら談笑し、俺は彼の実力をいやというほど理解する。

 

 ・・・彼は非常に素晴らしい。

 

 現状革命が必要であることを理解しながら、その度合いを自分に都合がいいように調整していく手腕は見事だ。 

 

 相いれない価値観を妥協し、相手の妥協すら引き出して折り合いをつける。自分にとって価値がないもので相手にとって価値がないものを手に入れる。

 

 交渉というものをよく理解している。これほどの人物が旧態の悪魔の中にいたのでは、サーゼクスさまたちも苦労なさっているだろう。

 

「正直な話、君は私にとっての悪魔というものをよく理解してくれている。転生悪魔で君のようなものに出会うのはめったにない」

 

「古き名門にとっての価値観というものはよく理解しております。魔術師もまた、歴史を積み上げた家柄に力が宿る者。潜在的な才能においては悪魔もまた近しい側面を持ち合わせていますから」

 

 短い会話でよく理解できた。

 

 この男は、俺の今後に必要な人種だ。

 

 長い歴史で自らを改良し、よりよい子孫を生み出して継承するのが魔術師だ。

 

 すなわち家柄は魔術師にとってとても重要。それは魔術師の台を積み上げていくであろう俺たちにとって否定することは不可能だろう。

 

 どれだけ努力と理論を積み上げようと、明確な才能の差は確かにある。そしてその才能は大体は家柄で判明する。それは魔術師というものの逃れられない側面だ。

 

 彼はそれに対してとても理解がある。近しい価値観で生きているのだから当然だ。

 

 ゆえに―

 

「魔術師という家系は、()()とは非常に相性がいい。・・・魔術師(メイガス)にとって、私という存在はサーゼクス以上に重要な存在なのだろう?」

 

 ―この男は俺が望むことを理解している。

 

「・・・やはりあなたは素晴らしい。私風情では隠し通せないようだ」

 

 そう。彼のような存在は魔術師にとって必要不可欠だ。

 

 魔術師という存在の生き方は、サーゼクス様達のような価値観とは本来相いれない。

 

 代わっていくことが必要だとはいえ、厳選たるあり方まで変えられるほど無理を通せるわけがない。そんなことをすれば間違いなく空中分解する。

 

 だから、魔術師という存在をまとめあげるにはサーゼクス様達では無理なのだ。

 

 もっとこう、家の重みを理解し、そういった価値観で生きる黒い存在こそが必要だ。

 

「・・・魔術師(メイガス)という存在が欲するのは、現魔王ではなくあなたのような存在です。その力は、あなたのできのいい孫にも得となるのではないでしょうか?」

 

 もちろんこれはサイラオーグ・バアルでないし、そんなことは彼にもわかっている。

 

 サイラオーグ・バアルは優秀ではあるが、バアルとしては出来が悪い。

 

 この面倒な事実は当事者である彼こそ理解しているだろう。

 

「なるほど、我々のことを本当によく理解している」

 

 満足げにうなづいたゼクラム・バアルは、一つの小さな小箱を取り出した。

 

 開かれたその箱には、一つの悪魔の駒がおかれている。

 

「失礼」

 

 俺は一言断ってからそれを解析し、彼が何を言いたいのかを理解した。

 

「・・・了解しました。この代用品を我が組織が作り上げ、その試作品を一つか二つ、わざと(手違い)でそちらに護送しましょう。私はよくうっかりをするので、魔王様に対する報告は遅れるかもしれません」

 

「うむ。人間界でも法で規制されていないものを使うことは犯罪ではないし、トップランカーの何人かも規制される前にこれを使ったことがあるものは何人もいる。・・・サイラオーグの弟は罪には問われんだろう」

 

 まあ、これは必要なことだから仕方があるまい。

 

 ゼクラム・バアルはサイラオーグには家門によるものではない魔王の座についてほしい。家門を継ぐのは消滅を継承した弟の方だ。

 

 だが、彼の実力はサイラオーグに明確に劣っている。この差を埋めねば弟は大王としての権力を振るえないだろう。

 

 だが、俺たちの力でその差を埋めれたのならゼクラム・バアルはその恩を返してくれるだろう。

 

 うん、それがうっかりミスによる魔王様の望まぬ結果だとしても、彼ならうまくとりなしてくれるだろう。

 

「・・・とりあえずサーゼクス様にはこういったこともあるとは伝えておきますけど、謝るときは一緒にお願いしますね?」

 

「構わぬよ、年の離れた友人の頼みは聞くものだ」

 

 俺たちはそういい合うと、微笑をかわし合った。

 

 ・・・ちなみに、この裏取引はとっくの昔にアザゼルには前もって話しており、ドーピングアイテムの生産という展開は想定内だ。いざとなればアザゼルもちゃんと頭を下げてくれる。サーゼクスさまにもある程度の予定は伝えており、想定外のぶっ飛んだ展開にはなっていない。王の駒についてもサーゼクス様から想定される展開として説明済みだ。当然、ゼクラム・バアルもそれぐらい想定内だろう。

 

 そもそも生産できるのだから、サーゼクス様側の連中にも使う分には何の問題もない。パワーバランスはひっくり返らないだろう。

 

 これでゼクラム・バアルは後継者問題を解決でき、俺は魔術師たちに理解あふれる後見人を与えることができる。

 

 悪魔はバアルの名にふさわしい後継者を手に入れることができ、その代償により魔術師の発展もだいぶ楽になるだろう。

 

 皆ハッピー、俺もハッピー。

 

 うん、我ながらホント黒い!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・疲れた」

 

 俺は合流する前に一休みして缶ビールを飲んだ。

 

 事前にメールはしておいたので、問題あるなら返信してくるだろう。

 

 正直心臓に悪い交渉を久しぶりにこなしたので、一息ついてリフレッシュしてからじゃないとみんな心配してしまう。

 

 っていうか戻ってからも心臓に悪いからインターバルがほしい。なんでこんな秘密の難業をかまさねばならないのだ。しかもここ数日ほぼ毎日!

 

 しかもオーフィスは生活習慣というか食生活があれだし、つい面倒をみてしまって余計に疲れた。

 

 これが終わればあとはサーゼクス様達の仕事。俺はようやく難題から解放される。

 

 ああ、だから頑張ってすぐ回復しろ。面倒くさいから留守番してるナツミに対するお土産とか買ったらすぐ戻ろう・・・。

 

「お疲れさま、兵夜くんー」

 

 俺の目の前に、栄養ドリンクが突き出された。

 

「・・・久遠」

 

「よくわからないけど、いろいろあったみたいだねー」

 

 俺にドリンクを渡してから、久遠は俺の隣に座り込む。

 

 ・・・シトリー眷属には何も言ってないんだよなぁ、そういえば。

 

 幸か不幸かベルと小雪は身内の裏切り者を一網打尽にするために最近は駒王町にもいないから伝える機会もなくて助かってるけど、こいつには悪いことしてるな。

 

 正直それとなくにおわせたほうがいいかと思ったが、そんな俺の唇に久遠が人差し指を当てる。

 

「何も言わなくていいよー。大方、アザゼル先生あたりが口止めしてるんでしょー?」

 

「察しがいいな」

 

 こいつ、本当にできる女すぎる。

 

「会長たちは気づいてないけど、傭兵家業は上が切り捨てるかどうか読めないと生きてけないからねー」

 

 なるほど。これが経験の差ってやつか。

 

「アザゼル先生ならそう悪いことにはならないだろうし、兵夜くんはそういうときはちゃんと言ってくれるから、今は聞かないで上げるねー」

 

「悪いな。・・・近いうちに必ず説明する」

 

 マジでいい女で助かった。

 

 結局、中級試験はイッセーがやりすぎたぐらいで終了した。

 

 木場も朱乃さんも特に失敗はなし。俺も結構余裕をもって勝利することができた。

 

 久遠に至っては完全勝利。いや、それどころじゃない。

 

「お前意外と教師向いてるんじゃないか? 対戦相手が終わった後お礼言ってたじゃないか」

 

「いやぁ、隙がある部分を指摘しただけなんだけどねー? 呑み込みが早いから後半ちょっと苦労したよー」

 

 久遠のやつ、ヒット&アウェイで軽く攻撃を当てる程度に終始し、むしろ相手の動きをよくするかのようにわざと隙を作ったり指摘したりを繰り返していた。

 

 おかげで戦闘がすすむにすれて相手の動きが目に見えてよくなっており、最後の方は手を抜かれていたとはいえカウンターを決めれるようになっている。

 

 見ていた人はことごとく歓声を上げていたし、対戦相手をうらやましがっている人もいたほどだ。

 

「試験官の上級からスカウトも受けてたじゃねえか。・・・ぜひ眷属の指導役としてトレードを受けてほしいってさ」

 

「いやいやー。あれぐらいの指導なら傭兵自体もやってたからねー」

 

 久遠は照れ笑いを浮かべるが、ふと苦笑すると自分の手を見る。

 

「・・・会長がさー、剣術指南役として本格的に教師として活動してみないかって言ってるんだよねー」

 

 自分でもその感情を把握できていないのか、久遠の表情はぎこちない。

 

「確かに京都神鳴流をこの世界でも広められるのはいいんだけどさー、ちょっと怖いんだよねー」

 

「怖いって、何が?」

 

 久遠は自虐的な表情を浮かべると、そのまま紫色の空を見上げる。

 

「・・・打ち止め気味な私が、そのまま追い抜かれていくのが怖いんだよねー」

 

 それは、間違いなく本音だった。

 

「このままじゃ、会長を守りきれないからさー」

 

 ・・・俺は、一つだけ方法を思いついていた。

 

 できるかどうかはわからないが、今の俺ならそれぐらいの余裕はあるだろうし、まあ失敗しても負担にはなるまい。

 

「久遠、あのな―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、爆発音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「久遠!!」

 

「わかってるー!!」

 

 あわてて俺たちは音がしたほうへと走り出す。

 

 イッセーたちは気づくか!? いや、オーフィスがいる状況下ではかえってややこしいことになるか。

 

 おそらくアザゼルならそれぐらいは判断できるはず。だったら俺たちが急いだほうがいい。

 

 音がしたところへとたどり着いた時、俺たちの目の前には暴徒があふれかえっていた。

 

「ひゃははははは!!!」

 

「ひ、ひひひひひ!!」

 

 なんだこれは、一斉に酔っ払いが暴れ出しでもしたか!?

 

「兵夜くんー! 麻酔ガスか何かなかったっけー!?」

 

「安心しろ! 催涙弾から麻酔ガスまで完全装備だ!!」

 

 俺はガスマスクを久遠にほおってから、一斉にガスを出して鎮圧を開始する。

 

 だがいきなりこんなことが起こるわけがない。

 

 下手人はどこのどいつだ!?

 

 あたりを見渡す俺たちの頭上から、これが投げかけられる。

 

「おやおや? 面倒な奴が現れたって感じ?」

 

 とっさに振り向いた俺たちの目の前に、見覚えのある女があらわれる。

 

 たしか禍の団のリット・バートリ! なんでこんなところに禍の団が!?

 

「最近いいところがなくて下働きとかむかつくし、ちょっとストレス発散に付き合えって感じ!!」

 

 ええいこの面倒な時!!

 

「上がどんなことになってるのかも知らない下働き風情が!! さっさと叩きのめしてくれる!!」

 

 こいつが元凶なら都合がいい。

 

 さっさと終わらせて手柄にしてくれるわ!!

 

 




皆様忘れがちですが、兵夜はもともと犯罪業界でのし上がってきた男です。

当然、こういった黒いやり取りにも慣れているわけで、久しぶりにその側面を出すこととしました。

実際ゼクラムとの相性はある意味でいいと思うんですよ。仲がいいのは四大魔王だけど、馬が合うのはゼクラムですね。特に魔術師全体としてはゼクラムの思想の方が理解できると思うんです。





それはそれとしてラブタイムもあります。

・・・実は久遠の扱いは結構悩んでおりました。

彼女の立ち位置と思想では、毎回毎回グレモリー眷属と共闘するなんて展開にはしづらい。必然的にほかのヒロインとバランスを取る必要があるが、これが結構大変。

 だが、想像以上にヒロイン力が高すぎてそこでさらにバランスがとりにくい。マジで悩みました。









で、発想を逆転させました。

「すごいんだけどバランスとりたい」じゃなくて「出番にムラはあるけどその分活躍する」タイプにすることにしました。

と、言うわけでウロボロスとヒーローズは久遠編でございます。

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