ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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焼き鳥、やってきました

 

 昨日聞いたイッセーの話によると、部長がイッセーに逆夜這いをしかけたらしい。

 

 そしてメイドが現れて妨害され、部長はイッセーの頬にキスをしてから帰ったそうな。

 

 ・・・うん、さっぱりわからん。

 

 イッセーにしたのは成功率を考えてなのだろうが、なんでそんなことをしたのかが分からない。

 

「部長のお悩みか。たぶん、グレモリー家に関係することじゃないかな?」

 

 イッセーに質問された木場もわからないようだ。

 

 とはいえ、部長はたしか72柱しかいない上級貴族の悪魔の末裔だという。

 

 しかも跡取り。後継者問題とか他の悪魔との兼ね合いやら、いろいろと面倒なしがらみは多いのだろう。

 

「まあ、由緒正しい貴族さまらしいし、いろいろと面倒な制約とかあるんじゃないか?」

 

 などと、わかった風に言ってみる。

 

 それ相応に優雅な暮らしはできるだろうが、同時にいらんものも付いてくるということか。

 

 魔術師も、素質が高いとよけいな面倒がついてくるからそこはよくわかる。

 

「ん~。朱乃さんだったら何か知ってるかな?」

 

「朱乃さんは部長の懐刀だからね。何か知っているなら彼女ぐらいかな」

 

 イッセーの問いに木場が答える。

 

 なるほど、さすがは女王と言うことか。

 

 戦闘でも日常でも王を補佐する。女王と言うのはだてじゃないってわけね。

 

 そんなことを話しながら部室の前に来る。

 

 すると、木場が一瞬動きを止めた。

 

 なんだ?

 

「ここまで来てようやく僕が気づくなんてね」

 

 なんか緊張している。

 

 察するに、部屋の中に誰か違う人がいるのか?

 

 イッセーは特に気にせず部室への扉を開く。

 

 中には残りのオカ研メンバーのほかに見慣れない姿が一人。

 

 銀色の眩しいメイドさんだ。なんかすごい美人なんですけど。

 

 アレが、部長の坂夜這いを妨害したとかいうメイドさんか? 部長にしろ朱乃さんにしろ小猫ちゃんにしろ、悪魔の女は全員美人でなければならないという決まりでもあるのか?

 

 部長の様子は明らかに不機嫌だ。朱乃さんはいつも通りのニコニコ顔に見えるが、今までの経験が、機嫌が悪いということを告げている。

 

 小猫ちゃんもそれを察しているのか、部屋の隅で静かに座っていた。

 

 隣ではアーシアが不安げな表情を浮かべて、イッセーの袖をつかんでいる。イッセーはそんなアーシアをあやすように頭をなでていた。

 

「木場、あの人は誰?」

 

「彼女はグレモリー家に使えるグレイフィアさん。部長のお兄様の女王でもあるんだ」

 

 何それ!? 色んな意味で超すごいじゃん!

 

「はじめまして。ご紹介に預かりましたグレイフィアと申します。あなたが兵夜さまですね?」

 

「あ、どうも。新参者ですが以後よろしくお願いします」

 

 メイドなだけあって丁寧な方だった。

 

 が、この空気の原因の可能性もあるので油断はできない。

 

「全員そろったところで、今日は部活の前にすこし話があるわ」

 

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

 部長がそれをせいして、口を開こうとした瞬間だった。

 

 部室の床に描かれていた、転移用の魔法陣が突然光りだした。

 

 オカルト研究部は全員集合している。と、なると誰か別の悪魔がやってくるということか?

 

 とはいえ、仮にも部長は上級悪魔だ。そんな勝手に現れてくる奴だなんて、よほどの無法者か同格以上じゃないと。

 

 俺の予想は当たっていた。

 

 光り輝く魔法陣の模様が、グレモリー家の物から全く違う別の模様へと変わっていく。

 

「オイオイオイオイ! まさか敵襲とかじゃないよな!?」

 

「いや、これはフェニックスの紋章だよ」

 

 俺の警戒は木場が解いてくれる。

 

 魔法陣から人影が姿を現したかと思うと、さらにそこから炎が巻き起こり、室内を熱気が包み込む。

 

 思わず魔術で熱をカットしようとしたら、人影は腕を横にないで、周囲の炎を振り払った。

 

「―人間界か。来るのは久しぶりだな」

 

 現れたのは、どこかホスト風の一人の男。

 

 赤いスーツをワイルドに着崩したその顔は、木場に匹敵するイケメンだが、どこか乱暴そうな印象を与えていた。

 

 なんていうか、女遊びの激しい男とか、売れっ子のホストを思わせる。

 

 いったい何者だ? 部長達の視線が険しくなっているが、やっぱり敵か?

 

 だが、そんな男は部長に視線を向けると、口元をゆがませてとんでもないことを言い放った。

 

「会いに来たぜ。愛しのリアス」

 

 ・・・はい?

 

 恋人か何かか? いや、部長の表情から見てそれはない。

 

 待てよ? 

 

 イッセーに対する逆夜這い。

 

 部長のお悩み。

 

 部長の立場。

 

 ・・・ああ、そう言うことかよ。

 

 俺の推測を裏付けるように、グレイフィアさんが紹介してくれた。

 

「―このお方はライザー・フェニックス様。72柱の一つであるフェニックス家の三男坊にして、リアスお嬢様の婚約者でございます」

 

「え、えええええええええええええっ!!」

 

 うん。イッセーは驚くと思った。

 

 つまりこういうことだったのだ。

 

 リアス部長は、このライザーとかいう悪魔と結婚したくないからイッセーにせまったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、さすがはリアスの女王。入れてくれたお茶も美味しいものだな」

 

「痛み入りますわ」

 

 緊張感が漂う中、朱乃さんが怖いものをまきちらしながらライザーの相手をする。

 

 このライザーとかいう悪魔、部長になれなれしい態度で接している。

 

 部長と同じソファで部長の横に座り、その肩を軽々しく抱いている。部長はいやがって何度も肩を抱く手を振り払うが、全く気にせず再び手を伸ばしている。

 

 下僕悪魔である俺たちは、少し離れたところで見守っているが、これは面倒だ。

 

 イッセーあたりが暴走しそうで怖い。

 

 アイツ部長にゾッコンだからな。このままだと状況もわからずに暴走するかも。

 

 と、視線を向けるが・・・

 

「ぐへへへへ」

 

「・・・どうしたイッセー?」

 

 いや、言うまでもない。

 

 この馬鹿。思考をスケベな方向に発展させて、妄想を開始しやがった。

 

「・・・卑猥な妄想禁止」

 

 小猫ちゃんが痛烈なツッコミを入れてくれる。

 

 小猫ちゃんには感謝しないといけないかもしれない。おかげで俺のツッコミ負担が大幅に減ってくれそうだ。後でなんかおごった方がいいと思うし、好物が何か聞いておこうか。

 

「い、イッセーさん大丈夫ですか? なにか楽しいことでもありました?」

 

 大丈夫だよ、アーシアちゃん。

 

 そいつは楽しいことを考えているだけだから。本当に気にしないでいいって言うか、むしろ無視しても問題ないよ。

 

「いい加減にして頂戴!!」

 

 などと考えていたら、部長がついに切れた。

 

 どうにもこうにもややこしいことになっているようだ。

 

「以前にも言ったはずよ。私はあなたとは結婚しない。次期当主である私には、自分で婿を選ぶ権利ぐらいあるはずよ!!」

 

「それは以前にも聞いたよ。だがなリアス、そういうわけにもいかないぐらい、キミのところの御家事情は切羽詰まってると思うんだ」

 

 そういえば、悪魔はだいぶ数が減ってしまったんだな。

 

 それで婚姻にもうるさくなったってことね? こりゃ苦労するわ。

 

「先の大戦で純血の悪魔は少なくなった。今でもくだらない小競り合いのせいで跡取りが殺されてお家断絶した家だってある」

 

 先の大戦の被害は、俺が思ったよりもはるかに大きいらしい。

 

 魔術の世界でも代を重ねた歴史のある魔術師にばかり重視される社会だったが、どうやら悪魔も、まだまだ改変の余地があるということか。

 

「いくら悪魔の世界に新しい風を取り入れなければならないとはいえ、人間からの転生悪魔が最近は幅を聞かせすぎだ。純血の悪魔を途絶えされるわけにもいかないだろ?」

 

 ライザーは言い聞かせるようにしているが、部長の答えはそっけなかった。

 

「私は家を潰さないわ。でも、私は私がいいと思ったものと結婚する。それぐらいの権利はあるわ」

 

 その言葉に、ライザーは舌打ちをすると一気に不機嫌になる。

 

 その機嫌の悪さは、俺たちにも向けられた。

 

 ライザーの炎が立ち上り、火の粉が部屋中に舞い上がる。

 

「俺もフェニックスの看板を背負ってきているんだ。わざわざ、こんな汚い炎と風しかない世界にまで来たのは、キミの下僕全てを燃やし尽くしてでも冥界に連れ帰るためだ」

 

 物騒なこと言ってきましたよこの人!

 

 とりあえず魔術で熱をシャットアウトしてから、俺は神器にこっそり魔力を込める。

 

 神器の強化はだいぶ慣れた。最悪一戦交える以上、こりゃいきなり覚悟をきめたほうがいいかもしれない。

 

 だが、その心配は無用だった。

 

 炎の翼を構成するライザーと、消滅の魔力を放ち始める部長との間に、グレイフィアさんが割って入る。

 

「お二人とも、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、サーゼクス様の名誉にかけて、私も黙ってみているわけにはいきません」

 

 ・・・あ、やっぱこの人が一番強いのね。

 

 グレイフィアさんの迫力あふれる言葉に、部長もライザーも気押されていた。

 

「最強の女王と称されるあなたにそんなことを言われたら、俺もさすがに怖いよ」

 

 そこまでの実力者か。そんな人をメイドにしているだなんて、部長の所の実家はどれだけの実力者なんだ?

 

 二人の戦意がなくなったことを確認すると、グレイフィアさんは一つ提案をした

 

「正直この展開は両家の方々の想像するところでした。そのため、最終手段でレーティングゲームで決着をつけるというのはどうでしょうか?」

 

 レーティングゲームと言うと、悪魔同士が下僕悪魔を戦わせ合うとかいう・・・あれか?

 

 部長がそれを聞いて、怒りに顔をゆがめる。

 

「そういうこと。・・・どこまで私の人生をいじれば気がすむのかしら・・・っ!」

 

 これは相当機嫌が悪いな。

 

 察するに、ライザーの奴は相当の実力者なのか?

 

 俺の推測を裏付けるかのように、ライザーの表情は自信に充ち溢れていた。

 

「ならどうする? 断るか?」

 

「まさか。こんな好機はそうないわ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる」

 

「良いだろう。君が勝てば婚約は白紙だ。ただし、俺が勝てば即結婚してもらうぜ?」

 

 そう言って、にらみ合う部長とライザー。

 

 だが、ライザーの視線が俺達の方に向くとあいつの表情は一変した。

 

「おいリアス。こいつらが君の眷属か?」

 

「ええ。それが何か?」

 

 ライザーの表情は完全にあきれたそれだ。

 

「これじゃあ話にならないな。俺と勝負できそうなのは君の女王の雷の巫女だけだ」

 

 おお、完全に舐められてるな。

 

 悪魔としては未熟だから仕方がないが、こうも馬鹿にされるとさすがに腹立つ。

 

「これぐらいなら、俺の可愛い下僕達の敵じゃあないな」

 

 そう言ったライザーが指を鳴らすと同時に、魔法陣が再び光、炎が舞い上がる。

 

 そんな炎の中から人影が何人も現れた。

 

 ひいふうみい・・・15人? たしか、上級悪魔が眷属にできる最大人数がそれぐらいじゃなかったか!?

 

「これが、俺の可愛い下僕達だ」

 

 可愛いか。

 

 なるほど確かに納得だ。少なくとも、俺がわざわざ文句をつける必要はない。

 

 なぜなら、

 

―全員美少女だったから

 

 外見レベルの高い美少女軍団が目の前にあった。

 

 ・・・部長がいやがってる理由もそこにあるのか?

 

 いや、イッセーのスケベを許容できるほどのリアス部長がそんな理由で断るとは思えない。

 

 だとすると・・・

 

「う・・・うぅ・・・」

 

 うめき声っぽいのが聞こえてきた。

 

 ・・・イッセーが、号泣していた。

 

 ああ、正直予想していたよ。

 

 ハーレムを目指して悪魔として活動しているイッセーが、目の前でハーレム作り上げている男を見て反応しないはずがないしな。

 

「なあリアス。君の兵士、俺を見て号泣してるんだが」

 

 ライザーは明らかに引いていた。

 

 まあ、今の今まで緊張感あふれる状態をしていたはずなのに、いきなり目の前で泣きだされたら普通引く。

 

「この子の夢がハーレムなのよ。あなたの下僕悪魔を見て感動してるんだわ」

 

 部長も嘆息する。

 

 うん、いろいろと台無しだよね。

 

「きもーい」

 

「ライザー様、あの人気持ち悪いでーす」

 

 ライザーの下僕達からも実に受けが悪い。

 

 イッセーのハーレム建設は遠いとしか言いようがないな。

 

 そんな自分の眷属をなだめるように、しかしイッセーに意地の悪い笑みを浮かべながら、ライザーが眷属に近づいてくる。

 

 数々の不良や性格の悪い輩を相手にし、ボコボコにしたり支配下に置いたりした俺だからわかる。

 

 絶対ろくなこと考えてない。

 

「まあまてお前達。上流階級を羨望の目で見つめるのは下賤な奴なら当然のこと。いっそ見せつけてやろうじゃないか」

 

 そんなことを言うと、ライザーの奴はおもむろに眷属悪魔の一人とキスをした。

 

 さすがハーレムを作った男。婚約者の前で別の女性とディープキスしたよ。俺たちも見てるって言うのによくやるぜ。

 

 しかも経験者の俺が断言する。あれは上手い。

 

「どうだ? お前じゃそんなことできないだろう?」

 

 とどめにものすごい圧倒的強者オーラ。

 

 うん、これは不味い。

 

「テメエふざけんな焼き鳥野郎! 赤龍帝の籠―」

 

「イッセーストップ!」

 

 スピーディにしゃがみながら体を回し、イッセーに足払いをかける。

 

 見事に決まってイッセーはぶっ倒れた。

 

「へぶっ!?」

 

「・・・無様」

 

 小猫ちゃん、君は本当に容赦ないね。

 

「な、なにすんだよ兵夜!!」

 

「どこの世の中に超持久戦向けの能力でいきなり殴りかかるバカがいるんだ。さすがに返り討ち確定だろ」

 

 そう、まさにその通りだ。

 

 イッセーの持つ神器、赤龍帝の籠手は、10秒ごとに持ち主の力を倍加していく能力を持つ。

 

 それは『時間をかければ』神すら殺せるというのだ。

 

 ・・・逆にいえば、能力を倍加する時間をかけずに倒せばいいだけである。

 

 腐っても上級悪魔にして戦闘経験もあるライザー。出していきなり殴りかかるだなんて行動で倒せるわけがない。

 

 何より―

 

「どうせやるならもう少し考えて行動しろ。・・・前もって発動させてチャージしておくとかいろいろあるだろ」

 

「う・・・」

 

 俺の正論にイッセーが言葉を無くす。

 

 ・・・まあ、ケンカだってろくにしたことがないイッセーにそれをするのも無理な話か。

 

 そんなイッセーの反応を見て、ライザーの奴が嘲笑う。

 

「赤龍帝の籠手とは驚いたが、肝心の持ち主がこんな感じじゃなあ。『豚に真珠』ってのはこういうことか?」

 

 おうおう言ってくれるじゃねえか。

 

 テーブル蹴りあげて奴の顔面にぶつけてやりたがったが、それとなく木場が足を置いて妨害する。

 

 わかってるよ。ここでこれ以上騒いだら部長の顔に泥がぬられる。

 

「リアス、今やってもいいがそれだと面白くない。十日後でどうだ?」

 

「私にハンデをくれるというの?」

 

 部長が機嫌をさらに悪くするが、ライザーは一切動じない。

 

「嫌か? 屈辱か? 感情だけで勝てるほど、レーティンゲームは甘くないぞ。どれだけ強かろうと、初陣で力を発揮できずに敗れてきた奴は何人も見た」

 

「部長。わざわざ勝てるチャンスをくださっているんです。ここはその隙に付け入るべきだと」

 

 さすがにいきなりやり合うのは不味い。

 

 俺は部長に進言した。

 

 勝算がどれだけあるかわからないのに、いきなり戦闘するなんて危険だ。

 

 わざわざ向こうから強くなる機会をくれるだなんて、好都合以外の何物でもないと考えなければこの勝負は割とマジで負ける。

 

「兵夜の言うとおりね。ライザー、後で後悔なさい」

 

「決まりだな。・・・せいぜい鍛えておけ、リアスの下僕共。お前らの一撃がリアスの一撃なんだからな」

 

 部長の心配をする余裕があるとはな・・・。

 

 ライザーは不敵に笑い、眷属と共に魔法陣の中に消えた。

 

 奴の能力はさっぱりわからないが、これだけは言えることがある。

 

 ・・・これは、実に面倒なことになったということだ。

 


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