ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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天界、お邪魔します!!

 

「サンタって本当にいたのか」

 

「なんだよいきなりファックだな」

 

 夜、酒を飲みながら俺はそう漏らし、小雪にツッコミを喰らった。

 

「まあサンタ実在とか普通子供が信じるところだからな。びっくり過ぎるだろコレ」

 

 だよなぁ。サンタ実在とかあれだよなぁ。

 

 あれか、中身十代後半だから来てくれなかったんだろうか? ダークだから来てくれなかったんだろうか?

 

 夜の酒を飲みながらのひと時で、今日のことを思い出すといろいろあれだった。

 

 サンタのまねごとをするという話で、サンタが実在するというド級の真実を叩き込まれた。まあ、天使や悪魔がいるならサンタがいるというのはわかる。わかるけど異形の存在隠せてねえだろ!!

 

「しっかし、まあクリスマスぐらいはしゃぎたいけどよ? このタイミングでイベントしてる余裕はファックだがねーんじゃねえか?」

 

「そういうわけにもいかないだろ? いつも気を張り詰めてて持ちこたえられるほど人は頑丈じゃない。たまにはハレの日が必要だしよ」

 

 実際、個人的な息抜きなしでではどうやっても生きていける自信がない。

 

 それが大規模な組織や集団となれば、お祭りなどのイベントは必須だ。特にここ最近は急激にとんでもないことが勃発しすぎているからな。

 

 下手したら現世界が崩壊する。さらに異世界にまで危害が及ぶ。挙句の果てに、すでに吸血鬼の土地は大きな被害を受けており、その危険性を身に叩き込まれている。

 

 駒王町も人知れず被害を受けているわけだし、何かのわびを入れたりする必要もあるはずだ。

 

 それぐらい小雪ならわかってるだろうに、わざわざ言わせるとは俺に自覚を持たせるためだろうか?

 

「・・・ああ、確かにそうだよな」

 

 ふと、まったくわかってなかったかのようにそう彼女はつぶやいた。

 

「小雪?」

 

「あ、悪ーな。最近ふと昔を思い出すことが多くてよ? そういうハレのイベントとかとは無縁の生活送ってたから」

 

「いや、お前学校生活は送ってたんだろ?」

 

「精神的にだよ? 半分やけになっていろんな遊びには手を出してたけどよ・・・。そういう表のイベントはなんていうか心の中で一線引いてたっていうか」

 

 苦笑を浮かべながら、小雪は酒が入ったグラスを揺らす。

 

 そこに見えているのは、いったいどんな感情なんだろうか。

 

「どう言いつくろっても、あたしは自分の命可愛さに、外道の道をひた走った。光の道を走ってるあいつらとはそこが違う」

 

 そう、そこがあいつらと俺たちの違い。

 

 イッセーたちは立場の違いでずれこそあれ、何より光の道を走っている。

 

 まさしく正真正銘の英雄譚。これからの未来を引っ張っていく、先頭に立つべき連中だ。

 

 大して俺と小雪は確かに闇の側。そういう意味では俺こそが彼女を慰撫できるわけで、つまりはそれが()の役目で―

 

「言っとくが、お前があたしと同じだと思うならファックすぎるぜ」

 

 ―彼女にしっかりとくぎを刺された。

 

兵藤一誠()のためにあえて闇を纏ったお前と、ただ逃げたあたしは全く別だ。いくらあの時のあたしがガキだからって、それを忘れていいわけがない」

 

 はっきりといわれた。

 

 宮白兵夜と青野小雪は根本においてずれがあると。

 

「どれだけ償いをしたからって、罪はちゃんと考慮しなけりゃいけねーだろ。・・・それが本当の意味で取り返しがつかないならファックなまでに当然だ」

 

 ・・・反論できない。

 

 転生前の罪を転生後に償うことなど不可能だろう。被害者遺族と会うことなど天文学的確率だ。そもそも規格外のイレギュラーである転生者の、さらに知り合いに会う確率なんて本来異常なんだ。

 

 ・・・いや。小雪にエデン、久遠にふんどしと意外と遭遇率が多い気もするが、しかしそれでもやっぱりおかしいだろう。

 

「小雪。・・・お前ちょっと疲れてるんだよ」

 

「・・・そうかもな」

 

 俺の指摘に、小雪は素直に同意した。

 

 ・・・まあ、当然といえば当然だろう。

 

 自分が闇の住人で、汚れに汚れていることを重々承知しているのが小雪だ。そういう過去をもって、しかも今生でも致命的な失策を犯していると自覚している。そしてそれは誤解でも何でもない。

 

 朱乃さんの母親と、小雪の両親が死んだ事件。和議など考えられもしなかった時期の刺客の襲撃に、彼女だけが唯一対処できた。

 

 そして何より大事だったひだまりを、ひだまりから離れてしまう可能性を恐れたために守れなかった。

 

 俺自身、それを罪だと思う気持ちはよくわかる。わかるからこそ、これ以上言うことはできなかった。

 

 誰が何と言ったって。被害者に許されたとしても、自分自身がそれを許せない。

 

 だから、言葉でごまかすのはよそうと決めた。

 

「小雪。今晩付き合うよ。だから少しガス抜きしろ」

 

「・・・ああ。ちょっとファックすぎたな。よろしく頼む」

 

 ・・・一生背負わずにはいられない十字架。

 

 背負ってやることはできないけど、それは彼女が背負わなくてはいけないけど。

 

 疲れた時に肩ぐらいは貸してやるから、明日は元気で朱乃さんと遊びなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで少し不安なことがある中、クリスマスの件のこともあり、天界に行くというイレギュラーな事態が勃発した。

 

「・・・いいんだろうか、この展開」

 

「あら、そんなに気になりますの?」

 

 天界を観光しながらつい漏れた俺のつぶやきに、朱乃さんが反応する。

 

「だって俺たち悪魔ですよ? 教会の悪魔払いのガス抜きも間に合ってない状況で、これはまずいんじゃないでしょうか?」

 

「それは実質問題ないのでは? 確かに悪魔が多いですが、天使もいる合同チームのメンバーですし」

 

 ベルはそういうことを言ってくるが、しかしそういうわけにもいかないだろう。

 

 俺たちが上手くいってるので勘違いしてるかもしれんが、和平が成立してからまだ一年もたってないんだ。当然のごとく不満も残ってるだろう。

 

 ガス抜きの準備が間に合えばいいんだがなぁ。

 

 人間界の方は人間界の方で、アフリカの軍事同盟が締結とかニュースでやってて、大国が割と本気で警告してるって話だし、どこも最近は物騒だ。

 

 なんでも合同での核開発研究が行われているとか。うん、世界大戦がマジで勃発しそうで怖い。

 

 そんなことを思いながら、ふと俺は小雪の方を見る。

 

「ほらナツミ。きょろきょろし過ぎで見られてるぞ。ファックなことだがまだ不満持ってる天使もいるだろうし目立つなよ」

 

「はーい。観光したいけど次の機会にするよ」

 

 ・・・今なら大丈夫か。

 

「朱乃さん、ベル。ちょっと相談が」

 

「どうしました?」

 

 さすがに一人でどうにかするのも大変だろう。ここは素直に力を借りるか。

 

「ちょっと小雪が前世()思い出してブルーになってるから、できれば接触を多めにしてほしいって感じで」

 

「・・・昔、ですか」

 

 朱乃さんがそれを聞いて眉を顰める。

 

 そういえば、あいつの昔のことってほかのみんなはどれぐらい知ってるんだ?

 

「あ、えっと・・・わかってます?」

 

「私は実質聞いてます。・・・紆余曲折あって裏社会同士での暗闘を担当していたとか」

 

「私もそれぐらいですわ。・・・ただ、たぶん思い出したのはそれだけじゃないと」

 

 おいおい、さらになんかあんのかよ。

 

「・・・私の母と小雪の両親が殺された事件については聞いてますか?」

 

 ・・・ああ、あのときか。

 

「ええ、朱乃さんのご両親の仲を不快に思って手を出して返り討ちにあった家の奴が、堕天使を恨んでいる退魔師に告げ口して襲撃を受けたと」

 

 あれは間違いなくトラウマものだろう。

 

「何があいつにとってトラウマかって、そのあと小雪(自分)で全員始末したことですよね。そのせいで「何もできなかったのではなくしなかった」という事実そのものが否定できない」

 

 そう。そこが一番救いがない。

 

 これであとから来たバラキエルが倒すなり、せめて逃げられるなりしたのならそれはよかった。それならまだ言い訳できたんだ。

 

 早く動けば確実にどうにかできたと、自分自身で証明してること。それこそが小雪にとっての最大の咎だ。

 

 たとえ被害者自身に許されても、それに心から救われても、それでも自分を許せない。

 

「それは、とてもきついですね。どうあがいても自分に贖罪を課さずには、実質いられないでしょう」

 

 ベルも目をきつく閉じると、その事実に苦悶する。

 

 同類どうし、仲間同士、恋人同士、その事実を本当の意味で共有できないことがただただつらい。

 

 そして、朱乃さんはうつむきながら言葉を続ける。

 

「・・・何度か、思ってしまったことがあるんです」

 

 その先は、言わなくても分かった。

 

「なんで、小雪は()()()()助けに来たのかと」

 

 ああ、確かにそうだよな。

 

 助けられた。救われた。命を落とさずに済んだ。

 

 それは確かにその通りで、間違いなく幸運なんだ。

 

 だけど、同時に救われなかった者たちがいる。命を落とした者たちがいる。大事なものがいなくなってしまったのだ。

 

 八つ当たりで、言いがかりで、相手からしてみればとばっちりなのかもしれない。

 

 だけど、ふと思うのだろう。

 

 ・・・なんでそんなに遅いんだと。

 

「・・・ままならないよな、人生は」

 

 それを自分自身に対して思っているから

 

 それまでも、どこまで腐り果てたと思っているから

 

 だから―

 

「―救われたくて救われたくない。そんな気持ちを捨てられないんだよな」

 

 本当に、肩を貸すことしかできないのがここまでつらいとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ切り替えないといけないか。

 

 と、第六天についてから切り替えたが、そこで事態は急変した。

 

「ようこそいらっしゃいました。D×Dの皆さん」

 

 大天使ミカエルが来るというラッキー事態に対して、俺は一つの大失念を犯していた。

 

「・・・・・・・・・はぅううううううううううううぅん!!」

 

 ああ、そういえば会うの久々だったよね。

 

「ベルぅううううう! しっかりしろぉおおおおお!!!」

 

「うわぁあああああ!! ちょ、ベルしっかりしてぇえええええ!?」

 

「・・・ファック! 呼吸が歓喜のあまり止まってやがる! 人工呼吸はあたしがするから兵夜は心臓マッサージを!!」

 

「OK! 人工呼吸こそ俺の役目な気がするがんなこと言ってる場合じゃない!!」

 

「ふ、フレー! フレー! 兵夜、小雪!!」

 

 そうだよね!? うれしいよね!

 

 ましてや、ベルは俺たちと違ってきやすく会いに行ける立場じゃないから待ちくたびれた分歓喜も素晴らしいよね! 最近子供っぽくなってるからすごいよね!!

 

 でもこれはやりすぎだろ!?

 

「み、ミカエルさん離れて! この展開何となく読めた。ベルさんが落ち着くまで離れてくれないといつまでたっても終わらない!!」

 

「え、え!? べ、ベルは大丈夫なのですか!?」

 

「残念ですが、今ミカエル様がいると大丈夫じゃなくなるのですわ」

 

 大体付き合いの長さからわかってくれたイッセーと朱乃さんが、あわてて大天使ミカエルを引き離す。

 

 ええい、何をやっているんだお前は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お見苦しいところをお見せしましたミカエル様。まことにお恥ずかしい」

 

 顔を真っ赤にしながらも、かろうじて脈は止めないでいられるようになったベルが頭を下げた。

 

 あっぶね。呆気に取られてたら台無しだった。

 

「い、いえ。久しぶりですから感極まったのでしょう? 熱心な信徒の中には私の姿を見て気を失うものもまれにいますし、お構いなく」

 

 この人いい人すぎるよ。お人よし過ぎるのが難点だけど、それはともかくとしていい人すぎるよ。

 

 しかしまあ、さすがの俺もこれは驚いた。

 

 まさかここまで歓喜の渦に堕ちるとは。俺らの場合は結構毎日接触しているからそんなことはないもんなぁ。

 

 思えばベルがこじらせた原因もここにあるだろう。なにせ割と遊びまわっているアザゼルと違って責任感もまじめさもあるだろうし、見事に悪い形でかみ合ってしまった。

 

「あ、実はお土産にケーキを買ったんです! 良ければ一緒に食べませんか?」

 

 断られたらどうしようかという感情を押し隠しながら、ベルがおずおずとケーキの箱を取り出す。

 

 後ろから見る止まるわかりだけど、まあその心配は無用だろう。

 

「ええ。私もあなた方と一緒にお茶をするつもりで・・・」

 

 と、少しだけ言葉を切って考え込んだミカエル様は、微笑みをより深くした。

 

「・・・いえ、後で二人きりで食べましょう。その方があなたのためになりそうです」

 

「あ、は・・・はいっ」

 

 うわぁ、すごくうれしそうだ。

 

 俺としてもベルが大天使ミカエルに対することだから嫉妬なんてありえない。ホントに良かったと涙が出てきそうだ。

 

 後ろでナツミと小雪が「二人きりで! 二人きりで!!」

 

 というホワイトボードをいつの間にか上にあげている分のは無視しよう。小雪、お前そんなキャラだったか?

 

 と、ミカエルさんがものすごい優しそうな顔をしてこっちを見てきてくれた。

 

「・・・本当にありがとうございます」

 

 あれ? なんかそこまでお礼言われることしたっけ?

 

「お構いなく。三大勢力の一員として、何よりこの世界の一員として、禍の団やクリフォトから世界を守るのは当然のことですわ」

 

「そ、そうですよ! 第一リゼヴィムのスイッチを入れたのは俺のおっぱい愛みたいなものですし!」

 

「そちらではありません。ベルのことです」

 

 え? ベルのこと?

 

「・・・状況が状況だったせいですが、ベルはたまに会うことはできても私のことを気にするばかりで、食事をするときも、味がわからないわけではないのですが人の口に合うことを考えることはあっても、心の底で自分がそういうことを楽しむことが理解できてなかったことがありましたから」

 

「・・・気づいたときは本当に頭を抱えました」

 

 ああ、あの時は大変だった。

 

 イッセーの力はどっか行くし、英雄派は動き出すしで大変だったが、ベルの問題点もびっくりだった。

 

 まさかここまで正しい意味で欲のない人間がいたとは驚きだった。

 

「ええ、あなた方との交流はベルにとってとてもいい経験になったようです。どうしても、信仰に生きるものとベルとでは壁ができてしまうのですが、同種の存在との交流はとてもいい経験だったようだ」

 

 娘を見る目でベルを見る大天使ミカエルの言葉に、俺は笑みを浮かべてそれにこたえる。

 

「礼の言葉はいりません。俺にとってもベルは愛する女性ですから」

 

 そこははっきり言いきった。

 

 主で恋人で同類で、俺とベルは・・・いや、俺たちとベルはある意味同じ存在だから。

 

 大天使ミカエルには逆立ちしたってかなわないが、だからこそ俺たちは一緒にいたいと思うから。

 

「そーいうわけだ。ま、ファックにならないならアザゼルにも言っといてやってくれ」

 

「そういうこと♪ 久遠もそういうと思うよ?」

 

 小雪とナツミもその辺は同感なのではっきり言う。

 

 ああ、俺はこいつらと出会えてよかったと、心の底からそう思う。

 

 傷のなめ合い? 負け犬のなれない? まあそうだろうがそれが何か?

 

 最初はそれから始まったが、そこから生まれた愛もある。

 

 闇には闇の流儀があると、まあ光のど真ん中で思うことではないがそういうことだ。

 

 などと苦笑交じりに思ってみれば、思いっきり後頭部をはたかれた。

 

「おいおい。俺たちを忘れんなよな」

 

 見れば、微妙に不機嫌なイッセーの顔が映っていた。

 

「まったくですわ。まるであなたたちだけの空間を作られているようで嫉妬ですわ」

 

「うわっ!? ちょ、朱乃!?」

 

 と、朱乃さんもツッコミもかねて小雪の胸をもみしだく。

 

「うわぁ。ここ天国なんだけどエロくていいの?」

 

「ほほう。ではここはシンプルにくすぐり地獄といこう」

 

「それはいいわね♪ じゃあナツミちゃんも覚悟してね?」

 

「うわぁあああ!? あ、アハハハハハ・・・っ!!」

 

 と、逃げようとしていたナツミがゼノヴィア達につかまってくすぐり地獄という名のお仕置きを受けていた。

 

「まったく。僕たちのことを忘れてもらっちゃ困るよ?」

 

「うぅううう! ず、ずるいですぅううう!」

 

 男二人にも怒られてしまった。うん、反省。

 

「仲がいいのはいいことですが、ミカエル様が置いてけぼりですよ」

 

「・・・申し訳ありません。いつものノリで」

 

「いえ、仲がいいことは素晴らしいことです」

 

 と、ロスヴァイセさんと小猫ちゃんに大天使ミカエルを任せてしまった。いかんいかん。

 

 そのあとは、和やかな雰囲気で話は進んでいった。

 

「・・・まったく、あたしにしちゃファックだぜ」

 

 ・・・小雪は、まだ少し引っ張ってるみたいだったが。

 




そういえば、この作品でベルとミカエルが顔を合わせるのってこれで二度目だったような・・・。

まじで顔合わせずらい関係だな、これ

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