ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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最近筆が乗ってきたので連投します


追いついた過去

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白兵夜が火急の事態を把握していた時、しかし事態はすでに手遅れとなっていた。

 

 クリスマスのイベントのために駒王町を離れていた一誠たちの中に、青野小雪は混じっていた。

 

 自分でもいろいろと煮詰まっているのはわかっていたので、少し気分転換しようと思ったのだ。

 

「・・・そういえば、青野さんはどうするんですか、クリスマス?」

 

「そりゃまあ着るさ、サンタ服。アーチャーに悪いし、兵夜は間違いなく喜ぶしな」

 

 と、さらりとロスヴァイセにたいして答えながら、雨粒の音をBGMに小雪は気分を沈めていた。

 

 いい加減過去に縛られるのはやめた方がいいのはわかるのだが、どうしても気にしてしまう。

 

 最近ぬるま湯につかっているようなものだったが、リゼヴィムの悪意に触れたせいでフラッシュバックしているのだろう。

 

 旧魔王派はわかりやすい小物で、英雄は血筋に刺激された中二病のようなものだ。そしてそれ以外にも割と馬鹿が多い。

 

 そんな中、正真正銘の悪意で動いているリゼヴィムは、あの闇を思い出させてしまった。

 

 自分はどす黒い闇の住人。必要悪ですらなんでもなただの邪悪の手ごまとして、自分の手は血どころか臓物で汚れてしまっている。

 

 何よりこんな薄汚い裏切り者に、果たして幸せになる資格があるのだろうかと―

 

「―っ!?」

 

 その瞬間、彼女の()が察知した。

 

 物理的な匂いではなく、感覚的な臭い。どす黒い悪意で彩られた、血の匂いを感知する。

 

「・・・構えろ敵だ!!」

 

 素早くサブマシンガンを抜き、躊躇なく発砲。

 

 町中だということはこの際考慮しない。幸いアニメの影響で、弾丸が光って飛んでいくイメージを持っている一般市民も多いだろう。自分は町中にいられないかもしれないがまだ大丈夫だ。

 

 それより戦闘スタイルがファンタジー以外の何物でもない仲間たちの方が面倒だ。記憶消去をするにしても面倒ごとには違わないので気を付けなければ。

 

 そして、光の弾丸が飛んでいく先には二人の人影がいた。

 

 フードをかぶった女と、和風の剣を持った男。

 

 女の方が符を放つと、そこから結界が発生して弾丸をやすやすと受け止めた。

 

「・・・陰陽系の術者か。それも相応に上位だな」

 

「やっぱりクリフォトですか?」

 

 ゼノヴィアの推測にアーシアが訪ねるが、そんなものは問うまでもない。

 

 まともな異形関係者なら、こんなところでいきなり戦闘なんてしないだろう。結界の展開はするはずだ。

 

 それすらしない狂気の所業。これでクリフォトでなければ世界に異能はとっくの昔に知れ渡っている。

 

「下がってろ! てめーらじゃばれたらまずい!!」

 

 小雪は躊躇なくナイフを取り出すと、背中に放出点を接触させ、大気の奔流を放出させる。

 

 余波で仲間たちが吹き飛ばされかけるが、この中にこの程度で本当にダメージを負うようなものなどいないので意には介さない。

 

 堕天使の肉体の影響で、Gの負荷は無地できる。そのため瞬時に亜音速に到達し、一瞬で距離を詰めることができた。

 

 情報源は一人いれば十分。そして刃物で暴れるよりも変な魔術を使われる方が違和感は大きい。

 

 ゆえに、ターゲットは術者側。

 

 そして、剣士の方は小雪を無視して紫藤トウジを狙う。

 

 それは気になるが仲間たちが大勢いる状況下なら任せても問題ない。今は確実に一人減らすべきだった。

 

 ゆえにそうした。

 

「寝てろ!!」

 

 術者系は必然的に近接戦闘能力は低くなる。

 

 戦場ではある程度の万能性は必要だが、同時に明確な役目を持つ必要がある。

 

 これだけの役目を果たせるものならば基本的にはそれに特化している。ならばこの攻撃で対応可能だ。

 

 むろん万能型という可能性もあるが、それならそれで足止めに徹するのみだ。

 

 ゆえに―

 

「・・・なめないで。あなたは本当なめてるわね」

 

 あっさりと回避されても即座に銃撃を叩き込めた。

 

 独断で突貫した以上、こいつの相手ぐらいはしなければならない。大気を圧縮して砲撃を叩き込みながら、小雪はしかし心が乱れるのを感じていた。

 

 今の言葉だけではない。何より態度、何より雰囲気。何より気配が憎悪を放っていた。

 

 ・・・この世界に来てから、小雪は組織の安定や世界の混沌を防ぐための行動しかしていない。

 

 ゆえに恨まれるにしても逆恨みに近いといっていいのだが、しかし小雪はそれが当然だと感じている自分を感じる。

 

 なんだ? いったいなんだ? 自分は彼女に何をした?

 

 そして何より・・・。

 

 自分は彼女を()()()()()

 

 素早く攻防を繰り返しながら、小雪は並列思考でそれを考慮する。

 

 どういうことだ?

 

 日本の術者との戦闘なんて数えるほどだ。そんな状況で一体なんで?

 

 その時、後ろでくぐもった声が響いた。

 

 それを仕切り直しとしていったん距離をとりながら、そして即座に状況を把握した。

 

 同時に、自分が思った以上に精神的に不調であることを自覚する。

 

 そこには、八首の龍がいた。

 

 剣から生えるように姿を現す龍は、間違いなく竜王クラス。ましてやおぞけが走るほどの邪気を放っていた。

 

 クリフォト、強大な龍、邪気。

 

 一瞬で状況を把握する。これは邪龍だ。

 

 そして紫藤トウジがひどい顔色をしてうずくまっていた。

 

 怪我ならアーシアがいれば即座に回復する。それでも拾うとは思えないこれだけの悪影響が出ているとするならば、答えは大きく分けて二つ。

 

「イッセー! 呪いか毒かどっちだ!?」

 

「毒だ! ドライグが八岐大蛇は猛毒を持ってるって!!」

 

 舌打ちで返答しながら、小雪は鋭く相手をにらみつける。

 

「何が目的・・・つってもクリフォト相手にんなこたーむだか」

 

 どんな理由があろうと快楽目的としか思えなかったが、しかし男の方はそれを否定するかのように首を振る。

 

「いや、軽く教えてあげるよ。・・・復讐さ」

 

「復讐? あんたらの場合だと逆恨みにしか思えないがな?」

 

「まあ逆恨みといえばそうなのかな? あの時代では許されないしね。・・・だからって許せるかどうかは逆効果さ」

 

 そう言い放ちながら、男は苦しんでいるトウジを見ながら愉悦の表情を浮かべる。

 

「さあ、もっと苦しむといい。それでこそ彼女も浮かばれる」

 

「あらあら。正臣ったらうらやましいわ。こっちもそろそろ復讐しようかしら?」

 

 男を心底羨ましそうに見ながら、女の方がそう漏らし、そして小雪を鋭くにらむ。

 

 そんな小雪をかばうように、イッセーが前に出、そしてその隣にイリナも並ぶ。

 

「トウジさんだけじゃなく青野さんまで狙おうっていうなら、こっちもそろそろ奥の手使うぜ」

 

「だったら今度は私の番ね。パパを傷つけてそのうえ青野さんまでだなんて、許さない・・・っ」

 

 所業に対して怒りに燃える二人に、しかし八重垣は憐れむように首を振る。

 

「まったく。彼の所業を知れば君たちは君たちだからこそ、ぼくの気持ちがわかると思うけどね。・・・ねえ?」

 

 同意を求めるように八重垣はトウジに視線を送り、そしてトウジは否定しようとしなかった。

 

 その姿を見て、小雪は大体の事情を察する。

 

「・・・なるほどな。和平前の暗部の犠牲者ってところか。聖杯ってのは本当に便利だな?」

 

「物分かりが良くて助かるよ。さすがは学園都市の凶手、といっておこうか」

 

 挑発のつもりで放たれたであろう言葉に、しかし小雪は反応しない。

 

 エデンの直属である自分の学園都市時代の情報など、エデンから伝えられてるのは当然だ。自分が殺し屋であったことなど知られてない方がどうかしている。挑発に使うには軽すぎる。

 

「それで? あの当時なら仕方のねーことだし、話の流れからして予想できたことだろーよ。イッセーとイリナにひがみ根性で仕掛けるならもっかい殺すぞ」

 

 冷徹に切り捨てながら、小雪は銃口を八重垣に向ける。

 

 和平がなされる前の闇などいくらでもあった。何より自分もそのあたりは積極的にかかわっている。

 

 本格的なところはアザゼルが嫌がったのか巻き込ませてくれなかったが、それでも経験を最大限に発揮できる仕事をいくつもしてきた自負がある。そしてだからこそ、あの時代では仕方がなかったこともある。

 

 だからこそ、それらにかかわってない朱乃たちをかかわらせるわけにはいかない。

 

 それが、闇の役目だと信じてる。

 

「恨みつらみをぶつけたいなら、演者にぶつけろよゾンビ風情が。・・・相手したいならこいつの同類が相手になってやる」

 

 イッセーたちを押しのけて、一歩前へとそこに出る。

 

 だが、八重垣はむしろ肩をすくめるとわきへとずれた。

 

「そうしてもいいけど、君の相手は()()()()

 

 そう言い放つと、八重垣はフードの女にその場を譲る。

 

 その態度が、何より何を言いたいのか明確に示していた。

 

 お前を裁くのは僕じゃない。さあ、清算の時がやってきたぞ、と。

 

 そして、同時にその間に雷光が付き立った。

 

「・・・イッセー君! 小雪!!」

 

 堕天使の翼と悪魔の翼を同時に展開しながら、朱乃が素早く舞い降りる。

 

「遅くなって済まない! 反応に気づいて追いかけてきた!!」

 

『イッセー先輩! 援護するよ!!』

 

 続けて聖魔剣を引き抜いた祐斗と、闇の獣と化したギャスパーが舞い降りる。

 

 潮時とみたのか二人は下がる様子を見せるが、しかしそこで息をのむ声が響いた。

 

「・・・嘘よ」

 

 あり得ない、と。朱乃の震える声が小さく、しっかりと響いた。

 

 その言葉に反応するのは、フードの女だった。

 

「・・・ああ、そういえば貴方は私の顔を見てたっけ」

 

 やっと気づいてくれたとでも言わんばかりに喜びの表情を浮かべながら、フードの女性はその顔をはっきりと見せる。

 

 赤毛の髪を持つその顔をはっきりとみて、小雪はようやくその正体に気が付いた。

 

 そして、だからこそ何があっても殺すと決断した。

 

「・・・dens226(我が牙は必ず敵に食らいつく)

 

 躊躇することなく魔法名を発動。

 

 この攻撃は間違いなく自爆攻撃だが、今の小雪に躊躇はない。

 

「たとえあれが当然の殺し合いだったとしても―」

 

 そう、殺し合いをしていた関係の重要人物が近くにいれば当然殺しに行くだろうが―

 

「―親父とお袋と、そして朱離さんの敵が、朱乃に触れるな!!」

 

 ―だからといってこれ以上、小さな子供のトラウマを刺激させるような真似はさせない。

 

 ゆえに必中の一撃を放つ。

 

 全身に裂傷を刻み、体の内側にも深手を負いながら一撃を叩き込み―

 

bracchium139(我が腕は栄光をつかむためにある)!!」

 

 女性の右腕がそれを粉砕した。

 

 最大出力の光力をあっさりと粉砕され、しかし小雪の衝撃はそこではない。

 

「まあ、言いたいことはわかるけどさぁ」

 

 魔法名とは唯一無二。ラテン語と三桁の数字であわされるそれは、ダブりを防ぐための措置であるがゆえに一人につき一つしかない。

 

 何より、小雪の魔法の攻略法を知っているということがすべての事実を知っている。

 

「あ、あんた、は」

 

「自分の両親と親友の母親を殺されて怒る資格が―」

 

 寄りにもよって、このタイミングで

 

「私たちを裏切ったあんたにあると思ってるの? マリンスノー!!」

 

「スカイ、ライト・・・?」

 

 闇が、その身を引きずり込もうとしていた。

 




罪にまみれた人生を送り切り、そして光をともす未来を得た少女。

だが、過去の罪が消え去るわけではなかった。

過去の罪が、ついに彼女に追いついた。

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