ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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過去が現在に追いついた。


・・・だから現在は未来に走り出そう。


ごめんなさい

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、待ち伏せされるとは思わなかったよ」

 

 第五天に入った直後、復讐相手の娘と義息子の姿を見て、八重垣は苦笑した。

 

 天に仕えるものを天国で殺すだなんて気が利いている皮肉だと自分でも思っていたが、それよりはるかに上があった。

 

 悪魔と聖職者の許されぬ恋ゆえに殺された自分たちの怨念を、恋が成就した悪魔と天使が妨害するだなんて嫌味だろう。

 

 ましてやそれが殺したい相手の娘と義息子だなんて痛烈だ。

 

「皮肉が利きすぎて君たちすら殺してしまいたいよ・・・」

 

「だろうな。だけどさせねえよ」

 

 一誠は鎧を展開しながら、一歩前へと足を踏み出す。

 

 事情は聴いた。恨みも分かる。自分だって同じことになればどうなるかわからない。

 

 だけど、これは悲しすぎる。

 

 誰よりも何よりもそれを後悔してるトウジを、犠牲にさせるだなんて我慢できるわけがなかった。

 

「・・・パパがあの町を去った理由がわかったわ。きっといるのがつらかったのね」

 

 涙すら浮かべながらイリナも一歩前に出る。

 

 正直駒王町を引っ越すことになったときは、栄転という誇らしさもあったが寂しさもあったのだ。

 

 だが、それも父の気持ちを考えれば当然だろう。

 

「そう、後悔していたのはパパも同じ。だから、あなたにパパは殺させない・・・っ!」

 

 口で言っても分かってくれるわけがない。それだけ憎悪が深いのは簡単にわかる。

 

 だから―

 

『せめて全力でぶつかってやれ。相手の全力を引き出して、そのうえで倒すぐらいの気概でいけ。それがせめてもの誠意だ』

 

 そういって兵夜に渡された切り札を開帳しよう。

 

「・・・偽《フェイク》・外装の聖剣《エクスカリバー・パワードスーツ》、展開!」

 

「それは、宮白兵夜の!!」

 

 そう、宮白兵夜は性格は悪いが人はいい。

 

 ハーデスに比べればまっとうな復讐だから自分からは手を出さないが、しかし止めずにはいられないイリナ達に手を貸した。

 

 自らの主武装であり偽聖剣。しかし、ベースがエクスカリバーである以上、人工とはいえエクスカリバー使いであるイリナはある程度は使用できる。

 

 邪龍という強大な敵と真正面から戦って勝つために、イリナに兵夜は手を貸した。

 

「そういうわけよ。彼の心を無駄にしないためにも、新名の想いは私が受け止める!」

 

 そして、イリナは与えられた新たな力も開帳する。

 

 シャルルマーニュ十二勇士が振るった聖剣、オートクレール。

 

 人々の心を清め洗い流す聖剣をもってして、汝の恨みを洗い流そう。

 

「来なさい。私の存在が納得いかなくてたまらないでしょう? 宮白くんがそういったなら間違ってないでしょうし、私もあなたの行動を認められない!!」

 

「・・・あの男はなかなか都合のいい展開を用意してくれる。性格は悪いけど好都合だ・・・っ!!」

 

 八重垣は天叢雲剣から邪龍の首を生み出すと、凄惨な笑みを浮かべる。

 

 あくまで狙いは自分たちを殺した者たちだが、邪魔をするなら容赦はしない。実際、あの男の娘が悪魔と結ばれて祝福されるだなんて腹立たしいにもほどがある。

 

「君たちを殺してその首を紫藤長官に見せるのもいい趣向だ。それぐらいした方が気は晴れるだろうね!」

 

「いや、そんなことはさせねえよ」

 

 そして、一誠もまた戦意を高ぶらせる。

 

 これ以上、悲劇は生み出させない。

 

 そして、イリナも死なせない。

 

 愛する幼馴染とともに、悲劇を止めるべく兵藤一誠は前へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、同様に戦いが発生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いるんだろ、スカイライト」

 

 天界が混乱に包まれる中、青野小雪はその一角でそう告げた。

 

 彼女はおそらくここにいる。その確信があった。

 

「ええ、いるわよマリンスノー」

 

 フードを脱ぎ、和装を身にまとったスカイライトは日本刀をもって小雪と向かい合った。

 

「・・・ケリをつけに来た。だから一つ約束しろ」

 

「なに? 聞くだけ聞いてあげる」

 

「あたしを殺したならそれで終われ。クリフォトとは縁を切ってくれ。・・・今は五代宗家とも話はある程度ついてるんだ」

 

 そういいながら、しかし小雪は戦闘態勢をとる。

 

 素直に殺されてはやらない。やるなら全力をもって抵抗する。

 

「まあいいけど。あんたそこは素直に首を差し出しなさいよ」

 

 あきれているような口調だが、しかしスカイライトの言葉に乗った感情はむしろ納得だった。

 

 そう、そうでなければ納得できない。そうであってほしいという感情すらあった。

 

 それを正しく裏付けるように、小雪は確信をもって問いかけた。

 

「お前、あたしが素直に首出して「殺してください」っていって納得するか? ファックだな」

 

 その瞬間、スカイライトの表情は愉悦一色に染まった。

 

 そうだ、そんなものは必要ない。

 

 必要なのは心からの抵抗。そのうえで徹底的に殺戮してこそわが恨みは晴らされる。

 

「・・・よくわかってるじゃない、マリンスノぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 次の瞬間、スカイライトは全力で突撃する。

 

 そしてあらぬ方向に向けて小雪が銃口を向けた瞬間に、スカイライトは刀を振り払った。

 

 小雪の魔術は絶対必中という特性ゆえにある種の破格の性能を発揮するように思われるが、実際のところ致命的な欠点が存在する。

 

 この能力は絶対に当たるとこに攻撃を転移させる能力。すなわち―

 

「わざと当たれば狙いは誘導できる!!」

 

 そんなことはわかりきっていると、スカイライトは攻撃を迎撃した。

 

 マリンスノーの魔術名とは、すなわち攻撃を必ず当てるという意志表明。そんな言葉をつけられた魔術に、回避という概念を持ち込むことこそばかばかしい。

 

 ゆえに回避は投げ捨てる。最低のダメージで攻撃を耐える。それこそ最適解であることを、ともに切磋琢磨していたスカイライトは読み切っていた。

 

 ・・・かつてマリンスノーと呼ばれていた彼女のことを思い出す。

 

 だいぶやさぐれているが、しかし根っこは全く変わっていない。

 

 面倒見がよく、まじめで、そして甘えるのが下手な少女。

 

 まったく、本当に懐かしくて、あの時の経験は今でも大事な宝物で。

 

 だからこそ、裏切られた憎しみはとても深いのだ。

 

 あげく、その記憶を取り戻したときまさに彼女に殺された。

 

 人間というものは似たような経験をした時に過去がフラッシュバックするものだが、いくらなんでも同じすぎるだろう。

 

 ああ、あの時自分たちはそこまで言われるようなことはしていない。

 

 あの時堕天使は間違いなく敵で、そして彼女たちは身を守っただけ。その双方に正当な理由があり、そういう意味では当然の結末で筋違いなのかもしれない。

 

 だが、過去の話は全く別だ。

 

 これを抱えたまま終われるものか。

 

 嘆きを抱えたまま終われるものか。

 

 それらを晴らす機会を得たのに、使わずに終わってたまるものか。

 

 絶対必中の攻撃を受けきり、全ての攻撃を術を最大限に使ってしのぎ、そして自らの間合いへと完全に入った。

 

「終わりよ」

 

「まだだよ」

 

 小雪は防御の姿勢をとるが、しかしそんなものなど関係ない。

 

 自分の魔術とは彼女の魔術とある意味では同一だ。

 

 円卓の騎士トリスタンの伝承を基に生み出したのがマリンスノーの魔術なら、自分が生み出したのはヴェディヴィエールの伝承。

 

 騎士九人分の一撃を放ったとされる伝承を基にしたこの魔術は、放った攻撃の威力を九倍にする。

 

 お互い連射が利かないのが難点だが、しかしこちらはもうすでに間合いに入った。

 

 獲物は鉄でできた日本刀だが、あらゆる術式をもって強化された特注品。それらが九倍になれば、その威力は聖魔剣にすら匹敵する。

 

 ゆえに振るった。

 

「さよなら、マリンスノー」

 

「・・・ファック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのまま軌道をそらされた。

 

「「・・・!?」」

 

 お互いに何が起こったのかわからない。

 

 小雪はだからこそ自分たちによるものではないと考え―

 

「あらあら、そんなことはさせませんわよ」

 

「朱乃!?」

 

 思わず声を荒げてしまう。

 

 なんで来た。

 

 少しうれしい。

 

 でもなんで!?

 

 この戦いは前世()の因縁の清算で、幼少期()の因縁の贖罪で、だから誰にも邪魔を入れさせたくなかったのに。

 

 復讐の正当性ゆえにハーデスを蹂躙した兵夜は、だからこそ手を出そうとしなかったのに。

 

「・・・小雪」

 

 などと考えていたため、ビンタをもろに喰らってしまった。

 

「・・・ブッ!?」

 

 いろいろとため込んでたのが全部出てきそうなぐらい、全力を出されたビンタだった。あと雷光を宿していたので全身がびりびり来た。

 

 何か言いたくなって思わず口を開くが、しかしそれより先に抱きしめられた。

 

 ・・・基、誰が教えたのかこれは絞め技だった。種別的にはさばおりだった。

 

「ファックファックファックファック!? 痛い痛い痛い痛い!?」

 

「あらあら。新機軸の攻めを考えて小猫ちゃんや宮白くんに教えてもらいましたけど、有効そうで何よりですわ」

 

 あのバカ何を教えてやがる! あと小猫も後で説教だ!!

 

 全力で悲鳴を上げるが、しかし朱乃は全く話さない。

 

 すっかり忘れていたが彼女の駒は女王であり、つまりは筋力も強化されているのである。

 

「いろいろ言いたいことはありますが、そもそもそこのスカイライトさんはお母様の敵ですわ。なぜそんな彼女の望みをむざむざかなえてやらねばならないのですか」

 

「いや待て朱乃! その落とし前は即座にあたしが―」

 

「第一」

 

 小雪の反論を遮って―

 

「―私が先約ですわ。譲りませんもの」

 

 ―手痛い反論が放たれた。

 

「・・・っ」

 

「ええ、許そうかと思いましたけどやっぱり許してあげませんわ。どうにかできるのにもかかわらず何もしなかった堕天使も、そのくせ勝手にすべて終わらせようとする暴力娘も、何より一人で全部抱え込もうとするダメな娘も、全部許してあげません」

 

 いつの間にか、締める力は弱くなり、優しく抱きしめられていた。

 

 確かにそうだ。全部そうだ。

 

 だけど、だけど、だけど、だけど、だけど―

 

「何より、まずやるべきことをしっかり終わらせない小雪は許しません」

 

 ―その全部の言い訳を、魔法の言葉が打ち砕いた。

 

「あ、あとこれ宮白くんから」

 

 そういって渡されたのは、菓子折り一つ。

 

 こんなもので戦闘をどう潜り抜けろと言いたくなったが、これはおそらくメッセージだ。

 

 言いたいことも分かるし、自分もそうするが、絶対妨害が入って大変なことになるから、とりあえずこれですましとけ。

 

「・・・ファックすぎるだろ、ホントによ」

 

 もう涙を流す気も消え失せた。

 

「悪いなスカイライト。まだ死ねない理由ができちまった」

 

 わざわざ待ってくれているあたり、彼女もたいがい人がいい。

 

「・・・そう、いちおういっておくけど、邪魔するならあんたも殺すわよ?」

 

 その返答をわかっているあたり、まあ彼女もたいがい聡い女性だ。

 

「あらあら。母の敵相手に遠慮はしませんわよ?」

 

 だからまあ、こっちもそれぐらいのことはしてやろう。

 

「代わりに全力を受け止めてやる。・・・来いよスカイライト。あと―」

 

 起爆剤にしかならないとわかってるが、それでもこれは言っておこう。

 

「・・・あの時は、本当にごめんなさい」

 

 その言葉をきっかけにして、激突が始まった。

 




小雪が今回のヒロインというかキーパーソンになったのは、まさに復讐がテーマだからです。

D×Dにおいて最も復讐ということが似合うファニーエンジェル編。このタイミングで小雪の過去に一つの区切りをつけようと思いました。

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