ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
Other Side
「大体よぉ。俺はまだ入って一年足らずのルーキーなんだっつのぉ」
ひっくっ。と、兵夜はしゃっくりを上げながら隣にいるアザゼルに愚痴を漏らした。
「それが何で枢機卿とタイマンで面談なだよ。やすぎだろが、やりぎ」
「宮白。お前いくらなんでも飲みすぎだろ」
アザゼルが頬を引きつらせて肩に手を置くが、兵夜はそれを振り払う。
・・・深夜営業の酒場で、兵夜とアザゼルは酒を飲んでいた。
冥界に多大な功績を残し、戦果を挙げた宮白兵夜の、地酒を飲んで帰りたいという要望を応えるのは、その恩恵を受けている三大勢力としては当然の対応である。
なのだが、致命的な問題が勃発した。
「ねえちょとマジで勘弁してくれない? あたぁら寿命莫大すぎて認知症なの?」
「ろれつがマジで回ってねえ!?」
最早絡み酒とかしていることだ。
飲酒上等の仮面優等生である宮白兵夜。二日酔いになるとしても、こんな形でひどくなったことはない。
だが、どうにもここ最近のトラブル頻発はひどすぎたようだ。
限界突破でアルコールの耐性が低下したのか、完璧に酔っ払いと化している。
「・・・こりゃ、休暇を与えた方がいいかもしれねえなぁ」
といっても、そこでも結局何か仕事的なことをしてしまいそうだ。
アザゼルはすでに兵夜の性質を見抜いている。
心配性で奉仕体質でワーカーホリック。
心配性なので、やれることをいくつもやっておかないと不安でしょうがなくなる。
奉仕体質なので、好意を持つ人物のためにいろいろしたくてたまらない。
挙句の果てにワーカーホリックなので、無意識に仕事をどんどん集める癖がある。
一誠とは違う意味で眷属に秘書タイプが必要だと思わせる。軍師タイプが必要なことといい、妙なところで対照的な親友だと感心すら覚えた。
と、見てみればなんていうか涙まで流している。
「お、おい!! 泣かれても困るぞ!? トラブル持ってくるクリフォトにも原因あるんだからな!?」
「うう・・・だってベルらぁ、ベルなぁ」
あ、酔っ払い定番の急な話題転換だこれ。
アザゼルは心底うんざりしながらも、しかしこれは付き合うぐらいするべきだと思った。
実際年長者である自分たちの不手際で、彼らはとても苦労している。
特に兵夜は政治センスが高いゆえに、そういった方面でも仕事をしまくって負担も多い。
大変だがそれぐらい受け止めてやるのが大人というものか。
仕方がない。ここは頑張って教師をするか。
「で、ベルがどうしたって?」
「ベルらね? ベルらえ? ゲン・コーメイと
ああ、そういうことか。
割と恋愛方面でもため込む性質のようだ。
恋愛経験そのものも少ないし、自分でもどうしようもないのだろう。
「そらぁね? おりぇはハーレム作ってるひ? 愛想ちゅかされて彼氏れきでもおかひくないけど? そりぇにしたってれきればはっきり言ってほひぃのぉおおおおおおおおおおお!!!」
意外と泣き上戸だ!
優秀な教え子の新たな側面を発見しながら、アザゼルは追加の酒を発注した。
イッセーSide
早朝のランニングを実行しながら、俺たちは宮白の動向について話し合った。
「え? あいつ地酒飲んでから帰るのかよ!?」
「みてーだな。・・・ついていけばよかった、ファック」
付き合ってくれている青野さんが愚痴るが、論点はそこじゃない。
あいつらそのためにわざわざ観光までしてったらしい。マジかうらやましい!!
「でも、実現すれば和平は大きく前進するよ。不満を持っている人たちにとってはいいガス抜きになるしね」
「そうだな。そうなってくれればどれだけ素晴らしいか」
木場とゼノヴィアがそういう中、俺は少し不思議になって考える。
「でもさ? 教会って神の教えは絶対って考えなんだろ? だったらすぐに納得してもおかしくないか?」
「それにしたって限度があるという話だ」
と、たまたまあったゲンさんがそう告げる。
「これまでいずれ裁かれると告げられていた悪魔と和平となれば、手のひら返し以外の何物でもないだろう。君たちはそれで納得かもしれないが、信仰のために命すらかけてきた者たちがそう簡単に納得できるわけもない」
そういうものなの? 仲良くできるならそれでいいと思うんだけど?
「・・・わかりやすく言うが、もし今からリゼヴィムと仲良くパーティをするが、参加したうえでお前たちも仲良くしろ・・・などといわれて納得できるか?」
「無理です!!」
無理に決まってんだろ!! この人たとえが極端すぎない!?
「そういう事だ。ことクーデターに参加する予定だった悪魔祓いの大半は、何らかの形で悪魔によって被害を受けている。いかに我らが主が悔恨する者に許しを与えることを是とするとは言え、そう簡単に納得できるなら人は教えを必要としたりはしないよ」
なるほど、大変なんだなぁ。
「宮白君はその辺わかってるみたいだったわね。前から準備してたのもそういうことでしょ?」
イリナに言われて気づいたけど、確かに宮白はそういうのわかってたみたいだな。
昔から荒事とか調停とかでお金儲けてたっていうし、そのあたりがすぐにわかってたのか。
「君たちがおおらかすぎるんだ。今後世の流れにかかわっていくなら、そのあたりも理解しないといけないぞ?」
ゲンさんにたしなめられて、俺は少し反省した。
うん、前に馬鹿は深く考えるなってナツミちゃんに言われたけど、少しは考えた方がいいような気がしてきたぞ?
上級悪魔になったらそういうことにも関わりそうだし、やっぱりもうちょっとレイヴェルたちに教えてもらおう。
宮白、やっぱりお前酒飲んでていいよ。
頑張りすぎなんだからたまには相談しろよ?
Other Side
「なるほど。愛する者が心変わりしているかもしれないと心配ということかね、ボーイ」
「しょうなんだよぉ。文句言えないのはわかってるれど、でもやっぱり苦しくれぇ」
いろいろと面倒なことになった。アザゼルは心底そう思った。
隣に座ってきた老人にまで人生相談を始めたぞ、あのバカ。
しかも兵夜は気づいていないが、アザゼルはその人物がとんでもない大物だということにまで気づいていた。
もし彼が素面でその正体に気づいたら、おそらく速攻で土下座をするであろう。
「しかし冥界では、優秀たるものが複数の配偶者を持つことは合法なのだろう? あまり不満を持つことがないのではないか?」
「しょうなんりゃけど、あいつ聖書のおひえの関係者らし、やっぱり抵抗があるのかみょ・・・」
どうやらよほどハーレムを作っているということに対して後ろめたさがあったようだ。
いろいろたまっていたところに大量に酒を飲んだことで、一斉に噴き出している。
「らいいち、俺はそんなにすごい奴らないんらよ・・・」
深く落ち込みながら、兵夜は弱音を漏らし続ける。
「たいしらことないから、生まれたときから頑張ってもそこそこ優秀が関の山で、死ぬほど改造して運にも恵まれて、それでもチームじゃ次点ら」
確かに、今だ素の状態でのカタログスペックだけなら上位にはいれる程度だ。
幼少期から特訓し、いくつもの改造手術を受けて底上げし、さらには神格になり能力を肥大化させた。それでもD×Dで強さを上から数えれば、五番手には到達できそうにない。
とはいえそれは相手が悪い。
歴代最強となることが確定しているといってもいい白龍皇。
一神話体系の代表格である孫悟空。
神滅具準最強を保有する転生天使の
龍神の肉体を持つ赤龍帝。
一神話体系の魔術関係者において最強クラスの魔術師。
生まれたときから禁手に至った、日本異能業界最高峰の血族。
最上位格はどいつもこいつも神話の中でもトップエースを張れるような領域の来歴もちである
そのうち一人を行動を読み切って叩きのめし、もう一人を使役するこの男は十分すぎるほど強いだろう。
そもそも名前がろくに知られていないような神格から、力を分けてもらってなった程度の神格でそれだけできれば十分すぎるはずだ。
死に物狂いで様々な強化を施し、そしてそれを使いこなすべく修練と研究を積んできたこの男のポテンシャルは十分すぎるほど上級相当にふさわしい。
そのことがわかっているから、老人もぽんぽんと肩をたたいた。
「そんなことはない。天賦の才を持たずして、そこまで上り詰めた君の力は誰もが称賛するだろう。主から与えられた体をそれだけいじくるのは確かに思うところはあるが、君の努力と成果を馬鹿にする識者はおらぬよ」
「れも、俺は変態が最優先のりゃめおとこりゃし、やっぴゃり女の子としれはきちゅいんりゃぁ・・・」
そういいながらも直す気はなさそうである。
まあそれは当然だろう。
彼にとっての輝きそのものである一誠は、宮白兵夜にとっての別格だ。順位でいうならば不動の一位といっても過言ではない。
だが、同時に彼がいわゆる女の敵の一種であることは確かだ。実際それを告げたら女はすぐに離れていったという。
いろいろと説教されて改善しているとは思ったが、やはり根は深いのかどうしても思ってしまうのだろう。
が、その老人はやれやれとため息をつくと、力強く励ますようにその背中をたたいた。
「なにを言う。そのボーイも冥界の英雄の一人ではないか。主の教えに生きるものが愛する者より主を優先するのは珍しくもない。それは気にしすぎであろう」
「・・・ほんりょに?」
「本当だ。確かに主の教えを信仰するものとしては首をひねる時もあるが、彼は確かに尊敬に値するのだ。人の価値観は千差万別なのだし、問題はないであろう」
そういうと、彼は酒場の中を見渡した。
ここは異形社会側のご用達であり、さすがに神父はいないものの、半獣などもいて様々な人がいる。
「何よりも恋人を優先する者。恋人よりも親を優先するもの。親よりも神を優先するもの。神よりも恩人を優先するもの。そしていささか問題はあるが、恩人よりも金などの世俗のものを優先するもの。みな大事なものの順位は千差万別だ」
そういうと、老人は満面の笑みを浮かべ、正面から兵夜を見る。
「そして君が心配している愛する者は、君と同じ恋人よりも光を優先するものだ。・・・君は、それを含めたうえで愛しているのだろう? 同じことになって愛想をつかすのかね?」
「・・・いいや、そんなことで嫌いになんてならにゃい」
目に光を取り戻した兵夜の肩をたたき、老人は力強く励ました。
「一度真剣に話し合うといい。大丈夫、本当想い合っているのであれば、ひどいことにはならぬよ」
「・・・うん。うん・・・わかっ・・・たぁうぁああうぁうぅうう・・・ん」
心のつかえがとれて気が緩んだのか、兵夜はほっとした笑みを浮かべながらそのままテーブルに突っ伏した。
これは当分起きないだろう。いろんな意味で深い眠りについているはずだ。
「やれやれ。やっぱり人を救うのは聖職者の方が向いてるな。・・・世話をかけた」
「お構いなく。三大勢力の未来を築いてきた英雄をいたわるのは当然。迷い子を救うのは、聖職者にとっても先達にとっても当然ですからな」
老人にそう励まされながら、アザゼルは領収書を老人の分もとって兵夜を担ぐ。
「お礼におごるさ。・・・それで、会ってみてどうだったよ?」
それが目的だったのだろう? と言外ににおわせたアザゼルの質問に、老人は笑みを少し浅くする。
「・・・見たことがない部類ではない迷い子です。大きな苦しみを受けて道をそれながらも、しかし光を知っているからこそ道を踏み外さない。転生者もそうでないものも変わらない。それがよく理解出きました」
「ああ、厄介なところや癖の強いところもあるが、俺たちと変わらないこの世界の住人だ」
その答えに満足した返答を返して、アザゼルはそのまま後ろを向く。
「こんなところまでご苦労さん。ヴァスコ・ストラーダ司祭枢機卿?」
「ええ、彼によろしく伝えておいてください。アザゼル元総督殿」
・・・そう、彼こそクーデターのもう一人にして真の首謀者。
かつて悪魔祓い最強と言われ、悪魔祓いの育成に力を注ぎ、ゆえに今でも悪魔祓いたちの尊敬を一心に受ける聖人と呼ばれるべきもの。
まさか今日で首謀者二人に出会っていたということに、兵夜が気づくのは明日の朝、二日酔いの頭で把握することになるがそれはまた別の話。
Side Out
え? 時間がおかしい? それは時差を考慮していないからだよ。日本の午前六時はバチカンの午後10時なのさ。
おそらくD×Dでもっともできた男、ヴァスコ・ストラーダ。ここで登場。
いろいろ内心で追い詰められてた兵夜の相談役として希望の光をともしました。
まだ完全に吹っ切れたわけではありませんが、これでベル本人に聞いてみようという勇気が湧いてきましたね。