ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
Other Side
青野小雪がヴァーリ・ルシファーとあったのは、かなり昔のこととなる。
両親と朱離をなくし、朱乃が去ってから一週間程度。アザゼルが後見人となってからのことである。
『おう、悪いんだけどこいつの話し相手になってくれ』
と、ものすごく雑に送り込まれたのだ。
『・・・なんだ、下級堕天使が何の用だ?』
と、なめてかかってくる眼で見られたので、即座に顎を揺らして脳震盪で気絶させたのはいい思い出だ。
当時のヴァーリは莫大な魔力と神滅具の特性を利用して割と別の意味で大暴れしていた。
この時点で相応に能力だけなら優秀だったこともあり、目が覚めたヴァーリは悪夢を見たような顔をしたことを覚えている。
それから、小雪はヴァーリのお目付け役をすることとなった。
一時期中二病に陥っていたり、カップラーメンばかり食べるヴァーリには苦労ばかり掛けさせられた。主に生活の面倒で苦労した。
自分も家事が得意な方ではないが、とりあえず健康を考慮して総菜を買いに行ったり、表の人間にはわからないからとにかくいうなと口を酸っぱくして言うなど本当に面倒を見続けたことを覚えている。
さらに、一度一瞬で気絶させたことが原因か、一時期その技術を教えてくれと付きまとわれたこともあって困ったものだった。
赤龍神帝グレートレッドと並び立つ白龍神皇を目指すヴァーリに、暗殺者じみた技量は不必要だ。むしろ名を汚すことになるだろう。
そう思ったのでとにかく断り、しかし油断して暗殺されないようにするためにその観点からの防衛方法だけを教えておいたが、そのせいで今でも戦いたいリストに載っているらしい。禁手に目覚めたせいでさらに上がっている可能性もある。鬱だと思う。
とはいえ、問題児極まりないところが多いがヴァーリはヴァーリで悪人ではない。
・・・戦闘狂としての側面もだいぶ鳴りを潜めた。自分たちとは違うならず者の友人ができたことが理由だろう。
類は友を呼ぶというか、破れ鍋に綴蓋というべきか、それとも同病類憐れむというべきか。とにかく同類との出会いは、ヴァーリを人間的に大きく成長させた。自分も人のことは言えないが、駄目な友達も時には必要ということだろう。
そのため成長してエージェントとして活動するときも、ヴァーリと小雪は相方として動くことが割とあった。
優れた科学知識のある小雪は、むしろ表社会がらみの一件で動くこともあったため一時期は会わなかったが、その時であった幾瀬との経験も彼にとっては宝だろう。
そんなことを思ってしまうぐらいには、小雪にとってもヴァーリはそこそこの存在なのだ。
そして、それはヴァーリにとっても同じようだ。
『Dvide!』
次の瞬間、音量が急激に小さくなって小雪の頭痛は大きく減った。
そして、気づけば小雪は抱えられていた。
「大丈夫か」
「ヴァ、ヴァーリ・・・?」
激痛を発する頭を抱えながら、小雪はヴァーリに抱えられていた。
「宮白兵夜が通信設備などに干渉を行っている。おかげで何とか間に合った」
どうやら、兵夜は小雪を助けるのに近くにいたヴァーリを利用することにしたらしい。
自分が行くことにこだわらず、より確実に助けられる方法をとるあたりは兵夜らしい。そういうところに不満ではなく納得と共感を抱くあたり、自分もたいがい頭がいかれている。
「ファックな、ところ見せたな・・・」
「いいさ。どうせ反撃するだろう? それまで時間は稼いでやろう」
そういうと、ヴァーリは飛び出して戦闘を開始する。
「これは面倒だなぁん。が、実はサマエルの毒はこちらも保有しているのだなぁん」
「かまわない。当たらなければいいだけのこと」
高速機動砲撃戦が展開される中、小雪は深呼吸して能力を発動できるか試す。
結果的には可能だが、出せるとしても小規模だろう。
これで今のエデンを倒せるとは思えない。
学園都市の闇を自分の手で倒せないのは業腹だが、ここはヴァーリに任せるしかないのではないか。
そう思う小雪だが、ヴァーリの声が聞こえた。
「どうした! お前は責任感のある女だろう。ここでこの男をどうにかするのを、誰かに任せる気か?」
ヴァーリの声が、小雪の心を刺激する。
だが、それは結局自分のわがままで、何より必要なのはエデンをどうにかできる人物で、そして自分は能力者である以上どうしようもなくて―
「小雪。俺が宮白兵夜から言われたのはこの一言だ」
それを、ヴァーリの告げる兵夜の言葉が引き戻す。
「『小雪が苦戦しているから、
その言葉に、小雪は苦笑した。
つまりはあれだ。手助けをしろとは言われたが、倒せとは言われてない。自分の手で決着をつけさせてやれと、遠まわしに告げているのだ。
妙なところで気を使われていると気づき、小雪は苦笑する。
ああ、まったく。
そんな遠まわしの気遣いを見せる兵夜にあきれて、それを戦闘狂のくせして受け入れたヴァーリにもあきれる。
まったく。恋人にしろ兄弟分にしろ、自分が見ていないと何をしでかすかわかったものではない。
「わかったよファックドラゴン! それまでしっかり足止めしてやがれ!!」
いいだろう。そこまで言うならやってやる。
小雪は、痛みを無視して状況を打破するべく頭を回転させた。
ヴァーリ・ルシファーにとって、相手に獲物を譲るのは本意ではない。
そそる戦いであればなおさらだ。好奇心旺盛なほうだと自覚している自分としては、珍しい相手だとなおさら戦いたくなる。純粋たる科学の結晶だけでも通常状態の禁手と勝負になるであろう最新鋭の兵器との戦いは興奮する。
だが、こいつを倒すのは俺ではない。そうヴァーリは自重した。
なぜなら、目の前の男である木原エデンは、小雪の過去の闇の具現化ともいえるのだから。
その過去があったからこそそそる相手になったのは事実だが、しかし小雪にとってトラウマといっていいものであることもまた事実。
正直に言って、ヴァーリは小雪が気に入っている。
小さい頃は唯一の友人といっていいし、問題児である自分の面倒を見てもらった恩もある。一時期は生活の面倒まで見てもらったほどだ。
つまりはまあ、ある意味で姉のような立場なのかもしれない。
「・・・無理なことを。改良されたキャパシティダウンは対超能力者用。
エデンはそうあざ笑うが、しかしヴァーリはそれを鼻で笑う。
「はっ! どうやらお前は世界でも有数の節穴らしい」
「なにぃん?」
そう、まったくもって馬鹿らしいことだ。
「あいつを、青野小雪を馬鹿にするなよ! 暗殺者は目的を必ず達成する。そう教育したのはお前たちだ!」
そう、だから―
「
彼女は必ず―
「
―仕事をするのだ。
「なにぃん!?」
莫大な光力を機関部に直撃され、ケイロンは駆動を停止する。
そして、そんな中を小雪が駆け出した。
「馬鹿なぁん! なんで、なんでキャパシティダウンの中を全力で疾走できるぅん!?」
エデンがわめくが、小雪は全く意に介さない。
エデンは自分の命が危険にさらされているのにもかかわらず、その目には興味と歓喜と疑問が浮かんでいた。
研究のためならば、場合によっては自分が死ぬことすらいとわない木原の性が、ここにきて致命的となる。
「どうやったんだぁん!? ま、まさか
問いかけるエデンを意に介さず、小雪は素手で首の骨をへし折った。
思わず歓声を上げたくなるほどに美しい一撃。ヴァーリがかつて本気で見惚れて習得したかった技術が、今再び運用された。
「すごいな! 突破するとは思ったが、まさかこんなに早いとは思わなかった!」
声をかけるが、小雪は応えない。そのまましゃがみ込むと何やら機械を操作している。
さすがに昔馴染みを殺すのには抵抗があったか? いや、友情など一切感じさせない関係だったと思うのだが。
それとも戦闘狂そのものである感想を言ったのが癪に障っただろうか?
と、思って言うと小雪が操作に成功したのかうるさかった音がやむ。
そして、そのあと小雪は振り返った。
「あ、悪いなヴァーリ。ファックなまでに聞いてなかった」
「・・・珍しいな。お前はそういうのに気を使うタイプだと思ったが」
「能力で空気の振動を遮断してたんだよ。音で干渉するならそれで防げると思ってな」
と、魔術師用の反動で血まみれの体で小雪は肩をすくめる。
「ったく。こいつが言ってた通り、ここでこいつを殺しても木原を継ぐ者が現れるのはファックに決定。・・・よかったなヴァーリ。これで超能力者は何人も出てくるぜ?」
と小雪は茶化すように言うが、ヴァーリはなぜか喜べなかった。
「・・・ヨーロッパのほうにも出てくるだろうか」
「・・・お袋さんのことか?」
小雪が言ったことは図星だった。
あの家で自分を愛してくれた実の母親。
記憶を消され、新しい家族を作った母親にヴァーリは会おうとは思わなかった。
だが、自分と強者の戦いに彼女が巻き込まれるのもゴメンこうむりたかった。
「大事にしとけよ? 親ってのは、自分の失敗でなくすとファックなまでに心が痛むからな」
実体験に基づくことを言われてしまえば、参考にするしかない。
だが、其れは少しだけ違っているとヴァーリは思った。
「ああ。・・・だが、もうお前は大丈夫だろう?」
だって家族がいるのだから、とヴァーリは尋ねる。
その言葉に―
「ああ、まあな」
血まみれながらも満面の笑みで、小雪は応えた。
ベル・アームストロングの人生はかなり下のほうで安定していたといっていい。
前世でも現世でも親に捨てられ、名無しとして過ごした。
おかげで都市で見つけられるものなら、食べられるかそうでないかはすぐに見分けがつく。
寝ようと思えばどこでも寝れるし、劣悪すぎる環境で生きていたせいかちょっとやそっとじゃ病気にもならない。
何より下だったのは、彼女自身がその境遇に納得していたことだろう。
異物を恐れる人の感情を、低レベルとはいえ
そこからは人が人として生きれないような劣悪な環境で生きていたのにもかかわらず、彼女は荒むことがなかった。
自分が劣悪な環境で生きるのは仕方がないことだと、受け入れて人生を終えて二度目も生きていた。
世が世なら聖女としてたたえられてもおかしくないほどの精神性を持つが、同時に彼女は成長と欲望という言葉と無縁の存在だった。
たまたま幸運に恵まれてミカエルに拾われてからも、それは決して変わらなかった。
きれいな服を着て暖かい服を着て、そして命を懸けるに値する輝きを得ることができた。
その与えられたものに対して、今までの生活を受け入れていた彼女は満足しきっていた。
だから、ミカエルのために生きようという決意だけで人生を生きていた。
だから信徒からは避けられた。
輪廻転生という概念を経験している彼女は、本来異端そのものなのだ。それを感じ取っている信徒は、彼女から自然と距離をとっていた。
そして、ミカエルに拾われたということで満足しきっていた彼女はそれで満足していたため特に気にせず生活を送っていた。
彼女が優秀であることの一つに、この無欲からくるストイックな性質がある。
他の者たちが欲望に揺らいでいる子供のころを、徹底的に鍛えることに向けることができたのだ。しかも才能があればそれは伸びるだろう。伸びない方がどうかしている。
だがそれは、人としての喜びを知らずに育つようなものだ。否、そういう風に生きて死んだ彼女は、喜びを求めるという機能が欠落していた。
もしミカエルがその事実に気づいていれば、速攻で何とかするべく動いていたであろうレベルだ。
しかし不幸なことに、アザゼルと違って不真面目なところがないミカエルはちゃんとあり方に忠実に生きた。そのせいで問題点に気づくタイミングがなく、ベルはまったく精神を成長させずに日々を過ごしていた。
・・・そんな日々を、グレモリー眷属たちの手によって変えられたのは幸運というほかないだろう。
そう、ベルは間違いなく兵夜たちによって救われたのだ。彼らとの絆を築いたからこそ、彼女は成長できたのだ。
「させません!」
アーシア・アルジェントの祈りが、破壊の力すら癒して消し去る。
「なんだと!?」
キャスターが驚愕する中、強力な癒しのオーラが放たれる。
その輝きは、攻撃によるダメージを発生したのとほぼ同時に完全に癒し、ダメージを完全に消し去っていく。
「大丈夫です、ベルさん」
そう、アーシア・アルジェントは微笑んだ。
「傷は私がいやします。だから、キャスターはお願いします」
その言葉に、ベルは心から何かがあふれるのがわかる。
。
ああ、自分はこんなに多くの人たちを守りたいと思えるようになったんだ。
これまでの自分が、どれだけ未完成な欠陥品だったのかがよくわかる。
そして、自分がこれだけ成長できたことがうれしくてたまらない。
だから―
「勝ちます」
ベルは、宣言する。
「勝って、生き残って、これからも、実質―」
その思いに、ベルの持つすべてが答えてくれる。
「―生き続けます!!」
まさにその瞬間、回復の領域は消滅し―
「・・・何?」
自動人形の腕が弾き飛ばされた。
反応はわかりやすい。単純なまでの念動力だ。
だがしかしあり得ない。超高出力の干渉装置はいまだに起動している。
その疑念に、しかしベルは驚かない。
ゲンから聞かされていることがある。自分の超能力は超度7という領域に突入していると。
『これは観測における上限だ。個の領域ともなれば、たとえECMを使用しても消しきれるものではない。そういう意味では規格外なんだ』
だから、超能力の抑制を押しのけれる可能性があるのは道理。
そして、今の出力なら確実にできる。
「・・・生きます、往きます、生きます!!」
禁手が発動し、さらに出力を増大化させる。
念動力も収束に収束を重ね、さらに五指は抜き手の態勢に。
そして―
「ぶち抜きます!!」
有言実行。自動人形は一撃で中央部を破壊された。
それに顔を青ざめさせるのはキャスターだ。
「あ、馬鹿! そんなことをしたら魔力炉心が暴走する! 最上級悪魔クラスの魔力暴走なんて起こったら―」
ただでは済まない。
それを把握して、キャスターはいち早く撤退を―
「―逃がさない」
その前に、魔力の蛇がキャスターをからめとった。
ゆっくりと、信じられないようにキャスターは振り返る。
そこには、変わり果てたカテレアが憎悪に燃える目でにらみつけていた。
「よくも・・・よくも私を・・・ワタシォオオオオオオオオ!!」
莫大な魔力が放出され、暴走した魔力路の魔力が指向性を帯びる。
「ま、ちょ―」
最後まで、キャスターがいう間もなく。
カテレアが自分自身を生贄にささげてまで放った魔力の奔流が、キャスターを飲み込んだ。
そして、その余波が軽く数百メートルは消し飛ばす。
至近距離にいたベルは急展開に対応できず、アーシアも禁手を使い切った直後のため対処が間に合わず―
『スーパーパンツタイム』
そのため、割って入ってきたファーブニルが防ぐしかなかった。
「ふぁ、ファーブニルさん!! 目が覚めたんですね!」
『リゼヴィム、倒せなかった。すごく残念』
ものすごく残念さが声からにじみ出ながら、ファーブニルはため息をついた。
そしてかばわれたベルはぽかんとしていたが―
『無事で何より。あ、お礼は脱ぎたてパンツでよろしく』
と、冗談か本気かよくわからないことを言われて―
「・・・ぷっ」
思わず吹き出すという、人生でもあまり経験したことがないことをやってしまった。
ドラゴン舐めたらあかんぜよ?
サマエルの毒という最悪のジョーカーが大量生産可能になって大変ですが、それでもドラゴンはドラゴンなのです