ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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今回はシルシの紹介回です。


眷属、結婚狙いです!

 

 シルシ・ポイニクスは上級悪魔ポイニクス家の娘だ。

 

 ポイニクス家はフェニックス家の分家に値する。立ち位置としては大王派で、フェニックス家としての特性からそこそこ取り立てられている。

 

 そんな中、彼女は上級悪魔としては下位の部類であり、フェニックス家に並ぶ子だくさんな家系だったこともあり、当主には決して選ばれない待遇だ。人間との混血でもあるしな。

 

 彼女は誰かの家に嫁ぐことを運命づけられており、それが仕事といっても過言ではない娘だが、決してそれ自体は不幸な立場ではない。

 

 そこそこ有力な家系であるポイニクス家は、その分価値も大きい。分家レベルでは最高クラスの家系であり、その影響力は大王派では上位に入る。

 

 そんな彼女を嫁にするというのであれば、それ相応の立場でなければ不可能だし、何より待遇をよくしなければそれこそひどい目にあうだろう。

 

 彼女は豪勢な生活を送ることが約束されている人生だ。間違いなく勝ち組だといっていい。

 

 当主である父親からも愛されている。少なくともほしいものはたいてい買い与えられたし、不当な待遇を強いられたこともない。時々一緒に旅行に行ったこともある。

 

 だからといって甘やかされたわけではない。父親は貴族として当然の教育を受けさせていたし、間違ったことをした時はしっかりと叱った。常識はしっかりと叩き込まれているし、使用人からも慕われる人物に育っている。貴族としての誇りもきちんと持ち、高貴たる血を継ぐものとしての責任というものも自覚している。

 

 だが、彼女は生まれたときから不幸を背負っていた。

 

 彼女は人間とのハーフ悪魔である。その人間は神器を持っているとしか思えないほどの視力をもち、それに目を付けた当主は口説き落として妾に加え入れた。

 

 だからといって愛してないわけではない。何かに苦しむ彼女を支えていたし、若くして死んだときは心から悲しんだ。その忘れ形見であるシルシのこともちゃんと愛している。

 

 だが、彼女が何に苦しんでいたのかを本当の意味で理解したのは娘であるシルシだけだった。

 

 彼女は、時々惨劇を垣間見る。

 

 ・・・のちに判明したことだが、彼女の母親はどうやら転生者だったらしい。

 

 その母親から受け継いだ特性を、彼女はしっかりと保有していた。それは視力の良さという次元ではなく、何かを見通すことができる強力な千里眼であった。

 

 その範囲はその気になれば小さな国を見通すことができる。領地を持つ悪魔の妃になれば、それを補佐するのにこれほど素晴らしいものはないだろう。

 

 問題は、シルシ自身に一切それを制御することができなかったことである。

 

 いつ何が起こるかわからないタイミングで、悲劇を垣間見てしまう。それはほとんどが自分ではどうしようもない。

 

 端的にいえば、地獄だっただろう。おそらくは、母親もそれで精神をすり減らしたのだと思う。

 

 これは俺の推測だが、おそらく母親は、魔術刻印で千里眼を制御する魔術師の家系だったのだと推測している。

 

 展開されているのも右目だけだったし、おそらく刻印の提供後などは目をとっていた可能性もある。まあ、悪魔の血によって千里眼が大幅に強化されているという可能性は十分あるが。

 

 だが、そこから救われる時が来た。

 

 三大勢力の和平締結。及びそれに伴う異世界転生者の存在の把握。そして神代の魔術師であるコルキスの女王メディアこと、俺の相棒であるアーチャーの出現だ。

 

 これにより制御不能の千里眼を抑える魔眼殺しを作ることが理論上可能になった。もちろんテストケースとして作ってみた。

 

 そして、のちの調べによって事情が分かったシルシはそれをもってして魔術師組合に所属。魔術回路を持っていたこともあり、それを伸ばすための修練を積むことになる。

 

 そんな彼女を眷属にするように言ってきたのは、ゼクラム・バアルだ。

 

 彼の要望を断るのはまずい以外の何物でもない。それに、妾にしろと一言も言ってなければそれをにおわせることもしていない。つまり俺が勝手に推測しているだけだ。だから断れない。

 

 それに、千里眼を制御することができるようになった彼女はサポートタイプとして優秀だ。世界を見渡す一歩手前の千里眼は、遠隔透視能力といっても過言ではない。その気になれば十キロ以上離れた建物の内側を見ることもできる。

 

 加えてそれ以外にも最高峰だろう。そこそこの詠唱を追加すれば、少し前の過去を見ることや、未来の可能性を見ることもできる。相手の心を覗き見ることだって不可能じゃない。サーヴァントでいうならばB+ランクといったところだろう。

 

 魔術師組合に所属している以上、俺の眷属としての条件にも合致している。そこまで考えたうえで、ゼクラム・バアルは彼女を薦めたわけだ。だからこそ俺も断る理由がない。

 

 混じり物とはいえど大王派の貴族の娘。そして魔術師組合に所属する優れた素質をもつ魔術師見習い。欠点を上げるとするならばフェニックスの特性である炎の攻撃力が低いところだが、それでも貴族としてそこそこの技術は習得しており戦力としては申し分ない。

 

 そして、嫁ぐことが仕事といっても過言ではない立場であることから、秘書としての技量は優秀だった。

 

 ぶっちゃけいい拾い物をした。ゼクラム・バアルにはその点では感謝している。

 

 そして、だからこそ困っている。

 

 なぜなら、感謝という感情は好意に変化しやすいのだ。

 

 これまでの経緯を知っている連中なら、アーシアちゃんの件がわかりやすいだろう。あれこそまさにその典型といっても過言ではない。いや、イッセーもアーシアちゃんのことが大好きだし、アーシアちゃんもそれ以外のいいところをちゃんと知ってるから何の問題もないのだが。

 

 だが、俺の場合はそうもいかない。

 

 シルシを発見して迎え入れたことに、俺はほとんど関与していない。俺が魔術師組合を作ったからこそ救われてはいるが、その他大勢の一人といっていい。

 

 そんな彼女の好意を受けるのは、不義理なような気がするのだが、さてどうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、兵夜さん。今回の探索で異世界を発見できるとは思えないけど、それなりのデータは欲しいのでしょう? 調整が終わったものをリストアップしておいたわ」

 

「ああ、次元の狭間での各種能力などのデータ収集などは逐一行わないとな」

 

 お茶をしながら、シルシは整理された資料を渡してくれる。

 

 読みやすい字で書かれた資料は、簡潔に、かつ要点を詳しくまとめていてわかりやすい。

 

 俺の知力がどれぐらいなのかをしっかりと把握して、俺にわかりやすくしようという努力を感じられる。実にいい報告書だ。

 

 そこには艦内でのトラブルも書かれていて、そういったところを隠さないのも実にいい。

 

 長期間にわたる密閉空間内でのトラブルはすぐにでも解決しないといけない。下手に隠して暴発したら大惨事につながりかねないからだ。特に今回のような救助の可能性が見込めないときはなおさらだ。

 

 彼女は秘書として実に優秀だ。ああ、素晴らしい。

 

「ありがとう。お前が秘書で実に助かる」

 

「確かになぁ。俺はそういうデスクワークとかすごい苦手だからよ、マジ助かるぜ」

 

「そうですの。雪侶はぶっちゃけめんどくさいですし、やってくれる人がいると楽ができていいですのよ」

 

「あら、魔王の末裔と女王の末裔に褒められるほどだなんて、ちょっとした自慢ね」

 

 と、和やかに会話を続けるが、しかし問題は距離だ。

 

 近い。すごく近い。くっつくぐらい近い。

 

「シルシ。俺は女がいるからあまり距離を近づけすぎるのはどうかと思うんだ」

 

「あら。それなら私を貴方の女にすれば終わりじゃないかしら?」

 

 いきなり喰らいついた!?

 

「グランソード。兄上はハーレムを増やすことになるのでしょうか?」

 

「少なくともシルシはそのつもりだろ。カッカッカ! 大将はモテモテだな、オイ」

 

 外野! ちょっとは助けてくれてもいいんじゃないのか!?

 

「貴方もうすうす予想はついているんでしょう? 自業自得とはいえ、大王派を中心とした貴族は大打撃を受けているもの」

 

 ああ、それはよくわかる。

 

 レーティングゲームにおける不正の取り締まりは、現在急激に進んでいる。

 

 レーティングゲームを悪魔だけのものでは無く、和議を結んだすべての勢力で行うことを目標としているのが変化最大の理由だ。というより、アジュカ様達はそれを利用して不正を是正しようと前々から考えていたらしい。

 

 王の駒の不正使用のこともあり、わりと貴族側は大ダメージを喰らっている。不正使用がばれた者たちは軒並みダメージを受けるなり脱走するなりしており、イッセーが何人かと戦ったこともあるとか。勇退の名目で失脚したものも数多い。

 

 だが、このままで終わるわけがないだろう。終わっていいとも思えない。

 

 俺の持論だが、悪魔という種族は血統主義を完全に捨て去ってはいけないだろう。単純な個体差が大きいことが最大の要因だ。この事実を捨て去っても、いずれツケが襲い掛かるのが目に見えている。

 

 だから、何らかの形で貴族の復権を行うのは俺としても好都合だ。魔王様たちはリベラルすぎるので不安だしな。

 

 そして、その際大きな力になるのは魔術師(メイガス)だ。

 

 魔術師の力の源である魔術回路は、血統に宿るものだ。

 

 すなわち、家で力が大体わかる。血統主義や貴族主義になりやすい最大の理由がそこだ。そして、それは理論的に実証された根拠といえる。

 

 もちろん突然変異もあるが、それは本当に突然変異だから、特例としか言いようがない。

 

 これは悪魔の特性と近しいものだ。必然的に貴族主義である大王派との親和性は、魔術師と高くなる。実際魔術師組合の人々は大王派の方に好意的だ。

 

 だから、魔術師組合としても大王派の復権は急務。何とか間に立って折り合いをつけるべきだ。

 

 そうなれば、魔術師組合の長である俺との結びつきをよくするのは当然。そして貴族ならば政略結婚は珍しくもない。

 

「ええ、ポイニクス家のものとして、英雄の妻を輩出したという事実は地位を盤石にしてくれると思わない?」

 

 と、胸は小さいながらも妖艶とした笑みを浮かべてくるシルシ。

 

 あの、顔が近いんですが?

 

「私は美味しそう? なんなら、ここで見られながら味見してもいいのよ?」

 

「・・・さて、俺達は退出するか。ほら行くぞ雪侶」

 

「グランソード? 雌とは雄に艶姿を見られてこそ輝く生き物なんですのよ?」

 

 常識的に退出しようとするグランソードと、異常的にスマホのカメラを起動しながら押しとどめようとする雪侶。二人の間で力比べが勃発しそうになっている。

 

 ですが二人とも? まず止めてくれない?

 

「シルシ。俺は個人的にあいつらに操を立てたいと思っている。・・・不倫はしない」

 

「四人も彼女がいておいていうセリフじゃねえぞ?」

 

 グランソード。正論だがそれを言う前にシルシを引きはがしてくれ。女性眷属に乱暴なまねをしたくないんだ。

 

「グランソードの言う通りね。・・・それに、あなたこの船に職業娼婦を連れ込んでるじゃない」

 

「あれは船員の性欲解消用だ! 大体もとから本職の奴だし、金は相場の倍だしてるぞ!!」

 

 こういう環境かじゃストレスがたまると思ったから、そのあたりの根回しをしておいただけだっつの!!

 

 三大欲求の解消は結構気を使ってるんだぞ? 戦闘能力は兵員で解決するつもりだから軍艦にも関わらず個室率は高い。食事に関しても食堂だけではなく独自に食べれる軽食コーナーとかを擁しているぞ、レトルトだけど。

 

 性欲だってその一環だ。男どものストレス発散のはけ口はちゃんと用意しておきたい。だからきっちり考えているだけだ。

 

「・・・一応言っておきますけれども、兄上は義姉様方に「性欲発散はOK」と認められてますのよ?」

 

「それを言うな雪侶!!」

 

 この馬鹿妹! 黙ってたのに何でばらす!?

 

「あら、だったら別に構わないじゃない。私下僕悪魔なんだから好きにしていいのよ?」

 

「いやいや。そういうのはそのですね?」

 

 了承を得ているからといって、それを行うことに躊躇を持たないわけじゃないし! そもそもしないことで俺の誠意というものを示したいしね!?

 

 くそ! このままだと俺は逆レイプされるぞ!?

 

 だれかぁああああ! 助けてくれぇえええええ!

 

ピー ピー ピー

 

『失礼します。兵夜さま、朗報です!』

 

「おぉおおおおおお! すでにその報告が朗報だぁああああ!!」

 

 よっしゃ助かったぁ!!

 

「チッ! せっかくここからいいところでしたのに」

 

 雪侶、後で家族会議な?

 

『異世界です! 遂に異世界を発見いたしました!!』

 

 ・・・マジで朗報だ!?

 




聖書の神の死が原因なら、聖書の神が死んだころから転生者がいてもおかしくない。

そして、それなら子供がいても何らおかしくはない。

そう考えたことがある貴方、シルシこそがその第一号です!









しかし、転生者の中でも魔術師(メイガス)はいろいろと大変。

根源到達を人生の目標とする魔術師にとって、異能の変質は大問題。そして貴族であることの多い魔術師は、金も資源も大きく不足する。ましてや当主が継承する魔術刻印など一から作らねばならない。

シルシはまさにその悪影響の被害をもろに受けたキャラクターです。

そんな生活から救われることがあれば、その恩恵を与えてくれた人に好意を持つのは当然のこと。ゼクラム・バアルはそこをついて、政略結婚にある程度理解のある兵夜に断りづらい状況を作ろうとしている・・・と、兵夜は推測しています。

これが当たっているかは、また後程の展開をお楽しみください。

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