ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
宮白兵夜の一撃が、バラムを蹴り飛ばし決着をつける。
兵夜はそのまま残心すらせず、地面に落ちたネックレスの欠片を拾う。
即座に解析をすれば、それこそが英霊召喚のための礼装であることが判別できた。
「・・・どうやら、これでバラムは敗退のようだな」
そう告げると、兵夜は残っている悪魔を睨みつける。
「これ以上の戦闘は無意味だ。こっちも状況が呑み込めてないんで、今逃げるなら追いはしない」
兵夜個人としてはここで全滅させるなり捕縛させるなりするべき事態。だが、状況がそれを許さない。
全く状況が掴めていないこの状況下で、そこまでする余裕は少ない。弱体化している今の状況で無理にそれを強行すれば、逆に死ぬ可能性もあった。
だからこその妥協案だが、しかし主を叩きのめされて激昂している悪魔達は、それでもなお反撃しようとし―
「―そこまでにしなさい」
兵夜と自分達を分けるように放たれた焔で動きを止める。
「これ以上の狼藉は、ポイニクスの名において見逃しはしないわ。・・・反撃の機会がほしいのなら、ここは引きなさい」
シルシ・ポイニクスがエストックを翳しながら、炎に照らされて恫喝する。
・・・その不意打ちに冷静さを取り戻したのか、悪魔達は距離を取り始めた。
「引くぞ! 主を回収してここから避難する!」
「「「「は、はいっ!」」」」
副官らしき悪魔の指示に従い、悪魔達がすぐに離脱を開始した。
それを横目で見ながら、兵夜はすぐにフリードの姿を探す。
・・・だが、発見できない。
どうやら、バラムの者達が来た時点でややこしいことになると感じて離脱をしたらしい。即座に切り替えて離脱をするのは的確かつ素早い判断と評価するべきか、逃げ足が速いだけと酷評するべきか。
「どっちにしろ、厄介な奴が関わっているな。・・・あの白髪神父め、どさくさ紛れに死んでいればよかったものの」
ため息をつきながら、手助けをしてくれた者達に頭を下げる。
「今回は、俺達の世界の連中が迷惑をかけた。まあ、基本的に敵なんだが、其れでも一応詫びておく」
「いえ、どうやら彼らは犯罪組織のもののようですし、動きを見る限り貴方は治安維持組織の方なのでしょう? むしろ助けていただいたお礼を言わないと」
黒髪の少女がそう言ってくれるのは慰めだが、そういうわけにもいかない。
「いや、肝心の政府側の連中もがっつり関わっている。外様でまがい物で成り上がりの貴族とはいえ、同政権の出身としては詫びるしかないよ」
自分達の世界のうちで解決するべき問題を、よりにもよって他の世界の人間に深入りさせたのだ。
これは間違いなく不手際だ。ましてや、フリードの話が本当ならば彼女達は意図的に巻き込まれたことになる。
彼らをいまだ排除もしくは捕縛できていないのは、間違いなく体制側の落ち度。それに対する謝罪は必要だった。
だが、それにしてもこの世界に関してはイレギュラーが多すぎる。
この場にいる者の殆どが、この世界についての何もかもを知らない。知っているとするならば―。
「・・・えっと、シルシ。そこの二人は?」
「ええ、この世界の住人で、聖杯戦争の参加者らしいわね」
シルシも少し警戒しながら、聖槍の少年と英霊の少女を見る。
聖杯戦争という状況下で、見ず知らずの人を助けてくれたのだから善性だとは思うが、しかし情報があまりにも足りない。
そして、それ以上に気にするべきところもある。
「・・・そっちのお嬢さん? あんた、英霊と人間の複合体だな?」
「あ、わかります?」
と、まったく隠しもせずに少女は肯定する。
兵夜は嘆息すると、その額を軽く小突く。
「あまり即答しないように。まともな
それは、疑似サーヴァントでもなければ
一部を憑依させてるのでも装備として運用しているのでもなく、魂と肉体が英霊と融合している。サーヴァントの召喚そのものが非常に高難易度で実現が難しいことを考えれば、あと数千年かかっても実証できるかわからない超高難易度技術。正真正銘机上の空論。
そんな奇跡の塊であることを、兵夜が偽眼によって把握していた。
「そこの少年がマスターなんだろうが、もう少し警戒した方がいいだろう。・・・それとも、イレギュラーでマスタになった素質持ちなだけか?」
「・・・十歳から、十歳になる頃にこっちに来たんで、そっちの勉強が足りてないんだよ。あと僕はこれでも23だから」
さらりととんでもない事実を言いながら、少年はしかし辺りを警戒する。
「できれば、できることなら離れたいんだけど? 戦闘に気が付いて他の参加者が出てきかねないしね」
それは、確かに警戒するべき内容だろう。
戦闘が終わって弱った陣営を、他の陣営が強襲する。混戦状態ならよくあることだ。
戦争という状況では、その程度の汚い戦術は許容される。むしろこのチャンスを逃す方が酔狂物。それが聖杯戦争というものだった。
「シルシ、飛行艇は?」
「着地の際のミスで損傷中。元々あれ、二人乗りよ?」
それもそうだと納得して、兵夜は即座にスイッチを取り出すとそれを押す。
「よし、自爆装置は起動した。とりあえず離脱は車を使うか」
と言いながら、兵夜が偽腕の機能で車を転送する。
何もないところからいきなり大型車両が現れて、シルシ以外の全員が目を大きくする中、兵夜はドアを開けると笑いながら一礼した。
幸い、先ほどの戦闘で大きな通り道もできている。車で移動する分には何の問題もない。
「とりあえず、温め可能なレーションもある。・・・話は移動中にゆっくり聞こうか?」
転生者の知識を知っている者にとって、一つの常識がある。
地球。その名前を冠す星に住み、日本という様々な国家を持つ。そんな平行世界とも異世界ともいえるべき世界は、間違いなく無数に存在する。
これは、転生者のいた世界の多くが様々な違いや異能の前提条件の違いこそあれど、その多くが近しい文化体系を持っていることから明らかになっている事実だ。ごく一部の例外を除き、地球と日本というキーワードと、表向きの20世紀までの歴史は驚くほどに通っている。
そして、暁古城と姫柊雪菜のいる世界は、そんな世界の一つだ。
性質としては、ベル・アームストロングを送り出した超能力《エスパー》のいる世界が一番近い。その地球では異能の存在が公然と公表され、国家の種類も他とは異なっている。
しかし、同時にそれは今転生者達が来訪した世界―過程としてD×Dと呼称する―とも大きく似通っている。
吸血鬼、獣人、悪魔。そのような存在が存在し、彼らが大きな勢力を築いている世界だ。
その世界において、最強の魔族とされているのは吸血鬼だ。
無限の負の生命力を持ち、それを贄として捧げることで異界より眷獣と呼ばれる強大な使い魔を召喚して操る。その強大な力により、吸血鬼たちは夜の帝国と呼ばれる世界大国を作り上げた。
そして、その世界には一つの伝承がある。
神々の技術によって不死となった、吸血鬼の元祖である真祖は三人。その一人一人が例外なく世界でも最大級の強者であり、一国の軍隊にも匹敵する戦闘能力を発揮する。
そして、その真祖には四番目が存在する。そしてその真祖こそが最強の吸血鬼である。
十二体の眷獣を保有する、世界最強の吸血鬼。その名を第四真祖、
なぜかそれに半年ほど前からなってしまった奇妙な運命を持つ男、暁古城は、政府機関から監視役を派遣されることとなる。
その機関の名を獅子王機関。そして派遣された監視役の名を、姫柊雪菜という。
この世界には、そんな世界だけでなくいくつもの次元世界と呼ばれる異世界が存在する。
そのうちの一つにおいて、百年ほど前に大きな戦乱が勃発した。
次元世界の存在が明らかとなったことで、強大な力を持ていたベルカ王国という国家。次元世界にまで進出して発生していった戦乱。ベルカそのものが崩壊しても、その後は覇権を争い戦国時代が巻き起こるという悪循環があった。
その後、魔導技術の発展によって台頭してきたミッドチルダという世界を中心として、次元世界の平和及び安寧のために、時空管理局という組織を設立する。
そして、時空管理局はD×Dを第97管理外世界として認定し、極力接触を行わない方針で動いていた。
時空管理局は基本的に、管理世界での活動を主軸として行っている。
管理世界の条件とは三つ。次元を移動する技術があること。ほかの世界の存在を知ること。そして管理局に所属していること。
地球はこの条件に該当していない。厳密にいえば、次元を移動する技術がないわけではなかったが、軸線がずれているかの如くずれており、管理局はその世界を発見できていない。加えて、グレートレッドという圧倒的な存在をスルーする技術に至っては、D×Dが保有できたのはつい最近のことである。そのうえで存在を表社会から秘匿している彼らの存在を知れなどと、時空管理局に無理を言っているようなものだろう。
お互いに秘匿を行っていたからこそ起きた悲劇ともいえる。そして、これがややこしいことを引き起こしていた。
時空管理局は管理外世界をある程度観察する程度のレベルで動いているが例外がある。
それがロストロギア。過去に滅んだ超高度文明の遺産。極めて発達した技術や魔法のことを指す。
これらの中には危険なものが多く、使い方を誤れば次元震を発生させ、一歩間違えれば次元世界を滅ぼしかねないほどの事態を発生させかねない危険な存在である。
そして、高町ヴィヴィオの養母である高町なのはは、小学三年生のころにこれに関係する二つの事件に巻き込まれた。
それ自体は奇跡的にも大した人的被害がなく解決したが、しかし上記のややこしいめぐり合わせにより、戦争勃発の危機が起きていたことを、時空管理局はまだ知らない。
「時空管理局とは交流を結んだほうがいいな。・・・一歩間違えたら人類が滅びているところだった」
宮白兵夜は一通りの説明を聞いてから、頭を抱えたい衝動にかられた。
不幸なことに車の運転中である為、そんなことが全くできないのが地獄である。
「あ、あの・・・。ママ達が本当にごめんなさい」
「ああ、ヴィヴィ・・・でいいかな? 君が謝ることじゃないから、人間世界に秘匿して冷戦状態だった三大勢力にも非があるから」
幼女であるヴィヴィオに謝られても、それを攻めることなどできはしない。
もとより、時空管理局の管理外世界に対する方針と、異形社会の今までの方針は似通っている。向こうは向こうで多くの世界の危機を救うために行動していたのだから、責めるいわれもない。
「それにしても、それだけの大規模宗教の存在が認識されていながら、信仰存在が姿を表向きに表してないというのも意外な話ですね」
雪菜はそう疑念を浮かべるが、それに関しても認識の違いだろう。
「人間に異形の知識を与えると暴走を招きかねない。まあ、傲慢っちゃあ傲慢な意見だが、実際それが俺達の地球の混乱の原因でもあるから、的外れでもないのが色々と複雑というかなんというか」
実際に、異能力を得た人間の暴走で引き起こされた事件は一年間で数多い。
そういう意味では、うかつに広めようとしなかった異形社会の判断は間違っていないだろう。情報化社会になったことで情報の拡散も広がっているため、小出しにするのにも限度がある。
それを、フィフス一派がぶち壊した為、次善の策として全てぶちまけるという離れ業をする予定になっているのだが。
「できれば、モデルケースとしてそっちの地球の情報も欲しいけど、それはまあ後の話にするか」
兵夜個人としては、できればそちらの話をし続けたいが、しかしそういうわけにもいかなかった。
それ以上に気になるいくつもの事情を、今のうちに把握しておかねばならない。
そして、視線はバックミラーに映る一人の少年に映る。
「須澄くん。悪いが、詳しい事情を話してもらうぞ」