ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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流転する聖槍の伝承

 

「それで、それでどこから話せばいいの?」

 

 須澄は、特に異論なく頷いた。

 

 もとより、話したくないことはあれど必要な事話すつもりだった。だからそれは問題ない。

 

「最初に自己紹介しておくと、僕は近平須澄、23歳。元々別の世界の出身だったんだけど、父さんに連れられて参加した魔術儀式の暴走で、この世界に流れ着いたんだ」

 

「それは想像できてる。お前は魔術師(メイガス)なんだろ? ・・・いや、魔術使いか」

 

 兵夜は即座に推測し、話を進める。

 

 もとよりそんなことはある程度想定できている。問題なのは次からだ。

 

「まずは一つ。その聖槍、いったいどこで手に入れた?」

 

「手に入れたのは五年前。詳しい事情はまとめて話すけど、この聖杯戦争を起こした男の起こした事件に巻き込まれてね。・・・僕の、僕の願いに応えてくれたんだよ、こいつが」

 

 そう言いながら、須澄は聖槍を呼び出す。

 

 黄昏を思わせる輝きを放つ槍は、車の中を淡く照らし出した。

 

 そして、兵夜の体が少しくすぶり始める。

 

「・・・ゴメン。俺にとってそれは天敵だから、オーラ抑えてくれると嬉しい」

 

「ごめん、本当にごめん。それは知らなかったよ」

 

 慌ててオーラを抑えてから、須澄は静かに語り出した。

 

「ことの発端は五年前。僕がお世話になってた村が、魔獣に襲撃された時だよ」

 

 そう前置きした須澄の言葉を継いで、トマリが話を進める。

 

「聖杯戦争の首謀者の名前は、エイエヌ。たぶん偽名なんだろうけど、彼はこの世界、ニュークレオンの代表に突然なった男なの」

 

 その言葉に、アインハルトとヴィヴィオが反応する。

 

「ニュークレオンというと、つまりフォード連盟なんですか?」

 

「え!? あのフォード連盟?」

 

 その表情には緊張感があった。

 

 もとよりいきなり空間転移をされたうえで戦闘に巻き込まれたこともあったが、それにしても和らいでいた緊張感がより強くなっている。

 

「えっと、そのフォード連盟? ってのは時空管理局と仲悪いのか?」

 

 暁古城が推測しながらの質問に、アインハルトは頷いた。

 

「フォード連盟は、時空管理局に参加していない次元世界の連盟です。時空管理局は質量兵器を基本的に撤廃する方針で動いているんですが、フォード連盟は魔導士の素質がない者でも使える質量兵器を主力とする方針で動いてまして、その所為で折り合いが悪いんです」

 

「そのとおりっ。なんだけど、ピラミッド構造の所為で下の世界とかは扱い悪いんだよねぇ。ここはその所為でスラムが多いの」

 

 と、内容に反比例した軽い口調で説明するトマリ。

 

 その表情は、大切な過去を思い返すように楽しそうだった。

 

「私も須澄くんと一緒で事故で転移に巻き込まれた口なんだけどね? そんな貧乏な街でも、結構楽しかったなぁ」

 

「そうだよね。街の人達、悪い人もいたけど良い人も多かったし」

 

 そう笑顔で頷いた須澄だったが、やがて、その表情が暗く沈む。

 

「・・・それが、それがエイエヌの実験で全部台無しになった」

 

「何を、やったんだ?」

 

 話を先に進めなければ始まらない。

 

 そう判断し、兵夜はあえてその先を促す。

 

 須澄もそれは分かっているのか、すぐに頷いた。

 

「彼が、彼がやったことは至極単純。魔術的な悪意の覚醒だよ」

 

 その言葉で、兵夜は何があったのかを即座に判断した。

 

 確かにそれは魔術師(メイガス)の分野だろう。そして、神器の分野でもある。

 

「魔術で深層心理を刺激し、当人が無意識的に逸らしていた悪性を強制的に自覚させる・・・といったところか」

 

「そうなの。・・・あれは結構きつかったよ。・・・大半の村人達は、それで心を壊したり狂乱して歯向かったりして―」

 

「いいわ、そこから先は言わなくても想像ができるから」

 

 トマリの説明を、シルシが遮る。

 

 ああ、確かにこれは凄惨な実験だろう。

 

 やれば成果は確実に出る。だが、同時にやってはいけない領域だ。

 

 聖杯戦争のプロモーターというだけで想像はできていた。そして今確信した。

 

 そのエイエヌとかいうプロモーターは、間違いなく魔術師(メイガス)だ。

 

 特有の倫理観の緩さ。神秘の秘匿を考慮しないで済むがゆえに、狂気的な実験欲。何より精神に深く干渉する技術。その全てが彼の正体を兵夜に理解させた。

 

 そして、その事実に沈黙する中須澄が告げる。

 

「あいつは、あいつはそれを目の前で見ていた。・・・心の底から憎悪に身を焦がす感覚を、僕は初めて分かったよ」

 

 そして、彼は心の底から願った。

 

 許せない。だからあるなら応えてくれ。

 

 誰でもいい、何でもいい。奴に復讐する為の力をと。

 

「そして、現れたのがこの槍だよ。悪いんだけど、それ以上は僕もよくわからない」

 

「・・・そうか。まあ、神滅具が一種類につき一つしかないのはあくまで慣例だからな。もう一つある可能性はあるが」

 

 兵夜はそういうことにしておくことにした。

 

 黄昏の聖槍に限って言えば、神の子を貫いた槍を母胎としている以上その可能性はあり得ないはずだが、それはあえて置いておく。

 

 冷静になれば一つの可能性を兵夜は想定できていたが、しかし今は話さない。

 

 少なくとも、それは今話す話ではない。

 

 それにデッドコピーが存在する可能性は十分にある。それが須澄の聖槍である可能性は大きいだろう。

 

 そして、問題はそこだけではない。

 

「続いて質問。聖槍については後でいいが、そもそもなんでトマリ・・・さんはデミ・サーヴァントに?」

 

「あ、トマリでいいよ? ・・・まあ、私も似たようなものかなっ」

 

 そう軽く答えながら、トマリは自分の手を見つめる。

 

「私もね、願ったの。・・・許せない相手と戦える力が欲しいって。それとね?」

 

「それと?」

 

 兵夜が聞き返すと、トマリは苦笑を浮かべながら外を見る。

 

「ニュークレオンでの聖杯戦争はこれが二度目。私達は一度目からの続投組」

 

 本格的な聖杯戦争は二度目が本命だったらしく、一度目は実験的要素が強かったらしい。

 

 規模も質も今回の聖杯戦争とは比べ物にならないほど弱く、しかし確かに英霊の力を召喚することはできた。

 

「たぶん、それが原因だね。だから私の詳しいことはわからないんだけど・・・」

 

「OKだ。知りたい情報は大体聞けた。・・・辛いことを聞いて悪かったな」

 

 必要な情報を聞き出す必要はあったが、しかしそれにしても深く暗い事情を聴き出してしまった。

 

 だからそれについては謝り、そして兵夜は次を考える。

 

「とりあえず、俺は聖杯戦争に関わらせてもらう。・・・あれはテロリストには過ぎたおもちゃだ」

 

 そう、どちらに転んでもそれだけは変わらない。

 

 冬木式の聖杯は願望機として機能する。それは、聖杯戦争に優勝し、聖杯で願いを叶えた兵夜だからこそ断言できる。

 

「規模がどれぐらいかはともかくとして、禍の団の残党に聖杯が渡ったら性質の悪いことになるのは確定だ。奴らに聖杯が渡ることだけは阻止しないといけない」

 

「えっと・・・どれぐらいなんですか?」

 

 と、ヴィヴィオが兵夜の言葉に疑念を浮かべる。

 

 確かにその疑問はもっともだ。

 

 願いが叶う願望機。・・・などと言われても、すぐには発想が追い付かない。そもそも信じられる方が少数派だろう。

 

 この場にいる者達は全員が異能関係者ともいえるが、それでも願いが叶う願望機というのは不自然だ。

 

「因みに、因みになんだけどエイエヌは聖杯に細工してたらしくて、素直に復讐を願ったら不発になったから僕もよくわからない」

 

 さらりと自分が優勝したことを告げる須澄に苦笑しながら、兵夜は告げる。

 

「戦略核兵器数発分はいける。エネルギーとしては」

 

「核兵器!? 冗談だろ!?」

 

 古城が大声を上げるが、実際それぐらいは普通にできる。

 

「あくまで単純物理火力に変換したらの話だ。聖杯の最大の脅威はそのエネルギーに方向性を与えることで、おおよそ自由にそれを使えるということにある」

 

「というと、それらを指向性のある呪いにすることもできるんですか?」

 

 どうにもこういった方面の専門知識があるのか、雪菜が一番危険性を理解しているようだ。

 

 だが、それでも聖杯の危険性を完全に理解できているわけではない。

 

「確か、兵夜さんの場合はもらった土地を冥界でも五指に入る霊地にしていたわね」

 

「ああ、あれだけの霊地は冥界でもそうはないだろう。・・・一生あれだけで食っていけそうなレベルだ」

 

 うんうんと思い返しながら、兵夜はそれゆえに頭を抱えたくなる。

 

「そういうわけで大変なんだよ須澄くん。・・・あれ、時空管理局のトップを全員フォード連盟のために命を捨てることすら惜しまない従僕に変えろと言われたら実行しかねない」

 

 それは、間違いなく冗談抜きの理論だった推測である。

 

 距離の概念が非常に開いている為その程度が限界だろうが、しかしそれだけでも極めて凶悪な状況である。

 

「それは、それはまずいね。・・・質量兵器云々はともかく、フォード連盟が覇権を握るのは駄目だよ。絶対に駄目だ」

 

「俺も同感だ。・・・少なくとも冥界にとっては毒になる」

 

 須澄と兵夜は同意の姿勢を見せる。

 

 そして、それは同盟を結ぶのに十分すぎる。

 

「聖杯に興味がないなら、ぜひ協力してくれないか? 使った俺がいうのもあれだが、あれは世界に無用の混乱を起こしかねない」

 

「・・・エイエヌを、エイエヌを時空管理局に引き渡す、とかも追加でしてくれると嬉しいけどね」

 

 須澄はそう冗談交じりの感情をこめて告げる。

 

 兵夜達は聖杯戦争で禍の団残党が獲得するのを阻止したい。須澄達はエイエヌに対して意趣返しをしたい。

 

 この時点で、二人の間には間違いなく同盟が結べる状況になった。

 

「まあ、ポイニクス家としても今の冥界に余計な混乱が起きかねないことは避けたいわね」

 

「私は須澄くんについていくよっ」

 

 と、女性人二人も異論はない。

 

 それを見て、二人は同時に笑い合った。

 

「運転中なので左腕で失礼」

 

「大丈夫。じゃあ、ちょっと手伝ってくれると嬉しいかな」

 

 ここに、異世界における聖杯戦争最大のダークホースが誕生した。

 


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