ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
早朝、それも、朝日が昇るかどうかという時間帯になって、兵夜は目を覚ました。
毛布を引っぺがして起きる。日夜早朝から走ったりするなどのトレーニングを欠かさないからこそ、どんな時でも荘重で起きれる。過酷な実践と訓練の積み重ねが生んだ美徳だった。
実際、魔術的な補正で精神的な疲労は回復させている。肉体的な疲労はまだ抜け切れてないが、それはゆっくり時間をかければ起きていても回復できる。
視線を向ければ、いきなりの実戦で披露している皆が泥のように眠っていた。
「さすがに、実戦経験がろくにないのに連戦はきつかったよな」
苦笑しながらそういうと、そんな彼らを雇う形になっている自分に自虐じみた感情が浮かんでくる。
実際、戦力が必要なのは当然だ。ただで動く義理もないのも当然だ。手伝わせておいて報酬を払わないのは筋が通らないのも当然だ。
とはいえ、
小間使い程度ならあまり気にならないが、それでも少し思うところがある。
「朝食は少し手を加えるか」
毎回レーションでは味気ないだろうと思い、兵夜はアウトドア用のコンロや、一応持ってきていたスパイスなどを取り出した。
胡椒などのスパイスは挽きたての方が香りがいい。それにほかにもいろいろと手を加えることはできるのだ。
と、いうわけで調理を開始しながら、兵夜はしかし頭を抱える。
「さて、どっから手を付けたものか」
まずやるべきことは陣地の確保・・・ではない。
昨夜のうちに確認したが、トマリの陣地作成スキルは低ランク。これではできることには限度がある。
巻き込まれた人間を保護することも考慮すれば、そこそこ大規模な陣地を作成する必要があるだろう。そんな規模の工房を彼女のスキルで作れるとは思えない。
かといって工房にせずに建物を確保したとしても、火力が化け物じみている相手に建物ごと攻撃されては元も子もない。対応するにはそれ相応の設備というものがいる。
だからこそ、当分の間は潜伏しながらなんとか探しだして救出。しかる後ラージホークを使用して、時空管理局が介入するまで逃げる戦術になるだろう。
そしてそれができてから、本格的にエイエヌを捕縛する。
そこまで考えたら、すでに朝食は完成した。
我ながら無意識じみたレベルでできるとは、などと感心しながら、兵夜は彼らを起こすべく息を吸った。
「・・・飯できたぞー!」
「そう言えば、そういえばさ、心当たりがあるんだって?」
朝食のサンドイッチを食べながら、須澄は聖槍を出しながら兵夜に質問をした。
「ああ、赤龍帝のことか?」
「そういえばそうね。・・・一体どういう理由で赤龍帝が二人いるのかしら」
シルシも同意見であり、そして皆がそれは同じ疑問を持っていたらしい。
一誠に視線が集まり、兵夜は一瞬たじろいだ。
「・・・
「ああ、朝食にマフィンが出たかトーストが出たか・・・というたぐいの異世界理論のこと?」
シルシがすぐに簡単に説明をしてくれたおかげで、すぐに話がまとまっていく。
「其れってつまり異世界だよな? 俺たちとアンタたちの地球の違いか?」
「少し違う。この場合の「異世界」はX軸だな。平行世界はY軸で考えるべき内容だろう」
と、古城に補足をしながら兵夜は続ける。
もともと、兵夜の家は平行世界の干渉や観測を司る第二魔法に到達することを目的としている家系の分家だ。そのあたりの理解は人より深い。
「それに関していうのならば、俺たちがいた地球にも平行世界は当然存在することになる」
「それが、それこそが僕の聖槍やあの赤龍帝のいた世界ってこと?」
「ああ。それにしても疑問符は大きいんだがな」
そう。これはあくまで推測であり、完全な確証ではない。
「そもそも神滅具の使い手ってのは発見が難しい上に倒すのが難しい。後者は暁の眷獣と同等クラスの化け物を倒せるかっていうことでわかるだろう?」
「ああ、なるほど」
比較的付き合いの長い雪菜が真っ先に理解した。
「うっかり暴発させただけで、500億円の損害を生み出してますからね、先輩は」
「それを言うな。オイスタッハのおっさんが大暴れしてくれたから何とかなりそうだけど、俺だって罪悪感はあるんだぞ」
そういいながら、古城は気まずそうにもそもそと食事を続行する。
「・・・そういえば、そのオイスタッハって人は絃神島に何しに来たんですか?」
と、ヴィヴィオが気になったことを訪ねてみる。
神父というのが聖職者なのは知っているので、うまくすれば話を聞いてくれるのではないかと思ったのだろう。
そして、古城と雪菜は気まずそうに顔を伏せた。
「絃神島を作ったやつが悪いとか言ったが、其れか?」
兵夜はちょっと前の出来事を思い出して、心当たりを口にする。
都市の設計者を聖職者が恨むほどの事態となれば、一つ思い当たることがあった。
「ああ、俺は納得できないけど、おっさんのやってることもある意味正しいっていうか・・・」
「間違いなく止めねばいけない事態なのですが、非があるのは絃神島の設計者なんです・・・」
詳しく話を聞いてみると、兵夜の推測はあたりだった。
絃神島は海上に浮かぶ人工島。しかも、魔導理論を全面的に投入し、海底の霊脈を利用する設計となっている。霊地を利用する魔術師からしてみれば感心するほかない内容だ。
なにせ、地球の面積は7割が海。地上より上質な霊地の数は多いだろう。
だが、その作成方法に問題がありすぎた。
東西南北を四神に見立てた設計を行うのはよかった。中央部を黄龍として設計するのもいい。その中央部には特に重要な資材を投入するべきなのも分かる。
だが、そのために用意したものが問題だらけだ。
古城たちが巻き込まれた事件の首謀者、ルードルフ・オイスタッハ。彼は殲教師と呼ばれる、兵夜たちの世界でいう悪魔祓いのような聖職者だ。
その彼の宗教における聖遺物、それも聖人の遺体を強奪して要石にしているという。
「そりゃキレる。マジでキレる。時代が時代なら国家間で全面戦争が勃発しかねないほどにキレる」
「だよなぁ。俺もそれはわかってるんだよ。正直、姫柊が背中を押してくれるまで、身内だけ助けて逃げるだけのつもりだったし」
頭を抱える兵夜に、古城も同意する。
兵夜たちの世界でも、同様の事態が起これば大量の悪魔祓いが全力で奪還に向かうだろう。それだけの緊急事態だ。
こんなもの、個人で介入するようなレベルの事態ではない。冗談抜きで国家級の大問題。どんな結果になっても、日本は世界各国からバッシングを受けるだろう。
そういう意味では、むしろ兵夜は古城に感心する。
「すごいね、本当にすごいね。そんな責任が重いことを、ただの高校生がやれるんだから」
世界最強の吸血鬼といえど、精神面では今まで普通の生活を送ってきた高校生だ。
そんな少年に、いきなり国家の命運を賭けろと言われても介入できるわけがない。そんなことができるのは度の越えた馬鹿かよほどの立派な人物だけだ。
そして、古城がそういう馬鹿ではないのは短い時間ながらわかる。
だから須澄は素直に感心する。
「恨み節で、恨み節で動いてる僕なんかよりよっぽど偉いよ。・・・うん、すごい」
「そんなに大したもんじゃねえよ。姫柊が背中を押してくれたからだしな。大したことがあるのは姫柊の方だ。」
「い、いえ。私は獅子王機関の人間として、そして先輩の監視役として当然のことをしたまでです」
古城に褒められて、雪菜が顔を真っ赤にする。
それを見て、トマリとシルシはにやりと笑った。
「おやっ? おやおやっ?」
「これは・・・ねえ?」
そしてニヤニヤしながら古城をみて、静かに肩に手を置いた。
「がんばれ雪菜ちゃんっ」
「ええ、これは苦労するわよ」
「何がですか? 私は越権行為をしているとはいえそれが仕事ですから!」
顔を真っ赤にする雪菜に同情し、兵夜は話を進めることにした。
「そういや、暁の監視が姫柊ちゃんの仕事なんだって? バックアップメンバーとかが苦労してそうだな」
「・・・いや、確か姫柊一人で仕事してたはずだが」
その言葉で、兵夜は何がどうなっているのかを完璧に把握した。
「え? そうなんですか?」
「ああ、俺の家に一人で引っ越してたし、荷物も一人分・・・にしても少なかったから間違いないぞ?」
「でも、古城さんの眷獣ってロストロギア級ですよ? 仕事だったら普通に一部隊が動く事態ですよ?」
ヴィヴィオと古城がそのあたりについて話だすが、兵夜はこれについて話すべきかどうか真剣に悩む。
大体どういうことかが想定できた。想定できたが・・・。
「確かにそうですね。世界最強の存在・・・というなら、管理局の執務官でも一人で動くことはないと思いますが・・・」
「っていうか、っていうかそれ見習いの仕事じゃないよね? 少なくてももっと人動くよね?」
と、疑問に思ったのかアインハルトと須澄も会話に参加し始める。
「いや、獅子王機関って公安みたいな組織だし、潜入任務みたいなもんだからじゃないのか?」
「そ、そうです! 先輩が学生なので通えるのが私しかいないのが理由だそうでして・・・」
と、雪菜も顔を真っ赤にしながらそう肯定する。
が、それに対してシルシは首を傾げた。
「雪菜ちゃん、それ本当?」
「え?」
と、しっかり真正面から目を見てシルシは訪ねてきた。
眼帯まで外しての本気である。
「本当です。三聖自ら私に命じてきたことですから、間違いありません」
と、戸惑いながらも雪菜は答えて、それを少ししてからシルシはうなづいた。
「嘘は言ってないわ。・・・どうもテストのために不意打ちまでしてるようだけれど」
「お前、心を覗くのは許可を取ってからにしろよ」
あきれながら兵夜はたしなめ、それに全員が驚愕した。
「・・・大がかりな術式もなしにそれだけのことを把握したんですか?」
特にそういった術式に心得のある雪菜は愕然とする。
「正確にいえばあなたを中心とした過去視だけどね。・・・私の目、すごいのよ」
と、得意げになるシルシに続けてため息をつきながら、兵夜は頭を抱えた。
「嘘を信用させるには真実を混ぜることとはよく言うが、当事者に偽情報だけ伝えておくとか思い切ったこ・・・とを・・・」
とぼやいてから、兵夜は固まった。
それを言ったら、駄目だ。
「おい、どういうことだ?」
古城が真剣な表情で兵夜を見る。
「姫柊が騙されてるってことだよな? 一体どういうことだよ?」
「えっと・・・その・・・」
いっていいのかこれとは思ったが、この状況下ではごまかせない。
まあいい。どうせ困るのは獅子王機関だ。とやけになり、兵夜は素直に告げることにした。
「うん。たぶんだけど本命の監視役は別にいる・・・と思う」
・・・いつにもまして兵夜がうっかりしていますが、これにもそれなりに切実な理由があります。