ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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通信、繋がりました

 

 宮白兵夜は、探偵の真似事をして金を稼いでいたことがある。

 

 暗示の魔術も多少は使える兵夜なら、情報を聞き出すことも相手の記憶を多少操作することも簡単にできる。そのため適職と言っても過言ではない。

 

 そんな兵夜だが、しかし魔術に頼りきりではない。

 

 尾行や潜入などのテクニックはちゃんと心得ており、その中の一つに囮というものがある。

 

 つまり、簡単にばれる相手を送り込んでわざと気づかせて、本命に気づかれないようにするというものだ。

 

 加えて、その囮が人情を誘うならば更に良い。

 

 事情が同情できるものなら相手も酷いことはしないし、上手くすればそのまま情報を聞き出すことができる。

 

 というより、そもそも戦闘要員として鍛えられている雪菜を単独で知られずに監視させるなど不可能だ。

 

 普通に考えれば有事の際の暴力装置であり、直接発見されない場所に待機させておくのが妥当。監視するもの自体はそれにたけている別の人物が行うべきだろう。実際初日でいきなり民間人にばれているなど落第点だ。そこまで馬鹿な人選をするわけがない。

 

 つまりばれることが前提。囮以外の何物でもない。

 

 だが、それにしてもこれだけの装備を用意するなどとおかしいものだ。

 

 獅子王機関自体が最秘奥とすら言っているようなものだ。囮にしては貴重品すぎる。

 

 シルシの目や解析魔術を使って調べてみたが、間違いなく宝具級。しかも使用者を選ぶ一級品だ。あとあまり使いすぎると影響が出てきそうなので、念のために護符を渡しておいた。

 

 そこから推測される答えは一つ。

 

 最初から、ばらしたうえで堂々と接触するための担当だろう。

 

 更に話を聞いてみれば、ちょうどその時期にオイスタッハは聖遺物奪還のためのデータ収集として魔族襲撃事件を起こしていた。タイミングが良すぎるだろう。

 

 つまり、筋書きはこうだ。

 

 ある程度情報を掴んでいる獅子王機関は、古城と気が合いそうな人物をピックアップ。

 

 条件としては、真祖と肩を並べる戦闘が可能・・・すなわち雪霞狼を使用可能な人物。そして尾行しててもすぐばれるような技量の持ち主で、同情を誘う過去の持ち主。

 

 そして、魔族襲撃事件というちょうどいいイベントが起きているのをいいことに、条件にぴったりな雪菜を送り込む。

 

 そして出会った二人は魔族襲撃事件というイベントを機に友情にしろ愛情にしろ仲が良くなる・・・という筋書きだ。

 

 つまりは彼女の本来の目的は精神的な首輪。そして監視役ではなく護衛・・・もしくは相棒と言った方が近いだろう。

 

 善良な人格で一般市民寄りの性質を持つ古城に、更に暴走を抑制できるリミッターを設けることが、獅子王機関の作戦なのだろう。

 

「・・・本人がそんな裏の事情を知らされていないのなら一般市民をだますことぐらいはできるだろう。実際後衛型の暁に、前衛型の姫柊ちゃんは戦闘上の相性も抜群だろうし、そういうことじゃないだろうか」

 

「なるほど。職務能力は高いけどうっかり屋さんな兵夜さんに、事務能力の高いサポートタイプの私を差し向けるようなものね」

 

 と、うんうん頷きながらシルシは頷いた。

 

 そして、兵夜は閉じていた目を開ける。

 

「・・・え、マジ?」

 

「な・・・な・・・な・・・」

 

 うん、顔真っ赤。

 

「ま、まあ俺の推測だから間違ってる可能性もあるし!? うん、あまり深く考えない方がいいと思うというか、国家的緊急事態ならこれぐらいのグレーゾーンはとらないとまずいというか・・・暁の潜在スペックを考慮すると必須というか」

 

「フォロー、フォローできてないからね」

 

 どんどんぼろを出す兵夜に、呆れながら須澄がツッコミを入れる。

 

 ここまで言っておいて今更ごまかしてどうするのか。

 

「まあ、まあつまりあれだよね。・・・事実上シルシのように政略結婚―」

 

「須澄くんっ! それ言ったらいけない奴だよっ!?」

 

 そして須澄もまたうっかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と、とにかく! 俺達はそういうわけでオイスタッハのオッサンも何とかしなきゃいけないんだよ!」

 

 顔を真っ赤にしながら古城は大声で話を切り替えた。

 

 隠しているはずの自分の吸血鬼化が原因で監視役が派遣されてきたと思ったら、実際のところ嫁がきた。

 

 そんなこと信じたくないしとりあえず話をごまかしておかねばならない。

 

 と、いうより意識したら性的に興奮して大変なことになってしまう。

 

 吸血鬼の吸血衝動は性的興奮がきっかけで発動する。

 

 そして、彼の世界の吸血鬼は自分の体の一部を与えることで血の従者という疑似吸血鬼を生み出すことができるのだ。

 

 うかつに吸血したら大変なことになる。とにかく意識しないようにしなければならない。

 

 と、いうわけで勢いよく話を戻す。

 

「そういえば、心配なのはアスタルテの方だ」

 

「そうですね。彼女のことも心配です」

 

 と、同じく顔を真っ赤にしながら雪菜も話を切り替えた。

 

 むしろ思い出すと興奮が一気に冷めるぐらいには心配な事象だろう。

 

「他にもお友達が巻き込まれたんですか?」

 

 と、ヴィヴィオは当然の質問を口にする。

 

「・・・友達ではないんです。アスタルテさんはオイスタッハ神父が連れているホムンクルスなんです」

 

 人工生命体(ホムンクルス)、という概念もまた、ある程度の共通点をもって様々な異世界に存在する概念だ。

 

 生命を想像するという倫理的な問題。そしてそれ以上にコストパフォーマンスが悪いという問題点から古城たちの世界では、あまり研究されてない。

 

 しかし、データなどを自由に設定できるという観点から医療目的などでは研究が行われている分野であった。

 

「ふむ。むしろ魔術師(メイガス)式のホムンクルスは生命力では人間より劣るし、数を増やすという意味では判断能力などでロボットより上なんだが。・・・あ、倫理観なくて悪かった」

 

 兵夜が睨まれるより先に即座に謝ったが、倫理的な観点で黙っていて欲しかった。

 

「アスタルテさんはオイスタッハ神父が、聖遺物奪還のために用意したホムンクルスです。・・・神格振動波駆動術式を発動する眷獣を組み込んでいるんですが―」

 

「生命力を強化しているホムンクルスだとしても、眷獣をあれだけ酷使してたらもうかなりすり減ってる。このままだとあと少ししか寿命が残ってない・・・」

 

「はあ。俺の世界でもぶっ飛んだ聖職者は何人もいたが、そっちもぶっ飛んでるな。・・・発想が魔術師(メイガス)だ」

 

 兵夜はため息をつきながら、大体の事情を把握する。

 

 さて、流石にどうしたものかと考えて―

 

「・・・兵夜さん。私、昨日の話、受けます」

 

 と、そこでヴィヴィオがよく通る声で言った。

 

 確かに、その件についての回答はまだ聞いてなかったが、今ここで言うことだろうか。

 

「・・・だから、そのアスタルテさんって人も助けてあげてください!」

 

 ヴィヴィオの言葉に、全員の視線が強く集まる。

 

「ヴィヴィ。アスタルテってのは君とは無関係の人物だ。・・・そこまで熱意を込める理由があるのか?」

 

 お人好しならそれはそれでいいが、しかしこのタイミングで契約内容の追加にするのは考え辛い。

 

 何か理由があるのなら、流石に聞いておきたいところだった。

 

「私もそうなんです」

 

 と、ヴィヴィオははっきりと速やかに言った。

 

 割となんてことの無いように言われたので、兵夜は一瞬なんのことだかわからなかった。

 

「アインハルトさんは覚えてますか? 四年前に起きたJS事件」

 

「はい。・・・確か、ジェイル・スカリエッティという研究者が聖王のゆりかごを使って起こした事件ですよね」

 

 そう答えるアインハルトもまた、表情が暗かった。

 

「オリヴィエが命を捨てて戦乱を収めるために使ったゆりかごが、犯罪者の欲望のために使われて破壊されたのは覇王(わたし)も悲しかったです」

 

「私は、そのゆりかごを起動させるために作られたオリヴィエの複製体(クローン)なんです」

 

 その言葉に、全員が目を見開いた。

 

 子供にしては場慣れしていると思ったが、かなり深い事情を持っていた。それも、おそらくこの場の中でもトップクラスに深い事情だ。

 

「あの時は、心も体も自分の思い通りに動かせなくて、本当に大変でした」

 

 相当きつい事情なのだが、しかしその言葉にはどこか光がある。

 

「でも、全部まとめて受け止めて、助けてくれた人がいたんです」

 

「そっか。そういうのは、すごく大事な人になるよな」

 

 兵夜はついヴィヴィオの頭をなでながら、感慨深くそう言葉を漏らす。

 

 彼自身、そういった感情にはとても覚えがある。

 

「ああ、そういう感謝を与えてくれた人はとても大好きなってしまう。これはもう、なんていうか神々の絶対命令みたいなもんだ」

 

 だから、それを言われてしまうと弱い。

 

「だから、そのアスタルテさんの気持ちも受けて止めてあげたいんです。せっかく一杯幸せになる機会があるのに、それをもらえないのは間違ってるって思うから」

 

「仕方ないねぇヴィヴィは。OKOK、可能な限りって条件付きで、それも入れてあげるよ」

 

「・・・可能な限りって予防線張ってる当たり、あなたやっぱり黒いわねぇ」

 

 後ろでシルシが余計なことを言っているが、しかし兵夜としても極力考慮するつもりだ。

 

 本当にどうしようもない時は汚れ役を引き受けるが、そうでないなら考慮はきちんとしている。少なくとも自分はそのつもりだ。

 

「まあ、当分の間は遭難者探しだけどな。とはいえどうやって探すかが問題なんだが・・・」

 

 シルシの目をもってしても、そもそも誰が巻き込まれているのかを把握したうえで、大体の位置が把握できなければどうしようもない。

 

 千里眼といえば聞こえはいいが、その実当人でも礼装なしでは制御できない代物なのだ。そうそう自由にできるわけでもない。

 

 文化水準が比較的近しいこともあり、誰がどの世界の人なのかを調べるのも難しい。ローラー作戦にも限度がある。

 

「せめてそういうのにたけた実力者が一人でもいればな・・・」

 

 そう考え込んだその時だった。

 

「あ、携帯なってますよ先輩」

 

「ん? ああ、悪い悪い」

 

 と、緊張感を崩すかのように携帯が鳴り響いた。

 

 そして、五秒後。

 

「いやあり得ないだろ!? 異世界にまで通信局が生きてるわけないし!」

 

 とっさに兵夜はツッコミを入れるが、しかし古城は喜色を浮かべる。

 

「いや、こいつならそれぐらいはやってのけるさ。・・・あいつのことだから巻き込まれても何かしてくれるって信じてたぜ」

 

「どちら様なんですか?」

 

 と、確信すら持った古城にアインハルトが訪ねる。

 

 その質問に、古城はすぐに答えた。

 

「藍羽浅葱、俺の友達だ!」

 


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