ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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実は前話において、ものすごいことが的中しています。





あと今回、結構長めです。


第312話

 須澄達は廃墟区画を走りながら、そのうっかりに気が付いた。

 

「しまった、しまったぁあああああ! 逆の方がよかった!」

 

「お前ホントいい加減しろよ!? どんだけうっかりしてんだよ!?」

 

「ねえ古城、あの子大丈夫なの? なんか心配なんだけど」

 

「お、落ち着いてください二人とも。ヴィヴィオちゃんもアインハルトちゃんも格闘型なので周辺被害は少ないはずです」

 

「それはともかく兵夜さんもうっかりだから指摘が遅れたわね。実戦経験の少なさがこんなところであだになるなんて・・・」

 

 軒並み実戦経験がほぼないメンバーだらけで、ある側も三人中二人がうっかりという致命的現状。冗談抜きで命の危険を感じさせる欠点である。

 

 いっそ戻ろうかとも思ったが、今から戻っても意味がない。

 

 それならさっさと人の少ないところに移動した方がいいだろうと判断し、五人はとにかく廃墟を走る。

 

「結構、結構根城にしてるからそこそこ詳しいからそこは安心して! あと五分も走ればだれもいないところにつくから!」

 

「姫柊、俺はすごく心配なんだが」

 

「まあ大丈夫じゃないかしら。なんだかんだでリカバリー不可能なうっかりはしないタイプよ、兵夜さんは」

 

「僕、僕は!?」

 

 まったく信じられてない状況に須澄は泣くが、それに関しては半ば自業自得である。

 

「それにしても、アップ・ジムニーという人はどれぐらいの戦闘能力なのですか? みんな戦えるとは思うのですがそこが不安です」

 

 何気に戦闘訓練をいくつも積んできているため、雪菜は建設的な質問を口にする。

 

 確かに、どれだけの戦闘能力を持っているのかで難易度が大幅に上昇してくる。

 

「・・・アップが目覚めた悪性は、結構誰でも持ってるものだよ」

 

 と、一見話がずれていることから、須澄は切り出した。

 

「安全に成果をあげたい。力をふるいたいけど、自分が危険なのはできれば避けたい。痛い思いをしたくない。・・・それを悪性として覚醒させたら、どんなのができると思う?」

 

「・・・破壊願望か?」

 

 古城は率直に答えるが、しかしそれに首を振ったのはシルシだった。

 

 それよりも、もっとわかりやすいものがある。

 

「自分より戦闘能力の低い個体を、安全にいたぶる弱い者いじめ。蹂躙願望とでも名付けるべきかしら?」

 

「正解。まあ、無双ゲームとか人気のジャンルだから理解はできるんじゃない?」

 

 そう寂しげに告げながら、須澄は過去を思い出す。

 

 ・・・昔から、男勝りなところのある少女だった。

 

 幼いころいじめられていたことがあったからか、彼女は強くなろうと体をよく鍛えていた。そして、弱い者いじめをするものと喧嘩をすることも多い。そのせいか年下から頼られていた子だった。

 

 勝ち気で、気弱なところがあった須澄は彼女に守られていたようなものだ。

 

 トマリもあの性格だからツッコミ役が必要で、性に合っていたのかアップは抑え役になっていた。

 

 はたから見れば正義感が強い性格だったが、しかしそこには悪性も当然存在する。

 

 光があれば影も強い。当時、子供だった須澄はもちろん、精神年齢が年とかけ離れて幼いところのあるトマリもまたそうだった。

 

 強くなれば、自分より弱いものが多くなる。

 

 悪人ならば、少しぐらい痛めつけてもみんなが穏便な反応を返してくれる。

 

 それに、弱いものを守っているのは自分が上だと実感できる。

 

 最も不幸だったのは、彼女自身それを自覚していなかったことだ。

 

『犬がね・・・いじめられてたの? もうおじいちゃんなのに、石を投げられて・・・っ』

 

 昔、初めて会った時に彼女はそういって泣いていた。

 

 見学した魔術事故によってこの世界に飛ばされた須澄は、犬に石を投げつけている子供たちを見て後ろから飛び蹴りを叩き込んだのだ。

 

 そのとたん、それに参加していた一人の女の子がそれに合わせて反旗を翻した。それがアップだ。

 

 なんでも最初はかばったのだが、自分にも石を投げつけられるといわれて逆らえなかったらしい

 

 まあ、魔術をろくに学んでいない須澄では数の暴力には苦戦しており、通りがかったトマリがその子供たちを説教しなければさてどうなっていたことか。

 

 とにかく、その出来事があってから三人で行動するようになり、そしてアップは弱い自分を捨て去ろうと必死だった。

 

 そう、弱い者いじめはよくないことだということを彼女はよくわかっていたし、そういうのを許したくないという気持ちも彼女にはちゃんと残っていた。

 

 だが、其れゆえに彼女は自分の黒い面を知らずに育ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気づいた時は絶望したわ。正しいことをしたいっていう、当たり前の感情が偽物だったんだもの」

 

 そう告げながら、アップは兵夜と武器をぶつけ合う。

 

 割と高価な素材でできた斧が、しかし一瞬で深く切り込みを入れられて弾き飛ばされる。

 

「・・・たいていの人間が当然持ってるものだろう。強い立場にあこがれるのは、人なら普通の感情だ」

 

 距離をとりながら、兵夜は自分のかつての推測が的中していることを実感する。

 

 今アップが持っているものは、魔剣グラム。

 

 戦友である木場祐斗が持っているはずの魔剣が、こんなところにあるわけがない。

 

 その使い手というだけで一目置かれるほどの戦闘能力を持っているようなものなのだ。加えて、木場祐斗はそれ抜きでも聖魔剣という強大な力を持った実力者。とどめに彼の近くには常に優れた仲間たちがいる。

 

 追加でいえば、グラムの持ち主には適性が必要。そのうえ剣の意思に認められなければいけないという必要事項もある。 

 

「・・・一応聞くが、あいつがあの剣持ったのはいつからだ」

 

「エイエヌの側近になったときからっ。だから、五年前かな」

 

 あり得ない。それだけは断言できる。

 

 そのころはまだ教会に保存されていた代物だ。そんなときから次元世界に持ち込まれているわけがない。

 

 平行世界から持ち込まれたものだと考えれば一番つじつまが合うだろう。グラムはさすがにまだコピーされてなかったはずだ。

 

 あまりにも規模のでかい事態に、兵夜はどうしたものかと頭を抱えたくなる。

 

 そんな考えを知ってか知らずか、アップはいとおし気に体をなでる。

 

「本当に絶望したわよ。・・・こんなに気持ちいいことを、今まで受け入れてなかったんだから」

 

 高いところから飛び降りるより、低いところから飛び降りる方がダメージが少ないのは当たり前だ。そして、不意打ちよりも来るとわかっているダメージの方が耐えられるものだ。

 

 そういう意味で、アップはあまりにも不幸な自覚をしてしまった。

 

 突き落とされたショックで壊れた女。

 

 兵夜は、素直にそう感じた。

 

 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

 なにせ、いまアップは地上戦を仕掛けてきているのだ。

 

 時間は昼前。人の多い時間帯で戦闘中なのだ。

 

 当然混乱の真っただ中である。

 

 そして、それを気にするほど彼女は善良じゃない。そんなものは捨て去っている。

 

「こんなやり方じゃなくたって、発散できる場所なんて一杯あります!」

 

「そう? だけどどうせやるなら派手な方がいいじゃない!」

 

 躊躇なく、ヴィヴィオをアップは蹴り飛ばす。

 

 グラムを囮にした一撃が、ヴィヴィオを無人になった屋台へと吹き飛ばした。

 

「ヴィヴィオさ―」

 

「危ないアインハルトちゃん!」

 

 それにスキができたアインハルトを襲う凶刃を、トマリが強引に引っ張ることで何とか守る。

 

 だが、体格の違いゆえに居場所が半ば入れ替わる形となり、トマリの背中をグラムが切り裂いた。

 

「―トマリさん!?」

 

「・・・だ、大丈夫大丈夫っ。私、貴族級の吸血鬼だからこれぐらいすぐに治るからっ」

 

 痛みにこらえながらもトマリは安心させるように笑うが、しかしアインハルトはこれで頭に血が上りかけた。

 

 ある理由で、彼女は誰もを守れる力を求めている。

 

 そんな自分の不注意による自業自得を、かばわれて仲間が傷ついた。

 

 12歳の、それも不安定な精神でこれは非常に荷が重い。

 

「ああもうトマリったら! 普段から電波はいっているくせに面倒見はいいんだから!」

 

 だが、激情にかられる余裕すらアップは与えてくれない。

 

 狂喜の表情を浮かべて、アップはグラムを連続で振るう。

 

 それを強引に兵夜が引っ張って避難させるが、余波で道路が深く切り刻まれた。

 

「クソ! これはさすがにまずいか!」

 

 ヴィヴィオもアインハルトも素質は高いがまだ子供で実戦経験も少ない。

 

 経験が豊富なトマリは、戦闘スタイルのせいで全力を出せないうえに負傷中。

 

 そして兵夜は後遺症の上、主力武装が使えないため弱体化している。

 

 せめて雪菜だけでも残すべきだったかと、今更になって反省している。

 

「・・・あと五分ぐらい時間を稼ぎたいところだが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんなどころの状態では全くなかった。

 

「ここまで、ここまでくれば少しぐらい暴れても大丈夫」

 

「わかったわ。それじゃあ兵夜さんを・・・っ!?」

 

 須澄に太鼓判を信じて兵夜を呼ぼうとしたシルシが、硬直する。

 

 そして同時に雪菜もその理由を察した。

 

 二人は同様にある種の未来視を行うことができる。その予知した一瞬先に未来が、あまりにも窮地だったのだ。

 

「暁く―!」

 

「先輩!!」

 

「え?」

 

 二人は同時に叫ぶが、実戦経験の薄い古城では反応がどうしても遅れる。

 

 そして、その一瞬の遅れとともに古城の胸から手が生えた。

 

「・・・がっ!?」

 

「・・・え?」

 

 目の前で返り血がかかり、浅葱が何があったのかわからず固まる。

 

 そして、その隙を凶手は逃さない。

 

「次は二人目―」

 

「させるか!」

 

「さがって!?」

 

 須澄が槍をもって攻撃を入れ、シルシは浅葱を引っ張って攻撃からかばう。

 

 シルシの背中に指弾が叩き込まれるのと、短剣と聖槍が激突するのは同時だった。

 

「気配に全く気付かなかった!? くそ、古城くん・・・」

 

「恥じることはない。聖槍の担い手とはいえ、只人がこのアサシンの気配遮断を破るのは至難の業よ」

 

 そこにいたのは茶髪の少年。

 

 十八歳ぐらいの少年がそこにいたが、しかしそれは彼の本当の姿ではない。

 

「話には聞いていたわ。兵藤一誠は龍神の体をアサシンに奪われていたって」

 

 傷から青い炎を噴出しながら、シルシは目の前の敵が脅威であることを見抜いていた。

 

 そこにいるのは、彼女たちの聖杯戦争の忘れ形見。

 

 多重人格を宝具とし、暗殺教団の長となった存在。ハサン・サッバーハの1人、百の貌のハサン。

 

 兵夜が奪い取った令呪で全員が自決させられたはずだが、しかしここに例外が存在した。

 

「然り。百の貌のハサンが一人、基底のザイード。・・・亡き我らの無念を晴らすため、幽世よりその命を刈り取りに参った」

 

 兵藤一誠ならば決して浮かべることのない泰然とした表情を浮かべ、ザイードは刃物を構える。

 

「さて、暗殺者と直接戦闘となれば有利なのはそちらの方だ。討ち取って名を上げるのは誰だ?」

 

「じゃあ、じゃあ僕がもらおうかな!」

 

 須澄が聖槍をもって突撃を敢行する。

 

 知り合って間もないとはいえ、仲間をやられて怒りを覚える程度には須澄は人間らしい人物だった。

 

 何より須澄は古城を尊敬している。

 

 割と普通の人でありながら、大きな責任を背負う戦いを決意した彼は、憎悪に突き動かされた自分より素晴らしいと思っている。

 

 そんな彼を目の前で殺されて、黙っていられるわけがなかった。

 

「五年も、五年間も使ってるんだ。なめてもらっちゃ困るよ!」

 

 須澄は速攻で槍を連続で突き出す。

 

 極めれば神すら殺すといわれる神滅具。その中でも最強と呼ばれる黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の担い手。その及第点以上を須澄はとっていた。

 

 それは、暗殺者であるハサンにとっては脅威以外の何物でもない。

 

 もとより、百の貌のハサンとは霊格を何十分の一にも分裂させている。それも、難題も重ねているからこそ英霊の座に至っているハサン・サッバーハは英例としては型落ちに近いのだ。

 

 直接戦闘を挑む時点で悪手。不意打ちではない状況下で、アサシンに勝機は薄い。それが聖杯戦争の基本である。

 

 だが、ここに例外が存在する。

 

 否、ザイードが弱い英霊というのはれっきとした事実だ。

 

 八十分の一の霊格である百の貌のハサンは、それぞれの人格が得手を担当することで真価を発揮する英霊である。

 

 だが、このザイードはその中では特に得手とする者のない人格。百の貌のハサンの中でも特に弱い部類だった。

 

 そして、兵夜は知らないことだが、彼は幻想兵装において神殺しの英霊を召喚している。

 

 マハーラーバタの英霊カルナ。一度限りの神殺しの槍を使える英霊。その力をもって、フィフスが目的を達成するまでの間、インドラを押しとどめた英霊。

 

 その槍は一度しか使えず、無敵の要素を持つ鎧も槍と引き換えに失われる。

 

 そのため彼は大きく弱体化しており、しかしそれゆえに体を奪う依代に選ばれた。

 

「これが、地球周辺世界最強の存在を使ってつくられた体ってことね。・・・技量はともかく性能が違いすぎるわ」

 

 シルシはあまりに危険な状況に、逆に笑えて来そうな自分を何とか押さえる。

 

 無限の龍神、オーフィス

 

 赤龍神帝、グレートレッド。

 

 その究極とすら形容できるほどの圧倒的な力を持つ存在の細胞によってつくられた体。

 

 奇跡の覚醒を止めるためだけに、ロストロギアにすら脾摘するであろう神の遺した奇跡を使いつぶしてザイードに宿されたそれは、間違いなく個人レベルでいうならば最強クラス。

 

「さて、どうするつもりだ?」

 

 ここに、最強の龍が強襲を仕掛けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白兵夜は、基本性能でいうのならばそこまで高いほどではない。

 

 人間だったころは優秀だが、それは転生者という規格外が根底にある。

 

 幼少期の努力が将来に大きく影響を与えることを自覚していたから、徹底的に努力した。魔術という反則手段を持っていたから、利用した。その二つがあってしても、人間として優秀レベルでとどまっていた。

 

 禍の団(カオス・ブリゲート)での活躍は、仲間たちの協力があればこそ。優れた研究者がいたから、彼らの協力で徹底的に体を強化することができた。そのうえで、強力な仲間たちが手助けをしてくれたからこそ勝ち残ることができた。

 

 それですら、過剰な負担がかかった結果、神格と化したのにもかかわらず、その戦闘能力は上級相当に収まってしまっている。

 

 だからこそ、宮白兵夜は強力な装備を集めるのに躊躇しない。

 

 今兵夜が使用している斧も、量産品であることを考慮すれば強大な性能を発揮する。修復能力を持っているうえに、頑丈さでは核シェルターに匹敵する。

 

 それが、一撃で半分以上たち切れていた。

 

「どうしたの? どうしたのどうしたのどうしたの?」

 

 圧倒的な優位に至っているという自覚が産む高揚が、アップの口調をおかしくさせる。

 

 それだけの圧倒的優位を生み出すのは、手に持つ剣。

 

 魔帝剣グラム。神滅具に匹敵する力を持ち、最強の魔剣といわれる伝説の装備。

 

 その切れ味は圧倒的であり、持てるというだけで実力者として扱われるほどの領域である。

 

 ましてや兵夜は龍の特性を宿すもの。かすり傷でも追えばそれが致命傷につながりかねない。

 

 斧のリーチを生かして距離をとり、器用に片手でガトリングガンの弾丸を叩き込むがそれも無意味。

 

 彼女自身の体に当たった弾丸は、むなしく弾き飛ばされた。

 

「無駄無駄! これでも私も魔導士なのよ!」

 

 両手に装備された手甲型のデバイスが発光し、魔法を行使する。

 

 常時防御障壁を体に展開しながら、そのまま体を自由に動かして戦闘する。

 

 何気に高等技術を展開しながら戦闘を行う。それが彼女が実力者であることの証明だった。

 

「これだけの防御魔法を展開しながらこれだけ滑らかに動けるなんて・・・っ!」

 

 グラムを避けながら、アインハルトも瞠目する。

 

 ただの力に酔った暴力者かと思えば、相当の実力を保有していた。

 

 だが、それにしてもおかしいこともある。

 

「それにしても、これだけの魔力量をカートリッジシステムもなしにどうやって?」

 

「おそらく神器(セイクリッド・ギア)だ!」

 

 攻撃をかいくぐりながら、兵夜は推測する。

 

神器(セイクリッド・ギア)?」

 

「ある宗教の神が作り上げた、人に宿る特殊能力。生まれついて保有できるマジックアイテムだが、あの女それを移植してるな!」

 

「正解! 精神力を変換して消耗する力を補填させる、無尽の欲望(デザイア・リミットレス)よ!」

 

 瞳孔を小さくさせるほどに興奮しながら、アップは高速で攻撃を繰り広げる。

 

 この高揚状態からくる精神力は、当分の間消耗速度を上回るだろう。

 

 無尽蔵の魔力を利用した隙の無い全方位防御。相応の攻撃力がなければ突破不可能。

 

 格下にやられることはない堅実な戦法。言い方は悪いが、弱い者いじめに向いているといえば向いている。

 

「さあ、こっからどうやって反撃するの!?」

 

 そう言い放ちながら、アップはグラムを囮に魔力弾を不意打ちで放つ。

 

 それに足と取られて、兵夜はバランスを崩す。

 

「もらった!」

 

 一気に踏み込んでの全力の一撃。最強の魔剣という圧倒的な攻撃力。そして何より、龍の特性を持つものに対しての龍殺し。

 

 三つそろった圧倒的な攻撃。それは間違いなく致命的な威力を発揮し―

 

「―かかったな?」

 

 ―それこそが兵夜の狙いだった。

 

 瞬間、足元の水道管が破裂して今度はアップのバランスが崩れる。

 

「・・・水流操作!?」

 

「その通り!!」

 

 そのまま翼を出して勢い良く倒れこむと、兵夜は接触状態で結晶体を取り出す。

 

「ゼロ距離からの魔力爆発、これならどうだ!!」

 

 それは、間違いなく大技。しかし接触しているためかわせない。

 

 至近距離による大魔力の攻撃。それは間違いなく状況を打開できると確信できるもので―

 

「―なんてね!」

 

 ―ゆえにこそ、兵夜にとって大きな隙となる。

 

 突如アップの足元から鎖が生まれると、それが兵夜に巻き付いて動きを止めた。

 

「捕縛系の魔法だと!?」

 

「当然。弱い者いじめするなら、動きを止めるなんて常套でしょう?」

 

 そういうと同時に再びアップがグラムを振り下ろそうとして―

 

「させません!」

 

 その歓喜の瞬間のスキをついて、アインハルトが懐に踏み込んでいた。

 

「覇王―」

 

 そして、放つのは彼女の決め技。

 

「―断空拳!」

 

 アインハルトの技の中でも、特に破壊力のある一撃。

 

 だが、それはギリギリで受け止められた。

 

「・・・甘い甘い。こっちには切り札もあるのよ?」

 

 莫大な出力がアップの全身から放たれ、そして一撃を相殺する。

 

禁手(バランス・ブレイカー)無尽蔵の願望(デザイア・リミットレス・オーバーロード)。生み出したエネルギーを無理やり叩き込んで、その分出力を増大化させる」

 

「そんなものまで・・・!」

 

「ヤバイ、ハイディ離れろ!」

 

 二人はすぐにでも反応するが、もう遅い。

 

 アップの周囲に大量の魔力弾が浮かび、そして照準が定まった。

 

 超至近距離からの弾幕を、全弾捌ける道理はない。

 

「おしまいよっ!」

 

 そして、一斉にはなたれ―

 




アップの戦闘スタイルは神器を利用した莫大な魔力に物を言わせた常時防護状態が売り。弾幕を張れる直射魔法やグラムを利用します。

因みに禁手は蛇口を強化するようなものだお思いください。どれだけ容量が大きくても蛇口が小さければ出せる水の量は少ないですが、それを一時的に特化得ることで最高出力を上昇させています。

つまりは格下に無双する戦闘スタイル。不意打ちを喰らっても頑丈さで抑え込める戦闘スタイルです。悪魔の駒でいうなら戦車タイプ。

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