ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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宮白兵夜は策士である

 

「・・・ああ、そういえば藍羽」

 

「なによ?」

 

 階段を下りながら、兵夜はなんとなく鎌をかけた。

 

「暁みたいなタイプは、変化球は気づかずにスルーするから惚れているなら真正面から特攻しろ。それでようやくスタートラインだ」

 

「・・・マジ? うわぁ、あのバカ人が一生懸命やってんのに何も気づいてないの・・・はっ!?」

 

 浅葱は固まり、そしてゆっくりと振り返る。

 

 ヴィヴィオが、顔を少し赤くしてまじまじと見つめていた。

 

「そ、そうだったんですか!」

 

「真っ先にあの状況下で暁を探した時点で、好感度が高いのはわかってたからな。・・・鈍感のひどさはよく見てきたからよくわかる」

 

「あ、頭痛い・・・」

 

 とりあえずは親切心でもある。

 

 なんというか、古城を見ていると兵夜はイッセーを思い出してしまう。

 

 スケベ根性はそんななさそうだが、しかしなぜか思い起こす。これはまあ、それ以外が似てるということだろう。

 

 だから心配になって警告とかをしているのだが、しかしそれとは別の意味で恋愛方面も心配だ。

 

 イッセーと付き合いが長いがゆえに、直感的に察した。

 

 あいつは鈍感だ。それも、或る意味イッセーよりはるかにひどいレベルで鈍感だ。過去のトラウマ抜きで好意を勘付けれない。

 

 開き直ってハーレムを作るか、それとも意を決して一人に決めるかはわからない。わからないが、無自覚に相手を惚れさせ続けてそれに気づかないとかは、さすがに相手に対して礼儀知らずだ。

 

 適時指摘とツッコミを入れておかなければならないだろう。まあ、それでも答えを伸ばすのはそれはそれで問題だが、あいつならさされたぐらいなら死なないのでそこは控えめに接するべきか。

 

「まあ、こちらとしては全員生存を考慮して動いているわけだが、敵がチートすぎる以上お前や暁が死ぬ可能性は残るから、その変動するかは考えたほうがいい。・・・生存重視でいったとしても、敵にチートが多すぎる」

 

 冷酷なことを言うようだが、それを覚悟しないわけにはいかない状況だった。

 

 暁古城の攻撃力は、間違いなく今確認されている聖杯戦争参加者の中でもトップを狙えるだろう。

 

 それはすなわち、ほかの勢力が古城を難敵と認めてしまうことになる。下手をすれば、恨みを買われている兵夜以上に狙われることとなる。

 

 だから、万が一は十分にあり得るのだ。

 

「・・・俺がこういうことを言うのは問題あるんだろうが、鈍感相手に変な駆け引きは考えるな。当たって砕ける精神ぐらいで行かないと、何も起こらない可能性があるぞ」

 

「か、考えとくわ・・・」

 

 さて、これで最低限の気遣いはできただろう。

 

 なにせ、余計なことを言ったせいで古城は雪菜に意識が向いているはずなのだ。

 

 そこを考えればこれぐらいのサポートはしても罰は当たるまい。

 

「よし、そろそろ外に出るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、来た!」

 

 裏口から外に出てきた兵夜たちを発見して、須澄は振り向いた。

 

「そろそろ、そろそろ出るよ準備して!」

 

 脱出の際にゴタゴタしないように前もって半分以上が下に降りていたが、しかしまあ何の問題もなく降りることができた。

 

「浅葱! それでどうなった!?」

 

「成功よ! わかってる情報は全部送ったわ!」

 

 古城の問いかけに浅葱は顔を赤くさせながら答える。

 

「・・・あ、これやっぱりっ?」

 

「そのようです。・・・先輩はやっぱりいやらしい」

 

 何かに気づいてにぱっとするトマリに堪えながら、雪菜は不機嫌そうにそっぽを向いた。

 

 が、その先にはニヤニヤしているシルシの姿があり完全に悪手だった。

 

「これは大変よ雪菜ちゃん。年季の差がプラスに働くかマイナスに働くかわからないわね」

 

「いえ、そういうんじゃありませんから!」

 

「なに、なにやってんの?」

 

「はいはい車だすからつかまってろよ」

 

 と、あきれ顔の須澄としたり顔の兵夜をきっかけに、車が発進する。

 

 さすがに詳細な位置まで掴まれたとは思えないが、今のうちに念のため距離をとっておきたかった。

 

 とはいえ、大組織と連絡を取ることができたというのは非常に大きい。

 

 彼らの介入を受けることとなればフォード連盟といえどただでは済まないだろうし、そうなればこちらも動くことが容易になるというものだ。

 

「マジで助かったぜ藍羽。考えてはいたんだが俺のスペックじゃあ勘付かれるのが間違いないんでできなかったんだ」

 

「いいけど、それでこれからどうするのさ」

 

 と、浅葱はパソコンを開きながら今後について聞いてくる。

 

「・・・通信設備のハッキングついでにデータの吸出しもやっておいたけど、聖杯戦争、もう終盤に突入してるわよ」

 

「え、そんなことまでやってたんですか!?」

 

 あのギリギリの状況下でさらに一手打っていたことに、ヴィヴィオたちは目が点になる。

 

「そこのうさぎさんが手伝ってくれたからね。準備できる前にオートで調べるプログラムを組んどいたのよ」

 

 クリスをなでながら浅葱はさらりと言うが、兵夜はそれに本気で頭を抱え始めた。

 

「・・・なあ、ホントに俺に雇われない? 出すぞ、あの金額」

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 

「驚くよ? 血で血を洗う争奪戦しそうなレベルのプログラム作ってるんだよ? 自覚持てよ?」

 

 世界が混乱に満ちる前になんとしてもこの女に自覚をさせねばならない。兵夜は一流のハッカーを集め上げ、当て馬にすることを決意した。

 

 そして、それはそれとしてこれからの状況をちゃんと考えなければならない。

 

「それで? そのデータで判明したことはどれぐらいだ?」

 

「向こうも特にプロテクトかけてたけど、残りのチームは十組切ってるわね。最初の頃が42組だったことを考えると、もう終盤じゃないかしら?」

 

 見れば確かに、残りのカウントはそれだけのものになっていた。

 

 サーヴァントの再現率を考慮すれば、それをもってしても本来の冬木の聖杯には一歩届かないだろう。

 

 だが、それでも高性能の願望機だ。勝者が手にして願えば、莫大な力が手に入るといっても過言ではない。

 

「・・・となるとそろそろ俺たちに対する攻撃も苛烈になるだろうな。その前に一つ終わらせておきたいことがある」

 

「なんだよ?」

 

 古城に聞かれて、兵夜は一言あっさりと即答した。

 

「今回における俺たちが唯一情報を把握できている要救助者、アスタルテの保護・・・あるいは捕獲だよ」

 

「・・・いいんですか? ヴィヴィオさんたちの要救助者の方を優先しなくて」

 

「だよな。普通に考えたらそっちの方が重要そうな気がするが・・・」

 

 雪菜と古城は躊躇するが、兵夜は静かに首を振った。

 

「こういうのはできることからやっていかないと詰むもんだ。言ってはなんだが居場所がわからんから手さぐりになるし、先ずは堅実にいくしかない」

 

 実際問題、シルシの目を頼りにするにも限度がある。

 

 まったくもって場所の見当もつかないのでは捜索のしようがない。そして手当たり次第に探すにしても、敵の集中砲火を受けるかもしれない状況下では逆に倒れかねないという難点もある。

 

「悪いなヴィヴィ、ハイディ。まずは居場所がわかってるやつから確実に確保したい」

 

「え、あ、大丈夫です! リオもコロナも強いですから!」

 

「はい。それに事情を知っていたら黙っているわけにもいきません」

 

「・・・いい子すぎて涙出てきそう」

 

 目頭を押さえたくなるのを必死に我慢する(理由・運転中)兵夜をみて、須澄はふと気になったことを言った。

 

「あれ、あれ? なんで居場所がわかるの?」

 

「ああ、戦闘中に発信機しかけといた」

 

 と、さらりとすごいことを言ってのけた。

 

「ぬ、抜け目ないんだねっ!?」

 

「あの戦闘中にそんなことまでしていたんですか!?」

 

 トマリと雪菜の驚愕の視線を受けながら、兵夜は即座に水晶玉を取り出して展開する。

 

「あからさまにつけた魔法系統型発信装置はすぐにかんづかれ、そのうえで仕掛けておいた機械型ビーコンも勘付かれたがそこまでは囮だ。最後に数段上の魔法系統型ビーコンまでは気が回らなかったようだな。・・・ここまでで何かうっかりはあるか?」

 

 もちろん人に穴が無いか聞くことも忘れない。

 

 なにせこの聖杯戦争。数においてはこちらが圧倒的に不利である。隙を突かれて強襲されたら押し切られる可能性もある。

 

「逆に利用されて待ち伏せされてるってオチは?」

 

「大丈夫でしょう。それなら最初に見つけた段階で使用してるわ。逆に最後の一個になるまでつぶしてから見つけても、それならそれで普通はつぶしているでしょうし」

 

 浅葱を安心させるようにシルシは告げる。

 

「まあ、距離がわかってればシルシの目で確認できるからな。この手の戦法なら待ち伏せされるまえに対応可能だ。・・・くっくっく。我ながら素晴らしくサポートタイプの眷属だ。礼を言うぜ我が眷属」

 

「お礼に娶ってくれるとうれしいわね、我が主様?」

 

 にやりと笑いながら、兵夜とシルシは視線をずらす。

 

 ちょうどその方向が、発信機の反応箇所であった。

 

「勘付かれる可能性を考慮して、早めに強襲戦闘で一気に叩き込む。・・・気合入れろよ暁に姫柊。お前らにとっては特に重要な一戦だぜ?」

 

「わかってる。もともと俺の戦争(ケンカ)だからな」

 

「オイスタッハ神父の行動は見過ごせません。決着はつけます」

 

 その言葉に満足げにうなづいて、兵夜は車を止めた。

 

「さて、作戦会議だ」

 




事前の戦闘で次のための布石をきちんと打っておいた兵夜。

できないならできないでできる範囲で相手の希望には答える。割り切った冷徹思考はありますが、しかしそれでも人はいいのです。

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