ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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フィフスの残響

 

「・・・なっ!?」

 

 目の前で起きた惨状に、兵夜はしかし驚くところが違った。

 

 これは聖杯戦争、殺し合いだ。そして敵にはアサシンもいる。

 

 なら、グレイスが隙を突かれて暗殺されることは想定内。もともと敵である以上、そこまで考慮してやる義理はない。

 

 死体に慣れてない古城たちは気になるが、しかしそれでもこれは想定内なのだ。

 

 想定外なのは、それを行った下手人だ。

 

「初めましてだな、これが」

 

 そう告げる男は、とても見知った容姿をしていた。

 

 格闘家というより研究者といった方が納得できる全体的なイメージ。

 

 それでいて隙を伺うことができない身のこなし。

 

 そして特徴的な銀とも灰色とも形容できる白い髪。

 

 兵夜はこの男を知っている。

 

「・・・フィフス・エリクシル?」

 

「いいや、違うさ」

 

 漏れたその言葉を、しかし目の前のフィフスそっくりの男は否定した。

 

「フィフス・エリクシルはお前が殺しただろう。それは間違いなく事実だ」

 

「・・・だったらお前は何だ?」

 

 兵夜はしかし、納得もしていた。

 

 聖杯はあの時点で体制側が確保していた。ゆえに聖杯による復活はあり得ない。

 

 ましてやフィフスはあまりにも危険な男だ。帝釈天やハーデスであろうと復活させようとはしないだろう。

 

 そう、目の前の男がフィフス本人であることはあり得ない。

 

 それを肯定するかのように、目の前の男は静かに構えをとる。

 

「俺の名は、フォンフ」

 

 フォンフと名乗った男は、無造作にグレイスだった肉の塊を捨てると、周りを静かに見据える。

 

「フィフス・エリクシルが憎悪に呑まれ切らぬために作り上げられた、肉を持つ疑似人格と疑似魂魄」

 

「なるほどな。確かに魔術師らしい発想だ」

 

 あいつも大概倫理観が緩かったからなと思いながら、兵夜はしかしだからこそ警戒を強める。

 

 フィフス・エリクシルは自身の根源到達を目的としていた男だった。

 

 だが、魔術師なら自分のバックアップを作れるのなら作ってもおかしくない。

 

 まさか超獣鬼を取り込んだ鎧を身に纏うフィフスと同じレベルだとは思わないが、どちらにしても難敵だろう。

 

「・・・俺は滅ぼすぞ、俺の憎悪の根幹を!」

 

 全身から毒の炎をまき散らしながら、フォンフは深く腰を落とす。

 

「そのために、お前らには死んでもらう!!」

 

 次の瞬間、破壊の奔流が生み出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まずいわね。まさかフィフス・エリクシルの怨念が動いているだなんて」

 

 状況を目で見て、シルシは歯ぎしりする。

 

 フィフス・エリクシルの脅威は身に染みてよくわかっている。

 

 世界を一変させたあらゆる意味で難行を達成した男。装備込みでならば準最強格に到達した男。

 

 禍の団最後の首魁。その男の脅威は異形社会で知らないものはいないだろう。

 

 だが、それでももう死んでくれていたのだ。だから安心していたと言わなければ嘘になる。

 

 それが、想定外の置き土産を残していた。

 

「ねえ、あの人そんなにヤバイの? いや、確かに吸血鬼の重鎮みたいな暴れっぷりだけど」

 

 廃墟地区のビルが一つや二つは吹き飛ぶほどの戦闘を見つめながら、浅葱は首をかしげる。

 

 凄惨な光景を見て血の気が引く思いをしているが、しかし割と細い。

 

 仮にも第四真祖である古城がいるならば、火力で負けることはないと思えるのだが。

 

「それが強いのよ。よって殴るだけで並の最上級悪魔なら殺せるレベル。しかも、よりにもよって最悪なことに・・・」

 

 シルシは、自分の目とリンクさせた観測機器によって危険すぎる事態を把握させていた。

 

 データはとんでもないものの存在を発見している。

 

 ああ、フォンフが聖杯戦争の参戦者なら、間違いなく優勝候補の一人だろう。

 

 なぜなら―

 

豪獣鬼(バンダースナッチ)・・・。あれを素体として作っているとはね」

 

 単独で小国を滅ぼしかねない化け物を、あの男は寄りにもよって自分のダミーの素体として使っているのだ。

 

 かつて、フィフス・エリクシルはその格上である超獣鬼を素体として自身の鎧を作り上げた。

 

 相対的に技量が無いという獣鬼の欠点を克服したフィフスは、その圧倒的な戦闘能力で猛威を振るった。

 

 一段階落ちるとはいえ、獣鬼の脅威は誰もが認めるところ。そんなものが解き放たれればどうなるか・・・。

 

「・・・まずいわね、どうにかするべきなんでしょうけど―」

 

 そこで言葉を切って、シルシはエストックを引き抜く。

 

 本当にフォンフを何とかしなければならない状況だが、しかし残念なことにそんなことを言っていられる状況でもなかった。

 

 流石に昨日の今日で不覚を何度もとるわけにはいかない。そう、ゆえに今回は気合を入れてよく見ていた。

 

「出てきなさい、暗殺者」

 

「・・・やはり、感知系の能力の持ち主か。暗殺者としては忌々しい能力よ」

 

 シルシの視線の先、暗闇から茶髪の少年が現れる。

 

 兵藤一誠の二つ目の体を持つザイードが、拳を鳴らしながら姿を現した。

 

 そう、彼はフィフス・エリクシルのサーヴァント。

 

 ならば、彼はフォンフについていて当然。

 

「・・・だが、汝ら程度なら他愛なし。ここで死ぬがいい」

 

 そして、龍神は再び猛威を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その非常事態を、兵夜は即座に理解した。

 

「ああ全く。奴がまた出てくることは想定内だがここで来るか」

 

 しかし当然といえば当然だ。

 

 なにせフォンフはフィフスの後継者のようなものだ。フィフスのサーヴァントであるザイードが協力するのはむしろ当然だろう。

 

 そして、この状況下で優先することは決まりきっている。

 

「はい全員傾注。・・・フォンフは俺が足止めするから先にシルシ達を助けに行ってくれ」

 

「・・・はあ!? お前正気か!?」

 

 あっさりといった兵夜の言葉に、古城は信じられないといわんばかりに声を上げる。

 

 それはそうだろう。なにせ敵は圧倒的な強敵なのだ。

 

「相変わらず狂ってるなこれが! お前、フィフスと一対一で勝ったことあったか?」

 

 そう言いながら暴れまわるフォンフの拳によって、すでに廃ビルが三つは崩れ落ちている。

 

 明らかに異常な部類の戦闘能力を前に、一人で相手をしようなどと正気の沙汰ではない。

 

「仕方がないだろう。戦闘の力のない藍羽を放っておくわけにはいかない。・・・まあ、フォンフのオリジナル(アイツ)の相手は慣れている」

 

 そう首を振りながら言うと、兵夜は注射器を取り出すとそれを注射した。

 

「それに切り札はいくつも用意する主義だからな」

 

 次の瞬間、莫大な光がフォンフを襲う。

 

 それを炎を纏った拳で迎撃しながら、フォンフは目を剥いた。

 

「業魔人《カオス・ドライブ》!? お前作ってやがったのか!?」

 

「そりゃまあ、魔王末裔を眷属にしてるからな。今後の脅威に備えて準備の一つぐらいはしてるともさ」

 

 兵夜としては今後の難題に対して当然の対策をとっているだけである。

 

 もとより、公式試合でもなければドーピングを躊躇するような性分でもない。しかも効果的であることはすでに証明されている。

 

 なら、使うのみだ。

 

「さあ、フィフスの後継! 聖杯戦争を始めよう!!」

 

 そのままフォンフを弾き飛ばし、兵夜は追撃を開始する。

 

 両手に巨大な斧を持ち、大振りながらも素早い動きで連撃を叩き込む。

 

 もとより、技量でフィフスを受け継いだフォンフを倒せるとは思っていない。それぐらいの自覚はきちんと持っている。

 

 ゆえにスペックで押し切る。技量が届かない領域による力押しこそが、圧倒的な技量を持つフィフスたちに対する対抗策。

 

「フォンフ、俺はすでにお前をむちゃくちゃ警戒している」

 

 むろん、これだけの過剰の出力強化が何の反動を及ぼさないわけではない。

 

 単独行動で動いているのはそれも理由の一つだ。あの人のいい彼らがこんなことを知れば間違いなく止めに入るからだ。

 

 そして、何度もできると思うほど愚かでもない。

 

「だからここで滅びろ。俺も世界もお前のような存在を何度も許容するほど寛容じゃない!」

 

「馬鹿め! 悪いがお前は一つ勘違いをしているぞ?」

 

 それだけの連撃を受け流しながら、フォンフは兵夜をあざ笑う。

 

「俺は、すでにこの聖杯戦争に敗退している」

 

「・・・はい?」




兵夜「しつこい」

まあ、魔術師ならできるならやってもおかしくない自分のバックアップ。とはいえ、フィフスは自分が根源に到達することを考えていたので微妙に違うのですが。

さすがにフィフスの最終決戦仕様ほどの化け物っぷりはないですが、それでもやっぱり化け物なのでかなりの強敵。実に厄介なのが出てきました

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