ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
龍神の拳が、シルシの一撃を簡単に吹き飛ばす。
続けざまに放たれたケリが、連携で迫ったアインハルトをあっさりと弾き飛ばした。
「さすがにキツイわね・・・っ!」
「これが龍神・・・!」
二対一程度では到底どうしようもない圧倒的な力量。
加えて最底辺とはいえど英霊の領域に到達しているザイード自身の能力も高く、突破しきれないのが現状だった。
「暗殺者に正面戦闘で後れを取るとは、上級悪魔と覇王とやらも底が知れるな」
汗一つかかずに嘲笑を浮かべながら、ザイードは静かに一歩ずつ近づいていく。
焦って突撃するような真似はしない。それは真正面から圧倒できるという自信が生む余裕だった。
「さすがにその目で見られては暗殺はできぬだろうが、しかし龍神の体があれば問題は無し。フォンフさまが宮白兵夜を抑えている間に殲滅するとしようか」
「それはどうも。そんなに聖杯がほしいのかしら? あなた仮にもイスラム教徒でしょうに」
宗教の教義的にどうなのかという皮肉をシルシは返すが、ザイードは肩をすくめることでやり過ごす。
「あいにくそういう契約なのでな。我らとて手に入らぬ願望機のために戦うのは業腹だが、しかし契約を破るのは山の翁の名折れ」
「・・・手に入らない?」
「どういうことですか? あなた方は聖杯を手に入れるために戦っているのでは?」
読めない状況にシルシもアインハルトも首をかしげるが、しかしザイードは間合いに入るなり攻撃を仕掛ける。
「特に大したことでもない。戦争を行う中、サーヴァントを宿したものを失っただけのことよ。私はこの聖杯戦争のサーヴァントでもないからな」
「それで、次の聖杯戦争に参加するために頭下げてほかの勢力に使われてるわけ?」
シルシは情けないとすら思ったが、しかし言葉にはしない。
圧倒的に不利なのはこちらの方なのだ。ならばこれ以上挑発するつもりはない。
だが、ザイードは自虐的に口元を吊り上げると、さらに深く踏み込みながら言葉を続ける。
「情けないと言えば言うがいい。とはいえ最初からそれを条件として同盟を組んだ以上、断るわけにもいかんのでな」
そのままエストックをたたき折り、さらにザイードは攻撃を繰り返す。
それをフェニックスの不死で強引に防ぎながら、シルシは予備のエストックを引き抜いた。
とはいえこの状況では押し切られかねない。
どうにか兵夜たちがフォンフを突破して助けに来ることを考え―。
「そういうことよ。だから契約者であるエイエヌ様のいうことはきちんと聞いてくれるってわけね」
―上からの声に、シルシは凍り付いた。
「アップ・ジムニー!?」
「こんばんわ。・・・今日は余計な邪魔も入らないし、ここで一人ぐらい殺しておこうかしら」
そう告げるアップの周りには、増援としてなのか数人の悪魔がいた。
そう、それそのものは何も驚くことではないだろう。
だが、その容姿が問題だった。
「・・・そう、そういうこと」
シルシは、なぜ平行世界の兵藤一誠が怒り狂っているのかの一端を理解した。
魔獣創造の性能からすれば、そういうものも作れるだろう。
だが、もしその模倣元が死んでいたとしたら?
・・・彼なら怒り狂うだろう。そういう人だということぐらいは知っている。
「さて、ではエイエヌ様の命令を果たすとするか。・・・デュランダルの錆になるといい」
「フェニックスの不死をもってしてこの程度しかできないとは、情けない限りですわね」
薄く嘲笑を浮かべるその姿はよく知っていた。
髪は白くなっているが、しかしその姿はゼノヴィア・クァルタとレイヴェル・フェニックスに酷似している・・・いな、そのものだ。
「悪趣味な人形遊びとはよく言ったものね。・・・殺した相手そっくりの魔獣を作るとは、エイエヌも悪趣味極まりないわ」
「・・・まあ、そこは反論できないんだけど」
気まずそうに頬を掻きながら、アップはしかしグラムを突き付ける。
「さあ、とりあえず余計な観客が出ないうちに死になさい?」
「え? お前もう聖杯戦争負けてるの? うっわだっさ」
「この状況下で挑発できるとかいい根性してるよなこれが!」
過剰な負担に耐えながらの状況で、しかし兵夜は口が回っていた。
フィフス・エリクシルという怨敵の後継ともいえる強敵を前に、兵夜はかなり機嫌が悪くなっている。
そのせいか口が悪くなっているが、それはそれとして危険な状態でもあった。
なにせ神格の発動と制御はいまだに困難かつ危険な領域。そんなものを平然とできるほど、宮白兵夜とは規格外の化け物ではない。
その体に使われている技術は規格外だが、素体は平凡ではないが傑物ではない。そこそこ優秀という程度の領域で収まっているのが宮白兵夜という生き物だ。
そんなものが前代未聞の悪魔と神格の同時併用などを行ってもできることなどたかが知れている。
ましてや相手は神滅具の禁手で製造された存在だ。そのうえでオリジナルの戦闘技術も習得している。
単独で国家を一つ滅ぼしかねない化け物を前に、すでに兵夜はかなりのダメージを負っていた。
「なあ、オリジナルを殺す前に俺言ったよな? 根源目指すなら俺の関わらないところで平和的にやってくれって」
「ああ、確かにいったな。だが俺には関係ないな」
文字通り神速の攻防を繰り広げながら、兵夜とフォンフは視線をぶつけ合う。
だが、その視線の質は違っていた。
兵夜はフォンフを強敵と認識していたが、フォンフはある意味ぬるい視線を向けている。
実際それは間違っていない。フォンフもオリジナルに比べれば弱体化しているが、それ以上に兵夜は大きく装備の質が落ちている。
あらゆる意味で規格外だった偽聖剣を失った兵夜の戦闘能力は、フィフスからフォンフへの低下以上に減衰していた。
そして、それが形になっていく。
「どうした? オリジナルを滅ぼした一角がその程度だとあきれるしかないがな!」
「うるさいな。今からかっこよく逆転してやるから黙ってろ」
そう返す兵夜だが、しかし冷静に今のままでは勝てないということも自覚していた。
もとより兵夜の単独での勝率はそこまで高い方ではない。
たいていの幹部クラスとの戦闘は、仲間と協力したからこそできたもの。冷静に考えてネームドクラスと戦って単独で勝利した記憶がほぼないといえる。
あれ? 俺って自分が思ってよりよっぽど雑魚?
微妙に悲しくなったが、それはそれとして兵夜はしかし余裕もあった。
なにせ、あくまで自分の目的はフォンフの足止めである。
すでに最低限達成できる目標であるアスタルテの確保には成功している。それ以外にも要救助者の救出はするべきだが、実際のところ不可能に近い。そしてそれらを行うには連絡を取り付けた時空管理局との連携で行うべきだ。
つまり、今ここでフォンフを倒す必要はない。
とにかくザイードをシルシ達がどうにかしたら、そのあとは何とか逃げればそれでいいのだ。
だからそれまでの間限界を超えてフォンフを押さえておけばそれで充分。あとはシルシにフェニックスの涙を作ってもらってそれで回復すれば・・・。
「あ、今までのうちに作ってもらえばよかった!?」
「・・・こいつまたうっかりしやがったな」
隙ができて真正面から殴られてしまう。
そのまま数百メートルは吹き飛ばされるが、しかし兵夜は殴られたときにはすでに冷静さを取り戻していた。
その勢いを利用して距離をとりながら、装備を遠距離専用に変更する。
そして今度はそのまま遠距離砲撃戦にシフトすれば、こんどは離脱がしやすくなり―。
「あら、フォンフ相手にここまで持つなんてやるじゃない。さすがというべきかしら?」
・・・非常に聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、兵夜は平行世界の兵藤一誠の怒りと誤解の理由を一瞬で察した。
なるほど、魔獣創造を利用すればそれぐらいのことはできるだろう。
そして兵藤一誠とともに出てきてないということは、つまりもう
「・・・悪趣味だな、エイエヌ。そう思わないかい、リアス・グレモリーのそっくりさん!」
「そうでしょうね。そのためにわざわざ私を用意したのだから、そういわれてもおかしくないわね」
そう微笑をもって告げるのは、白い髪と魔剣を持つ以外は数年前そっくりのリアス・グレモリーの現身だった。
兵夜がリアス・グレモリーとの嫌な形での邂逅を成し遂げるころには、何とか古城たちも合流できていた。
「浅葱! 無事か?」
「古城!」
吸血鬼の身体能力で何とかついた古城に気が付き、浅葱が声を上げる。
「無事だったか。シルシとアインハルトは!?」
「いま戦ってるけど、なんか大変なことに・・・」
その言葉の意味はすぐに分かった。
「ほえろデュランダル、そしてノートゥングよ!!」
その声とともに、周囲のビルに筋が通るとそのままそこを境目として滑り落ちる。
そしてがれきが一斉に古城たちに襲い掛かるが、しかしそこは第四真祖だ。
「弾き飛ばせ
とっさに眷獣を使って無理やり弾き飛ばし、そしてその現象を起こした相手にも雷撃を放つ。
殺してしまうかもしれないとは思ったが、しかしそれぐらいなら乗り越えるだろうという確信があった。
そして、それは確かに現象として具現化する。
「その程度では、私たち従僕は殺せませんわ」
灼熱と氷塊の二つが、しかし莫大なレベルで放出される。
それらはどちらも長老格の吸血鬼が使用する眷獣クラス。その破壊力は真祖の眷獣をもってしても楽に破壊できるものではない。ましてや障害物を突破した後の出力の下がった状態では無理がある。
下手人に当たるより前に相殺された雷撃の中、そこにいたのは二人の美少女だった。
ブロンドの髪を左右に束ねた少女と、青い髪を短く切りそろえた少女。
だが、吸血鬼である古城は本能的に違和感を感じ取っていた。
「なんだあんたら。・・・人間か?」
違和感に任せてそんな疑念を口にする古城に、青い髪の女の方がうなづいた。
「違う。私たちは従僕だ。私はパルミラのコードネームを与えられている」
「そしてわたくしはフィーニクス。エイエヌ様に作られた従僕ですわ」
そう悠然と告げるフィーニクスは、背中から炎を生み出すとそれを放つ。
むろん、それは即座に雪菜の雪霞狼で迎撃されるが、しかしそこからが攻撃の糸口となる。
「能力は素晴らしい。なら君自身の剣技はどうだ?」
そう尋ねながら、パルミラはデュランダルとノートゥングを連続で振るい雪菜に襲い掛かる。
動きが読まれることなど考えない。小細工ごとたたき切るといわんばかりの強い意志のこもった連続攻撃に雪菜はいきなり劣勢になる。
「この威力、特性抜きでも古き世代の吸血鬼クラスは・・・!」
「姫柊! くそ・・・っ」
「あら、逃がしませんわよ?」
助けに入ろうとする古城に、フィーニクスが割って入る。
彼女は魔剣を一振りすると、大量の氷が槍と化して古城に襲い掛かる。
いい加減慣れてきたこともあって回避するが、それでもさらに攻撃が放たれ―
「はいはい邪魔だよっ!」
そこに、プラズマの奔流が放たれる。
「大丈夫かな古城くん?」
「トマリさんか! 悪い、助かった!」
援護射撃に礼を言いながら、しかし古城は全く安心できない。
何かわからないが、あの従僕を名乗る二人組は恐ろしい感覚しか出てこない。
悍ましいとでもいえばいいのか、観ているだけで不快な感情が湧いて出てくるのだ。
「・・・なんだあいつら、本当に・・・人か?」
「いいや、いや違うんだろうね!」
その言葉に返答しながら、こんどは須澄がパルミラに突撃をかける。
聖槍の一撃が聖剣とぶつかり合い、莫大なオーラの奔流を周囲にはなった。
その威力を確かめるように微笑ながら、しかしパルミラはすぐにつまらなさそうに息を吐く。
「なるほど、聖書の神も余計なまねをしてくれる。だが、それではな!」
そのままパルミラは強引に弾き飛ばし、さらにノートゥングで切り付ける。
直撃はまずいと判断した須澄はそれを交わすが、その一撃は地面に大きな断面を生み出した。
「なに、ナニコレ!? エイエヌ並に危険な能力なんだけど!?」
「どれも雪霞狼をしのぎかねないほどの逸品・・・。太古の魔剣の類ですね」
同時に槍を構えながら、須澄と雪菜はパルミラを警戒する。
彼女が保有する剣は、聖魔どちらかに傾いてはいるがどちらも至極の性能を発揮する一品。
加えて、フィーニクスの方も同等レベルの魔剣を保有しているため隙が無い。
そして何より、これが何よりだが―
「なんだ、なんなんだよこの悍ましさ・・・っ」
何より、生理的嫌悪感を産むこの気配が最も警戒に値する。
まるでホラー映画に出てくる化け物を見ているかのような不吉な感覚が体の奥から浮かび、二人に警戒心を抱かせるのだった。
皆様お忘れかもしれませんが、ザイードは本編の聖杯戦争のサーヴァントです。今回の聖杯戦争のサーヴァントではございません。
まあ、それを律儀に守っているあたりフォンフもあほというかなんというかなのですが。
そして赤龍帝ブチギレ案件登場。この従僕、ほかにも何体か登場する予定です。
因みに想定よりもかなり外道案件ですのでまだまだこんなもんじゃないぜ!!