ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
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仮設基地の外、休憩用に設置されたベンチに座りながら、シルシは一人黄昏ていた。
「何、やってるのかしらね」
正直、自分にそこまで自信があったわけではないと思っていた。
なにせ実戦経験もろくになければ、上級悪魔としても戦闘能力はそこまで高い方ではないと自覚している。
そんな自分が戦闘でそこまで役に立てるとは思っていなかったが、しかしやはり実際に体験してみるとショックだった。
神の子を見張るものの1人に龍神を宿すもの。
普通に考えれば負けて当然の戦いに負けた程度で、しかしシルシはとてもショックを受けていた。
実に馬鹿らしい。お前は自分が超人だと思っていたのか。
そう自嘲するが、しかしそれでも思ってしまう。
若くして魔法使いの組織のエリートだった雪侶。
魔王の末裔として恥じない実力を持つグランソード。
そして冥界の英雄の1人である宮白兵夜。
宮白兵夜眷属は誰もかれもが超人であり、間違いなく優れた傑物ぞろいだ。
兵夜は確かに秀才の部類だろうが、それでもあらゆる手段をもって勝利を手にしてきた逸材だ。彼のそれを評価しているからこそ、自分は彼の眷属になっているのだから。
そうだ、これは極めて簡単な部類。
ただ単純に、彼の役に立ててない事実に対して悔しいという、極めて簡単な理由だった。
「私、弱いわねぇ」
・・・はっきり言って、政略結婚をにおわせているゼクラム・バアルからの兵夜の眷属になるようにとの勧めは渡りに船だった。
自分も彼の眷属になれればいいと思っていたし、そういう意味では好都合だった。
だが、しかし、すぐに気づくべきだった。
シルシ・ポイニクスは宮白兵夜の眷属になりたかった。だが、シルシ・ポイニクスは宮白兵夜の眷属としてふさわしい実力を持っているのだろうか。
果たして、龍神の血肉を宿したザイードと渡り合ったあの二人の同僚として、自分は本当にふさわしいのだろうか。
自問自答しても、答えはNOとしか言いようがない。
涙が出てきそうになるのをこらえながら、シルシは弱音を吐きそうになってしまう。
「私、役立たずよね・・・」
「んなわけないだろ」
と、目の前に日本酒のカップが突き出された。
「・・・兵夜さん?」
「とりあえず、こういう時は酒飲んで流すのが一番だ。・・・おごりだ」
そういいながら兵夜はワンカップをシルシの手に握らせる。
未成年飲酒になりそうだが、まあこんな土地だから問題はないだろう。
そう判断して一口飲む。
「あら、意外と変な味がするのね」
「まあ、安物のワンカップだからな」
そういいながら兵夜もワンカップを呼び出して一口飲む。
「くぁ~。最近大変だったからしみるぜぇ」
「へぇ。そういう風に楽しむものなのね」
感心しながら酒を飲む中、兵夜はふと微笑みながらシルシの頭をなでる。
「昨日は助かった。ああ、本当に助かった」
「・・・そんなことはないわよ」
シルシとしてはろくに何もできていないとすら思えているので謙遜抜きでそう言い切るが、兵夜はそれに失笑を返す。
「ザイードに負けたことが悔しいなら気にするな。今の奴は化け物だ。俺だって強化武装がない今の状態では防戦一方だろう」
「でも、防戦はできる自信があるんでしょう?」
それではだめなのだ。
「私は、
そう、宮白兵夜はただの転生上級悪魔ではない。
転生後一年足らずで最上級にすら手が届いた、間違いなく冥界の英雄の一人なのだ。
その眷属である自分が、こんな情けないような醜態をさらすわけにはいかないのに。
涙が出てきそうになり、シルシは目を閉じてこらえようとして―。
「何を言っている。むしろ今回一番活躍してるだろう」
あっさりと言い切った兵夜の言葉に、ぽかんとなった。
「え?」
「あのなあシルシ。兵士っていうのは何も戦闘を行うだけの存在ってわけじゃない」
兵夜はそういって肩をすくめる。
実際、軍隊というのは戦闘担当だけで構成されているわけではない。
兵器の整備兵などは直接戦闘を担当しているわけではないし、衛生兵なども当然だ。
戦闘ではなく偵察を担当する兵士もいるし、移動するための車両を運転する者も直接戦闘を担当するわけではない。
「俺は、お前はそういう方面が主軸だと思って運用してるぞ?」
「・・・でも、役に立ってる?」
「立ってる立ってる。お前は自分がチートなのを自覚しろ」
実際、千里眼は規格外の能力だ。それがあるとないでは大きく違うといってもいいだろう。
シルシの本質は千里眼を活用したサポートタイプ。加えて、ポイニクス家の素質ゆえに生存率が高いのが最大の利点だ。
「実際、グレイスたちとの戦いでは大活躍だったろ? 自信もっていいって」
そういいながら頭を撫でられると、こんどは別の意味で涙を流しそうになってしまう。
「・・・バカねあなた。女の子は、悲しい時にやさしくされるとすぐにほだされるのよ?」
やっちまったぁああああああああ!
兵夜は心の中でそう絶叫したのが手に取るようにわかる。
「何やってんだあのバカ大将。フラグ折りに来たのにフラグ立てやがった」
「ナチュラルに女たらしなんですのよ兄上は。イッセーにぃのことを笑えませんわね」
しっかりロングレンジでカメラを使ってのぞき見しながら、グランソードと雪侶はばっさりと切り捨てる。
「いや、あんたら俺たちを巻き込んで何してんだよ!!」
「あの、これはやっぱり失礼な気がするんですが・・・」
流されてここまで巻き込まれた古城と雪菜が後ろから苦情を漏らすが、もはや二人とも欠片も聞いていない。
「どうしますのグランソード。このままだと義姉様がたにどう申せばよろしいのでしょうか」
「素直に全部説明して謝ればいいんじゃねえか?」
そんなことを相談しながら、二人は容赦なくのぞき見を敢行していた。
「・・・逃げよう、逃げた方が後でいいわけができるよ」
「えっ? でも、でもでもっ! すごく気になるよっ!」
「ですが、やはりこういうのは悪いことのような気が・・・」
須澄にトマリにアインハルトに、割と全員集めているという体たらくである。
「兵夜様が結局フラグを立てるに五千!」
「シルシさんが逆に攻め込むに一万!」
さらに外野が賭け事まで始めていた。
『・・・ねえ、兵夜さん』
と、そこでシルシが話だし、全員が思わず沈黙する。
『シルシ、俺は・・・』
兵夜も意を決したのか声をかけようとして、しかしシルシはその唇に手を置いた。
『いいのよ。ええ、いいの』
静かに、はっきりとシルシは拒絶の意志を示した。
「あれ? シルシさんの方がとめてきたわね」
「シルシ義姉様? 何事ですの?」
浅葱と雪侶がいぶかしむ中、シルシは微笑みながらはっきりという。
『貴方の言いたいことはもうわかってる。そうね、仕事の一環で間接的に救われたからって、それで好意を向けられても困るものね』
そうこまったようなほほ笑むと、シルシは立ち上がった。
『・・・そういうわけだから、そこの外野はのぞき見しないようにね』
「ばれてますのぉおおおおお!?」
千里眼を舐めてはいけなかった。
そして、もちろんそんな言葉をすぐに言われて気づかないわけがなく。
『・・・ふむ』
兵夜は静かに立ち上がると、静かに音楽を流し始めた。
ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪
「やっべえマジでキレてる!」
「撤収ですの! 全員急いで走りますのよ!!」
「くそ! 賭けはノーコンテスト化!!」
「いいから走れ、急ぐぞ!!」
主がブチギレていることをすぐに理解できるのが、この部隊のいいところだった。
「速く走れ! 兵夜様は本気で切れるとあの音楽流すんだ!」
「どんな癖だよ! っていうか俺たち無理やり連れてこられたのに何でこんな目に!!」
「なんで!? なんで僕たちまで戦犯に!?」
古城たちからしてみればとんだとばっちりだが、しかししっかり覗いているのである。
ゆえにこのままだと怒られる。
逃走劇が始まるのであった。
「待てお前らぁあああああああ!!!」
巨大なメイスを構えながら走り出す兵夜を見送って、シルシは小さく笑みを漏らした。
いつもの自分なら勢いに任せて抱き着いたりするぐらいはしてもいいと思うし、人に見られている程度でその程度を気にする性分でもない。
だが、本心から慰めてくれた後にあんな困った顔をされたらさすがに無理だ。少しかわいそうになってしまった。
本当に恩人だと思っているから、その一線だけはきちんと守らないといけない。
だから、この本当の想いは胸に秘めておくべきで―
「あの、よかったんですか?」
と、そこで声がかかった。
「あら、ヴィヴィちゃん」
そういえば向こうにはいなかったが、どうやらすぐ近くにいたらしい。
いかに千里眼とはいえ、人ひとりの知覚能力には限界がある。灯台下暗しとはこのことだろう。
「まあ、あのタイミングで勢いよく迫れば既成事実の一つぐらいできそうだけど。衆人環視で浮気なんてさすがにかわいそうだもの」
「そうじゃなくて、本当に言わなくていいんですか?」
はっきりと、ヴィヴィオのそう切り込まれ、シルシはピクリと肩を震わせた。
間違いない。子供に気づかれるとは未熟すぎるが、彼女はうっすらと気づいている。
「・・・どこまで、気づいてるの?」
「兵夜さんに、何か隠しごとがあるのはわかります。たぶんですけど・・・それが一番の理由なんですよね?」
その言葉に、シルシはふと苦笑してしまった。
「貴女、カウンセラーに向いているんじゃないかしら? 格闘家に挫折したら目指すといいわよ」
皮肉ではなく素直にそう思うが、図星を突かれた後だとどうしても嫌味になりそうだ。
だが、これはできれば言わない方がいいだろう。
恩人に対する好意であることは、間違いなく事実だ。
それを利用しての政略結婚なのだということも想定内だし、むしろ望むところと思っているのも事実。
だが、宮白兵夜も宮白雪侶もグランソード・ベルゼブブも、一番大事なところで勘違いをしている。
それ察してあえて隠しているのはつまるところ単純な理由であり―。
「・・・照れくさいのよ、正直に言うと」
子供の様に顔を赤くしてしまうようなことなのだ。
「悩んでいた目をどうにかしてくれた恩の方が、恥ずかしくないのよ理由としては。だって・・・」
あんなちっぽけな理由で好意を覚えて、しかも自分でも抑えられないぐらいぞっこんになるだなんて、馬鹿らしい。
そう言おうと思ったが、それより先にヴィヴィオが手を握った。
「駄目です」
その行動に、シルシは彼女の人生が壮絶であることを思い出す。
ただ年月を積むだけのことを経験とは言わない。
経験とは積み重ねること。バリエーションや密度こそが重要であり、そういう濃い人生を送ったものは、深みのある人生経験を持つがゆえに時として年齢より大人に見えるものだ。
ある意味兵器のシステムとして生み出され、特殊な人生を歩んできたヴィヴィオは、或る意味でシルシより大人だった。
「恥かしいかもしれないけど、それが本当に兵夜さんが大好きな理由なら、はっきり伝えないとわかってもらえないと思います」
まっすぐに、
真剣に、
隠すことなく、
ヴィヴィオはシルシの目を見てそういった。
「それが、私がママたちから教わったことですから。きっとその方がいいと思うんです」
それは、彼女自身の人生の結論でもあるのだろう。
だからこそ、その言葉には深みも重みをしっかりと存在していた。
「・・・子供にここまで言われると、ちょっと自分が恥ずかしくなるわね」
「あ、ごめんなさい! 私子供なのに偉そうなこと言っちゃって!」
慌ててヴィヴィオが両手を振りながら謝るが、シルシはそんなヴィヴィオの頭をやさしくなでる。
「いいえ。確かに、理由がしっかりある好きなら、確かにそれを言わなきゃ伝わらないわよね」
いずれ、と頭につけることになるだろうが、確かに言った方がいいのだろう。
むしろそっちの方が引かれるかもしれない。なにせ、この理由は表向きのに比べればあまりにもちっぽけで子供みたいな理由なのだから。
だけど、それが理由なら仕方がない。
「ええ、勇気をくれてありがとう。私ももうちょっと先輩らしく頑張るわ」
「・・・はいっ!」
そういいながら、二人は笑顔を交わし合った。
確かにそれは理由の一つ。
だけど、最大の理由はそこにはない。
一応、この作品は恋愛方面結構考えて作っています。
ハーレムラブコメをするための道具っていうのもひどいですからね。一人一人にちゃんとしたドラマを用意したいのです。