ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
近平須澄は全身が焼けるように痛かった。
特に横っ腹が非常に痛い。単純に考えて内臓が潰れたのだろう。
だが、それでも止まらない。
足は止まらない。
意志は止まらない。
決意も止まらない。
彼女達の笑顔が好きだった。
普段は気弱なところもあった自分を、彼女は時に叱咤しながら引っ張ってくれたアップ。
そんなわけでもめることも多かった自分達を、年上の余裕でフォローしてくれたトマリ。
既にろくに覚えていない過去の思い出を、二人は興味深そうに聞いてくれた。
五歳の時に兄が交通事故で死んだことを話したら、涙ぐんでまでくれたことを覚えている。
……だけど、須澄はアップの本質に気が付こうとしなかった。
端的に言って甘えていたのだ。
彼女のことが好きならば、もっと彼女のことを知ろうと思うべきだったのに。
そして、トマリにはいつも迷惑をかけている。
過酷な戦闘というきつい環境に置かれている自分に気を使ってか、いつも通りの明るい自分を見せてくれる。
……だから、須澄は二人に想いを告げない。
これから
そしてアップを殺したその指で、どうして
だから、死にそうになるぐらい痛くても、須澄は最後の全力を振り絞る。
「……アップ!」
「須澄ぃ!!」
聖槍と魔剣がぶつかり合い、火花が散る。
「私は、私はようやく素直になれた!!」
がむしゃらに魔剣を振り回しながら、アップは声を張り上げる。
「人をいじめたいって
放たれる魔力弾が須澄を撃ち抜くが、それでも須澄は止まらない。
「私は虐める《生きる》! この素直な自分のまま、私は私を生き切るのよ!!」
「ああそうだ!」
須澄はそれを肯定する。
二十年以上も自覚することなく、アップはアップでいられなかった。
それはきっととても苦しいことだったのだろう。自分がそんな目にあったとしたら、悲観して自殺したっておかしくない。
だから、だから、だから―
「僕は、君を
だから届けこの一撃。
例えこの身がどうなろうと、
アップを、肯定して見せろ―
「須澄ぃいいいいいいいい!!!」
「アップぅううううううう!!!」
二人は全力で一撃を放つ。
アップの一突きは須澄の脇腹を貫き―
―聖槍は、アップの心臓を貫いた。
「…………さよなら、アップ」
激痛を堪えながら、須澄は告げる。
「………後悔は、してないわよ」
命の炎が消え行く中、それでもアップは言葉を紡ぐ。
「私はこういうやつだった。だから、そう生きてこう死ぬのよ。それが、当然」
「うん。君は弱い者いじめをした報いを受けるんだ。……許しを請わずに貫き続けた、強い人の最後だよ」
そんなアップを抱きしめながら、須澄は誇らしげな気持ちになる。
そのやさしさが愛しい。
その悪辣さが誇らしい。
ああ、僕は彼女に愛情を持っていてよかった。
すでに動かなくなり、冷たくなっている彼女を抱きしめながら、須澄もまた、死の淵へと一歩一歩堕ちていった。
「まずい、フェニックスの涙を―」
その光景を見た兵夜は、手持ちのフェニックスの涙をすべて展開して駆け出そうとする。
だが、あまりにもその動きは隙だらけだった。
「何背中向けてやがる、エイエヌぅうううううう!!!」
グランソードをいったん弾き飛ばしながら、激昂する赤龍帝の砲撃が兵夜を襲う。
本来なら対応ができて当然のことに、しかし兵夜は周りが見えていなかった。
「須澄―」
「馬鹿兄上!」
わき目も降らずに須澄の方へと向かっていた兵夜をかばい、雪侶が即座に防御魔法を展開する。
だが、腐っても神滅具。腐っても赤龍帝。
圧倒的な火力は、防御魔法をやすやすと砕き、大爆発を起こした。
「大将! 雪侶!! ……クソ!」
奥歯をかみしめながら、グランソードは赤龍帝を食い止めようと、殴りかかるが、しかしそこに割って入る影がある。
そこにいたのは一人の少年。
だが、グランソードの拳をやすやすと受け止める少年などいるわけがない。
そして、その少年もまた見知った顔だった。
「馬鹿な、アンタは―」
「赤龍帝。これ以上時間をかけると更に数が増える。すぐに終わらせよう」
「ああ、頼むぜ
赤龍帝がそう告げると共に、その少年の姿が変貌する。
肉は膨れ上がり、鬣が生え、そして色は黄色く。
次の瞬間に現れたのは、金色に輝く巨大な獅子だった。
「獅子王の戦斧《レグルス・ネメア》だと!?」
おかしい。
いや、ここに獅子王の戦斧が存在することそのものは驚くほどには値しない。
平行世界の存在という答えが出ている以上、そこに存在することまではすぐに納得できる。
だが、ならば何故ここにサイラオーグがいない?
何故、サイラオーグ・バアルの眷属であるレグルスが赤龍帝と共にいる?
その疑問をすべて戦闘中であることから飲み込んで、グランソードは拳を放つ。
だが、それより先にレグルスは更に輝いた。
「「
赤龍帝と獅子王が輝きを放ち、そして融合をしていく。
その光景をみて、グランソードは寒気を覚えていた。
人が持てる究極の力といっても過言ではない神滅具。
それが、寄りにもよって二つ複合されて運用される。
端的に言って悪夢でしかない。
「……
憎悪の念を振りまきながら、獅子と一体化した赤龍帝は、視線をグランソードへとむける。
「さあ、とっとと壊れろ」
「糞がぁあああああ!!!」
兵夜は雪侶を抱え上げながら、奥歯を噛み砕きかねないほど嚙み締める。
今のでフェニックスの涙が殆ど使い物にならなくなった。
しかも、雪侶は重傷であり下手をすれば死ぬ。
そして、フェニックスの涙はあと一個。
本体ならばまだ在庫があるはずだが、しかし来るのに時間がかかる。
各個襲撃を警戒して増援を送らなかったのが裏目に出た。
今からでは、到底間に合わない。
兵夜は高速で頭を回転させて、そしてすぐに決断する。
「雪侶、すぐ治す!!」
須澄も雪侶も大事だが、先ずは目の前の妹を助けるべきだ。
距離の問題からそう判断すると 、兵夜は雪侶にフェニックスの涙をかける。
意識を失っているため反応はないが、しかしこれで致命傷は回復した。
だが、これで須澄は助からない。
須澄も既に致命傷だ。しかも人体急所の一つである肝臓をやられている。
長くはもたない。そして多分間に合わない。
その事実に、兵夜は足元が崩れそうになる。
須澄が、近平須澄が死んでしまう。
反動が強かったせいで冷静でいられない。気絶してしまいそうになるほど、衝撃が走り―
「大丈夫」
声が届いた。
「トマリか・・・っ!?」
兵夜は振り返って息を呑む。
トマリの体はボロボロだった。
腕は一本吹き飛んでいるし、腹には風穴があいている。
人間なら既に死んでいるような大怪我だ。間違いなく助からない。
古城クラスの吸血鬼なら治るだろうが、残念なことにトマリはそこまでではなかった。
だが、トマリは自然体で笑みを浮かべる。
「須澄くんは、大丈夫にして見せる」
「……信じて、いいんだな」
その目には覚悟があるのだけはわかった。
だから、兵夜はそれ以上聞かない。
「なら、任せる」
いろいろと激情が渦巻いている。
間違いない。人はこれを憎悪と呼ぶのだ。
平行世界とは言え兵藤一誠に憎悪の感情を浮かべるとは、なんという因果だと兵夜は嗤う。
そして―
「死なない程度に地獄を見ろやぁああああああ!!!」
神の裁きが、判決を下す。