ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
すいません、エイエヌの名前の由来なんですが、自分ものすごい勘違いをしていました。
逆にらしいっちゃらしいんですが、これだとちょっと判断が厳しいです。
いや、本当に申し訳ない。まあ大体予想している人もいるんですけどね?
赤龍帝は、一瞬何が起こったのかわからなかった。
自分は奥の手を切ったはずだ。
神滅具を二つ同時に融合させて発動させる禁手。
その出力は覇龍にすら匹敵するものであり、主神クラスと互角に渡り合うことすらできるものだった。
なのに、発動させたその時に真正面から殴り飛ばされた。
「……立てよ赤龍帝。人の話は聞かない上に、人の大事なものをあんだけ痛めつけて、ただで済むとは思ってないだろうな?」
目の前にいる男は、死に体だった。
全身が今まさに崩壊を続けていて、誰がどう見てもまともな方法で強化していない。
そんなふざけた出力発揮を行っている姿に、赤龍帝もまた怒りの炎を燃やす。
「……どうせ本体は死なないなら、どんな無茶苦茶もできるってか?」
殺意が膨れ上がる。
憤怒が膨れ上がる。
憎悪が膨れ上がる。
「お前のその人の命をおもちゃにしかしないところが、俺は心底大っ嫌いなんだよ、エイエヌぅううううううう!!!」
次の瞬間には拳を顔面に叩き込んでいた。
そして、同時に膝が鳩尾にめり込んでいた。
更に即座に連続攻撃が叩き込まれる。
「さすが人形! 痛みがないならダメージで動きが止まることもないってか!!」
「半分正解だこの野郎!!」
同時に頭突きを叩き込み、そして鮮血が飛び散る。
なるほど、こいつはエイエヌの切り札か何かかもしれない。
こういう造形にしているわけだ。それだけ自信がある最高傑作か何かなのだろう。
まったく本当に恐れ入る。数億人も作ってこんなふざけた余興をして待っているとか、何回殺しても我慢できそうにない。
だが、どうやらこれ以上は流石にまずそうだ。
何故かコカビエルの姿をした従僕たちが後退を始めている。
まるで、状況がややこしいことになったから逃げようという動きだ。
何故こいつらは先遣隊が到着してもなお演技を続けるのだろうか?
手慰みの人形遊びはいい加減終わらせるべきだろうに。
「……いいだろう、そっちがその気ならこっちもそうしてやるよ」
ここはいったん引くとしよう。流石に目の前の奴を相手にするには、こっちもまだ合流が追い付いていない。
従僕を蹴り飛ばすと、赤龍帝は、すぐに後退する。
従僕はわき目も降らずに追いかけようとするが、しかしもう片方に止められて動きを封じられる。
この期に及んで小芝居を入れるとは芸が細かいが、しかしそれに付き合ってやる義理はなかった。
「全部纏めて壊してやるよ。そうすればお前も本腰を入れるだろうさ」
「止めるなグランソード! あの野郎、手足の一二本引きちぎらないと気がすまな―」
「頭を冷やせ大将!!」
真正面から殴り飛ばされ、兵夜はようやく歯車がかみ合った。
あまりの事態に頭に血が上りすぎていたのが、一気に落ちる。
大事な者達が死にかけ、それを行ったのが兵藤一誠という事実に、兵夜は今までにないほど頭に血が上っていた。
いつもの音楽を流すことすら忘れるほどの怒り狂ってしまっていた。
「……悪い、グランソード」
「おう、気にすんな」
グランソードは周囲を警戒しながら、兵夜に手を伸ばす。
素直にそれの力を借りて立ち上がると、兵夜はため息をついた。
「アイツ、俺達のことを従僕と言っていたな」
「ああ、エイエヌの人形遊びとか言ってやがったな」
そう思い込んでいることが、話を聞かない原因なのだろう。
一体どういうことだ、とは言わない。
そもそも、平行世界とはいえ根幹が兵藤一誠なら、性格はある程度読めるのだ。
逆説的に、想定できないほどの性質になっているならそこからどういうIFなのかを想定できる。
だが、その想定はあまりにも悍ましすぎた。
「……グランソード、一日時間をくれ。もし俺の予測が当たっているなら、これはかなり覚悟がいる」
「なんかわかったのか。ああ、それぐらい待ってやるよ」
グランソードは不思議に思ったが、しかし兵夜の意見を尊重してあえて聞かずにおく。
宮白兵夜は単独行動もとるが、あれで協調性はある男だ。
そんな男がそういうことを言うことは、それ相応のやばい事態だということだろう。
それに、今はそれどころじゃない。
「………須澄」
「一応フェニックスの涙は送るように連絡したが、たぶん間に合わねえな」
戦場を知るがゆえに冷徹さが、事態が深刻であることを如実に告げていた。
トマリ・カプチーノは吸血鬼である。
実をいうと、既に数百年は生きている古株だ。
それゆえに人生に退屈していた。
だから、異世界に放り出されるという不条理に巻き込まれても枯れていた。
ああ、だからどうした? それがどうした?
そんな冷めた彼女の性質は、しかしたった一つのことで崩壊する。
周りの子供に煽り立てられ、泣きながら犬に石を投げる子供の姿。
そして、そんな彼女を助けるように割って入る小さな子供。
半ば気まぐれで助けたトマリは、そのままアップの伝手で生活基盤を獲得し、スラムで生活する。
同じく流れ者であった須澄や、その一件から懐いてきたアップとの生活は、なんというか逆に新鮮だった。
そんな二人との関係は、トマリにとって何よりも大切なものだった。
だからこそ、それが一変してもなお、トマリはアップが大好きなのだ。
むしろ年長者としてそれを見抜けず、上手い付き合い方を教えることができなかったことこそを悲しんでいるし、だからこそ、ずっと無自覚に否定し続けてきた彼女を今度こそ肯定したかった。
そして、それをできれば須澄には巻き込ませたくなかった。
だけど、結局須澄に先を越されてしまった。
「仕方ないよね、そういうできるところも大好きだもん」
ああ、だからせめて彼には生きていてほしい。
自分は結局何もできなかったから、せめて何かできた須澄はその分生きていてほしいのだ。
意識が失われているからこそ、だからこそ最後に心からの本音を言おう。
いつもは半ばふざけているから、最後くらい真剣に。
「………大好きだよ、須澄くん」
「……くそったれ」
ようやく届いたフェニックスの涙だが、しかし既に手遅れだった。
思わず地面に叩き付けたくなるのを必死に堪えながら、兵夜は片膝をついて、倒れる二人を抱え上げる。
「………ん」
それで気が付いたのか、須澄がゆっくりと目を開ける。
「あれ、僕、なんで生きて……」
「しゃべるな、須澄」
兵夜は静かに告げるが、須澄は首を振る。
「なんだろうね。達成感があるんだよ、あんなことしたのに」
「んなこたないさ。大事なやつが道を踏み外してたのを止めたんだ。誇らしく思ってもいいさ」
「違うよ」
兵夜はそう告げるが、しかし須澄は首を振る。
「止めたんじゃない。進み切らせたんだ」
「………そうか」
ゆっくりと、ゆっくりとみなの元に戻りながら、兵夜は目を閉じる。
「だけどさ、同時にすごく悲しいんだ。これで、アップとも
「だったら俺の眷属悪魔になればいいさ」
兵夜はあえて否定しない。
そう、既にトマリの体は、冷たくなっていた。