ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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早々に常連さんの感想が届いたので、今日は二本立てでお送りします!


第338話

 

 空を埋め尽くすといわんばかりに、その軍勢は数を揃えていた。

 

 人間、悪魔、天使、堕天使、妖怪、半神。

 

 ありとあらゆる様々な種族が、都市を滅ぼさんと勢力を進めていく。

 

「諸君! 今より我々が行くのは、エイエヌの従僕に乗っ取られし呪われた街だ!!」

 

 先頭を行く悪魔が声を上げる。

 

「我らの世界でした如く、奴はまたしても悪趣味な遊戯を始めている! これを殲滅することで、報復の狼煙を上げるのだ!!」

 

 その言葉に、軍勢は一斉に鬨の声を上げる。

 

『復讐の時は来たれり!』

 

『清算の時は来たれり!』

 

『逆襲の時は来たれり!』

 

「ああ、そうだな」

 

 そんな彼らを見渡しながら、赤龍帝は笑みを浮かべた。

 

 獰猛な、獲物を狩る獣の如き笑みだ。

 

「色々あったけど、少なくても皆と一緒に戦えることだけは嬉しいよ。……皆、きっと見てるはずだ」

 

 寂しげな表情を浮かべながら、赤龍帝は一筋の涙を流した。

 

 そして、拳を掲げると声を上げる。

 

「反撃の時は来た! エイエヌに、あいつのしでかしたことのツケを払わせるぞ!!」

 

『応っ!!』

 

「……応、じゃねえ!!」

 

 その赤龍帝の後頭部に、光の槍が突き刺さった。

 

「痛い!? ってこの神器は……エイエヌか!!」

 

 即座に憎悪の視線を向ける赤龍帝の視線の先、そこには兵夜達が陣取っていた。

 

「お前本当にいい加減にしろよ!? 何勘違いで大量虐殺始める気だ、この阿呆!!」

 

 心底呆れながら、兵夜は大声で怒鳴りつける。

 

 そして、その姿を見て、軍勢は一斉に憎悪の炎を燃やした。

 

「エイエヌめ、ここで来るとはいい度胸だ!」

 

「奴さえ殺せば全て方が付く。ぶち殺せ!」

 

「いや、ただ殺すだけじゃ我慢できない。少しずつ肉をそいで殺してやれ!!」

 

 一斉に攻撃が放たれるが、しかしその攻撃は一つたりとも兵夜には届かない。

 

 それより先に、魔王の全力にも匹敵する雷撃が跡形もなく消し飛ばしたからだ。

 

「……いい加減にしろよ、お前ら」

 

 怒りのあまり雷電をまき散らしながら、古城が一歩前に出る。

 

「さっきから人のことを従僕従僕と、あの町の人間だって一生懸命生きてるってのに、ふざけんな!!」

 

 その怒声と共に放たれる雷に、軍勢は思わずたたらを踏んだ。

 

 その出力はあまりにも高く、軍勢の勢いを沈めるには十分過ぎる。

 

 そんな中、赤龍帝は一歩前に踏み出した。

 

「良いぜ。お前らが今でもそういい張るっていうならそれでいいさ。どうせいつものことだしな」

 

 億でも足りぬ殺意を込めて、赤龍帝は兵夜達を睨みつける。

 

 その様子を見て、雪菜はため息をついた。

 

「……これは、本当に宮白さんの言う通りですね」

 

「だな。最初聞いた時は信じられなかったのだが、本当にあり得そうだ」

 

 アルサムも頭を抱えてため息をつく。

 

 そう、全ては出撃する少し前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、推測でいいならあいつがブチギレている理由とエイエヌの正体に当てができた」

 

 大軍が都市に迫りくるという緊急事態に、全員が何とかしようと動き始めたときに兵夜はそういった。

 

 思わずつんのめる者達が出てくるぐらいの重大情報に、全員の視線が一斉に集まる。

 

「……そういやそんなこと言ってたが、どう推測できたんだよ、大将」

 

「ああ、おそらくあいつの誤解を解くには仙術使いの存在が必要不可欠だ。そして誤解が解けても俺に対する敵意は解ける可能性が低いというか誤解したままだろうというか……」

 

 グランソードに答えながら、兵夜は頭痛を感じて頭を抱える。

 

 だが、しかし言わざるを得ないだろう。

 

「これはヴィヴィ達には刺激が強すぎる話になるんだが―」

 

 だが、これが一番可能性が大きい。

 

 エイエヌの正体が兵夜の想定通りなら、これが一番合理的だ。

 

 そして、兵藤一誠を憎悪の塊とするのにこれほど確実な答えはない。

 

「……従僕の正体はおそらく死体を材料にしている。それもおそらく合成しているな」

 

 その言葉に、全員が息を呑んだ。

 

「し、死体? 死体って、冗談、ですよね?」

 

 リオが顔を真っ青にしているが、それは子供達は皆同様。

 

 だが、しかしこれは冗談でも何でもない。

 

「私達の魔術的な方法にも、死体を操る術式がないわけではありませんが……それは確実な推測なんですか?」

 

「イッセーがブチギレることを考慮した場合、それが一番可能性が高い。奴の正体が俺の想定通りなら、少なくとも発想はしているはずだ」

 

 心底嫌そうに、雪菜に兵夜はそう答える。

 

神器(セイクリッド・ギア)を後天的移植で自由に使いこなすのは困難だ。ましてや一人一人が若手の化け物であるサイラオーグ・バアルやグレモリー眷属の能力を模倣など、本来の使い手であるレオナルドですら不可能だろう。……ましてや、奴はそこまで使いこなせているわけでもなかった以上、禁手でも使わなければあり得ない」

 

 エイエヌは襲撃の時、魔獣を大して違いのない形状の種類しか使ってこなかった。

 

 おそらく多様性を生み出しにくい欠点を埋めるために、共通の素体の魔獣をベースにすることで補っているのだろう。

 

 そして、そんな程度しかできないものが能力も外見も全く異なり、かつ強大な従僕を生産できるわけがない。例え禁手でも正攻法では不可能だ。

 

 ゆえに、発想を逆転させる。

 

 そんな使いこなせていない神器で、そんなものを生み出せる禁手は果たして何か。

 

 そして、兵藤一誠があそこまで憎悪に燃えるほどの理由とは一体何か。

 

 赤龍帝はこう言ったのだ。

 

 人の命をおもちゃにしかしない、と。

 

「……そう考えれば、従僕がことごとく魔剣を使っていたことにも説明がつく」

 

「ああ、そういや全部ジーク絡みだったな」

 

 兵夜の言葉に、グランソードがポンと手を叩く。

 

 使われた伝説の魔剣は、その多くが北欧の伝承に基づく魔剣だった。

 

 それは今は木場祐斗が保有しているものだったが、しかし元々は英雄派の幹部であるジークが保有しているものだった。

 

 そして、ジャンヌの姿をした従僕はジークの禁手を保有していた。

 

 それは、推測というにはあまりにも確実性がありすぎる。

 

「……人の命を何だと思ってんだ、あの野郎はっ!」

 

「敵対する他ないものと、同盟は結べても裏切る可能性のあるものを忠実な部下に変える。合理的といえばそれまでだが、情があまりに無さ過ぎるな……っ」

 

 古城の拳に力が入り、アルサムの眉間にしわが寄る。

 

 そして、そんな仲間達の反応に、兵夜はすまなそうな表情を浮かべた。

 

「なんか、本当にごめん」

 

「あの、なんで兵夜さんが謝るんですか?」

 

 ヴィヴィオの意見はもっともだったが、しかし本題はここからなのだ。

 

「兄上? いったい何に思い当たったんですの? 昔弱みを握ってこき使った不良の1人がエイエヌの正体だとか?」

 

「……何をしてるんですか、貴方は」

 

 雪侶の言葉を聞いてシェンが呆れるが、しかしそんなものではなかった。

 

「いや、たぶんエイエヌの正体は俺だ」

 

 ため息交じりに放たれた言葉に、再び全員が絶句した。

 

「……え?」

 

 アインハルトが首をかしげるが、しかし兵夜は気にすることなく続ける。

 

「兵夜は日本語で兵と夜。それを英単語に直すとarmyとnight。頭文字を少し読み方をひねればエイとエヌだ」

 

「いや大将、armyは陸軍だ」

 

「いえグランソード。そのうっかりがまさに兄上っぽいのですが」

 

 グランソードが否定するが、しかし雪侶からしてみればそれこそ兵夜らしい。

 

「あの、それってどういうことですか?」

 

「十中八九当たりってことね。確かに自己の倫理観の欠如した肉体魔改造っぷりはすごく似てるわ。体格もそっくりだし」

 

 首をかしげるコロナに、シルシが一筋の汗を浮かべながら簡潔に纏める。

 

 確かに、こと自己及び敵相手の倫理観に問題が見られる兵夜らしいといえば非常にらしい共通点だ。

 

 そして、兵夜は胸すら張れる勢いで確信を持っている。

 

「おそらくエイエヌ及び赤龍帝のいた平行世界は「俺があるミスを犯さなかったことでイッセーと仲良くならず、そのまま俺が禍の団にスカウトされた平行世界」だろう」

 

「やけに確信に満ちているね、兵夜さん」

 

 自信満々で答える兵夜に須澄は首をかしげるが、しかし兵夜は断言できる。

 

「宮白兵夜にとって、兵藤一誠は光だ。それを持たない俺が、悪に堕ちることだけは想定の範囲内だ」

 

 それは胸を張ってはいけないが張れるほど断言できる宮白兵夜の絶対理論。

 

 宮白兵夜の良心といってもいいイッセーとの出会いは、それがなければ悪に堕ちるといっていい当然の確信だった。

 

 そして、だからこそもう一つだけ推測できることがあったが、それは今は言わない。

 

 それは、本当に僅かな可能性でしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、イッセーさま?」

 

「なんだよ? 俺、マジでブチギレる一歩手前なんだけど?」

 

 そして、だからこそ誤解が一つ解けるのも早かった。

 

「あの、仙術で確認してみましたが、確かにあそこにいるのは従僕ではありません」

 

 沈黙は、十分ぐらい続いた。

 

 鎧の隙間から大量の脂汗を流しながら、赤龍帝は油が切れた機械の如くギギギと振り向いた。

 

「……どういうこと?」

 

「大方、エイエヌは町一つ丸ごと従僕にしたことが何度もあるってことだろう?」

 

 兵夜は大体のところを予想して、そう言った。

 

「今回だけ趣向を変えたのか、それともお前らが見たのはたまたまだったのかはわからないが、とりあえず今回はそうじゃない。少なくとも相当数の従僕じゃない奴らが何人もいる」

 

 その言葉に、赤龍帝の後ろの者達がどよめいた。

 

「嘘だろ? だってアイツ十回はしてるはずだぜ?」

 

「だって聖杯戦争だろ? あいつのことだしやってるはず……」

 

 どよめく後ろの者達の視線が、そしてやがて赤龍帝に集まった。

 

 ちなみに、相対する兵夜達の多くは、非難の視線を向けている。

 

「………あの」

 

「うん、なに?」

 

 代表して須澄が答えると、即座に土下座が放たれた。

 

「マジで申し訳ありませんでしたぁあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 それはもう見事な土下座だった。

 

 土下座グランプリがあれば金賞をとれるほどの土下座だった。

 

 アルサムがした土下座など、この土下座に比べれば錆が見えるほどの土下座だった。

 

 なんというかもう、土下座・オブ・土下座とか名付けたくなる土下座だった。

 

「ああ、いいよもう。僕らだって聖杯戦争に参加してるんだし、死人が出るのは覚悟の上だったし」

 

「そうだな。もともと上に許可を取らずに動いていたのだ、むしろあの程度で済んだのは奇跡に近い」

 

 死人が出ている側の須澄とアルサムはそう告げるが、しかし赤龍帝は頭を上げない。

 

「いや! エイエヌに騙されてるとはいえ酷いことを! マジすいません! エイエヌ倒したらホント首差し出します!!」

 

「あの、兵夜さんとエイエヌは別人なんですけど」

 

 結局肝心のところが勘違いされてるのでヴィヴィオは言うのだが、しかしそこは兵夜が一歩前に出る。

 

「もう面倒だからこれで決めよう。赤龍帝」

 

 そう言いながら、兵夜は代行の赤龍帝を起動させる。

 

 瞬時に赤い鎧に身を包みながら、兵夜は手招きして赤龍帝を挑発した。

 

一対一(サシ)で来い。口で言っても信じてくれないだろうし、拳で語ろうか」

 




 ようやく出せた従僕のネタ晴らし。本当はエイエヌに直接語らせる予定だったのですが、しかし思った以上にこれを出してないことが原因で不満がたまっているようなので早めに出すことにしました。

 本来のイッセーの性格との豹変から、どうしてこういうことになったのかを推理させるつもりだったのですが、どうも不評だったようで申し訳ありません。

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