ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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赤龍帝の過去 ―エイエヌの所業

 

 

 

 

「姫柊! 無事だったか!」

 

「大将! 大丈夫だな!?」

 

 もともとの場所に戻った俺たちの無事に喜んだ暁やグランソードだが、そこにトマリとアップの姿を見つけて目を見開いた。

 

「……トマリ・カプチーノにアップ・ジムニー? なぜおまえたちが?」

 

 代表してアルサムが聞くが、さてどう説明したものか。

 

「えっと、その、あの……」

 

 こと敵対していたアップはすごく居心地が悪そうにしていたが、そこに躊躇なくトマリが抱き着いてきた。

 

「紆余曲折あって味方になってくれましたっ! あと幽霊です♪」

 

 いうが早いか、トマリはすぐに姿を消す。

 

「え、そんなことまでできんの?」

 

「うん。どうもこれがデフォルトみたいで……」

 

 俺の質問に須澄がこれまた言いづらそうに答えながら、槍を掲げて見せる。

 

 そこには宝石のようなものがついており、そこから覗き込むようにトマリの姿があった。

 

「待機状態だと槍の中にいるみたいなんだよねっ。でもでも―」

 

 そして、すぐに実体化する。

 

「普段はこのままでいるからねっ? あ、でも覚醒前から死んだのに一緒ってことは、須澄くんはもう私達とずっと一緒にいたかったってことで? ……キャーこれもうプロポーズーっ!?」

 

 すごいテンションだ。

 

 実際のところは覚醒していたが自覚していなかったというところだろう。

 

 なにせ従僕ほどではないが問題のある禁手だ。本能的に忌避感を持ってもおかしくない。

 

 しかしこれはまあ、須澄も苦労しそうだな―

 

「うん。そうだね」

 

 ……おや?

 

「ずっと一緒だよ。いやだって言っても離さないから」

 

 誰かー! 俺の弟が吹っ切れましたー!

 

「あらあら? これはつまりハーレム兄弟の誕生ですのね? 須澄義兄様も隅に置けませんの」

 

 雪侶、とりあえずツッコミを入れろ!!

 

「………ちょ、ちょっとそういうのは人のいないところで!!」

 

 アップ、お前はさんざん好き勝手やってきたから逃がさん。せいぜい巻き込まれるがいい。

 

 まあ、それはともかく―

 

「どうした赤龍帝? 生きてるよな?」

 

 なんかものすごく赤龍帝が落ち込んでるんだが。

 

「あの、それなんですけど聞いていいですか?」

 

 と、ヴィヴィが俺の袖を引っ張って首をかしげる。

 

「おっぱいドラゴンって、何ですか?」

 

 ………ああ、なるほど。

 

 俺は、静かに赤龍帝の方に振り向いた。

 

「乳を、つついたことがないのか?」

 

「ああ、ないよ! それがどうした!!」

 

 つかみかからん勢いで怒鳴られるが、しかし驚愕するのは俺の方だ。

 

「乳をつつくことなく禁手に至り、挙句の果てに神滅具の同時運用だなんて前代未聞な領域に到達した、だと!?」

 

「なんでお前も驚いてんだ! だいたいなんだよ、乳乳帝て!!」

 

 えっと、どう説明すればいいことやら。

 

「……いいか、よく聞け。とりあえず事態を打開するための必要なことを言う」

 

 ああ、これは必要だろう。

 

「お前のファンの乳首をつついてこい。千人もつつけば禁手を昇華させることができるはずだ」

 

「おい、もっかい殴り合うか?」

 

 赤龍帝から殺意が漏れるが、しかしこれは必要なことだ。

 

「真面目な話だ。お前はお乳一つで様変わりすると、あのグレイフィア・ルキフグスから言われたほど女の乳房が重要なんだ」

 

「グレイフィアさんが言うほど!? なあ、俺マジでショックで倒れそうなんだけどぉおおおおお!?」

 

 んなこと言ってもマジだからなぁ。

 

 とはいえ、そこまで言うならば仕方がない。

 

「いいだろう。とりあえず陣地に戻る道すがら話してやろう」

 

 あとでショックで倒れても知らないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘だろ」

 

「全部実話だ」

 

 案の定崩れ落ちた。

 

「い、いやらしさも突き詰めるとすごいことになるんですね……」

 

 もうね? 姫柊ちゃんの何とも言えない表情がね? 何とも言えないんですよ。

 

「しっかしあれだな! 改めて考えると頭おかしいよな?」

 

「何をおっしゃいますのグランソード。あまねくおっぱいを愛するイッセーにぃらしいではありませんの?」

 

 ハイソコ! いいコンビになってるところ悪いけど、もう少し話に入ってきてくれ!

 

「おっぱいつつくと神器ってパワーアップするんだねっ。……須澄くん、今夜つつくっ?」

 

 ほれほれ~といわんばかりに自分の胸を持ち上げて見せるトマリだが、その後頭部にアップの手刀が叩き込まれて撃沈した。

 

「馬鹿言わないのトマリ! そ、そういうのはほかの人に聞かれないところで……」

 

 それ墓穴だぞ、アップ。

 

 だが、それはそれとしてそういう風に他人の目線を気にできる女か。

 

 うん。

 

「須澄。いい女を持ったな」

 

「なんで泣いてるの、兄さん?」

 

 いや、俺の女はそういうの気にしない人が多すぎてね?

 

「あ、あの! そんなことを話している時間はあるんですか!?」

 

 と、ヴィヴィが話の軌道を修正してくれた。

 

 まあ確かにそんなことを言っている場合でもなかったな。

 

「そうだな。あの野郎、お前らのところの地球に進撃しようとしてるんだろ? やばいだろ、間違いなく」

 

「そんなことになればいったいどれだけの犠牲者が出るか……」

 

 暁もハイディも親身になってくれて助かるぜ。

 

 ああ、確かにこの事態はあまりにも危険だ。

 

 聖杯を複数使ったも同然の魔力量でグレートレッドを殺そうとする。サマエルやトライヘキサほどではないが、しかしできる可能性は十分にあるだろう。

 

 なんとしても奴の野望は阻止しなくては。こんな緊急事態黙ってみているわけにはいかない。

 

「ああ、そうだな。……通信兵、今すぐ本隊と連絡を取れ。こうなれば総力戦だ。時空管理局にも頼んで、地球に連絡させろ。万が一の防衛線を用意しなくては」

 

「はっ! すぐに連絡します!!」

 

 とりあえず、艦隊規模の行軍となれば日にちレベルの時間がかかるだろう。まだ少しは余裕がある。

 

 その間に、聞いておきたいことがあった。

 

「赤龍帝。すこし聞きたいことがある」

 

「……わかってる」

 

 ああ、そうだろうな。

 

 きついことを聞くが、それを聞かなければ始まらない。

 

「俺たちの世界で、エイエヌが何をしたのか話すよ。……長くなるぜ?」

 

「そうか。なら、茶ぐらいは用意させよう」

 

 アルサムはそういって指示を飛ばすが、しかしたぶん飲み干される数は少ないだろう。

 

 それだけ、重い話なのだけはよくわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤龍帝SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうか、大体状況はわかった。

 

 俺たちの平行世界は、お前たちの世界よりも転生者の数そのものが少なかったよ。少なくとも、シトリー眷属に転生者はいなかった。

 

 まあ、コカビエルはヴァーリが取り押さえたから大丈夫だったんだけどな。

 

 問題は、和平会談の時だよ。

 

 ……いや、その前から不穏分子はあったんだ。

 

 その時俺は知らなかったけど、聖杯戦争は世界各地で起こっていた。

 

 被害報告がろくになかったから都市伝説にしか思われてなかったけど、それは簡単だった。

 

 エイエヌは、聖杯戦争の開催地に選んだ街の住民を丸ごと従僕に変えてたんだ。

 

 たぶん、魔獣創造の練習も兼ねてたんだと思う。そのせいで聖杯戦争の存在をどこの神話体系も眉唾ものと思っていて、対応が遅れたんだ。

 

 もし、誰かが対応していたらあんなことにはならなかった・・・・・っ!

 

 事態が急変したのは和平会談だった。

 

 そっちの世界ではヴァーリの手引きでギャスパーがつかまって、神器を暴走されたんだってな。ああ、そんな程度で済んで本当によかったっていうしかない。

 

 こっちじゃ、オーフィスが直接殴り込んできやがったんだ。それも、少し離れたところから最大出力の砲撃を直接叩き込んできやがった。

 

 そのうえでギャスパーはすぐに従僕にされて、集中攻撃で会談の首脳陣を襲ってきた。

 

 サーゼクス様達は強い人だけど、俺たちをかばってダメージが大きくて……みんな、死んだ。

 

 しかも和平に反対していた三大勢力の重鎮が、エイエヌに乗せられたのかそれぞれオーフィスの力を借りたって宣戦布告したせいで、和平会談は失敗だ。むしろそのせいで三大勢力の戦争は勃発する寸前までいった。

 

 戦争が起きなかったのかって? ああ、起きなかった。

 

 起こすまでもなく、天界が終わったからだよ。

 

 禍の団は、ヴァーリに盗聴器を持たせてたんだ。そのせいで、会談の内容が筒抜けだった。もちろん、大前提である聖書の神の死が筒抜けになったんだ。

 

 そっから先はひどいもんさ。天使の八割は堕天して、だけど欲望で堕ちたわけじゃないから神の子を見張るものの傘下には収まらなかった。教会の人たちもほとんどの人たちが恐慌状態になって、堕ちた天使たちは一緒にやけになって大暴れ。そのせいで人間世界もそれを認めちゃったから大混乱さ。

 

 冥界政府も、天界のこの弱体化を機に戦争を起こそうとする勢力が旧魔王派と組んで行動を起こして、大規模な内乱状態だ。魔王様が二人も死んだことで、制御が効かなくなってしまったんだ。

 

 そのせいで、各神話体系はここぞとばかりに三大勢力を襲って鬱憤を晴らそうって勢力と、そんなことをしている場合じゃないって勢力に分かれて内乱が続いてきた。

 

 禍の団は、その内乱において戦争派に力を貸して何人もの神が死んだよ。全ての戦いでオーフィスと聖槍がタッグを組んで暴れてるんだ。どこの神話体系でも太刀打ちできなかった。

 

 それに禍の団は人間世界にも積極的にテロを開始した。

 

 絶霧のテストも兼ねたのか、あいつは原子力発電施設に現れては破壊を繰り返して、世界中を放射線で汚染していった。それどころか、時々核ミサイルの発射施設に侵入して、オーフィスの力で強奪して町中で爆発させるってことまでした。

 

 もう大変さ。世界中の国でまともに機能している国はどこにもない。神話体系はほとんどが戦争を開始して、三大勢力は自衛で大忙し。誰も自分たちのことで精いっぱいで、俺たちは何もできなかった。

 

 そして、そんな日々が数年間続いて地球人口は約半分にまで減ったよ。

 

 そんなある日の時、ついにエイエヌは本腰を入れて行動した。

 

 オリュンポスの内乱に乗じて、あいつは開戦派だったハーデスをオーフィスと一緒に強襲して、サマエルを奪ったんだ。

 

 サマエルはドラゴンの天敵。……その時になって、俺たちはエイエヌとオーフィスの真の目的に気が付いた。

 

 あいつらは、グレートレッドを殺すことが目的だったんだって。

 

 情報を察知した俺たちは、グレートレッドと殺し合いを繰り広げていた禍の団と戦闘をおこなった。

 

 何人も死んだよ。そして喰われて従僕になったやつらも何人もいる。

 

 そして、俺はなんとかいくぐってエイエヌ達のところまでたどり着いて……すべてが、終わっていた。

 

 グレートレッドが死んだことで、世界の狭間の安定が崩れて大規模災害があらゆる世界で発生した。

 

 俺は、衝動的にオーフィスに致命傷を負わせたけど、エイエヌに抱えられて逃げられたんだ。

 

 そして、何とか追い付いた先には―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイエヌ!」

 

 赤龍帝がたどり着いた時には、そこに巨大な穴が生まれていた。

 

 まるですべての空間を吸い取るように生まれる穴。その中心部に向かって、エイエヌは歩き続けていた。

 

「お前、何をする気だ!?」

 

 今すぐ殴り飛ばしたいが、しかし下手に近づけば何が起きるかわからない。

 

 そんな相反する状況に歯噛みしながらにらみつける中、エイエヌは振り返ると笑みを浮かべた。

 

 どこかぎこちない、油の切れた機械のような笑みを張り付けて、エイエヌは告げる。

 

「ああ、赤龍帝。追いたければ追うといい」

 

 ただそう告げるエイエヌは、それだけ言うと再び歩き出す。

 

「俺は異なる世界に行く。そしてアイツとの約束通り、楽しく毎日を生きていく」

 

 それは、まるで死んでいった友と約束をしたかのような言葉。

 

 だが、この男は邪悪の化身。何をしてくるかわからない。

 

「奪って犯して壊して殺す。そんな毎日を送らせてもらう。今までの聖杯戦争は町程度だから、こんどは数十万人規模の都市全部従僕にするのもいいかもな」

 

「てめえ!!」

 

 衝動的に殴りかかろうとするが、そのとたんに激痛が走って思わず倒れてしまう。

 

 すでに限界を超えていた体は、もう動かすことができなくなっていた。

 

 それを見もしないエイエヌの隣に、見知った人たちが並び立つ。

 

 否、それは見知った人々ではない。

 

 エイエヌの魔獣に喰われ、従僕と化した哀れな者たちだった。

 

 リアスがいた。ゼノヴィアがいた。アーシアがいた。レイヴェルがいた。

 

 その光景を見て、イッセーは怒りのあまり動き出そうとするが、しかし動けない。

 

 すでに致命傷の十や二十を追っている。もう、赤龍帝兵藤一誠は動けるような状態ではなかった。

 

「エイエヌ…エイエヌ……エイエヌぅうううううううううううう!!!!」

 

 血涙を流し、憎悪の声を出す赤龍帝の恨み節を聴きながら、エイエヌは最後にもう一度だけ振り返った。

 

 まるで、観たくて見たくてたまらない表情を見たかのような、満面の笑みを浮かべていた。

 

「何年かかってもいい。必ず俺を追いかけろ」

 

 その言葉とともに、エイエヌは消えていく。

 

「俺はそこでも、同じことを繰り返す」

 

 

 

 




かなり早い段階から変質していた赤龍帝の歴史。

単純な被害規模ならフィフス一派ですら到達できない被害規模に達していますが、これはエイエヌが本気でオーフィスの目的をかなえるつもりだったことが原因。

邪魔するやつらを全員ロクに動けないようにしてから、最も勝てる可能性のある切り札をどうにかしようというのが基本骨子であり、其のため数年間かけて下準備として世界を混沌に叩き落しました。そしてその肝心の部分でうっかりしていたため赤龍帝に最後の最後で台無しにされました。

……深く語る暇がなさそうなのでここでばらしますが、赤龍帝がいた平行世界と兵夜たちの世界とでは十年近く時間の流れにずれがあります。エイエヌが五年前から活動していたのはそれが理由です。

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