ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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番外編 難易度の高すぎる仕事を「お前ならできる」といって押し付けてくるのは十分パワハラである。

 

 この俺、宮白兵夜は転生悪魔でありながら上級悪魔に昇格した、出世頭である。

 

 なにせ自発的に蹴ったとはいえ、転生後一年足らずで最上級悪魔にすら手が届いた身だ。そのネームバリューは凄まじく、こと政治の分野においては卓越していると言われてもいいと自負している。

 

 なにせだ、これは落ち目の大王派を立て直した実績がある。これは非常に大きいのだ。

 

 まあ、その所為で魔王派や一般市民の中には不満を抱く者もいるだろう。実際大王派の多くは下級中級を見下している者が多く、かなりの不正がすっぱ抜かれているからだ。

 

 だがしかし、待ってほしい。

 

 悪魔というものは努力で大きく伸びるところもあるが、経験で自然と能力が成長するところも大きい。そして、その経験で伸びる成長が凄まじいのだ。

 

 上級悪魔クラスは最低でも爆撃機じみた大破壊を実行する事ができる。その気になれば表の軍隊の一個中隊や二個中隊を滅ぼす事もできるだろう。そして、由緒正しき上級悪魔の血を継いで生まれれば、自然な成長だけでそれに至れる。

 

 なら、血統主義が生まれるのは間違った事ではない。これを全否定するのは逆に現実を見ていない発言だろう。

 

 そして魔術師(メイガス)もそうだ。

 

 魔術師というものは、魔術回路という一種の内蔵を持って生まれてくる生き物だ。

 

 そして魔術師は基本的に一点特化で魔術の鍛錬を行ない、それを次の世代に継承させていく。

 

 継承させる為に動物の交配や、種馬や母体となる魔術師本人に処置をする事で、魔術回路の本数が多い子供を生むようにするのが、魔術師の基本思考だ。この魔術回路も、突然変異が起きなければ親の影響を色濃く受ける。

 

 そして、跡取りに与えられる魔術刻印。これらの製造に関してはアーチャーの協力もあり低ランクだが比較的楽に製造できるが、これだけでは意味がない。魔術刻印とはその魔術師の一族の神秘の結晶にして、跡継ぎが委嘱する臓器のようなものだ。

 

 これまた代を重ねるごとに強化されていき、これを保有する魔術師は保有しない魔術師よりも数段優れた存在になりえると言ってもいい。

 

 世代ごとの魔術回路の発展と、世代を重ねて強化されていく魔術刻印。この二つの存在ゆえに、魔術師という生き物は血と歴史を重んじる血統主義にして貴族主義が醸造される事となるのだ。

 

 まあそんなわけで、そんな魔術師達が集まる魔術師組合。議論が白熱するまでもなく、基本的に血統主義の大王派と馬が合う奴らが多い。

 

 魔法使いの契約じみた個人的契約として大王派にサブのパトロンとなってもらっている者など序の口。魔王派優勢の現状であろうと、「道理が分からない者達はいつかは衰退する」などという遠回しの魔王派の罵倒を公言している親大王派を公言する輩もそこそこいる。眷属悪魔としての契約に関しても、転生悪魔からの成り上がりよりも、72柱や番外の悪魔など、きちんとした血統が分かる悪魔をステータスとして下僕となる悪魔も多い。中には家の特性を取り込む事を目的として、わざと側室に収まる女性魔術師もゴロゴロいる。

 

 ぶっちゃけ、魔術師組合は大王派と蜜月関係だ。もちろん魔術師の中にも「世代が浅くとも優秀な者はいる」ことを認識する派閥もそこそこおり、そういった手合いは魔王派とも繋がるが、血統以外に理解があるのと血統を大事にしないのとではまた違う話ではある。彼らも基本は大王派の擁護ぐらいする。

 

 まあ、必要とあらば手段を選ばない魔術師は基本あくどいが、同時に貴族的ゆえに誇り高い者も多い。そういう手合いは不正しまくりで自爆したと言ってもいい大王派より、誠実かつクリーンに物事を勧めたがる魔王派に就く者もいる。大王派シンパの連中も、組織内で決められた方は守った方がいいから、その辺のけじめはつけるべきだという考えはいるので、汚職にまみれた者達が一掃される事まで止めたりはしない。

 

 なので現状は内乱になったりはしていない。魔術師は後の世代に希望を繋げる生き物でもあるので、将来的に由緒正しき血統の魔術師と上級悪魔の発達が相互協力でなせると理解しているから、余程の事がない限り大王派を支援してのクーデターは起こさないだろう。

 

 話は長くなったが、魔術師組合としては大王派に対する支援をなくす事はできないという話だ。

 

 で、ここで俺に問題が発生する。

 

 なにせ俺の主はリアス・グレモリー。魔王派筆頭の現魔王最強格、サーゼクス・ルシファーの実の妹だ。

 

 こと情愛の深いグレモリー家出身である事もあって、一族総出でベクトルは魔王派。こと不正などを嫌う高潔な人物が数多い。

 

 しかし俺が運営する魔術師組合は、基本的に大王派主流だ。

 

 ……陰口で蝙蝠扱いされている事はとてもよく理解している。

 

 まあ、直接足を引っ張ってこないのならいくらでも陰口を叩いてくれて構わない。聞こえないように気を使って発散してくれるのならこちらも突っかかる気はない。しなくていい喧嘩をする趣味はないのだ。

 

 しかしそのままでいいわけがない。

 

 個人的な政治スタンスではリベラルよりの中立なのが俺だ。だが、この異形社会はリベラルと保守派の二極化が著しく、情勢ゆえにリベラルにフルスロットル状態というのが同盟の現状。だがしかし、保守派筆頭の大王派こそが魔術師(メイガス)とそりがいいという状況ゆえに、俺は大王派の支援をしないわけにはいかない。つまり中立派をしょって立つのではなく、魔王派と大王派の双方をご機嫌取りする以外の選択肢がないのだ。

 

 この状況下では双方の派閥から敵と見なされかねない。大王派の裏のボスであるゼクラム・バアルも、魔王派のカリスマリーダーであるサーゼクス・ルシファーも俺の事情を理解して上手く有効活用してくれるだろうが、それに甘えて怠けていられる立場ではない。

 

 ただでさえ悪魔歴一年届く届かないレベルの成り上がりなのだ。その辺のやっかみも加えると、潜在的な敵は多いだろう。

 

 実績がいる。ここまで積み上げてきた実績を更に積み上げて俺をこの立場に残しておくメリットを大量に提示しなければならない。

 

 幸運な事にその辺はサーゼクス様もゼクラム翁も同意見のようだ。

 

 ……そう、全てはその所為だと言っても過言ではないのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お帰りなさい兄上……ぇぇ!?」

 

「おいおい、どうしたよ大将?」

 

 会議に参加しない眷属が待機する待合室でカードゲームに興じていた雪侶とグランソードが、戻ってきた俺の顔を見て思わず立ち上がった。

 

 ああ、げんなりしてるからな、気にもなるだろう。

 

 だがまあ、死ぬような事態にはなっていないから、その辺は片手を上げて示す。

 

 そして、苦笑いを浮かべたシルシが俺の後ろから入ってきた。

 

「それがね? ちょっと面倒ごとを押し付けられちゃったみたいなのよ」

 

 そう告げながら、シルシは手にしていた資料を二人に見せる。

 

 そう、今回俺は冥界政府の会議に、アドバイザーとして呼びだされたわけだ。

 

 そしてその議題は現政権から離反して行方不明になった、王の駒使用者の追撃である。

 

 その過程において魔術師(メイガス)を取り込んだ者もいるらしく、聖杯戦争で一発逆転されたら困るとマジ危険視する議題になっていた。

 

 まあそんなわけで、聖杯戦争優勝者としても魔術師組合の長としても、俺が呼ばれるのは当然なのだが―

 

「……最初に結論から言うぞ。一番面倒な事押し付けられた」

 

「「……ビィディゼ・アバドン捕縛任務?」」

 

 そう、二人が読んだ資料の一番上の題名が全てを物語っている。

 

 簡単に言うと、王の駒使用者の捕縛は悪魔側の名誉や沽券の為に最優先となった。

 

 これに関して当然だろう。自分のけつを自分で拭くのは当然の事だ。他所からむやみやたらと助けを借りては沽券に係わる。できない事を無理にしようとして後から助けを求めるのは愚の骨頂だが、自分にできる事を無理のない範囲で自分でやるのは当たり前の事だ。

 

 だから、魔王派も大王派も王の駒使用者の討伐もしくは捕縛を積極的にする事に異論はない。此処まではスムーズに進んだ。

 

 だが、ここで壮絶な泥仕合が勃発する。

 

 簡潔にまとめるぞ。

 

 過激な魔王派「どうせ討伐すると見せかけて匿うんだろ! お前らそういう連中だもんな!!」

 

 過激な大王派「そっちこそ、魔術師組合に対抗する為魔術師を買収する気だろ!!」

 

 こんな感じで泥仕合が勃発した。

 

 会議の半分はこれで終始したと言ってもいい。どっちの派閥も無能な働き者はまだ多いようだ。処刑しろとは言わんが、閑職に回してほしい。

 

 何とかサーゼクス様達がなだめたが、この疑心暗鬼がある為、追撃部隊は事実上半々となる。

 

 王の駒使用者の中でも、政治的に有力だったりする連中は魔王派が担当し、魔術師との繋がりが見える連中は大王派が担当する事となった。

 

 だが、ここで一番質の悪いのがいた。

 

 それが、ビィディゼ・アバドンだ。

 

 番外の悪魔であるアバドン家の出身。王の駒使用者にしてレーティングゲーム3位という、魔王クラスの実力を持った規格外。

 

 下位の神なら返り討ちにできるだろう彼が、寄りにもよって魔術師を独自に抱え込んでいた事が発覚したのだ。

 

 その上、そいつは禍の団(カオス・ブリゲート)から流れた魔術師で、しかも調査の結果聖杯戦争成立の為の補佐をしていた事が発覚。

 

 ビィディゼ・アバドンがサーヴァントを味方につける事ができれば、ちょっとシャレにならない事態が勃発しかねない。

 

 だが、すみ分けできていた魔王派と大王派の担当区分けシステムの、ちょうどど真ん中にいるのがビィディゼ・アバドンである。

 

 泥仕合第二ラウンドが勃発しかけた。

 

 だが、そこでサーゼクス様が機転を利かせてしまった。

 

『ならば、我々双方に顔の利く者を送り込めばいい。ちょうどいるではないか、サーヴァント戦のスペシャリストが』

 

 ……つまり、こういう事だ。

 

「……あの間接的な義兄、後で酒を奢ってもらうからな」

 

「大将、ご苦労さん」

 

 心から同情の視線がグランソードから送られたよ。

 

 ああ、マジでどうしたもんか困ったもんだって感じだ。

 

 確かに、サーヴァント召喚の可能性がある以上、聖杯戦争に慣れた奴が出るのはいい。それに魔王派にも大王派にも顔が利く俺なら、なんとか言い訳も立つ。

 

 それにここで手柄を立てれば、一気に実績がつく。この一回だけで数十年は安全が確保できると言ってもいい。

 

 だが、しかしだ。

 

「……今の弱った俺だと、魔王クラスを眷属込みで潰すのはきついんだが。しかも最悪の場合サーヴァントまで相手にするんだぞ……?」

 

「舎弟総動員は決定だな、ああ」

 

 グランソードには心から礼を言う他ない。

 

 なにせ今回、実に厄介だからな。

 

「なにせこの命令、姫様やイッセーの力を直接借りるわけにはいかないからな」

 

 ため息交じりに、俺はこの難点を言う他なくなった。

 

「あら? 兄上は今でもリアス・グレモリーの眷属なのですから、お力をお借りしてもよろしいのでは?」

 

「そうもいかないわ。魔王派大王派双方の顔を立てた今回は、若手魔王派筆頭とも言えるリアス様の力を借りると大王派の心象が悪くなるもの」

 

 雪侶にそう説明するシルシの答えで正解だ。

 

 今回の任命は、色々とややこしい魔王派と大王派の中間点にいる俺だからこそできる任務だ。

 

 その俺が、若手悪魔の中でもトップクラスの親魔王派である姫様の力を借りる。そんな事になればぎりぎりのバランスが一気に傾く。

 

 余計な政争や内乱なんて俺は望んでないから、これに関してはできる限り抑えこみたいところだ。

 

 とはいえ、増援が欲しいのは正直なところ。

 

 かと言って魔王派側である俺の知り合いの増援がいる面子は頼りづらい。こういう時頼りになる中間管理職のアガレス関係も、何故か行方が知れない。

 

 ……たまたま会議前の時間潰しに見たスマホで、「ダンガムフェスタ」とか言うのがやっていたがそこはスルーだ。重度のオタクをそのネタ絡みで刺激してはいけない。

 

 もちろん今回の件は、悪魔のメンツがかかっているから悪魔以外に速攻で援護を頼むは難しい。

 

 こういう時喜んでついてきそうなヴァーリは行方がつかめん。……ちなみにこれまたスマホで「国際ラーメン大バトル」などというイベントを見ていたのだが、知らんったら知らん。

 

 さて、どうしたものか……。

 

 魔王派と大王派の双方の顔を立てれて、勝つ聖杯戦争絡みでも頼りになる人物って、そうはいないし―

 

「………あ」

 

 いたよ、適任の陣営。

 

 

 

 


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